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ルポ 若者ホームレス以来のルポもの。本書の舞台は何でも極端な国アメリカだ。 著者の田原さんは読売新聞の記者だ。そもそもアメリカという国は、白人入植者が先住民であるインディアンを排斥し、またアフリカから多くの奴隷を買い入れ、さらには多くの移民を受け入れて成り立ったという歴史的な経緯がある。 ドナルド・トランプにあるようにトランプ自身もドイツ系移民の子孫だ。2019年1月30日の一般教書演説(全文日本語訳参考)では、移民政策についても4つの柱を示しており、必ずしも移民に対して一方的に厳しいという政策ではないように思える。他方で、メキシコとの国境に壁を作るということを諦めてはいないらしい。 メキシコ湾から全長3100km超、計12日間にわたる国境線の旅を振り返れば、警備隊がいつもそばにいた。通過した検問所はのべ14か所、隊員に車を止められたり声をかけられたりした回数は30回を超えた。(p.297)本書で面白かったのは、著者自身がアメリカとメキシコの国境線を車で旅したことだ。不法入国の発生場所はメキシコとの国境なわけで、そのあたりを車で走っていると警備隊に何度も呼び止められる。こうして警備の厳しさが見えてくる一方で、あまりに長い国境に壁を作るのはどう考えても物理的に無理があるということも実感できる。 オバマ政権時代には移民に寛容な政策だった。その例が、若年移民に対する国外強制退去の延期措置(Deferred Action for Childhood Arrivals:DACA)である。 2017年9月にトランプ大統領がDACA打ち切りを発表したものだから大変で、いきなり国外強制退去されるかもしれないのだ。トランプが不法移民を敵視する理由は、「犯罪を起こす」、「職を奪っている」、という2点がある。実際はどうだろうか。 DACAは就労を認めており、DACA資格保持者の中には社会の様々な場面で活躍している人が少なくない。中でも注目されているのが、教職だ。約9000人が働いているという。公立学校は賃金が低いため、米国人のなり手が少なく、その空白をDACA資格取得者が埋めているという現実があるのだ。(p.316)日本では、今や多くの外国人がコンビニや居酒屋の店員として働いている。もちろん不法移民ではないだろうが、今や外国人はキツくて賃金の低い仕事を担う重要な労働力になっている。少なくとも日本ではこういった外国人たちが職を奪っていると批判されることはない。むしろ劣悪な就労環境に対して批判があるくらいだ。 アメリカでも同様でDACA資格保持者がアメリカ人がやりたがらない仕事を担っている。しかも公教育を担っているのだ。公立学校の教師の労働市場を考えてみよう。DACA資格保持者を排除したら、労働者(供給)が減ることになる。その結果、公立学校の教師が減り、給与が上がるということになる。さらには教師一人あたりが担当する学生数が増えることになり、教育の質が下がるかもしれない。あるいは教師不足で学校が統合したりして、生徒の通学が大変になるかもしれない。 そもそも不法移民が公教育を担っているということ自体が国としてどうなのよと思うところもあるので、政府が公教育への投資を増やせば問題は解決するかもしれない。とはいえ、公立学校の教師はDACA資格取得者の職業の一部だろうから、他でも同様の問題が起きることだろう。 大事なポイントは、別段、雇用を奪っているというわけではないということだ。あれだけ様々な人種が暮らしているアメリカで、誰かが誰かの職を奪うみたいなことを論点にしていること自体理解できない。能力があればのし上がれるのがアメリカなのではないだろうか。こうしてアメリカは衰退していくのかもしれない。 一方で、EUは難民問題で揺れている。国家は虚構で、脆弱だ。世界情勢が混沌としている。 こういう不安定なときに新たな市場が生まれる。人質の経済学にあるように、国家が難民の入国を制限したり、不法移民を脅威退去するような政策を推し進めると、密入国斡旋ビジネスがより盛況になる。結果的に武力を持つものが潤い、貧者はより貧しくなる。 何だかなぁ。全く世界が良くなっていく気配がないんだよなぁ。
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