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ズドーン!ヒュルヒュルヒュル・キーンと舞い上がった一筋が
漆黒の天空で、ドッカーンと、見事な大輪の花を咲かせた。
居合わせた観衆から大拍手と歓声が舞い上がり大太鼓の音が、
町村周辺全域に鳴り響いた。
此れが脱出の合図であった。
支度した360名は音も無く切り裂かれた鉄条網の裂け目から、
一人又一人と外へ無言で踏みだして往った。
花火はその後も次々と華麗に舞いあがり
天空を見事に彩りながら、空中で弾けている。
人々の目は、全て鮮やかな夜空に釘づけに成っていた。
突如、大爆発!!!発生。大音響とともに、
北側の空に黒煙と炎が猛烈に舞い上がり、夜空を焦がした。
爆発音は連続して起こり、花火見物の群集は騒然となった。
手筈通り、ロシア軍火薬庫の爆破は成功したようである。
その場の状況は花火どころではなくなった。
本物の大爆発の迫力に、群衆は度肝を抜かれている。
流石、ジャングイの作戦であった。抜かりは無い。
強制収容所の監視員,及び巡回監視役のロシア兵達は
ジャングイからの振る舞い酒に混入された薬により
全員だらしなく、寝崩れていた。
逃走の道筋は決めてある。出だしは先ず順調であった。
龍司は、ジャングイの協力を得て、綿密な脱出計画を練った。
出発までに各人で用意するものは
背嚢・水筒・飯盒・手鍋・アルマイトのコップ・簡易食器
藁草履一人3足分・手ぬぐい・風呂敷・下着など衣類
正露丸・赤チン・ヨウチン・絆創膏・ガーゼ・包帯
切出しナイフ・爪切り・手斧・軍手軍足
乾パン・煎り米・金平糖・ドロップ・
等々と定めた。
入手不能な物の調達は、ジャングイの協力を仰いだ。
ジャングイは快く引き受けて呉れ、実行してくれた。
この件は書類にして配ると、脱出計画が露見する恐れがあり
少年隊員全員を手分けして口伝えで各人には徹底を計った。
一番の難題は、脱出時の計略立案の算段であった。
ジャングイは、日本国敗戦以前には、各種事業の一環として
大型興行開催を各地で仕切っていた。
サーカス曲芸・芝居映画館・各種演芸舞台・等々
有名俳優・歌手・京・大阪の芸者等大勢を集め
その分野での勢力は強力であった。
取分け人気だったのは、
満州との国境。オウリョッコウの河原で年二回行う
花火大会であった。
この時は日頃の諍いを忘れて
朝鮮人も、支那人も、揃って其々の国から、空を見上げた。
ジャングイは中国人花火師・技術者・養成の為
日本本土、新潟から優秀な若手の花火師2名を招集し
自らの手元に置いて優遇していた。
「花火が良いな。此れは使えるぞ!当日は花火で行こう」
ジャングイは、そう言って頷き、微笑んだ。
脱出決行当日を、
「ロシア・中国・朝鮮・戦勝記念日」と銘打って
花火大会開催を、大々的に周辺へ公表することを決めた。
ロシア兵、朝鮮人警備隊の連中の目を眩まし動乱させる為に
ロシア軍火薬庫の爆破計画も決定した。
ジャングイの、訓練が行き届いている、私兵軍団は
総勢500名を超える人数であった。
この中から25名の精鋭が選抜され、脱出作戦に投入された。
各種銃火器類は潤沢に備蓄されて在り。
作戦に応じた装備には、即対応出来る。
ジャングイは全面協力を、龍司に約束した。
更に此の25名の中から3名を選出、彼らには
脱出者が38度線突破出来るまでの道中を、物陰から見守り
協力し援助させる事を約束してくれた。 ジャングイの想像を絶する親切な言動に接する度に
深い感動を覚え、感謝と感激を覚えたが
其の都度龍司は
忘父の、生前の偉大さを思い知らされ驚嘆した。
龍司は、妹淳子を背負い、母の手を引いて
脱出移動集団の先頭に立った。
祖国日本を目指す、
長い長い苦難の道のりへ向かって、行進は始まった。
つづく
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12)のろしは上がった。
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