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報徳記1−1−4

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小田原酒匂川(さかはかわ)其の源(みなもと)富嶽(ふがく)の下(もと)より流出し、数十里を経(へ)小田原に至りて海に達す。
急流激波洪水毎(ごと)に砂石(すないし)を流し堤防を破り、稍(やや)もすれば田面(たおも)を推流(おしなが)し民家を毀(こぼ)つに至る。
年々川除堤(かはよけつつみ)の土功(どこう)息(や)まず。
故に邑民(いふみん)毎戸(まいこ)一人づゝを出して此の役(やく)に当(あた)らしむ。
先生年十二より此役(このやく)に出でて以て勤む。
然れども年幼(よう)にして力足らず。
一人の役(やく)に当(あた)るに足らず。
天を仰ぎ歎じて曰く、
我(われ)力足らずして一家の勤(つとめ)に当(あた)るに足らず、願くば速かに成人ならしめ玉へと。
又家に帰りて思へらく、人我が孤(こ)にして貧なるを憐恕(れんじょ)し、一人(いちにん)の役(やく)に当(あた)るといへども、我(われ)心に於(おい)て何ぞ安んずる事を得んや。
徒(いたづ)らに力の不足を憂(うれへ)るも詮(せん)なし、他の労を以て之を補はずんばある可(べ)からずと。
是に於て夜半(やはん)に至る迄(まで)草鞋(わらぢ)を作り、翌未明(よくみめい)人先(ひとさき)に其の場に至り、人々に言ひて曰く、
余(よ)若年(じゃくねん)にして一人の役に足らず、他の力を借りて之を勤む、其の恩を報ずるの道を求むれども得ず、寸志なりといへども草鞋を作り持ち来れり、日々我が力の不足を補ふ人に答へんと云ふ。
衆人其の志の常ならざるを賞し之を愛し、其の草鞋を受けて其の力を助く。
役夫(えきふ)休(きう)すれども休まず、終日孳々(じゞ)として勤む。
此の故に幼年なりといへども怠らざるが故に土石の運ぶこと却って衆人の右に出づ。
人皆之を感ず。


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