パンダイアリー

2019年も読書感想文メインです。たぶん。

全体表示

[ リスト ]

イメージ 1

最強の経営者と同じく高杉良さんによる小説。タイトルは類似しているが、本書の初版が1989年発行ということで、30年近く前の本ということになる。今回はその文庫版(2009年発行)を購入し、読んだみた。

本書は小説に分類されるが、日本触媒(にっぽんしょくばい)の実質的創業者である八谷泰造(やたがい たいぞう:1906-1970)が主人公である。八谷泰造と同じ1906年生まれは、愛新覚羅溥儀、浜村純、朝永振一郎、ゲーデル、坂口安吾、本田宗一郎といった面々。1970年にお亡くなりになっているので、私と同じ時代を生きることはなかった。

日本触媒という会社についても触れておこう。会社情報によると、創業は1941年、売上は連結で約3000億円、従業員数が約4000人、東証一部上場の大企業だ。

ウィキペディアによると、主な取扱商品はアクリル酸と高吸水性樹脂であり、特に高吸水性樹脂は世界シェア・トップ(25%)である。『単純に言い換えると世界中の紙おむつの吸水ポリマーの4分の1はこの会社で製造されたもの』とあり、多くの人がお世話になっている重要な素材を作っている化学メーカーだ。

以前から日本触媒という会社の存在は知っていたが、創業者や社史については全く知らなかった。本書のように創業者について第三者が描いた本は、存外、多くない。会社自らが○年史という形で製本したり、現役の社長が私の履歴書として日経新聞で連載したものをまとめた本が出版されるくらいだ。

さて、著者である高杉良(1939-)さんと八谷泰造さんはそもそも接点がある。高杉さんは石油化学新聞という業界紙の記者という経歴を経て、小説家になった。記者時代の高杉さんにとって、八谷泰造さんは取材対象だったのだ。

あとがきに

専門誌の記者として高杉さん自身がチラッと登場しますね。(p.466)

とあるように、新婚旅行の最中に新聞記者が八谷社長を訪ねてきて、そのまま新婚の夫妻と食事をするというエピソードが不思議なタイミングで差し込まれている。まさにこの新聞記者が高杉さんご自身だったのだ。なるほど。だからこそ、本書を描こうと思うに至り、八谷さんに肉薄した小説が完成したのだ。

昭和三十年代の石油化学工場は、国産の技術ではできるわけがないと思い込まれていて、どこも外国、特にアメリカから技術導入をしていました。ところが、日本触媒は、自社で開発した技術でやったわけです。無水フタール酸の製造、そして合成繊維などの原料であるエチレンオキサイド、エチレングリコールの開発などを、すべて自社技術でやるわけです。(p.468)

日本触媒は昭和三十年代に、純国産技術で石油化学プラントを川崎に立ち上げる。これは日本の化学業界において画期的な快挙だった。

八谷さんは、阪大で博士号を取得し、アカデミアの世界には残らず、社長に就任した。何度も迫る資金難と経営危機を乗り切り、プラント爆発にも挫けず、人材を大事に育て、海外の技術に頼ることなく、事業を大きくしていった。

本書で八谷さんは「炎」と称されているが、この時代の戦争を経験した人間らしく、熱く、パワフルで、そして技術に詳しく、研究開発の楽しさと苦しさを知り尽くした人物だった。

本書では、富士製鐵(現・新日本製鐵)の社長であった永野重雄(1900-1984)、加藤一二三の才を見出した将棋棋士の升田幸三(1918-1991)などとの交流も描かれている。3人は同じ広島県出身の同郷だった。

自動車・家電などの組み立て産業、飲食品・化粧品などの消費財産業などに比べて素材産業の化学メーカーは比較的地味な存在だが、これらの産業に原料を供給する、無くてはならない重要な産業なのである。(p.464)

日本に残されている数少ない強み分野である化学。今でも化学メーカーは原料や素材を創り、供給し続けている。新規参入には巨額の投資が必要となるし、素材を創るためには高度な技術とノウハウが必要なため、簡単にパクることはできない。

こういう本を他にももう少し読んでみたいが、あまりないようだ。同時代を生き、業界紙の記者として、八谷さんに日々接することができた高杉さんだからこそ、描けた小説なのだ。

今のIT業界の社長たちについて小説として描かれる日が来るのかな。どうだろうか。

「book」書庫の記事一覧

閉じる コメント(2)

顔アイコン

昔のアカデミアにおける博士号は少し固定的だがダイセル播磨の久保田博士は
少し違う。CCSCモデル、面白い。

2019/6/29(土) 午後 10:31 [ 播磨通信 ]

顔アイコン

それは実験精神をわすれていないからね。しかも潤滑油の本性をあれほどまでに鮮やかに見せつけるとは。うかつには言いたくないが科学技術における天才のひとりであることは間違いない。

2019/6/29(土) 午後 10:49 [ 姫路エンジニア ]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事