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大名行列の秘密

大名行列の秘密

著者 安藤優一郎
発行 NHK出版 生活人新書

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 長々しい隊列を組み、街道筋を行き来する大名行列は、まさしく城をあげての大移動であった。江戸は諸侯であふれかえり、大名行列ビジネスも発展。参勤交代は社会に莫大な経済効果と活気をもたらしたが、各藩の疲弊は、幕府の基盤そのものを揺るがせてしまう……。固定的に語られがちな武家社会に「移動」の観点を持ち込み、未知なる江戸をダイナミックに描きだす。---データベース---

 この本のタイトルは「参勤交代」ではありません。「大名行列」です。今では大名行列というと、ドラマなどで見られる大病院の教授の回診や大物国会議員の地方視察などの時を揶揄する表現として使われていてあまり良い印象派ありません。しかし、江戸時代ではこの大名行列こそが市場経済を活性化する最大の原動力になっていたようです。何しろ鎖国の時代ですからねぇ。経済は当然、国内需要に限定されるわけです。この本では参勤交代を中心に、それだけではない江戸の町での大名行列の実態までも取り上げています。この視点こそが今までの学校教育の歴史の視点に欠けていた部分ではないでしょうか。

 さて、やはり、メインは参勤交代から書き進められます。大名行列の持参品から、行列同士のすれ違い方、歩くペースなどなど、コンパクトな分量で、楽しめる要素を盛りだくさんに詰め込んだ感じになっています。映画やドラマなどでは、「下にいー、下にいー」というかけ声と供に行列が進んで行く様を描写していますが、実際にはこのかけ声が使えるのは徳川御三家のなかでも、尾張徳川家と紀州藩だけで、他の諸大名は「片寄れー」とか「よけろー」というかけ声を使ったようです。それも、ただ本当に避けるだけで、土下座何ぞもしなかったことが分っています。いかに、昔の時代劇がいい加減だったかが分ろうかというものです。

 さて、その参勤交代。諸大名の経済力を削ぐことと、徳川幕府に忠誠を誓わせるための施策として三代将軍家光の時代に武家諸法度により義務づけられたということになっています。徳川幕府が各藩の大名に自らの力を示すと同時に、必要以上の蓄財をさせず、有力藩の対抗勢力化をそぐことをねらったのが参勤交代という制度でした。つまり早い話、代々妙に金を使わせることが大きな目的だったわけですね。実は意外な制度が、この国の経済を動かしていたのです。そのことを詳しく書いたのが、今回取り上げる一冊「大名行列の秘密」です。章立ては以下のようになっています。

第1章 街道をゆく「動く城」(殿様方の難行苦行;人数も衣装も臨機応変;漬物石からペットまで)
第2章 一二泊一三日の長道中(殿様のお立ち;道中での泣き笑い;大名たちの意地の張り合い;ゴール前の舞台裏
第3章 花のお江戸は行列だらけ(江戸城前は大騒ぎ;将軍のお供でまた行列;格付けされた殿様たち)
第4章 行列ビジネスの裏表(殿様通ればお金が落ちる;藩財政は破綻寸前;庶民からみた大名行列)
第5章 幻となった大名行列(参勤交代の形骸化;江戸から大名が消えていく;大名行列の末路)

 この参勤交代、殿様の生活がそのままできるようにと、台所用品、風呂桶、便器、漬物石も持って行列するという民族移動のようなものです。この本ではその工程表まで収録されています。加賀藩は、江戸までの3コースの1日分行程のダイヤグラムまで作成して、川止めなどによる緊急の経路変更にも対応できるようになっていました。時計もない時代だし、アバウトに行き来してたんだろうと思っていましたが、1日遅れれば予約した宿へのキャンセル料、1日何百万円単位で飛んでいく人件費、泊まり賃など膨大な経費が掛かっています。本陣に泊まるのに殿様はわざわざ風呂桶まで持ち歩いていたと言います。つまりは本陣はただ眠るだけの場所で、食事もお付きの料理人が到着してから料理にとり掛かるという仕組みであったようです。トイレも専用の携帯トイレがあり、それを本陣の便所に取り付け、藩主のする大便まで使用後は国元まで持ち帰ったと記録に残っているほどです。

 旅程は七ツ立ちの早立ちでみんな毎日10時間も歩いてるのに、単純に考えれば大名は駕籠だから楽だよなあ、と考えてしまいますが、大名からしてみれば、小窓しかない狭いところに朝から夕方まで、薄い座布団一枚でじっと座っているというのも辛い話です。また、食事は決められた量を食べなければ何処か体調が悪いのかと勘ぐられたり、嫌いなものも残さずに食べなければならないとか、結構不便だったようです。

