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最近チベットでの暴動がニュースでしきりと報道されている.チベット高原(西蔵高原)はインド大陸がユーラシア大陸に衝突することで隆起した,現在の地球上最高最大の高原である.わたしが海外学術調査でチベット高原の花崗岩の野外調査のために一ヶ月あまりチベット高原に滞在したのは1988年のことだから,早いものですでに20年もの歳月が過ぎてしまった.チベットは過酷な自然環境の場所である.わたしは標高6000メートルまで経験したが,最初は高山病に悩まされた.チベットの首都ラサは,標高が富士山の山頂とほぼ同じである.夏でも夕立があると,それはたちまち冷たいみぞれに変わり,山々の山頂はうっすらと雪化粧となる.こんな場所でもチベットの人々は生活をしているのだ.わたしたちが現地でチャーターした四輪駆動車の運転手はチベット人だったが,一緒に調査に参加した中国人(漢人)のメンバーが車に乗らないときは,運転席にダライラマの写真を貼り,中国人が乗ったときにはそれをはずしていたのをよく覚えている.当時から,両者の関係はきわめて微妙であった. この調査隊の隊長は名古屋大学の諏訪兼位先生だった.当時,現在のわたしと同じくらい年齢であったと思う.ちなみに諏訪先生は,現在でも矍鑠としてご活躍中である.諏訪先生は当時から歌人としても有名であり,朝日歌壇などに投稿しては,たびたび入選しておられた. この諏訪先生が,最近岩波科学ライブラリーに「科学を短歌によむ」と題する本を書かれた.その中で,わたしがチベット調査のときに諏訪先生に導かれて読んだ短歌が2首引用されている. 輝ける星降る如き西蔵の天の近きに驚きにけり 幾たびかやまなみを越え今日もまた蒼天に続く西蔵路をゆく この短歌は,正真正銘チベット調査中に夜の宿舎で頭をひねって作ったものである.それはよいのだが,この本に引用されたために,わたしが歌人であるかの如く誤解した人が出てきて少々困惑している.もとより,わたしは諏訪先生のような本物ではない.実は,上記の短歌以外にも,チベットの人々に感動していくつか短歌の習作を作ったのだが,今回のチベットの暴動事件を聞いて,当時の貧しくも純粋で信心深いチベットの人々のことを思い出して,本当に心を傷めている.決して上手とはいえないけれど,これを機会に,そのいくつかを紹介しておこう.五体投地とはチベットの巡礼たちの祈り方で,路上に全身を投げ出すことを繰り返して進んでいくとてつもなく大変なものである.わたしたちにはとても真似できないが,チベットの人々の仏教への帰依と信心の深さを表している. 垢にまみれ手を差し伸べる子供らのつぶらなる瞳にわれ立ち惑う 澄み渡る瞳は何を祈るらし五体投地の西蔵の民 天幕よりひとり出で来る老人の柔和なる微笑に風雪思う ポタラ宮幾百段を上り来て微笑返す御仏にあう 火山・岩石学研究室 高橋正樹
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2008年03月28日
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卒業式も無事終わって,大学は今春期休業真っ只中です.このような長期の休業期間,大学の教員は一体何をしているのでしょうか・・・?もしかすると多くの皆さんが疑問にもたれる所かも知れません. この期間の使い方は教員それぞれですが,主に各教員が行っている“研究”や新年度の授業準備といった“学内業務”などに充てるというのが実状だと思います.現在,私は自分の“研究”において重要な位置を占める“分析”を行っています.一枚目の写真のようなガラス真空ラインというガラスの管を使って,炭酸塩の試料から二酸化炭素ガスを精製しているのです. 分析を行っている炭酸塩試料は沖縄県の宮古島で採取したものです.宮古島というと二枚目の写真にあるような美ら海と白い砂浜を想像される方も多いでしょう.このビーチは宮古島の観光スポットとして知られ,観光パンフレットなどにも写真がよく掲載されています.このビーチの左側にはアーチ型の白っぽい岩が見えますね.この岩は石灰岩という主に炭酸塩からなる岩石で,宮古島はこの石灰岩でできている島なのです. さらにもう一枚宮古島の写真をお見せします.この写真の手前の休耕地には先ほど説明した白色の石灰岩の礫が,その奥には宮古島で広域的に栽培されているサトウキビが,そのまた奥には森林がそれぞれ写っているのですけれど,分かりますか? 少し話がそれましたが,現在分析を行っている炭酸塩試料は,宮古島で採取した石灰岩とともに,サトウキビ畑と森林域の土壌有機物,地下水といった様々な形態のものから抽出したものなのです.これら炭酸塩試料から二酸化炭素ガスを精製した後には,質量分析装置という分析機械にかけて炭素の「重さ」*を測定します.この「重さ」のことを同位体組成といいます.野外において地下水中に含まれる炭素(溶存無機炭素)は,主に石灰岩の溶解と土壌有機物の分解にともなって供給されます.サトウキビ由来および森林由来の有機物,石灰岩はそれぞれ異なる炭素の同位体組成を持ちますので,これを指標とすることで地下水の溶存無機炭素がこれら三つの起源物質からそれぞれどれ位もたらされているのかを定量的に見積もることができるのです.ちょっと難しかったですかね・・・. えっ?その分析っておもしろいのかって?う〜ん.単調な作業ですから決しておもしろいものではないというのが正直なところですね.でも,この分析を通して得られた数値データをもとに,野外ではどの様なことが起きているのだろう?と色々考えを思い巡らせるときはとても楽しく,またデータ値を上手く説明できるような結論に辿り着いたときは本当に嬉しいものです.この研究で一番“美味しい”ところを味わうべく,また未だ知られていない野外で起きている現象(真実)を知るべく,現在コツコツと分析を行っているわけです. 大学教員が行っている“研究”というものについて,少しはおわかり頂けたでしょうか? *厳密には正しい表現ではないのですが,分かりやすく表現するために「重さ」という言葉を用いました.正確に説明すると少々難しいので,ここでは割愛します. 山中勝
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