内部被曝を論じるブログ

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最近、知人から指摘されたのですが、当ブログの理論を誤解されるかたが多いのではないか、ということです。その一つが、

(誤解に基づく発言)「セシウムがカリウムチャネルに詰まるなんて、馬鹿な話をするな。カリウムチャネルはセシウムイオンを通すことは、昔から分かっている。セシウムがカリウムチャネルに詰まるなんて言っているのは間違いだ」

という誤解です。おそらく、このような誤解というのは、いろいろなカリウムチャネルの挙動を、ごっちゃにしてしまわれたために至ってしまった誤解なのだろうと思います。

セシウムが、Kirというカリウムチャネルに対して、「詰まる」挙動をする、というのが、このブログの理論のまず第一の着眼点ですが、もしかしたら、上記の誤解のように、この「詰まる」という部分に、異論を唱える方がおられるかもしれません。

医学生物学に何らかの素養のある方で、カリムチャネルのことを知らない方はおられないかと思います。


カリウムチャネルが、カリウムイオンを選択的に通す生命分子であり、ナトリウムイオンを通さないというのは、説明した通りです。

では、カリウムイオンよりも、かなりサイズの大きい、セシウムイオンに関してどのように振る舞うのか?これはも、以前に解説を出しました

当初、話を分かりやすくするために、少し端折って書いているので、もしかしたら、生物学を知っておられるかた、あるいは原発事故後に少し調べ物をされた方は、「あれ?」と思う箇所が、1箇所見つかるかもしれません。それが、上記のような、「詰まる」のか、「詰まらないのか」という議論。

カリウムチャネルのうち、内向き整流カリウムチャネル(Kir)以外のものは、実はセシウムイオンも、ゆっくりですが、通すものもが多いのです。

例えば、KvLQT1(別名KCNQ1, Kv7.1)などは、上記のKirチャネルとは少し様相が異なり、Csイオンは若干ですが通すことが知られています。このチャネルに関しては一価の陽イオン選択性もよくわかっており、Tl>K>Rb>NH4+>Cs>Naという順番に通しやすくなっています。カリウムイオンの通過のしやすさを1とすると、だいたい、0.08から0.12くらいの割合で、セシウムイオンをゆっくりと通します(Kirのように堅い足場固定にはならずに、ゆるく通す感じになります)。


しかし、実は、生物学系でもあまり知らない方もおられる様なのですが、カリウムチャネルのうち、内向き整流カリウムチャネル(Kir)に対しては、セシウムイオンは、特異的に、はまり込んで、ブロックしてしまいます。(現在では、Kirチャネルのどこに嵌まり込むのかという、詳しい解析もわかっていますが、さらに詳しい挙動と計算はまた後ほど)。ブログの当初の記事に書いた通り、このブログの理論も、Kirに対する影響を主眼に理論を構築しています。はまり込んだ場所で、崩壊を起こしたらどうなるのか、ということを延々と論じています。

はまり込む、詰まる、ということは、それだけKirに対しては、他のKチャネルに対してよりもaffinityが高いということです。より詳しいことは、新たな記事を準備中ですが(注)、一旦この、Csがkirチャネルに対して詰まるという挙動を元に、関係性を整理してみましょう。

(表1)
イメージ 1


これも、すでに何度か説明したことを繰り返しているだけですが、この表のように、放射性セシウムと非放射性セシウムのKirに対する影響の出方も全く別物ですし、Kイオンのうち、放射性のK40というものもありますが、すでに過去の記事で取り上げてきたように、K40はKirチャネルに対しても、その他のKチャネルに対しても、全くの素通しなので、生命体分子に対する影響は(生体に常在する程度の量では)全くないと考えられるわけです。

Kチャネル側から見れば、K40というのは、素通し、つまり、言って見れば、「見えてい」ないわけです。忍者に例えれば、忍法隠れ身の術、といったところでしょうか。生命体分子が、何億年もかけて、環境中の放射性元素であるK40に適応してきた賜物と考えても良いと思います。


一方、放射性セシウムは、Kirにガチガチにはまり込みます。

足場固定した時に、放射性元素が崩壊するという条件を考える時、前述のように(記事1記事2)、(固定されていない時に比べて)2つの大きな挙動を考える必要が有ります。(1)ひとつは、足場固定のために、エネルギーの伝達が、極めてよいであろうということ。(2)もう一つは、崩壊時の配位座や配位強度の変化が、隣接分子の電子挙動に影響を与えうる条件が成立する(化学反応を促すと、考察しうる)。


このうち、何度も説明はしましたが、(1)の足場固定された時に崩壊する時のエネルギー伝達の効率の良さに関して、もう一度、例をあげて解説してみます。
(もうひとつの(2)の配位座の問題は、とても重要なのですが、またいずれ機会を設けたいと思います)

皆様は、野球をやったことがあるでしょうか。
地上で野球をする場合、バッターボックスにたった打者は、ボールをインパクトする瞬間、足場にぐっと力を入れ、効率良くバットからボールに力(エネルギー)を伝達することで、ボールを遠くに飛ばすことができます。

では、宇宙空間でバッターがボールを打ったらどうなるとおもいますか?


