ギャラさん映画散歩

映画・話題などへのモノローグ。コメント・TB など大歓迎です。

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     「弾が飛んでくる、飛んでくるから撃つ、
       その繰り返しや、けど撃ち始めるとノメリ込む、
          撃ち捲くってたら何もかも忘れてな。」
         (「ディア・ドクター」から伊野治の言葉)
 
あらすじ(ネタバレ)
ここは山間部の人口1,500人の神 和田村 という寒村。4年間無医村だったが3年前に役場の検診バスに乗ってきた伊野医師(笑福亭鶴瓶)村長(笹野高史)が頼み込み、年俸2千万円で村営診療所の医師に迎えた。病院は村から片道2時間もかかるため、村人は伊野医師を神・仏よりも頼りにしていた。
 
そこへ東京の大学病院から研修医として、若い相馬(瑛太)が派遣される。相馬の実家は開業医なので、ボンボン育ちで赤いスポーツカーで村にやって来た。診療所にはベテラン看護師(余貴美子)がいて、3人で診療や往診に対応していた。村民の半数は高齢者で、往診するとたくさんの病気が見付かり、てんてこ舞の忙しさで相馬も忙殺されていた。
 
そんなある日、伊野は村民で一人暮らしの鳥飼(八千草薫)を診察しているうち「先生、私の病気を娘達に知らせないでください」と頼まれる。「娘達はそれぞれ手にいた生活があります。亡くなった主人の時と同じことをしたくない。だから一緒に嘘をついてください。」と夫がベットで管を鼻から入れている写真を示した。
 
偽医師は、嘘をつくことに同意して、検査機関が出した「悪性腫瘍の疑い」という検査票と写真を隠匿し、薬屋(香川照之)の胃カメラ写真とすり替えた。未亡人の(井川遥)が帰省して母親の容態を偽医師に尋ねるのだが、すり替えた薬屋の写真を見せて安心させる。娘は納得したのだが、娘が今度来るのは1年後と聞き、ふっと自分が見捨てた両親への呵責を思い、嘘をつく事に耐えられなくなってしまう。そしてそのまま診療所から失踪してしまう。
 
相馬研修医は診療所に来て、二ヶ月目に突然、伊野医師が失踪したので困惑する。捜索に岡安警部補(岩松了)などが村に来て、履歴書から大阪に住む伊野の両親などに問い合わせた。調査の結果、偽医師は過って医療機器メーカーの営業員で、医師の免許は持っていない偽医師と判明する。偽医師の父親は医師だったが今は認知症で入院していたのだった。
 
村人は激怒したが、連れて来た村長や看護師、薬屋や研修医は自己防衛のため、実害がなかったと言い訳する。未亡人や娘は逆に自分達を責めた。刑事もこの不条理に困惑してしまう
 
感想など
l       無医村に偽医師が雇われて、熱意と情熱で村の恩人になる。看護師と薬屋は、怪しみながらも、自分の職のため疑わず協力する。また研修医は僻地医療のあり方に共鳴する。そんな中、偽医師は独り暮らしの未亡人から娘達に嘘を付いてくれと頼まれる。その嘘に耐えられなくなった偽医師が失踪したため、偽医師であることがバレてしまうのですが、果たしてその偽医師は悪人か、善人かと問いかけている映画でした。
 
l       偽医師の行為は犯罪だが、村人には熱心に尽くしていました。偽医師は研修医に対して「ただ、ずるずる居残っていただけだ。弾が飛んでくる、飛んでくるから撃つ、その繰り返しや、けど撃ち始めるとノメリ込む、撃ち捲くってたら何もかも忘れてなぁ。俺は偽医者や。」と告白するのです。しかし、研修医はそれを冗談と思い「うちの親父は病院経営しか考えていない。資格なんてゼロですよ」と信じないところが純真で面白いのです。
 
l       診療所の看護師は救急医療の経験のあるベテランです。「胸腔穿刺」の治療を偽医師に指示してやらせます。偽医師はやったことがないので脂汗を流しながら指示された位置に刺してなんとか切り抜けます。看護師の別れた夫は医師でした。彼女は医療への献身と子育てに忙殺されていて、医師が偽者だろうとナンだろうと無頓着に尽くすというところが面白いですね。
 
