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ここで行う議論は、
<<<ごく微量のカリウムチャネルがオープンの形に壊れたときに、影響が出うる可能性を定量的に検討する議論>>> です。QT延長症候群と言うものに関して、議論してみたいと思います。 ちょっと、専門的になりすぎるかもしれないのですが、まず、第一のポイントは、分子の壊れ方を2通りに分けて考える。 ひとつはloss-of-function (ここではチャネルがclosedの形に壊れる)。 もう一つはgain-of-function (ここではチャネルがopenの形に壊れる)です。 ちょっと乱暴な言い方になって、正確ではありませんが、この場合、と限定して論じさせていただければ、 前者はrecessiveな異常分子として捉えることができ、細胞機能にも影響はほとんど出さないまま、turnoverされて、それでおしまい。 後者は、定量計算にもよりますが、dominantな異常分子として働きうる可能性を持っていて、場合によっては、数万個のうち、たった一つでも、 細胞の機能に影響を与える可能性すら否定はできない という感じの流れになっています。 <注:dominantな異常、recessiveな異常に関する補足> ポイントは、世の中の医学者に支配的な考えというのは、 「ごく微量の分子が壊れても、5万とある他の分子が機能をカバーしてくれて細胞の機能に影響など出るわけが無い」 「心臓にkg当り10の11乗個もある細胞のうち、ごくわずかが機能異常になったからと言って、心臓の機能に異常が出るはずが無い」 この2つの、固定観念のために、Bandazhevskyのデータを信じられない、と、検討する前から、可能性を排除してしまっているのが実情だと思います。 ですが、きちんと定量的に考えれば、可能性は十分にありうる、という結論に達します。 この議論では、上記のオープンvsクローズの議論以外に、ちょっと乱暴な言い方をしますと、「心臓は直列処理をしている臓器で」、「並列処理をしている肝臓などとは影響の出方が違う」 というのが、もう一つのポイントです。 まずは、心臓の伝道路と、心電図の成り立ちについての基本事項です。 (他サイトからの転用です) ここでは、QT時間についてのみ、議論します(本当は、丁寧に考察していけば、QRS波形にも影響がでる可能性も考えられるのですが、このウェブサイトでは無視します。<注:補足説明1>) 上記の心電図の、QRS波のはじめから、T波の終わりまでを、「QT時間」と呼びます。これが延長しちゃうと、まずいことになってしまうのですが、なぜまずいか、という詳しいことは後回しにして、まず、 QT時間が何できまるか? 上図にあるように、洞房結節(SA node)、心房(Atrial Muscle)、房室結節(田原結節、AV node)、ヒス束-プルキンエ線維(図中には描いていません)を出た後、心筋細胞に興奮、脱興奮が伝わり、心室細胞から心室細胞に、細胞間のギャップジャンクションという部分を伝わって、電位の変化の信号が伝達していきます。(本当は、脱興奮にかんする伝わり方は別の見方もありますが、信号が細胞から細胞に伝達するのが重要、という見方は同じと考えることができます)。 つまり、上図の、青い波形の、なだらかな右肩下がりの部分が、延長するかどうかで、QT時間が延長するかどうかが決まります。 この部分を詳しく見ましょう。下図のphaseの2-3の部分の議論です。 (他サイトからの転用です)
この部分で、大事な、「心筋再分極時の外向きK電流」というのがあり、IKsとかIKrとか呼ばれています。 知っている人にはわざわざ説明する必要もないことなのですが、下の図のように、心筋細胞が静止時には、細胞内Kイオン過剰、細胞外Naイオン過剰となっています(これら2つのイオン以外に、細胞内には陰イオン過剰となっているので、細胞膜電位はマイナスです=分極状態)。心筋興奮時には、まず、Naチャネルが開いて、Naイオンが流れ込むために、細胞内が陽イオン過剰となり、細胞膜電位はプラスに転じます(脱分極=興奮している状態)。 で、心筋細胞が、もういいやって思って、興奮を鎮めるときは、今の逆をやってNaを汲み出すのではなく、今度はKイオンを外に出すことによって、陽イオン過剰状態を是正します。