バッターは、まあそもそも、バットをうまく振れないことに加えて、ボールをインパクトした瞬間に、同じ衝撃を反作用で受けます。反作用を受けるのは地上でも同じですが、ところが宇宙空間の場合には、バッターの足場が固定されていない為に、「踏ん張る」ことができず、バッターは、ボールを打った方向と逆方向に回転を初めてしまします。ボールも上手く飛んで行きません。つまり、足場が固定されていないために、エネルギーが上手く伝達できなくなってしまうわけです。地上で当たり前のように、子供も大人も楽しんでいる野球ひとつをとってみても、普段意識することのない「足場固定」による絶大な恩恵に預かっているわけです。宇宙空間という、足場のない世界に踏み出して初めて、足場固定の有り難みと重要性に気がつくわけです。

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(図は「フリー素材挿絵の森」様から拝借改変)

さて、放射性セシウム(Cs134/137)と放射性カリウム(K40)。Kirに対する、足場固定の条件は、このページの上記の表1のとおりです。


まずは、このブログの理論の、第一段階の着眼点を、納得いただけましたでしょうか?


ちなみに、古典的放射性生物学(ICRPの理論)の成り立ちは、放射線による影響も、放射性物質の挙動も、すべて、足場のない世界で作り上げられた、現代物理学の法則を適応してしまっています。大事なパラメータの見落としがあると思います。

ご存知のように、Cs137は、β崩壊をしますが、出てくるβ線(電子線)はエネルギーと粒子性が強すぎて、たとえ隣接、固定されていても、隣接分子を素通りしてしまうと考えられるのかもしれません。しかし、β線放出直後のCsは、Ba原子に壊変しており、このBa原子が不安定であるがために、γ線を放出するわけです。γ線の場合には、波動性をもっていますし、なにより、固定原子同士での効率の良いγ線のエネルギー伝達に関しては、よく知られた物理学の知見です。



もう一度まとめます。
K40という生体内常在放射性元素の挙動から見れば、Kチャネルとの間に、足場固定はない。
一方、Cs137とKirの間には、強力な足場固定がある。
エネルギー伝達的な観点から物を言うと、Kirから見れば、Cs137に対しては、姿を見せているけれど、K40に対しては、姿を見せていないわけです。つまり、K40に対して、Kチャネルというのは、隠れ身の術を使っている、ということは、そういう意味です。

(延々と、(1)足場固定のことを説明しましたが、実は、(2)隣接時の配位座の変化という条件の方が、むしろこの問題では重要なのだろう、と考えています。この問題は、別途、時間を作って解説する機会を設けていきたいと思います)


(余談になりますが、すでに別途の附記で補足した、同じく生体内常在放射性元素である放射性炭素[C14]、トリチウム[3H]など。これらは、すでに述べたように、確かに、生命体分子の主要構成元素として生命体分子中にガチガチに取り込まれ、崩壊時にやはりその生命体分子を壊すことが想定できますが、Cs137-Kirの関係と違って、ランダムなターゲットをrecessiveに壊しているだけなので、やはり固体や臓器レベルでの生命体分子の機能としては障害が生じないだろう、ということを説明させていただきました。これも、生命の適応がうまくいっていることの例ですね。忍法に例えると、さながら、「分身の術」のようなものを考えると分かりやすいかもしれませんね。但し、14Cや3Hによって、機能障害につながらないと推測できる、と言っているのは、自然内部被曝線源として存在する程度の量では、という意味です。実験室レベルでの大量摂取になれば、障害が生じえます)

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(忍者画像は「オンラインショッピング忍者衣装」様から拝借改変)

<<2018年12月補足>>
基礎生物学界、特に、このテーマが深く関与しているKチャネル学界で、昔から根強く残っている、ある「誤解」があります。最近では、世界的な流れで見ると、ようやく修正されてきているようですが、まだまだ誤解したままのチャネル学者も多くいるようです。その誤解が元になり、当理論を信じるに足りない、とするご意見もあるかと思います。すでに、数年前の記事や、コメント欄での議論でもこのテーマに触れている通りなのですが、簡単にかいつまんで下記に但し書きをさせていただきます。(別個、詳しい説明のための別記事を以前から用意しているのですが、いくつかの説明図の完成を怠ってしまっていること、などなどが重なり、まだ公開しておりません。)

