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「孝介。早く早くッ」
急かすように手招きする先には、息せききってエスカレータを駆け上がる孝介の姿があった。
ここは国際空港のロビーの出入り口。ここのロビーでドイツに行く翔と待ち合わせをしているが、時間は予定より15分以上遅れている。
「もうッ、孝介が寝坊なんかするから……」
「いやあ、わりぃわりぃ」
息を切らしてエスカレーターを駆け上がった孝介は、頭を掻いてペコペコと頭を下げるが、海斗は「もうッ」と大きく息を吐いてふくれっ面になる。
もし、顔を合わせることもなく、翔がドイツに旅立ってしまったなら――一生孝介を恨むかもしれない。
広い空港ロビーには、たくさん人たちが行き交っていた。出会いを喜ぶ者や別れを惜しむ者。あるいは海外でバカンスを楽しむ者や、さんざん海外で楽しんだのか、疲れた表情で帰国した者たち。
実にさまざまな人たちが、それぞれの思いで行き交っている。
海斗は、予想以上の込み具合になっているロビー内に足を踏み入れることをすこし躊躇してしまったけれど、今は悩んでいる時間はない。
勢いよく一歩踏み出して、込み合う人ごみのなかを急ぎ足で目的の場所へ向かう。孝介も、海斗の後ろについて行く。
人混みを掻き分けてロビーの中央辺りまでやってくると、自分を呼びかける声が聞こえた。
「おーい、海斗ぉ」
前方には、大きく手を振って呼んでいる翔の姿。
「翔―ッ」
ふぅ……間に合った……
安堵の息をつき、にんまりとした顔で翔に答えながら、駆け足で向かう。
「はぁ、はぁ……よかった。間に合って……もうドイツに行っちゃったら、どうしようかと思ったよ」
「ふうっ。翔、待たせたな」
二人は軽く息を切らせながら、それぞれの挨拶をする。
「来てくれてありがとう。最後に二人に会えて、俺は嬉しいよ」
満面の笑みを浮かべる翔の顔に、海斗までつられて笑顔になってしまう。
それに……今日、翔の前で悲しい顔は見せないと誓ってきた。寂しいのは俺だけじゃなく翔も同じ気持ちなんだと、昨日の保健室で……そう感じとった。
俺が未練がましく寂しい顔していたら、きっと翔だって辛い気持ちになってしまうだろう。
ドイツに元気よく行ってほしいという思いもあるから、今日は絶対に涙を見せないつもりだ。
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