ちょっと考えていただければ分かるんですが、その方が楽なんですよ。 (狂ってしまったNaとKの濃度勾配にかんしては、あとでゆっくりと、その他のチャネルや、ポンプといわれる別種の分子をつかって、もとの状態に戻していきます)。 つまり、再分極には、外向きK電流(IKs, IKr)が大事。 厳密に定量化するには、まだまだ我々は最先端の知見でもデータをそろえきれないのですが、この心筋再分極時の外向きK電流に関して議論してみます。IKs, IKrのうち、どっちかに絞った方が 話がはやいんで、IKsについて。繰り返しますが、再分極時の外向きK電流でQT時間が決まる。 IKsやIKrが小さくなれば、流れうる電流が小さくなりますから、同じ再分極電位に達するのに時間が掛かる。つまり、QT時間が延長する。 いきなり、端折って、式を出します。 総電流 IKs = N x p x i (ただし、ここで、Nは総チャネル数。pは開確率、iは単一チャネル電流) セシウム内部被曝で、この、外向きK電流IKsが、有意に小さくなることがあるかどうかを、以下に延々と議論して行きます。 もう一度繰り返しますが、IKsが小さくなれば、QT時間は延長するからです。 とりあえず、この場合、チャネルとしては、KvLQT1 (KCNQ1)を考えておききましょう。 総数Nに関しては、今はとりあえず数万(ここでは5万)という数字を受け入れておくことにしましょう。 iは数pS。簡単に試算するために、単位を省いて、i=1としておく。 言ってみれば、会社員が5万人いて、そのうちのごく一部の社員しか真面目に働いていなくて、 しかも働いている会社員も、適当にサボっている状況で、一人の社員が欠勤しても、気付かれる ことすらない。
コールドのセシウムによる化学毒性、というか、生理学実験で普通に用いられるチャネルブロックの手法は、こちら側になる。影響を出すためには、超超大量に投与しなければならない。 実際、coldなCsをラットに投与してQT延長させる実験の論文があるんですが(上の方に書いた Gueguenの論文とは別の論文です)、モル計算で、Bandazhevskyのデータの10の9乗くらいの 超高濃度を入れてやら無いと影響がでない。まあ、ここに書いたとおりです。 もう一度、まとめ、書き直しておきますが、KvLQTによる外向きK電流の寄与は IKs = N1 x p1 x i1 ......①
です。
但し、ただし、N1, p1, i1はKvLQT1の総チャネル数、開確率、単一チャネルコンダクタンスです。 ここで、N1=50000, p1<<1, i1=1。 つまり、細胞1個あたりに、チャネルは5万とあり、開確率はとても小さく(チンタラチンタラと働くチャネルであるということ)、単一チャネルコンダクタンスも取り立てて大きなものではない(これは、簡便のために、無単位数の1とおきました)。
さて、別のカリウムチャネルに注目してみましょう。 一方、上記の外向きK電流に関するチャネル以外にも、心筋細胞には、内向きKチャネルがある。とりあえず、大まかにKir系。 この内向きKir系のチャネルは、KvLQT1に比べ、単一チャネルコンダクタンスが10倍くらい良い。つまり、上記のiが10倍。
ホットなCs分子(放射性セシウム、Cs134/137)が、仮に、このチャネルを、openの状態に壊すことができたら、これはgain-of-function の状態で壊している、ということ。 今、仮に、ホットなCsで、ある1つの細胞で、1個だけ Kirをオープンの形で壊すことができたとしましょう。 つまり、Kirが、生来、心筋細胞の脱分極・再分極のどのフェーズでどんなはたらきをしていて、 チャネル特性がどうで、pがもともとどうだったかなんて、全然関係ない。 外向きに拮抗する、内向きチャネルを1個だけ、p=1に固定できる、ということ。 (注:その他のKir分子は、このフェーズでは、外向きK電流の邪魔をしないように、クローズ(closed)になっています。つまり、この1個のKir分子以外の49999個に関しては、p=0です)。 この場合のKirによるK電流は、N2 x p2 x i2 ......②
