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大脱走から20日間が過ぎた頃、
あれも要る、此れも欲しいと欲張って
荷物を多くした者の中から落伍者が出始めた。
延々と続く、裏街道の夜間行進である。
行列からの落伍者を狙って,夜盗が出没していた。
叢へ引きずり込み身ぐるみ剥がしその場で打ち殺すのだ。
身内の中で誰かの足が止まると、その場に捨て置くしかなかった
背負ったり、手を貸したりして動きが鈍ると、
家族全員がやられてしまう。
龍司は胸が痛んだ。自ら手を下さずとも人は殺せるのだ。
龍司は何人もの人を見殺しにした。
大勢の人を救うためには、見殺しにせざるを得なかった。
然し彼らが自らの家族であったなら
そう簡単に見捨てられただろうか。
答えは出なかった。
日の出前までには、次の隠れ場所である深い森影まで、
行き着かねばならない。
彼是と構っている暇は、誰にも無かった。
少年隊の半数は、しんがりに廻り、落伍しそうな者達を
励まし励まし奮闘していた。
橋を避けて、着の身着のままで河を渡り。
黙々と、山影の裏道を夜陰に紛れて東を目指した。
コウリョウ湾を過ぎ、チンナンポへ向かう頃には、
約半数の人々が、脱落していった。
配られて在った青酸カリを口に含み最期を遂げる者。
乳飲み子の息を自ら止め、舌を噛むもの。
中には背負っている赤子が死んでいるのに気付かず
歩き続ける者。行倒れた人の背嚢から
食料を漁る者達、等々。
目を覆う地獄の有様が延々と続いていた。
チンナンポの大煙突が悠かなたに見えてきた。
我国が創り上げた大製鉄工場である。
此処を過ぎれば平城まであと2日の行程であった。
後は張り巡らされた鉄条網を潜り抜け
38度線突破を実行するのみである。
当然ロシア兵の機銃掃射が待ちうけていようが
やり抜くしかない。
現在いるのは、129名
この中の何名が銃弾を潜り抜け南へ辿り着けるだろうか。
ジャングイの腹心たちは、ロシア兵達の注意を逸らす為に
境界線北側の山すそで、大爆発を起こす手筈であった。
この大音響を合図に
129名は全員一斉に、切り裂いた鉄条網の裂け目から
走り出した。
大勢の米兵が、前方悠かなたで手招きをしている。
およそそこまでの距離は500m
此処までは何としても、生きて走りぬかねば成らない。
猛烈な機銃掃射が始まった。
龍司の前後左右で、バタバタとやられた人々が倒れて往く。
妹を背中にくくり付け、
母を右脇に抱えて
龍司は一直線に走った。
米軍はロシア陣地へ何発も砲弾を撃ち込んでいたが
ロシア兵の機関銃を止める事は出来なかった。
気が付くと、アメリカ兵士が大歓声を挙げ。
大拍手で逃亡者を迎え入れて呉れたが
その時生存者は27名であった。
そのうち9名は重傷を負っていた。
最期まで勇敢に立ち回り毅然として戦った
少年隊の面々は龍司を残し
此処で全滅した。
龍司は
生まれて初めて
泣いた。
つづく
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13)38度線突破!
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