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アラル海:地上から消え行く海
2006/04/04
【タシケントIPS=マリナ・コズロバ、3月15日】
画家のマテボスヤン(Matevosyan)(82歳)は1962年、カザフスタンとウズベキスタンの国境に位置する内海であるアラル海に居を構えた。それ以来アラル海を描き続け、その数は数百枚に上る。
ヨーロッパとアジアを分けるカスピ海、北米スペリオル湖、アフリカのビクトリア湖に次ぎ、アラル海は世界第4位の大きさを誇る湖だった。
ところが、1960年代に人の行為が原因で水位の減少が始まる。当時ウズベキスタンは大量の灌漑用水を取水して綿花を栽培し、ソ連邦の一員として大量生産用の加工原料として提供していた。今日、アラル海の水量は以前より9割減の1,150立方キロメートル、表面積は73%縮小して17,600平方キロメートルとなった。
アラル海は南北に分断され、南アラル湖と北アラル湖ができた。何百万ヘクタールもの湖底が干上がり、砂漠化してアラルカン砂漠と名づけられた。
この砂漠から風に乗って7,500万トンもの砂塵、塩分が空中に飛散し、到達範囲は半径1,000キロメートルにおよぶ。
ウズベキスタンの詩人であり、ジャーナリストのライム・ファラディ(Raim Farhadi)はアジア・ウォーター・ワイヤの取材に応じ「マテボスヤンの描く絵は、アラル海の悲劇の歴史だ」と表現した。初期作品では豊かな水量に支えられた活発な漁業活動が描かれ、最近の作品には干上がった湖底に打ち捨てられた船が描かれている。
マテボスヤンはアラル湖畔に移って来てから2年たったとき、アラル海が縮んでいることに気づいた。ウズベキスタン西部のモイナクという町はかつて漁業の中心地であり、加工も盛んに行われていた。
この町の魚缶詰工場を描いた絵がある。工場は湖の中に打った杭の上に建てられていた。時がたち、杭は乾いた湖底から突き出し、工場は廃墟となった。
マテボスヤンはウズベキスタンのサマカンド市の出身。両親と共にカスピ海西岸アゼルバイジャンのバクーに移った。そこで30年過ごすうちにカスピ海と黒海を描いた。内海である黒海は南東ヨーロッパと小アジアの境界に位置し、ボスポラス海峡、マルマラ海、アゾフ海、ケルチ海峡と抜けて地中海に出る。
さらにマテボスヤンは子供艦隊で訓練を受け、バク芸術大学を卒業。ファラディによれば、マテボスヤンは人間と環境の悲劇の歴史の記録者であり、土と海の「実態」を感じさせる。
インタビューでアラル海の移り変わり描き続ける理由を尋ねられたマテボスヤンは次のように応えた。
「アラル海が干上がるにつれ、新しい砂漠が現れ、砂塵や塩の嵐を引き起こしている。アラル海周辺の土地には塩と有毒な化学物質が堆積し、これらが大気中に舞い上げられ、周辺地域に拡散している。植物も動物も死んでいる。今や魚は何千キロメートルも離れたバルト海から運ばねばならない。アラル海周辺の住人は新鮮な水を手に入れることができず、病気になっている」
アラル海周辺の住民はガン、肺の疾患をはじめとする疾病罹患率が高い。
マテボスヤンはアラル海の将来に楽観的になれない。「アラル海に注ぎ込むアムダリヤ川とシルダリヤ川は中央アジア6カ国(アフガニスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)を流れる。各国がほしいままに大量の水を取り込む。たとえバケツ一杯ずつでも大樽から水を汲み出していけば、水はなくなる」
1960年代までは、アムダリヤ川とシルダリヤ川は毎年58立方キロメートルの水をアラル海に供給していた。
しかし灌漑の拡大にともなって、80年代半ばをすぎるとアラル海に流入する水量は大幅に減少した。さらに、アラル海から毎年30から35立方キロメートルの水分が蒸発している。
科学的根拠に基づき生態系的に許容されるアラル海流域の取水量は毎年80立方キロメートルを超えない量である。しかし現実の取水量は、すでに許容される水準を上回る毎年102立方キロメートルとなっている。
現在、アラル海の災害支援に様々な方面から寄付が集まっているが、あまり役立っていないとマテボスヤンは言う。「住民は西側諸国から多額の寄付金を受け取り、これを使っている。この状況は、ウズベキスタンにおける存在感を確保しようとする西側諸国の代表にとって有利ともいえる」
マテボスヤンは、アラル海周辺の住民のための資金集めに絵が役立つと信じ、旧ソ連諸国、ドイツ、トルコ、アメリカ、旧ユーゴスラビア諸国で展覧会を開催。また、業績をまとめ『人と海』を著した。
今日のマテボスヤンは、ベレー帽をかぶった細身の年配の市民である。23歳年下の妻、2度の結婚で3人の娘と1人の息子、4人の孫、3人のひ孫に恵まれている。カスピ海、黒海、アラル海のほかに、漁師、医者、警官、美しい女性を画題とする絵を描いている。
マテボスヤンの絵は、光にあふれた豊かな色彩で今日の情景、環境を描く。リアリズムを好み、想像物よりも事実を描き「命の長い」絵としている。(原文へ: http://ipsnews.net/news.asp?idnews=32508)
(本記事はアジア・ウォーター・ワイヤに提供したもの。「アジア・ウォーター・ワイヤ」はアジア・太平洋地域のIPSがコーディネートする水・開発問題特集記事)。
アラル海の水面の面積はほぼ半減、水量は4分の3に減り、塩分が増加した。有毒な殺虫剤や重金属が沈殿した湖底が干上がり、塩が舞い上がり、季節風に乗って中央アジアや西ヨーロッパに届く。これは国境を越えた問題となっている。 さらに、結核の罹患率は10万人につき156人と世界保健機構(WHO)の基準の6倍、薬剤耐性結核の罹患率は10倍となっている。アラル海周辺の住民にとって、結核はエイズより怖い病気である。さらに、医師の報告によれば奇形児も増えている。これは化学物質が遺伝子を傷つけるためであり、カラカルパクスタンだけでも障害児、奇形児は1万7,000人に達する。資料:Envolverde
翻訳=角田美波(Diplomatt)/IPS Japan浅霧勝浩
IPS関連サイト/ヘッドラインサマリー:
過去の環境破壊のツケに悩むウズベキスタン
http://www.janjan.jp/world/0510/0510053399/1.php
縮小を続ける沙漠の海:アラル海
http://www.eorc.nasda.go.jp/imgdata/topics/2004/tp040213.html
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