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東の空には朝の満月が浮かんでいた。
雲は緩やかに西へ流れている。
突如、不吉な鳥たちが東の空を舞い始めた。
停車場では、鮮鉄の駅員に交じって朝鮮人十数人の男たちが
ロシア兵進駐軍歓迎の準備をしていた。
龍司と目が合うと、見た顔の男たちは、飛ぶように逃げ散った。
逃げる筈である。彼奴等は日本人宅略奪事件現場で
急を聞いて駆け付けた龍司に、全員顎を外された連中である。
当時の龍司は、昼夜に渡る奥深い山中での修業で
「天誅岩石落し」
と自ら命名した木刀の荒業を完成させて在った。
武術指南の服部師範は
天誅岩石落しの、威力は、以下の通りと評価し
此の一撃を受けた者は、何人で在ろうと脳天を砕かれ即死する。
何らかで防御しても、防御物共々木端微塵と粉砕される。
「彼の者とは、立ち会うべからず」
と、公表した。
龍司は、7歳で父の許しを受け
剣道の昇段試験を受け、初段免許を取得した。
当日、防具の面を、竹刀で叩かれた試験官はその場で失神した。
是以来道場では、龍司の相手をするものは誰も居なくなった。
父の没後、8歳に成った龍司は、
「甲斐家の跡取りは、怪童だ・怪人だ・鬼神だ」
と、囃し立てられ、周辺では恐れられ、怖がられた。
師範からは、日常での木刀の使用を禁じられた。
握り拳は常人の2倍あり、其の破壊力は驚異的で在った為。
是も使用厳禁とされた。
従って、不当な難儀に遭遇した時には
左手で相手の胸ぐらを掴んで持ち上げ、右手で顔を鷲掴みし
軽く捻って顎を外す。
この技を使って、殺さずに、黙らせる事にしていた。
彼奴らが蜘蛛を散らすように駅舎から逃げ去った訳だ。
ジャングイ(陳大人)に
「絶対に、目だたぬようしろ!」
「ロシア兵には、逆らうな」
「暴れるな」
と言われていた龍司は、停車場で隠れ場所を探した。
彼是と迷った末
改札口の横に在った石炭置き場へ潜り込むことにした。
中には、コークスと石炭が積み上げてある。
板張りの壁は頑丈そうな出来であったが、所々に節穴が在り
外の状況は自由に覗けるようだった。
「全員ホームで列車の到着を待つように」
との指示に従って、女、子供たちは
手に手に赤い布きれを持って指定された場所に並び始めた。
山影から轟音が近づいてくる。黒煙と白煙を吹き上げながら、
機関車は汽笛を3回響かせた。グングンと近づいてくる列車には、驚いたことに、客車が一両も連結されてなかった。
当時の汽車は、1等車には、白い線が引かれて在った。
2等車は青線・3等車は赤線である。
1等車と2等車の間には食堂車が連結してあった。
目の前に大きく近づいてきた列車には、全て横線なし。
屋根つきの貨車26両だけであった。
停車場の職員に聴くと、今日は
「最前線で戦っていた歩兵隊だけが、貨物列車で到着します」
「下士官や将校達は、近くの飛行場にすでに到着しています」
間もなく此処へは
「飛行場からトラックで来て、合流するそうです」
「将校たちの到着は少し遅れるようですね」
との事であった。
車輪を軋ませて列車は目の前に止まった。
嫌な予感が背筋を走る
つづく
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6)貨物列車到着
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