日大 地球システムのスタッフブログ

日本大学文理学部 地球システム科学科 のブログアーカイブ

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アンデスの旅 その5

 さてラーセン教授のことである.ラーセン教授はもう初老に入った年齢であるが,独身で家族はいないという.ラーセン教授に好きな国はどこかと尋ねたことがある.彼はイタリアだと答えた.チリーでもなく故郷のパレスチナでもない,イタリアなのだと.どうしてかと尋ねても,彼は黙して語らなかった.彼はまた,日本のフジジャマが好きだともいった.初めフジジャマの意味がわからず問い返した.Fujiyamaのことだった.スペイン語ではヤマとはいわずジャマと発音するのだ.

 イキーケの町の裏通りの小さなレストランで食事をしていたとき,窓の外から貧しそうな風体の子供がラーセン教授に向かって物乞いをした.こうした風景はメキシコを含め,ラテンアメリカでは普通にみられる光景である.ラテンアメリカでは,持つ者が,持たざる者へ施すのは,当たり前のことと考えられているのだ.ラーセン教授は子供を招き入れ,いやな表情を少しも見せずに優しい笑みをたたえながら紙幣を分け与えた.その時のラーセン教授の目は,本当に優しかった.ラーセン教授は優しい人なのだ.

 運転手のことである.運転手は日焼けしたがっちりとした体格の中年男だったが,いつも鼻歌をかかさない陽気なナイスガイだった.彼は,発音するときにsを省くくせがあった.「こんにちは」を意味するブエノスディアスを,彼はブエノディアと発音した.また,「ありがとう」の言葉であるグラシアスをグラシアと発音した.このことが,なぜか今も耳に残っている.

つづく(高橋正樹)



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