ただし、N2=1, p2=1(オープン固定された1個のチャネルは完全にオープンに固定されており(p2=1)、それ以外は全てphase2では閉じているから)、i2=10(コンダクタンスの良いチャネルであるということ)
たった一個のオープン固定されたKirチャネルが、KvLQT1のチャネル集団に、どれほどの影響を与えうるかを比較するため、①と②の大小をざっと比較してみます。 N1 x p1 x i1 - N2 x p2 x i2
但し、ここで、上に説明したとおり、N1=50,000, p1<<1, i1=1で、N2=1, p2=1, i2=10 です。
<<ここのKirの議論は、誤解を受けやすいので、補足説明2をしておきました:リンクに飛んでください>>ざっとした概算ですが、もしも、p1の時間平均チャネル平均の確率が、p1<0.002以下であれば、IKsは顕著に(1割程度)変化することになり、 QT時間は延長することになる。 これが、仮定として、hotなCsがdominantな形に(オープンの状態に)Kチャネル(特にKir系)を壊すことがあれば、 ごくわずかなCs内部被曝で、QT延長につながるかもしれない、というひとつの可能性。 話を簡単にするために、とりあえず1細胞に1個チャネルを壊して、影響がでるかどうかを論じるために、
N2=1とおきました。実際には、セシウムの内部被曝量から計算されるモル数、分子個数、崩壊スピード、タンパク代謝速度との平衡、そして、心筋1kgに含まれる細胞数を計算すると、N2<<1の場合を想定しないといけないのは分かっているが、それは、後ほど述べることにします。 <注:補足説明1>QT延長以外に、QRS異常(脚ブロック様変化)、再分極の不均衡のもう少し詳しいメカニズムからST部分の異常、J波出現などの可能性も想定に入れています。胸部不快感や心電図異常などから心筋梗塞を疑わせるのに、逸脱酵素上昇の見られない不可解な症例では、鑑別診断のひとつとして、セシウム心筋症を選択肢に入れ、そういう症例では今後、内部被曝実測をしていく必要があるのではないかと思います。 <補足2>KvLQT1への影響は次頁。 (4/10/2016):説明を端折りすぎていた箇所がありましたので、少し修正させていただきました。 <<次の議論は開確率を再び検討し、定量的な考察をします>> <<最初に戻る>> |
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2013年01月20日
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<Kチャネルに「堅く嵌まり込んだ」状態で、Cs134/137が崩壊を起こしたら、どうなるか>
Csが、Kチャネル内でβ崩壊を起こしたときのことを議論してみたいと思います。 が、ちょっと疲れてきたので、映画の話でもしましょう。 「アルマゲドン」って映画を、見たことある人はいるでしょうか?小惑星が地球に衝突するのを回避しようと、アメリカのヒーローたちが頑張っちゃう映画です。 (他サイトからの転用です)
ヒーローたちが、小惑星を破壊するとき、表面ではなく、地中に穴を掘って爆弾を炸裂させたわけですが、 あのときの議論にも出てくるんですが、爆竹を手のひらの上で爆発させても、かすり傷一つ負わない。 でも、こぶしを堅く握り締めて、その中で爆竹を爆発させると、手が重症を負ってしまう、ということ。 (他サイトからの転用です)
わざわざ、石油掘削人をかき集めて、スペースシャトルを飛ばして、危険な小惑星に降り立って、地面に穴を掘ったのは、実は、そういうことだったんです。奥が深いですね。さて、セシウムとカリウムチャネルの話に戻りましょう。 Csイオンは、Kチャネルの内部(注)に、堅くはまり込んで、長時間居座っているんでしたよね? 火薬の爆発と、原子核崩壊を同列に扱うことは、一種のミスリードだと思うけれど、上記のメスバウアー効果のことを思い起こしてくれれば、 「堅く足場に固定されたとき」の、原子核崩壊が、古典的なの原子核物理の理論の延長線上には留まらない、興味深い挙動につながるということくらいは、予想できるでしょう。 話は変わりますが、オワンクラゲのGFPの話をして見ましょう。 下村脩先生が、GFP(緑色蛍光タンパク)を見つけたとき、イクオリンとGFPがFRET(フェルスター型蛍光エネルギー転移)を起こすんじゃないかと睨んで、混ぜてみたんだけど、 最初の実験では、ウンともスンともいわなかった。 でも彼はそこで、すこし深く洞察し、エネルギー伝達の足場として、 DEAE-dextranか何かを加えたんだよね。すると、ものの見事に、FRETが起こった。 あれなんかも見方を変えれば、足場固定がエネルギー伝達での非線形性の創出に大事だ、といういい例とも見ることができる。 (他サイトからの転用に手を加え作成しました)
