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COSMOPOLITAN
美しいものが嫌いな人はいるのかしら?

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栄光の瞬間が訪れた。怪我を乗り越えた高橋大輔がオリンピック銅メダリストに輝いた。




日本時間の今日の昼過ぎ、バンクーバーオリンピック・男子フィギュアのファイナルが行われた。
ショートを3位で折り返した高橋大輔。勝負を決めるフリープログラムに用意されたのは「道」。

「道」はイタリア映画の名作から引用したものであり、原題は“La Strada”。

ラ・ストラーダと発音するのだろうか?

もしかしたら最後のオリンピックになるかもしれないという予感の中で、高橋はこのプログラムを選んだ。しかしそれは前々から暖めていた、いつかは滑ってみたいと思っていたプログラムだという話は聞いたことはない。半ば偶然的に高橋に与えられたプログラムだったのではないか。


フリーを迎えるに当たって、高橋は大きな選択を迫られた。4回転を飛ぶか、否か。

そして周りの思惑は、もし4回転を回避すれば、金メダルを狙えるかもしれないということだった。
いわゆる芸術点に当たる演技構成点が、ショートプログラムにおいて抜群に評価されていた高橋だが、ところでそれがそのままフリーでも同じように評価されるということは本当だったろうか?
私はむしろかなり疑いを抱いていた。芸術点は水物に過ぎないのだ。

フィギュアスケートの表現力というのは、見方によっては幻想にしか過ぎない。異論はあると思うが、おおよそフィギュアスケーターは理解できない物語を演じているものだ。
高橋大輔に、ザンパノの哀愁とジェルソミーナの純粋無垢がどれくらい理解されていたかはわからない。

むしろ理解していなくてもいいのだ。なぜなら高橋は作家でもなく、映画評論家でもなく、アスリートなのだから。

しかし奇跡的なことに”半ば偶然的に”肉体の酷使に生きるアスリートが、時として偉大なる芸術作品を誰よりも蘇らせる力を持つ。

ついに高橋の番が回ってきた。リンクの中央に立ち、音楽が流れ出すのを待つ高橋の、指先が震えた。

何かが始まる。

感性が豊かで繊細な心の持ち主である高橋の、カメラが捕らえた指先の震えを見て、私はとっさに感じた。

ザンパノはいわば、救いようがないダメ男である。しかしフェリーニは彼にスポットライトを当てることにした。だが、彼がハッピーエンドを迎えるということはなかった。イタリア・リアリスモは現実を直視していた。
高橋に4回転は飛べたであろうか。本番前の練習でも2回チャレンジして、2回失敗した。
怪我から立ち直ったばかりの高橋に4回転は無理があった。本番でも失敗する。
しかしそこから高橋はあわてずに落ち着いた演技をし始めた。とは言えそれはそう見えていただけだと思う。繊細な心の震えは止んでなかったはずで、失敗こそが現実であると、思う人もいたであろう。
しかし高橋は滑りきった。


高橋は成功し、勝利を収めたのだ!演じたその物語の主人公、ザンパノは何もかも失い、夜の海岸で泣き伏せてしまったのだが、高橋のバンクーバーでの演技はザンパノさえも救ってくれた。アスリートが評論家をはるかに凌駕する瞬間であり、何物にも変えがたい感動の瞬間だ。

高橋が銅メダルを確定し、喜びに浸っていた私の心に、少し間をおいて突然、走馬灯のごとくある記憶が蘇ってきた。それはすでにこのブログでも何回か紹介した、2008年世界選手権の時のイエテボリでの思い出だ。
そこで出会ったおばさんは、高橋大輔の大ファンだった。イエテボリでは女子が先に競技を行い、男子が後だったので、女子を見て帰国の途に付いた私は、おばさんの祈るような気持ちを残していった。
おばさんは2007年世界選手権の高橋大輔の演技を見て、大ファンになったそうだ。
子供のいなかったおばさんには、高橋は最愛の一人息子のように思えたということだった。そしてその東京で行われた世界選手権において、高橋がフリーを迎えるに当たって、「泣きたいほど緊張していた」と発言していたのを知り、夢中になってしまったのだ。
イエテボリで高橋は4位に終わった。あの時から2年が立ち、今オリンピックで見事銅メダルを獲得した高橋に、おばさんは惜しみない拍手を送っているのであろうか。私にはあの晴れ渡った北欧の初春の、冷たい空気、青い空、街の教会、そしてキムヨナとの奇跡的な出会い・・・それらが鮮明に次々と思い出されていき、胸が一杯になった。

夜行われる女子フリーを前に、私と一緒なのは最後になるので、がつんと腹ごしらえをしようと
おばさんは言ってきた。お金は十分に用意してきたのに、おばさんは自分がおごるといってはばからなかった。それに浅田真央が優勝して、ホテルまで帰るとき、夜の10時を回っていたので、タクシーで帰ることにした。そのタクシー代もおごってもらってしまった。甘えん坊なところのある私は、それをそのままにして、結局お別れになってしまった。

またもしお会いできる機会があれば、といってお別れになったが、それがたぶん永遠の別れであったろう・・・。

心の中で、今日まで、おばさんのためにも高橋大輔頑張れと応援してきたつもりの私。おごっていただいた礼を返すことは出来ただろうか・・・?