l       薬屋は、業績を上げるため偽医師に協力して嘘の片棒も担がされます。刑事から訳を聞かれ「患者に会うと自分の手が命を握っている感じがして心地よい。先生と呼ばれる快感とかお金目当てとかどっちか判らない」と答える。刑事は重ねて「やっぱ、愛か」と聞く。薬屋は突然椅子から倒れた。刑事は薬屋を助け起こす。すると薬屋は刑事に「今のは愛ですか」と聞く。刑事は「手が出ただけだよ」と言う。薬屋は「そういう感じでした」と説明する狡猾な可笑しさが愉快です。
 
l       僻地で一人暮らしをしている未亡人は、東京にいる娘に迷惑を掛けたくないので、偽医師に癌でないと嘘を付くように頼む。年に一度しか実家に帰らない娘は、偽医師に母親の治療をお任せます。そんな娘の冷たさに哀れと感じた偽医師は、居た堪らずその場から失踪してしまうわけです。偽医師の捜索に来た刑事達は、調べるうちに偽医者だと判るのですが、偽医師の行動の不条理に戸惑うばかりです。
 
l       刑事達は、村長や村人から実害を聞くと藪医者だったと憤慨します。しかし、薬屋や研修医は共犯者にされるのを恐れて曖昧な態度を取ります。未亡人の娘は母親をすっぽかした反省から逆に偽医師を擁護する立場に陥ります。そこが見るものへ善悪の判断を考えさせる面白さです。
 
l       偽医師は、痴呆で入院中の父親に父のペンライトを盗り、失くしたことを電話で謝罪します。そしして未亡人が入院した病院に、配膳係りとして雇われ、未亡人と再会するという御伽噺のような結末を迎えます。
 
l       この物語は「寓話」のようです。だから偽医師がどんな経緯で村役場の検診に携わったのかとか、どうして3年半も偽者がバレなかったのか、その間治療にミスがなかったのか、研修医・看護師・薬屋が何故協力したかなど、などを突き詰めて考えることは不用のような気がします。「嘘つきが、嘘を頼まれて、嘘がつけなかった」というお人好さの滑稽さ。そして「嘘つきに、嘘をつかれても感謝することも有り得る」という面白さと不条理さを見せてくれた映画でした。
 
l       画面としては、失踪した偽医師があぜ道を歩く未亡人に白衣を脱いで振り回し、田んぼに捨て立ち去るところが、感動的でした。また、未亡人と娘の姿を別々の窓から映し出された場面には2人の疎外感が出ていて寂しさが滲んでいました。出だしの闇の自転車のライトや偽医師が針を刺す場面の緊張感、未亡人の寂しさに同情する偽医師の優しさ、研修医の純真な幼さなどが印象的でした。
 
l       この映画見終わったとき、病院医師として出ていた「中村勘三郎さん」の訃報に接しました。57歳とのこと。(合掌)

 
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 タイトル                                研修医はスポーツカーでやって来るイメージ 14 イメージ 15
 村営診療所                             研修医は偽医師にケガを看て貰うイメージ 16 イメージ 17
 往診する偽医師                          研修医に自慢する村長イメージ 18 イメージ 19
 薬屋は偽医師と組んで売ることに邁進する          未亡人に嘘を頼まれるイメージ 20 イメージ 2
 未亡人は夫のようになりたくないと言う            緊急手当てをする偽医師イメージ 3 イメージ 4
 病院医師(中村勘三郎)が讃える                刑事に事情聴取される薬屋イメージ 5 イメージ 6
 未亡人の娘に嘘を言う偽医師                 嘘に耐えられず出て行く偽医師イメージ 7 イメージ 8
 野良で手を振る未亡人                    白衣を振る偽医師イメージ 9 イメージ 10
 母の嘘を知った娘                       考えに相違がある母と娘イメージ 12 イメージ 13
 刑事と偽医師は擦れ違う                  未亡人の病院で、配膳係りとして再会する偽医師
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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閉じる コメント(32)