実は、γ線の話のメスバウアー効果と、この、蛍光のエネルギーの伝達って、面白い関係にあって、メスバウアー自身も、メスバウアー効果の発見の実験の際には、蛍光のメカニズムを、よく、引き合いに出していたそうです。前者は、原子核の共鳴現象、後者は、電子雲の共鳴現象、と考えれば、その類似性に、先達も気が付いていたのですね。 さて、CsとKチャネルの話に戻りましょう。言うまでも無く、
Cs137-->Ba137m + e- + ν- Ba137m-->Ba137+γ ですよね。 普通の学者は、e-やγのことだけを論じます。教科書に書いてあるとおりです。 でも、私なんかは、残されたBaの状態を見てあげたいなあ、と思うわけです。 e-の放出時の反跳で運動エネルギー(熱振動)も獲得してるし、γ線も放出する(メスバウアーを思い出して)。 現段階では可能性だけの議論ですが、 1.Cs+ --> Ba++ に変わったとき、本来の水和水の配置とその結合の強さが当然かわるだろうから、その変化が、「ガチガチにはまり込んだKチャネルの開閉部」への化学反応の触媒的役割になっていないか、という可能性。 2.メスバウアー効果のたとえが正確かどうかは分かりませんが、β崩壊直後にγ崩壊も起こすので、「共鳴」とまでは行かずとも、K-channelの特定部位にエネルギーを効率よく(フリーの空間での作用に比べて)行っている可能性。 3.足場固定された固体中でのβ崩壊に関しても、メスバウアー効果に似たような、効率よいエネルギー伝達の可能性はあるんじゃないか。 等々。 という風に、元素の挙動の違い、というか、生命体分子(この場合はKチャネル)から 見たときの、K40とCs134/137の「見え方の違い」というのを考えると、
冒頭に書いたように、 K40は、一切障害なし。内部被曝にカウントする必要すらない、(少なくともKチャネルに対する影響は)。 Cs134/137はKチャネルに与える影響あり。 という意見も、一つの可能性としては、考えておかねばならない、と思うわけです。 Kチャネルの開閉部がガチガチに開かれ、デカイCsイオンに嵌まり込まれ、グリグリと押し広げられたような状態で、崩壊が起こり、何らかの結果として化学反応が促進する。 やはり、崩壊時のイベントの結果、チャネルがopenな状態に固定されるようなモデルは、想定してもいいんじゃないかなあ。 どんな化学反応になるのか、、、さすがに、化学に詳しくないんで、ちょっと予想が付かないけれど。 不安定なCs/Baが触媒みたいに働いて、分子内の可動部のヒンジみたいなところでアミノ酸残基のフリーの側鎖どうしで反応が起こるとかでしょうかね。(その後、少し考察を進め、どの位置で反応が起こりそうか、起こった際の影響を具体的に詰めています。全体的な理論を定量的にサポートする反応は起こりそうだというのが現時点での個人的感想です) (他サイトからの転用に手を加え作成しました)
以上をまとめると、ごく微量のセシウム内部被曝で、ごく微量の、ある種のカリウムチャネルが、オープンの形で壊れる、というモデルを可能性としては想定しておくべき、というのが結論です。 次に議論するのは、では、いったい、その極微量のカリウムチャネルの異常で、心臓の伝道系に問題を来たしうるのか?というのが、テーマです。 <<次に進む>> <<最初に戻る>> (11月/2015:注) その後、考察の練度とともに、若干の修正を加えました
(4/15/2016:注) Kチャネルの、どこにはまり込みやすいか、どのような変化が実際に起こると考えられるのかに関しては、現在記事を執筆中です。 |
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さて、基本事項をある程度確認した段階で、放射性カリウム(K40)と、放射性セシウム(Cs134/137)の違いについて、話を戻してみましょう。