その誤解というのは、「心筋には正常の状態でも、ダダ漏れのリーキーチャネル、恒常的オープンチャネル、元々正常でも、恒常活性型Kチャネルがあり、少々、放射性セシウム崩壊時にKirがオープンになったところで、影響はない」というレッテルです。

これは、(1)パッチクランプという実験で用いられた条件の再構成不足による1990年代の見解を引きずっていること、(2)正常心筋の脱分極・再分極相を丁寧に考慮に入れてこなかったこと、(3)Kirの共挙動分子の複合体の役割(2000年代以降確立してきた概念です)を無視してきたことなどによります。(ちなみに、最後の部分、Kirは生成から代謝までのすべての期間を通し、Naチャネルと、共挙動する、という「ナゾ」の挙動をすることが有名ですが、かつてはなぜこのようなユニークな挙動をするのか、その意味づけすら明確ではありませんでしたが、この理論に沿った方向性での開閉機構の説明で、この部分は非常に合目的挙動に進化しているのだという、理にかなった説明が可能になってきます。すでに数年前に記事を用意してはいるのですが、もう少しわかりやすく書き換えたいと思っています。公開はしばしお待ちください。)

2000年代以降明らかになった、Kirの構造解析も、旧来のそのドグマ(Kirなどは正常状態でも常にリーキーチャネルであるという旧来の概念)が誤解であり、やはり当理論に沿った方向でのKir開閉機構の重要性、そしてあえて先進的なことを述べてしまうと、第1から2初期、第2相後期から第3にかけての開閉が重要な意味を持つということを示唆しています。





(注)一旦、堅くガチガチにはまり込んだCsイオンも、やがては外れることもあります。この部分の定量的な計算に関する説明を準備中です。後ほど詳しい解説を記したいと思います。



最近知人から指摘されたのですが、当ブログの理論を誤解される方も多いかもしれない、と言われました。その誤解の一つが、

(誤解に基づく発言)「たった1個のカリウムチャネルが壊れたところで、細胞には5万と他のカリウムチャネルがあるので、細胞に異常が起こるわけがない。たった1個のカリウムチャネルが、、、と騒いでいるのは、オカルトに違いない(木を見て森を見ず)」

という趣旨の誤解があるということです。(まあ最後の「オカルトだ」とか「木を見て森を見ず」という部分は、私が想像で書いてみました。きっと生物学的な考え方に慣れておられない方だと、こういう受け止め方になるのではないかと思い。)この種の誤解の根底にあるのは、生命体分子の「壊れ方」に、いろんな種類があるということをご存知ないためかと思いますので、その点をまずは補足解説してみたいと思います。


カリウムとセシウムの挙動の最大の違いは、このブログでの初期から繰り返している通り、内向き整流カリウムチャネルにたいする挙動です。<該当記事へ>

きちんと定量的に、放射性セシウムの影響を論じるためには、まずここにあたえる影響を、定量的に考えなければならない、というのがこのブログの主張です。


その際、おそらく、専門家も、非専門家も含めて、上記のような誤解に陥ってしまう際の、最も馴染みのないであろう考え方を、再度まとめておきます。多分、このブログの理論を理解していただく上で、多くの方が戸惑ってしまわれるポイントかもしれません。


 
おそらく、多くの、古典的な放射線物理学的な考え方に馴染んだ方にとって、生物学的な議論のうち、慣れていない考え方のひとつに、生命分子というのは、「機能」をもっている、と言う点だと思います。

物理学の基本構成要素を扱う時に、普通は、モノとモノが、ぶつかったり、反発したり、引き寄せたり、passiveな作用しかありません。ところが、生物の分子には、「機能」というものがあります。これは、地球が誕生して、数十億年の経過で、化学物質が生まれ、生命が生まれ、進化してきたことの賜物です。最初はランダムに物質と物質がぶつかり合っていた時代から、進化の過程を経て、生命体分子が「機能」を持つようになった。
 
だから、慎重な生物学的問題に関する考察、というのは通常、生命分子が壊れるとき、その「機能」の壊れ方を、丁寧に考察することが要求されます。

生体分子の機能の壊れ方には、優性(dominant)、劣勢(recessive)な壊れ方の2通りがある、というのが、ここで補足説明しておきたいテーマです。







--------- 一般教養としての優性、劣勢というキーワード -------------

すこし、分かりやすい例を出してみます。

一般教養として遺伝学を習ったことのある人は、「優性遺伝」「劣性遺伝」という単語を聞いたことがあると思います。英語で言うと、dominant, recessiveという形容詞がそれです。
 
