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皇居二重橋を見て、日比谷公園に辿り着いた。
公園も屯する浮浪者もなんとなく上野より洒落ているように見えた。
やっと空いたベンチに座り込んで、転寝したのが不味かった。
ふと、気が付いた時は辺りは夕暮れであった。
「しまった!明るいうちに塒を探すんだった」
思い立って明かりを頼りに歩き始めた。
間もなく数寄屋橋の交差点に出た、角に交番が在り
後ろに小さな公園が在った、入って見たが立木の下や茂みの陰には
先客の浮浪者達で満員状態である。交差点へ戻って
四方を見渡すと、北側道路の右前方に光り輝く十字架が見えた。
吸い寄せられるように近くまで行って見た。
十字架は角地に建てられた5階建ての建物の上に在った。
戦火は免れたようである。石の階段を10段ほど上がったところが
教会の扉に成っていた。
1階と地下一階は銀行のようであった。
ビルの横に大きな「平和相互銀行」の看板が上がっている。
教会は2階から5階までを使っているらしい。
一目見てカトリックでは無くプロテスタント教会であることが解った。
疲れ果てた龍司は、石段に腰を下ろした。
今更プロテスタント教会に一夜の宿を頼むのも業腹である。
10分程此処でぼやっとしていただろうか
目の前を一人の浮浪児が通りかかった。
龍司は飛び起きた。
「ヒイチ!山田日一!」大声で呼びかけた。
目の前にいたのは、まさしく少年隊副長
二股パチンコの名手ヒイチである。
「生きて帰って来たのか?俺だ!俺だ!龍司だよ!」
彼は目を見張り、きょとんとしている。
「俺は、戸田と言うんだ。人違いだろう」と言った。
「この辺で見かけない顔だな」「貴様そんなところで何してるんだ」
と、逆に聞かれた。
「さっき銀座に来たばかりだ」「塒を探してるんだ」
「そうか、俺は今から銭湯に行く所だ、貴様も一緒に行かんか?」
「金がないから、風呂はいいよ」と断ると
「金は俺が持っているから心配するな」
「お前の相談に乗ってやろう。」「今夜の塒は俺に任せろ」
と言って、戸田はにっこり笑った。
戸田は如何見ても12歳位にしか見えない。
口の利き方や明るい人柄は瓜二つ、ヒイチそのものである。
此奴何処かで頭を打ったんではないだろうか?
風呂場で裸の付き合いをすれば俺に気づくかもしれない。
勝手にそう思って風呂屋へ同行することにした。
風呂屋は服部時計店の横筋を東に150m程行った左側に
大きな煙突が聳え立つ構えで、大黒やと書いた暖簾を下げていた。
湯船に浸かって二人は其々の生い立ちを簡単に話し合った。
戸田は伊勢の出身だと言う。
父は大阪相撲の立行司で、なかなか由緒ある家柄の出身と解った。
両親とは、終戦前艦砲射撃を受けた時に死別したそうだ。
「俺は貴様の言うヒイチでは無いが、なんか気が合いそうだな」
「逢った瞬間から、昔からの知り合いのような気がしたんだ」
「今日から仲良くしようぜ」
と言ってアメリカ風に手を握った。
「お前、もの凄い手をしてるな〜」戸田は驚いたが嬉しそうだった。
戸田は細面、全体に華奢に見えるが筋肉質だった。
風呂上りに彼の塒に到着して驚いた。
日本橋から流れてきた川は
呉服橋を通過して有楽橋、数寄屋橋と続いて先は東京湾へと続いている
数寄屋橋から有楽橋までの川筋東側は
びっしりと木造のバラック小屋が立ち並んでいた。
此処は全部銀座界隈の浮浪児の棲家であった。
5歳から15歳位までの浮浪児、戦災孤児、ばかり
常時30名前後は住んでいたようである。
大人は唯一人管理人の川村のオッチャンただ一人だった。
龍司は、川村のオッチャンの面接を受けた。
「強そうだな喧嘩はするなよ!」
「毎日働けよ、此処は遊んでる奴は住まわせないぞ」
「何で稼いでもいい、一日5円は寝る前に必ず持って来い」
「元金と商売道具は貸してやる」
「ルールは其れだけだ」
と言われた。
商売は。靴磨き・新聞売り・バナナ売り・ラムネ売り・