この記事に

  • そんなことがあったのですね。
    4回転を跳ばなかったらどうだったかは分かりませんが、3回転のジャンプを失敗できない気持ちになって演技が消極的になってしまって駄目だったかもしれないですね。
    そう考えると4回転に挑戦してよかったと思います。

    [ CanCam2013 ]

    2010/2/19(金) 午後 10:49

    返信する
  • こんばんわ。
    そうなんです。だから高橋が怪我をした時は、もはやこれまでと、世の中何もかも上手くいかないといった、むなしい気持ちにもなっていました。そこからの復活劇だったので、本当に嬉しいです。
    高橋の4回転への挑戦は、失敗はしましたが、あれでよかったと思います。何事も結果がすべてではない、そういうことを教えてくれるのが、スポーツの本来の姿だと私は思ってます。

    [ ばるじ ]

    2010/2/19(金) 午後 11:07

    返信する
  • こんばんわ。

    高橋選手の4回転の挑戦はやってよかったと思います。高橋選手の自叙伝beSOULによると、安全策でいってもよかったことはない。からを外すぐらいの方がうまくいくということが書かれていました。

    確かに、安全策に走る高橋選手よりも攻める姿勢を貫く高橋選手のほうがいいじゃないですか

    [ かおちゃん ]

    2010/2/19(金) 午後 11:19

    返信する
  • 顔アイコン

    はじめまして。そうです。ラ・ストラーダです。どっかのメーカーのカーナビの製品名にもストラーダっていうのあったしね。

    [ macocci ]

    2010/2/19(金) 午後 11:49

    返信する
  • こんばんわ。
    高橋選手、銅メダルおめでとうございます!!
    私も四回転に挑戦してよかったと思います。挑戦することに意味があると思いますので^^;

    個人的に攻めの演技のほうが好きなのですが、
    今回の「四回転論争」は結果「質」が勝ったので、
    フィギュアスケートは「質」の時代に片足突っ込んだのかと思うと、
    ちょっとつまらなくなりそうです。
    「大技」に挑戦するスケーターが少なくなってしまいそうで^^;
    だからこそ真央選手に期待したいです☆

    [ なでしこ ]

    2010/2/20(土) 午前 0:00

    返信する
  • >かおちゃん
    こんばんわ。今回はたとえ4回転を回避してもライサチェクを上回ることは出来ず、結局銅メダルどまりだったと思います。守って銅を取ることと、攻めて銅を取ったことでは意味合いが大きく違いますよね。

    [ ばるじ ]

    2010/2/20(土) 午後 6:56

    返信する
  • >macocciさん
    コメントありがとうございます。ストラーダでよかったのですね!

    [ ばるじ ]

    2010/2/20(土) 午後 6:58

    返信する
  • >なでしこさん
    こんばんわ!高橋大輔やりましたね!!いずれにせよ高橋大輔のバンクーバーでの演技は歴史に残っていくと思いますが、とにかくも4回転に挑戦したということは大きな意味を残したと思うし、この歴史的名演の価値をを高めたと思います。
    プルシェンコは試合後不満を漏らしてはばかりませんでしたが、実際今後男子選手は4回転をやらなくなってしまう可能性も無きにしも非ずですね・・。

    [ ばるじ ]

    2010/2/20(土) 午後 7:03

    返信する
  • FreeWinnerさん
    ライサチェク選手は守りに入ったのではなく、4回転ジャンプを回避せざるを得なかった状況にあったのではと推測します。一説によると、ライサチェク選手、足の疲労骨折の怪我を抱えていたみたいです。

    もし、疲労骨折の怪我を抱えた状態で4回転に挑戦していたら、怪我を悪化させる可能性もあったのかなとも思います。

    ライサチェク選手だって転倒したけど、全米選手権では4回転トゥループを跳んでいたんですから

    [ かおちゃん ]

    2010/2/20(土) 午後 9:52

    返信する
  • >かおちゃん
    そうですよね、先シーズンのグランプリシリーズの頃は4回転に挑戦し、解説の佐野さんが「男だ、ライサチェク」と叫んでいたのを思い出します^^
    ライサチェクは怪我をきっかけに4回転から遠ざかっていったのです。ただライサチェクはひとつのおきな問題を残したと思います。4回転なしでオリンピックのチャンピオンになった、この流れをどうもっていくかは、まずはその張本人であるライサチェクの動向がカギを握っていくのではないでしょうか。

    [ ばるじ ]

    2010/2/20(土) 午後 11:27

    返信する

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