説明したいテーマは、K40=無害、Cs134/137=有害、というインパクトの差が生じ得る可能性に関する議論です。 <<K40がβ崩壊を起こす際のことを考えてみる>> 言うまでも無く、K40のβ崩壊は K40-->Ca40 + e- + ν- まずは、細胞質内で起こったら、という思考実験。 前のページに述べたように、自由水に緩く囲まれた、この「緩い」状態では、おそらく、崩壊時に「反跳」でエネルギーを獲得しても熱エネルギーとして消費し、あまり効率よく他分子に影響を与えることもなく、効率的に水分子を電離することもないだろうが、 たとえ、低い確率で水分子を電離してラジカル生成しても、細胞内にはSODという無毒化酵素がたんまりあるので、 すぐに無毒化されるはず。たぶん、生体内にあるK40の量程度では、まったく細胞はダメージを受けない。 一方、Kチャネル通過時に崩壊が起こったときの思考実験。 いってみれば、自由水分子に囲まれているのと同じような「ゆるい」状態のK40イオンが、イオンチャネル通過時に 崩壊を起こしても、やはり、反跳にエネルギーを消費して、K40原子がCa40に変化したところで、K-channelに与える影響はごく少ないだろう、と予想できる。 あ、そうそう、ちょっと違和感を覚えられる議論だと思うので、説明を補足しておきます。
もう一度確認しますが、K40のβ崩壊は K40-->Ca40 + e- + ν- ですね。 生成するe-や ν- の方ばっかり見ると、これがどこに飛んで行こうが、飛んでいく先の相手分子・原子に与える影響なんて、 一旦e-やγが生成した時点で、どの核種も(K40もCs134/137も)同じだろとなりますよね。 (これが、従来の考え方です) でも、こここでは、残されたK40(Ca40)のことに関して、注目しながら、議論をしていってみたいとおもいます。 Csの例を挙げるときに、もうすこし詳しく議論してみます。 話を、Csに切り替えましょう。 <<KチャネルはCsイオンに対して、全く別の認識をする>>
語弊はありますが、Csって、食物連鎖的には、ほぼ無視していい元素です。言ってみれば、希少元素なんです。 だから、哺乳類にはCsチャネルというのは存在しない。神様が設計する必要を感じなかったからです。 じゃあ、生命体細胞はCsイオンを取り込まない、となってくれりゃ、原発事故の心配事も少なくてすむんですが、残念ながら、(乱暴な言い方をすると)Kイオンと誤認識されて、細胞内に取り込まれてしまうんですね。 この時に、Kチャネル(など)が関与する、と考えられています。(実際には取り込みは、「ポンプ」と呼ばれるの分子が主因と考えられていますが) ところで、KイオンとCsイオンがKチャネルを通過するときに、決定的に異なる、あるひとつのパラメータがあります。 通過時間です。 (注1:下記補足説明) 上に書いたように、Kイオンは、ほぼ時間ゼロでKチャネルを通過するが、Csイオンは、通過時間がめちゃめちゃ長いんです(ref)。Kチャネルの中でもKirと呼ばれる一部のグループに関しては、実際に嵌り込んでロッジします。(注2) ちなみに、Csイオンがロッジする生命体分子は、Kチャネル系分子だけだ、と考えられています。 少し、詳しく補足してみましょう。 細胞質内にフリーで浮いているときのCsイオンが自由水和水に囲まれているのはKイオンと同じです。
前に書いたように、Kイオンにしても何にしても、チャネルをくぐろうとするとき、この自由水和水を「脱ぎ捨てて」、 替わりにチャネル構成アミノ酸残基側鎖のチャージを「身に纏う」ことになっています。 だから、フリーのイオンの状態での水和水の配列と、イオンチャネルのアミノ酸のチャージの配列が、完璧にマッチしていないとマズイ、というのは説明しましたね。 (Naイオンが、サイズが小さいにも関わらず、絶対にKチャネルをくぐれない理由です) さて、Csイオンの問題は、K-channelの開閉部をくぐろうとしたとき、その水和水の空間配列のピッチが、Kイオンのそれとは、 かなり異なるわけで、だから、特にKirチャネルと言われるグループのKチャネルには、「嵌まり込ん」で、堅くロッジしてしまう。 (注2) CsイオンはKチャネルに、長時間、「堅く嵌り込んで」そこに居座り続けることになる。 次に考えるべきこテーマは、もうお分かりとおもいますが、 <Kチャネルに「堅く嵌まり込んだ」状態で、Cs134/137が崩壊を起こしたら、どうなるか> (注1:4/15/16補足) 当初の記事では、『Kチャネル一般に関してすら、KイオンとCsの挙動は異なるのだ、出てくる放射線だけでなく、放射性物質の「物性」を考えることが肝要なのだ』、ということを強調するために、(なるべく正確な表現を期すあまり)、Kチャネル一般に関して、「通過時間が異なる」という表現をしました。ここには語弊があります。この段、また、全体を通しての解説上、当初より、議題のKチャネル、強調すべきKチャネルは、Kチャネルの中でも、Kirチャネルと言われるグループのチャネルです。これは、このブログを書き記すずっと前2011年震災後に、当理論の端緒を考え付いた時から不変です。このサブグループのチャネル(Kir)の多くに関しては、Csイオンは、通過時間が長くなるどころか、内部に嵌まり込んで、硬い結合をします。当初より、当理論で扱っているのは、この、結合状態で起こるCsの崩壊が重要という理論です。実は、この記事の次の次の記事(「単一チャネル考察」)まで、ネタを引っ張りたいがため、この記事と、この次の記事においては、当初わざと、「Kirというサブグループこそが核心」というネタバレを避けようと、Kチャネル一般にあたかも言及するかのような曖昧な記述に、意図的に、終始しておりました。訪問者の方々が、記事を順番に読み進めていってくださるだろうと思った上での話の運び方を考えてのことでした。最後まで読んでいただけると、当初の記事でも、誤解無くKirが重要ということは伝わると思うのですが、この記事だけを拾い読みされるであろう、一部の方には、このあたりのニュアンスが捻じ曲がって伝わってしまっていたかもしれません。改めて、Kirに嵌まり込むことが焦点なのだ、ということをこの記事でも補足いたしました。)
(注2:4/15/16補足)上記の通り、当初より、間違った表現というわけではありませんでしたが、誤解を避けるため、より正確な記述に修正しました。
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同じ同族アルカリ金属元素のNaも、Kも、Csもデジタルな認識わけをできる、というのが、生命体の基本です。まずは、これを解説します。
元素表を見てましょう。 (他サイトからの転用に手を加えました)
一番左にあるNaやKやCsは、「アルカリ金属元素」とよばれ、化学的性質や、物理学的性質が非常に似ています。 多くの化学反応においては、NaやKといった、同族元素はほぼ100パーセント置換可能な反応が多いのにもかかわらず、 「進化」の過程で、生命体の中の分子というのは、同族元素の認識わけができるようになった。これが、生物を理解するときに、化学や物理だけの知識では足りない、ひとつの所以です。 つぎに、なぜ、とりたてて、こんなことを解説しているのか? それは、生命体の細胞にとって、NaやKというのは、とても大事な働きをしているからです。 生物の細胞は、細胞膜という脂質の膜で囲まれていて、ちょっと乱暴な言い方をしますが、電荷を帯びたイオンは、通常この膜を通過することはできない。 それでは面白くないんで、神様は、イオンチャネルという分子を設計してくださって、NaイオンやKイオンが、選択的に、細胞内外に、膜を超えて、行き来できるようになりました。(神様なんて言葉をつかっていますが、進化の過程で、そういう生命体分子を獲得した、ということです) イオンチャネルというのは、特定のイオン(NaチャネルならNaイオン、KチャネルならKイオン、など)を、選択的に、細胞膜内外に通すことのできる通路のようなものです(下の図)。目的に応じて、自由自在にこの通路を開いたり閉じたりすることで、いろんな重要な機能を果たしています。 (他サイトからの転用に手を加えました)