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この映画は鶴瓶のために作られたのかと思うぐらいに、鶴瓶が好演していましたね。
コミカルな味わいをくわえながらも、簡単には結論を出せないような問題を突きつけてきました。
TBお返しさせて下さい。

2012/12/6(木) 午後 8:36 [ あきりん ] 返信する

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うさぎさん、コメントありがとうございます。
八千草さんの可愛いおばあさんは、なにか助けてやりたくなりますね。
ただ、彼女の想いと病院治療とどちらが幸せかは、私には分かりませんでした。娘たちに迷惑をかけたくない気持ちも嫌というほどわかります。この監督さんは意地が悪いですね。答えを観客に考えさせるだけですからね。^^

2012/12/6(木) 午後 8:59 ギャラさん 返信する

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popoさん、コメントありがとうございます。
勘三郎さんが、医師の役で出ていることが不思議です。
勘三郎さんは3年前にも病があったでしょうから、健康願望が医師の役に繋がったのかもしれません。
私も健康の大事さを再認識しました。^^

2012/12/6(木) 午後 9:06 ギャラさん 返信する

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あきりんさん、コメント&TBをありがとうございます。
医療問題はもちろんですが、人間の狡猾さや温かさ、善悪判断の不条理さなどを見る者に考えさせてくれました。
「泥棒にも3分の理由」といいますが、この映画だと「偽医師にも7分の理由」があって、理屈で割り切れない感じですね。

2012/12/6(木) 午後 9:17 ギャラさん 返信する

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複雑すぎて、それでいて曖昧で、自分にはとらえどころのない難しい映画でした。今の複雑な時代からこそ成り立つ監督の視点なのでしょうね。TBさせてください。

2012/12/6(木) 午後 9:33 shi_rakansu 返信する

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シーラカンスさん、コメント&TBをありがとうございます。
偽医師も医療費不正請求の医師など、現実にいて逮捕されています。
普通でしたら悪い奴だと糾弾してしまえばいいのですが、安楽死が正当なのか、延命は罪悪かなどの問題は、考えても結論が出ない問題ですね。
そんな難しい問題を提起している映画ですね。

2012/12/6(木) 午後 9:53 ギャラさん 返信する

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こんばんは。
これは観ようと思っていた作品です。先を越されましたね。
西川監督の「ゆれる」は観ました。小説はいくつか読んでいます。
これからどうなるのか楽しみな監督ですね。

2012/12/6(木) 午後 9:57 [ hisa24 ] 返信する

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実際の事件にも「偽医師」がありましたが、この映画は、ギャラさんがおっしゃるように、寓話的なものだと思います。
医者がいない僻地の問題。お年寄りたちにとって、お医者さんという存在は病気を治してくれるだけじゃなく、安心、心のよりどころでもあるのですね。
映画はちゃんと倫理問題も入れて、(八千草さん演じる未亡人の娘をお医者さんにした)でも、本当の医療とは何か?とこちらに問いかけてきたような気がします。TBさせてくださいね。

2012/12/7(金) 午前 7:35 iruka 返信する

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hisaさん、コメントありがとうございます。
「ゆれる」は見ていませんが、評判はいいですね。
いずれ見たい映画です。
鶴瓶さんでないと、あんなに滅茶苦茶で、お人好しの詐欺師は演じられないでしょうね^^

2012/12/7(金) 午前 7:56 ギャラさん 返信する

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irukaさん、コメント&TBをありがとうございます。
irukaさんの記事に「優しい嘘」と大きく書かれていました。的を得ていると思いました。「嘘も方便」と言いますが、愛情に満ちた嘘でしょうね。でも、嘘はいつか綻ぶんですね。
綻んでも、優しく見続ける心がこの映画にはあったような気がします。

