ぎゃらり壷中天 鈍青房掌編

“鈍青房”は小生の庵号です。物をめぐる掌小話を掲載していきます。

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金魚のあぶく

  『金魚のあぶく』
 
 「まあそうね春の熊より君が好き」
「なんだい、それゃ」
「俳句よ。さっき作ったの」
「なんで春の熊なんだよ」
「冬眠から覚めた熊って、なんだかボーっとしててつかみどころがないでしょ。それよりは君の方がまだ好きかなあーっていう、ほわぁんってしたイメージよ」
「じゃあこれは・・・。透きとほる金魚のあぶく君が好き」
「それがどーした、の世界だね」
「そういう乙女ごころよ」
「にんじんは嫌いと言っても君が好き」
「でも一応季語はちゃんと入ってるんだ」
「そうよ、私だって角川書店編の歳時記、持ってるもん」
「俳句の先生はなんて言ってるの?」
「俳句は自然を詠むものです。あなたのはちょっとテーマがねって最初は言ってたけど、最近はもうそのままでいったらどうですかって」
「へえ」
「この前なんか、なんとなくスタイルを確立してきましたねって、応援してくれたの」
「まあ、好きにさせておこうってところだな。ところで君が好きシリーズの他はないのかい」
「ほんとうよ来世はくらげと決めてます」
「夜だけは蛍になってもいいかもね」
「昨日までつくつくほうし木の上で」
「毛玉吐く猫よそれでも恋なのね」
 
 「わかったわかった、けっこう入れ込んでいるってわけだ。それにしても本名を何かペンネームに変えた方がいいんじゃない?」
「“田中眞紀子”がなんでいけないの」
「せめて一文字変えるとかさ。その名前と作風のイメージが違うだろう」
「そうかなあ、私、結構気に入ってるんだけどな」
 地下鉄で隣り合わせた若い夫婦の会話についつい聞き入ってしまった。ご主人が言うように田中眞紀子はやめた方がいいと私も思う。                                                    
                                                                   了
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