そのおかげで、細胞内外のイオン濃度勾配というものを創出できるようになりました。 言ってみれば、生命体の細胞が電池として機能することができるようになり、言ってみりゃ、電池の充電、放電を繰り返して、細胞は機能しているわけです。 で、その電池にの充放電に関わる、ひとつの分子について、説明&確認しておきたいと思います。 Kイオンを選択的に通す、Kチャネルというものに関してです。断面図を描くと、次のとおり。真ん中のチャネルを通って、Kイオンが細胞内外に行ったりきたりします。いろんな種類のKチャネルがあります。 (他サイトからの転用です)
まず、第一の重要事項。Kチャネルの面白い性質にかんして。 <<<KイオンがK-channelを通過するときは、抵抗ゼロ、時間ゼロで通過し、フリーの水分子に囲まれているときと挙動が変わらない>>>
K-channelの3次元構造解析で2003年にRod MacKinnonがノーベル化学賞をとってるんですが、 なぜ、彼の仕事があそこまで評価されているか、というと、 前にも書いたように、NaイオンとKイオン、これは(CsとKの類似と同じように)同族アルカリイオン金属で、 物理的にも化学的にも、ほぼ100パーセント置換可能な反応が多い、ごく似通った元素であるにもかかわらず、 生命体のK-channelは、絶対にNaイオンを通さない。Naイオンのほうが、サイズが小さいにも関わらず、です。 これを、K-channelの「高い選択性」と言います。 一方、Kイオンは、フリーなポアと同じようにこのチャネルを素通りできる。抵抗ゼロ、時間ゼロで通過します。 これを「高い通過性」と言います。 この、どう考えても、矛盾してしまう「高い選択性」と「高い通貨性」をいう設計要求を、如何に生命が達成することができたのか、 その難問に答えたのが、MacKinnonの仕事です。 もう少し、詳しく書いてみることにします。 生体内のKイオンは、細胞内にあるとき、ほとんどの時間、8個の水分子に囲まれて過ごしています。 その水分子も、ゆるーい、「水素結合」で、Kイオンを囲んでいるだけ。 (他サイトからの転用に手を加えました)
一方、KイオンがK-channelを通過するときの挙動に関して。 Kイオンは、抵抗ゼロ、時間ゼロで通過していく。なぜか? K-channelの開閉部、イオン選択部にある アミノ酸の3次元構造上でのチャージが、8個の自由水分子にKイオンが囲まれていたときと全く同じ配列だから。 Kイオンにしても、何にしても、イオンチャネルを通過する際に、それまでまとっていた、自由水分子を「脱ぎ捨てて」、イオンチャネルの構成アミノ酸残基側鎖のチャージを「身にまとう」ことになっています。 だから、この、イオンチャネルの構成アミノ酸のチャージのピッチが、完璧に、自由水分子のピッチと一致していないとまずいわけです。 (他サイトからの転用です)
では、よりサイズの小さい、Naイオンは、このKチャネルをくぐれるのだろうか? Naイオンの自由水分子の配列を比較してみましょう。先ほどと同じように、上から見た図です。 (他サイトからの転用です)
ごらんのように、ピッチが違います。これが、Naイオンが、サイズが小さいにも関わらず、Kチャネルを絶対にくぐることの出来ない理由です。 実際に、無理にNaイオンとKチャネルを混ぜて、その3次元構造をしらべると、イオンチャネルが「虚脱」して潰れてしまうという結果が分かっています。 まあ、この辺は、英語に自信のあるかたは、実際のMacKinnon先生のレクチャーを視聴してみてください。生命体分子の面白さに、感動すること請け合いです。 http://www.nobelprize.org/mediaplayer/index.php?id=550 では、問題のセシウムはどうでしょうか。 もう、予想のついている方も多いとは思いますが、それは、後ほど述べます。 <<次は、Kチャネルから見たときの、KイオンとCsイオンの決定的な違いについて>> <<最初に戻る>> |
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一般論として、非放射性であろうが、放射性であろうが、セシウムという元素(Cs)が、生体内で、カリウムチャネル、という生命体分子にくっつき、影響を及ぼすのは、我々基礎医学者にとってみれば、常識中の常識で、日常的に、医学実験で頻繁に使う手法です。私自身も、原発事故前から、よく細胞に、セシウムを振り掛けていました。ただし、私などが日常的に使用していたのは、「非放射性の」セシウムで、放射能をもっていないセシウムです(これをコールドのセシウムと言います)。一方、放射性のセシウム(Cs/134/137)のことを、ホットのセシウム、などと呼びます。
