ぎゃらり壷中天 鈍青房掌編

“鈍青房”は小生の庵号です。物をめぐる掌小話を掲載していきます。

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博物館にて

   『博物館にて』
 
 時代の道具の中には、これって何に使うの?ってものがある。かつては当り前だった日用品が今では出番がなくなって、用途さへわからなくなっているというわけだ。
「たとえばこれ」
市立博物館の常設展示フロアーでボランティアガイドの札を胸に付けたかなり年配の老人がガラス越しの展示品を説明してくれた。
「これは謄写版印刷機。原稿を鉄筆でガリガリと引っ掻くので、ガリ版印刷機とも言われました。1893年にトーマス・エジソンが発明し、日本では翌年に堀井新治郎という方が改良したものを発売いたしました」
「これなら、私も使ったわ。中学の時、生徒会のチラシをこれで作ったもの」
美智子は言った。昭和40年代くらいまでは学校とか会社の事務用品として欠かせない必需品であった。
「コピー機みたいなものね」
美智子の娘、瑞穂は高校二年生。耳にはイヤフォーンをつけたままだ。静かな館内で、微かに音が漏れている。
「こんなものでも博物館に展示されちゃうのね」
美智子は言った。
「そうですね。ちょっと前までは百年ひと昔とか言いましたが、進歩のスピード感は増していますからね、五十年前のレコード盤だって、カセットテープレコーダーだって、もう骨董品ですよ」
「そうよ、CDやMDだって、もう使わないもん。今はアイポッド」
ボランティアガイドの老人に対して、瑞穂が答える。
「でもさ、そうすると五十二歳のママはもう立派な骨董品ね」
「やめてよ」
美智子はふくれっ面に。
「そうとなれば私も間違いなく骨董品だ」
ガイドの老人もまいったまいったといった調子で頭をたたく。
すると瑞穂が大声で笑い出した。他の観覧者が皆振り返るほどの大きな笑い声だった。
「ゴメンゴメン。二人がガラスの向こうでおすましして展示されているところを想像しちゃった。でもおかしいっ。」と言いながら瑞穂はまた笑いが込み上げてくるのをこらえているようであった。
                                                                   了
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