貸ボート・自転車パンク張り・輪タク・焼け跡さらい・
この中から好きなものを選ぶらしい。
戸田が横から
「明日からは一緒に靴磨きをやります」と言ってくれた。
此の晩は戸田と同じ小屋の3段ベットの一つを借りて熟睡した。
あくる朝聞いた事だが
小さい子で5円が稼げない奴には
稼ぎのいい奴らが応援して助けているらしい。
雨の降る日なんかもお互いに助け合うそうであった。
「よーし。稼ぎまくって皆を楽にしてやるぞ!」
是が龍司最初の決意であった。
銀座4丁目交差点の角
服部時計店本店前を龍司の仕事場と定めた。
当時は駐留軍兵士に徴収され
兵士たちのPXに成っていて、日本人は立ち入り禁止であった。
現在の銀座和光本店前である。
銀座柳通りは京橋から銀座八丁目の土橋まで
両側は各種露店が隙間なく連なって居た。
朝鮮人・支那人たちは新橋に陣取り不法闇市を展開していた。
銀座には児玉誉士夫が事務所を構え
姉ヶ崎一家・後に関東五郎を襲名した相撲取り上がりの
山本五郎が東京温泉の側に拠点を置いて睨みを利かせ
新橋の連中との諍いは
機関銃まで持ち込んでの大出入りを繰り返していた。
新橋連中の若手は、銀座進出を目指した
4丁目しゅうへんにもいやがらせに出没していたが
龍司が来てからは泣き寝入りは無くなり
来た奴は総て木端微塵に蹴散らして再起不能に潰して
追い払ったので銀座に、ちょっかいを出す輩は居なくなった。
一ヶ月もしないうちに龍司は銀座の
浮浪児たちのあこがれの兄貴分、用心棒に成っていた。
戸田は毎日龍司を引き連れて歩き得意満面であった。
此のころは、5円が在れば、大きなコッペパン一個と
一合入りの牛乳瓶1本が買えた。此れで取り敢えず満腹に成る。
龍司は稼ぎまくった。
露天商へのラムネ売りの権利を取り
リヤカーを買ってきて10歳未満の子供6人を配属
京橋から新橋まですべての露天売人をお客とした。
靴磨き隊は7名パンク張りは4名体制を引いた。
一日17名体制で6500円は稼いだ。
川村のオッチャンに65円払っても屁ともなかった。
余分な稼ぎは目の前にある平和相互銀行へ預けた。
半年ほどたった頃、突然戸田が「大阪へ行かないか?」と言い出した。
「南河内の古市に在る、白鳥学園に戻りたい」
「此処は草なぎの剣を祭ってある白鳥御陵の際なんだ」
と言う。「理由は?」と聞くと
「日本一の野球のチームを創りたいんだ」
とニコニコしている。
「ララ物資を運んで日本へ来たフラナガン神父が
日本の少年たちにベースボールを広めようと
野球用具を大量に大阪へ持ってきたんだ。」
「これを各地の養護施設・教護施設に配布した」
「これを機会に野球大会が開からるようになった」
「みんな優勝を狙って熱心に練習を始め、競争が始まったんだ」
「俺は野球なんて見たこともないし知らんぞ!」
「戸田よ、お前は野球やるんか?」と聞いた。
「いやいや。俺は運動神経ゼロなんだ」
「だから人集めでチームに貢献したいんだよ」
実は白鳥学園の和田野球部長先生に
「日本中から運動神経のいい奴を集めて欲しいと密命を受けたんだ」
だから俺は東京に来たんだよ。頼むから龍司いっしょに
大阪へ行って呉れないか。
途中で沼津に寄って、豪速球投手で有名な星井君に逢って
彼を誘い出す予定なんだ。
色々な選手情報は全国の浮浪児仲間から俺の所へ集まってくるんだ。
戸田は一方的に勝手な事を嘯く。
「俺には何もできんぞ!」
「大丈夫。心配ない、お前なら大打者に成れる。」
「俺は日本一のチームの4番で一塁手は龍司と決めたんだ!」
「決めて呉れ、愚図愚図してると星井君が他所に取られそうなんだ」
話は突然で一方的であった。
つづく
長い話にお付き合い頂き感謝!
有難う御座いました。
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19)銀座登場
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