前置きが長くなりましたが、従って、原発事故後の放射能汚染でセシウムのことがニュースになった瞬間に、おそらく、多くの医学者が、カリウムチャネルのことに思いが至った事と思います。 「放射能」と聞けば、多くの学者は、すぐにDNAの障害、と考えを馳せ、それはとても大事な考え方なのですが、生化学的には、放射線でDNA以外の生体分子がradiolysis(放射線による分子切断)を起こすのは、よく知られた実験事実なので、ここでは、タンパクである、カリウムチャネルにかんして、議論して見ましょう。 前置きに書いたとおり、カリウムチャネルが、何らかの形で影響をうけたら、どういう影響がでるのか?と、放射性セシウムと聞いた瞬間に、懸念するのは、自然な成り行きで、多くの学者が、カリウムチャネルの異常で起こる人間の病気、というものに思いを馳せたに違いありません。面白いことに、各種のカリウムチャネルの遺伝子変異や異常で、「QT延長症候群」という、ある大事な心電図異常がおこることが分かっており、逆に、QT延長症候群の多くは、カリウムチャネルの異常で起こります。 <<他サイトからの転載>>
さて、問題はその先の考え方です。 この議論の結論を先に書いてしまいますが、「ごく微量の放射性セシウムで、ごく微量のカリウムチャネルが、オープンの状態で壊れる」というモデルが想定できる」ということです。 逆に、普通のセシウム(コールドのセシウム)では、クローズの状態にしているだけ。 次回の議論で取り上げることなのですが、世の中の識者の中にはこの2つを全く区別していないために、「弱い化学毒性」と、「内部被曝毒性」の区別がつけられていないという考え方もあるかと思われます。 では、解説を進めていきます。目標は、放射性セシウムで、カリウムチャネルが、オープンの状態で壊れると予想される、というテーマの理解です。 では、続けて、カリウムチャネルというものにかんして基本的事項の解説をしたいと思います。 <<次に進む>> <<最初に戻る>> |





KvLQT1というのは、膜電位の「脱分極状態を感じ取って」、オープンになります。つまり、膜電位の関数、というのは、そういうことです。
さて、イオンチャネルのことに詳しくないかたは、話がこんがらがってきたかもしれません。
別のイオンチャネルを例にとって、「開確率」のことを説明しておきます。
チャネルがクローズ、つまり閉じているときは、ほとんど電流が流れません(開確率はほとんどゼロ、ということ)。上の図の、上段あたりのグラフです。チャネルがオープンの状態になると、上図の下段のグラフのように、少しずつチャネルが開く確率があがり、電流が流れやすくなります。開確率が上がった、ということです。
つまり、イオンチャネルの世界では、チャネルが、開いたり閉じたり、という現象を、この、「開確率」という確率で表現します。
上の式の、pというのが、開確率です。
ただし、以下の議論では、外向きK電流 の責任領域のフェーズ、つまり心筋再分極時phase2の約200msecの間の、時間でおしなべた 「時間平均の」開確率として扱います。ピークじゃないですよ。
仮にピークでの開確率が0.3-0.6くらいの範囲だったとしても、時間平均、1分子平均にすれば、 もっと小さくなる。つまり、p<<1。
このような、時間平均チャネル平均で極小なpの元では、Nが1つ減って 50000 --> 49999 に変わったところで、全く総電流IKsには変化が無い。 KvLQT分子が、一個消えてなくなっても(クローズの状態で壊れて、怠けて休んでいても)、全然気にならない。
IKs = N x p x i
の、Nが5万分の1減ったところで、屁のカッパ、ということです。
実は、原発事故後も、「セシウムの化学毒性は低いから、心臓に影響なんて、よっぽど高濃度じゃないと出るはずがない」という考え方をする議論もあったんです。
つまり、この、「クローズの状態で怠けている」というのが、心臓に全然影響の出ないパターン。そして、私が、recessiveだとか、loss-of-functionの方のパター ンだと分類している、チャネル分子の障害メカニズムの一つ。全然影響が出ない。