 さて、その大名行列。実際錦絵などで残っている行列は国元出立や江戸到着前後の様子で、道中は早歩きのため隊列など組まず、旅装もそれに適したものに着替えていたようです。行列は大名家の格によってさまざまでしたが、通常は、前駆、前軍、中軍、後軍、荷駄の行軍体形で編成される。前駆には露払いが先行したり、槍を立てたり、先箱(さきばこ)挟箱(はさみ)が先頭に立つこともあり、槍と金紋先箱によって何家の行列と判断できたから、この先頭の道具は重要な意味を持っていました。いわゆる奴さんですな。しかし、彼らは実際には雇われ人夫で、このパフォーマンスは隊列を組んでいる時だけのものでした。要するに派遣業として成立していたんですな。大名行列は、大名の格を社会らアピールするツールとしての性格が強く、また他大名との競争心もそこにはあったのでしょう。加賀藩辺りは出立時は4,000人前後、旅程中は2,500人前後と6割程度になりますが、それでも大行列であることに替わりはありません。この人数が川越えするだけで膨大な費用になります。加賀藩の北国ルートだけで川越えは40カ所あり、単純計算で一回の参勤交代で1億円近くの金が川越えだけで飛んでいくことになります。先のダイヤグラムではないですが、旅程官吏がきちっと出来ないでは経費が膨大に膨らむのが見てとれます。

 参勤交代は大名の格に依って参勤のシーズンが異なっています。まあ、一時に江戸に大名が集中したら街道は大渋滞になりますからね。そして、コースも幕府の方から指定されたということです。加賀藩も3つのルートをその時々で変えて利用しています。

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 参勤交代以外の大名行列。それは江戸市中では頻繁に行なわれています。もちろん規模の違いはありますが、登城の日程は決まっていますからその日は特に大渋滞です。江戸城への登城は大半は大手門からです。ここに一気に大名が集まってくるわけですから朝の交通渋滞は現在の様相と変わらなかったのではないでしょうか。さらには藩主の帰りまではここで待つことになりますから、自ずとその従者目当てに商売人が集まって来ます。もちろん、一般の旅行者にとっても大名行列は観光の対象になりますから、大手門界隈は、ぼて振りの蕎麦屋やいなり寿司屋、甘酒売りはさぞかし賑わったことでしょう。

 江戸時代大名の嫡男や奥方は江戸詰めですから、藩邸から人は絶えることはありません。藩財政の半分近くはこの江戸で消費されるわけです。何しろ、諸藩は上屋敷、中屋敷、下屋敷と拝領しているわけですからその維持費が掛かるわけです。こうした経費は次第に藩財政を圧迫していき、8代将軍吉宗の時既に制度の緩和が実施されます。しかし、このため、諸街道の旅籠や商人の商売が立ち行かなくなるという弊害が既に発生しています。10年ほどでこの制度は廃止されますが、藩財政は皿に悪化し、幕末には再度の緩和策が「文久の改革」の一環として実施されます。たたし、この頃はもう幕府自体が弱体化しているので、禁門の変後の情勢を幕府が過信し制度を元に戻しますが、すでに幕府の威信には大きく傷ついており、従わない藩も多かったようです。

 大名行列は、徳川幕府衰退の中で消えていきます。街道の整備と宿場の発展に寄与したことは日本の旅行ビジネスの発展に寄与したことは間違いありません。一般人の旅行にもそれは「講」と言う形で旅のスタイルを確立させていきます。こうして、明治に入るとそのものは消えますが、いまでも、各地にお祭りのイベントとしてその名残を残しています。さしずめ、東海地方では名古屋まつりの「郷土英傑行列」がその良い例でしょう。

 さて、この本には意外な人物が登場します。ハインリッヒ・シュリーマンその人です。「トロイアの遺跡」を発掘した人物として歴史では名をとどめていますが、その枯れが実は日本にも来ていたのです。発掘に取り組む前に世界旅行をしており、その途中に日本に立ち寄っているのですね。知りませんでした。それは慶応元年(1865)のことで、この年徳川家茂は長州征伐に出発していて、その行列を5月17日に横浜から保土ヶ谷宿に向かう途上でこの大名行列を目撃しているのです。こういう史実を知っただけでもこの本にであえて良かったです。

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興味をそそられる本ですね。参勤交代の制度の発想とかそれを実現させてしまった状況とかちょっとありえない国ですよね。他国でこんなことやっていたところなんてないんじゃないのでしょうか。

2013/4/7(日) 午前 9:31 [ すこん ] 返信する

すこんさん今日は。「参勤交代」ではなく「大名行列」という視点で書かれているところがいいですね。この仕組みが無かったら多分江戸は世界一の都市にはなり得なかったでしょうし、内需経済も発達しなかったのではないでしょうか。それを考えると政治と経済を分けた江戸時代は今よりも進んでいたといえるかもしれません。

2013/4/7(日) 午後 5:54 geezenstac 返信する

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