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内陸や盆地などでは寒い冬になると接地逆転という現象が見られる。これは雲のない夜間などに放射冷却により地表面が冷やされ,地上付近の温度が上空の温度よりも低くなる現象である。通常の大気では上空に行くに従って温度は下がるので,このように逆の関係になる層を接地逆転層と呼ぶ。逆転層の中では大気は安定な(静的安定度が大きい)ため,上層へ拡散しにくく,大気汚染の被害が出やすい。例えば地上付近で燃焼した空気(煙)は周辺に比べて温度が高いため浮力が生じ上昇するが,上空に行くに従って断熱膨張や周囲の空気の取り込みのために温度が下がり,ある高度で周囲の空気(すなわち上空に行くに従って温度が上がる空気)との温度差がなくなった時,それ以上は上昇できずに水平に拡がる。つまり下層からの汚染物質を上空に輸送しない見えない蓋の役割をする。このような逆転層があると,地表付近から運ばれた汚染物質はその逆転層の中に閉じ込められることになる。 写真は,1990年代のはじめにサン・フランシスコに住んでいた時,ロス・アンジェルスへ向かう途中にフレスノという街の近郊で撮影したものである。12月25日の寒い朝であった。畑で何かを燃やした煙が上空にたなびいたあと,見えない蓋に抑えられて横にたなびいているのがわかる。この写真はフィルムからデジタル画像としているのでわかりづらいかもしれないが,良く見ると煙が見えない蓋にぶつかったところでは,ほかに比べてやや盛り上がっていることがわかる。このような拡散形態は数値モデルや水槽実験により再現され,通称トップハットモデルと呼ばれている(昔の日本人はシルクハットという言葉を使ったようだが,正式にはトップハットが正しいとのこと)。実はトップハットモデルは私が研究所勤めをしていた時に先輩の研究者が手掛けたものである。その研究中に内容を知り,この写真を紹介したところ,まさにそのモデルの証拠として用いられ,共同研究をしていた某大手メーカーの実験施設にも当時,パネルとなって掲示された。その後,拡散研究の大家である横山長之先生の書物にもこの写真を提供している。興味がある方は参考にされたい(横山長之(1997):煙−大気中における振る舞と姿.白亜書房,150p)。 後日談ではあるが,この写真は実は偶然とられたものである。この日はクリスマス休暇を利用して車でサン・フランシスコからディズニーランドを目指していた。さすがにキリスト教の国だけあってクリスマスの日は驚くほどほとんどの店が閉まっていた。高速道路を降り,開いているファストフード店をさがして道を間違い,再度高速の乗り口をさがして畑の中の道を走っていたところであった。かみさんが車窓からこの光景を見つけ,研究に関係するんじゃないの?と聞いたのがきっかけだった。正直,この手の現象は過去に何度か見てきたつもりだったので,二つ返事で答えたが,何となくそれでは写真をとっておこうかということで車を止めた。この写真が後日,様々なところで使われようとは,その時は知る由もなかったが。やはり出会ったら記録に残しておくという姿勢は研究者にとって重要であると言うことかもしれない。 加藤央之 |
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