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まさに絶体絶命。 玲二の引き金にかかっている指に、じわりと力がこもる。 もうだめだ。 手も足もでない状況にあがくことをあきらめ、裕也は死を覚悟して固く目を閉じた。 さよなら、一樹。 まぶたの裏で描いた一樹の姿に、2度目の最後の言葉を告げる。 そのとき、荒々しくドアが開き、聞き覚えのある声が室内を響かせた。 「そこまでだッ、玲二」 はっと目を開くと、ドアの前には堂々とした風貌で立っている男の姿。 信じられない光景に目をぱちぱちとまばたきさせるが、部屋に入ってきたのはまぎれもなく一樹の姿だった。 ダークのスーツを身にまとい、鋭い目で玲二を見据えている。 それまで、人生の終止符を打つ覚悟を決めていた裕也の顔が、徐々に明るい表情に変わり、嬉しさのあまり大きく名前を叫んだ。 「一樹ッ!」 「一樹だと?」 思いがけない男の来訪に、玲二が慌てて振り向く。 その一瞬の隙を裕也は見逃さなかった。 頼もしい助っ人の登場に、現在の状況を打破する活力を見出した裕也は、決死の覚悟で顔に向けられた拳銃を払いのけてソファーから勢いよく立ちあがると、玲二に力いっぱい体当たりした。 一樹に気を取られていて、思いもしなかった裕也の行動に不意をつかれてしまった玲二は、勢いよく跳ね飛ばされて背中を激しくロッカーに打ちつける。反動でふらふらと前によろめきソファー前にあるテーブルの上に派手に転んだ。 裕也は苦痛の表情を見せてうずくまる玲二の前を横切り、駆け足で一樹の広い胸に飛び込こんだ。 「助けに来てくれたんだね」 「ああ、裕也が無事でよかった」 二人は、にこやかな表情で顔を見合せる。 思わずほっと気が抜けそうになったけれど、不気味なうめき声が聞こえて、再び二人は表情を引き締めた。 「く、まさか一樹がくるとはな……。とんだ計算違いだ。」 玲二はゆっくりと立ち上がり、乱れた髪を直そうともせず二人を睨む。 裕也は玲二に指を指して、大きく声をあげた。 「一樹。お金を盗んだのは、やっぱり玲二だったんだ。さっき、玲二がしっかりそう言っていた。俺が盗んだんだってね。これで、一樹が犯人ではないということが、証明されたんだ」 「くっくっ。証明だと?どこにそんな証拠があるんだ。俺は知らないといえば、それまでのこと……。証拠がなければ、お前の言うことなど組の上層部の連中が聞きいれるわけがない。お前たちは、どうあがいても逃げられないのさ」 「くッ」 もっともらしい玲二の話に言葉を詰まらせる裕也。 言われてみればそうだ。 証拠がなければ、きっと一樹が組の破門を取り消してもらうには至らないだろう。 悔しくてぎりぎりと歯を食いしばる裕也に対し、玲二は勝ち誇ったようなにやついた笑いで拳銃をかまえる。 「証拠ならあるさ」 一樹が裕也の肩にポンと手を置き、一歩進み出る。 「なに?」 玲二の笑みが消える。裕也は、どういうことなのか分からず、ぽかんとして一樹の顔を見やる。精悍な顔つきから、悪い冗談を言っているようには見えない。 「証拠は、この携帯だ。突然、裕也から電話がかかってきてな、ふたりの会話を録音させてもらった。もちろん、お前の計画とやらもしっかりと録音されている。これを皆に聞かせたらどうなると思う……。逃げられないのは、お前のほうだ。おとなしく銃をおろせ」 「携帯だとッ?」 余裕の表情から焦りの表情になった玲二は、急いで床に転がっている携帯電話を拾いあげた。 「電話が……つながっている……」 玲二は愕然として、肩を震わした。 どういうわけか、携帯電話が一樹の電話につながっていたようだ。 アドレス帳から、一樹の電話番号を呼び出していたものの、電話をかけた覚えはない。 払いのけられたときにボタンに触ったのか、落ちたとき、なんらかの拍子でボタンが押されたのか――とにかく、運がよかったとしかいいようがない。こうして携帯電話を通して一樹が助けに来てくれたのは嬉しい。 「ちくしょう!」 怒りが爆発したように、玲二は携帯電話を力いっぱい床に叩きつけて、さらにとどめをさすかのように足で踏みつけた。 「すべて……聞いていたのか」 「ああ……」 一樹はうなずく。 「俺が一樹とよりを戻すという話も……か?」 「お前の計画はすべて筒抜けだったんだ。さあ、おとなしく銃を渡せ」 「いや、ゲームは終わっていない。ここで、お前たちを始末して俺は逃げ切ってみせる……」 「お前、まだそんなことを」 そう言った一樹が玲二にゆっくりと歩み寄ろうとしたとき、銃声が鳴り響いた。 ・+☆+・ 47/50話 _/_/_/_/_/ _/_/_/_/_/ □□ □□□ □□□□ これまでのお話しの一覧を見るには、各お話しにある「トラックバック先の記事」から一度1話にお戻りください。 1話にある「トラックバックされた記事」をみていただくと、各お話しの一覧がわかるようになっています。よろしかったらご利用ください。
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2009年06月26日
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