2012/12/7(金) 午前 8:03 ギャラさん 返信する

西川美和の脚本はある意味、ずるいんですよね。
つまり、理屈じゃない人間の感情を平気で盛り込んで来ますからね。
映画を見ている人はしかし、良い意味で従来の映画じゃないことに気付くと思いますね。
何故なら、理屈じゃない行動を取るのが、一番リアルな人間なんですよね。
西川美和自身、鶴瓶の人間性が手探りな感じがします。
本来それは、よくないんですがね笑。

2012/12/7(金) 午後 4:54 WANTED222 返信する

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WANTEDさん、コメントありがとうございます。
偽医師の行動には何の計画性もなく理屈もないですね。
簡単に言えば、成り行きなんですね。それが、たまたま僻地医療や終末医療の問題に係わってしまったわけです。
人間の問題は、意外と単純で曖昧で訳の判らぬものなんですね。^^

2012/12/7(金) 午後 6:00 ギャラさん 返信する

こんばんは。

あれっ、これ一回記事なりませんでしたっけ?

心根はいいんですが、やっぱ無免許はちょっと、やはり訴えられたりした際弱いですし・・・

とはいえ、免許持った医師が全て善ではないし・・・
ほんとに心から人救うなら足元みられないように、資格は持ってるべきかなー。
正しくても、正しくなくてもやっぱいざって時は法が勝っちゃうし。

2012/12/7(金) 午後 6:27 KATSU 返信する

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KATSUさん、コメントありがとうございます。
鶴瓶さんについては、山田洋次監督の「おとうと」で記事にしています。
チョイ悪で、すぐに逃げればいいのに、先生と呼ばれ、いい気になっていて、トンずらの時期を失したんでしょうね。
チョイ悪も、尊敬されちゃうとと良心的にならざるを得なくなるのでしょうね。
これは寓話です。監督が言いたいことは、人間の不条理なんでしょうね。考えさせるけど正解はでないという過酷な内容です。
いい映画でしたね。

2012/12/7(金) 午後 7:18 ギャラさん 返信する

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ギャラさん
コメントありがとうございました。

嘘つきが、嘘を頼まれて、嘘がつけなかったという話は非常に面白いですね。
なるほどと思いました。

あと、伊野は鳥飼さんとの約束を守るために逃げ出したのかもしれませんね。
真実を言わずに彼女を守るためには自分の嘘を投げ出す必要があったのかもしれません。

2012/12/8(土) 午後 4:09 ペニ〜☆ 返信する

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ペニーさん、コメありがとうございます。
ベニーさんの言う、「本物も偽物も取り払ったところに、医師の仕事や親子のあるべき姿がある」には共感しました。
私はラストのシーンで、寓話にしてしまったように感じました。
この映画も、やはり作り物なんですよね。^^

2012/12/8(土) 午後 5:32 ギャラさん 返信する

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ああ、これに勘三郎さんが出てらしたんですねぇ。豪華な出演者でした。
単純に善悪を決められないことはこの世の中にたくさんありますよね。その不確かな面をこの映画は淡々と描いているのがいいと思ってます。それが西川監督を好きな理由でもあります。

2012/12/17(月) 午前 8:32 - 返信する

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たこさん、コメントありがとうございます。
そうなんです。ほんのチョイ役なんです。
医師の役だったことが、なにか意味がありそうに思いました。
淡々と深い問題を穿っているところが凄いですね。

2012/12/17(月) 午前 9:13 ギャラさん 返信する

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ニセモノでも必要な時ってありますよね。笑
それで幸せになれる時も。
私は尊厳死派なので。笑
苦しい治療を繰り返して一日でも長く生きるより、患者の意見を第一に尊重するこういう医師のほうがいいかもと思いましたよ。
TB〜

2013/11/21(木) 午後 8:07 ベベ 返信する

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BBさん、コメント&TBをありがとうございます。
なかなか難しい問題です。
本人が死にたいと言っても医者としては放っておけない場合もあるでしょうし・・・。
個人的には、治る見込ない時は、安楽死させてもらいたいと思っています。
まあ、そうなったときに本気で考えますけど・・。(笑)

2013/11/21(木) 午後 9:51 ギャラさん 返信する

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