ある病気になりやすい遺伝子変異を論じるとき、その変異を、両親のどちらか一方だけから受け継いでも、病気を発症してしまう場合、その病気は優性遺伝性の遺伝病といい、両親からともに異常変異を受け継がないと発症しない場合、劣性遺伝の病気と言います。
 
例えば、劣性遺伝の病気には、ドゥシャンヌ型筋ジストロフィ(DMD)、フェニルケトン尿症、サラセミア、血友病などがあり、優性遺伝の病気には、ハンチントン舞踏病、家族性大腸ポリポーシス(FAP)、肢帯型筋ジストロフィ1型(LGMD1A, 1B, 1C, etc) などがあります。

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上の図のように、父親と母親から1つづつ遺伝子をもらって、我々の体の細胞の中には、遺伝子がペアで存在しているんですが、仮に、両親のうちのどちらかの遺伝子が異常遺伝子だったとしても、ペアの遺伝子のうち、1個の異常遺伝子しか片親から引き継がなかった場合病気が発症しない場合には、劣性遺伝の病気(左図)といいます。一方、片親から1個だけ異常遺伝子を引き継いでも病気が発症してしまう場合、優性遺伝の病気と言います(右図)。

(厳密には次の通りに限らないんですが)分かりやすく、端折って書いてみますと、遺伝病の多くの場合は、遺伝子の異常が、生命分子(タンパク)の機能異常につながっていますので、遺伝子の優性劣性を、タンパク分子の劣性、優性と対応させて説明してみます。

<劣性の異常>について: 劣性遺伝の病気というのは、片側の遺伝子からの異常分子があっても、もう片側の遺伝子からの、正常な分子が、その失われた機能をカバーしてくれて、病気の発症は防がれる。
ドゥシャンヌ型キンジストロフィ(DMD)を例にとってみましょう。
この病気は、dystrophinという遺伝子に異常を持つことで、筋肉の進行性の破壊が起こり発症する遺伝子疾患です。dystrohin遺伝子に異常があると、タンパク分子としてのdystrophinが、ほとんど発現しないか、役に立たないdystrophinが発現するかのどちらかになります。

dystrophinタンパク分子というのは、筋肉の細胞膜表面で、大事な働きをしている生体分子なのですが、これが無くなる、あるいは役に立たないdystrophinになってしまうと、細胞の様々な機能に障害が生じて、筋肉の細胞が死んでしまいます。これが、筋ジストロフィという病気が進行していく原因です。

しかし、例えば母親から貰ったdystrophinの異常があっても、父親側からの正常dystrophinがあれば、機能をカバーできるので、片親からの異常dystrophinが一つだけの場合は、たとえ異常dystrophinを持っていても発症しないで、非発症のキャリアとなります(余談ですが、dystrophin遺伝子は性染色体上にあるので、社会的理由で、女児は両方のdystrophin遺伝子の異常になり得ないため、女性でDMDを発症することは、社会的にはありません。逆に男児の場合にはY染色体にはdystrophin遺伝子はないので、片側のdystrophinが異常の時に、機能をカバーしてくれる正常dystrophinが存在しないので、発症してしまいます)

つまり、まとめると、劣性の遺伝子異常の場合、その産物のタンパクが異常を持っていても、正常のタンパクが必要十分量あれば、機能をカバーしてくれて、細胞機能も正常。病気も発症しない。


<優性の異常>について:一方、優性遺伝病の場合、(わかりやすく書きますと)片側の変異からの異常分子による、機能異常が、積極的に優位に細胞の行動異常、臓器の機能異常につながってしまう。

同じ筋ジストロフィでも、caveolin-3という遺伝子の異常で起こるLGMB-1Cというタイプがあります。このcaveolin-3が、ある変異をもっていると、異常caveolin-3が、正常のcaveolin-3の機能までをも阻害し始めます(dominant negativeな作用と言います)。caveolin-3は、骨格筋細胞の、様々な機能維持に関わる重要な分子であるため、この、積極的な機能阻害が、細胞死のリスクにつながったり、なんらかの形で(まだ全容は未解明ですが)、筋ジストロフィの発症につながると考えられています。
 
従って、こういう、生命分子の機能異常を、dominantな機能異常と呼びます。つまり、優性の遺伝子異常の場合、その産物の異常タンパクが、他の正常タンパクの機能をも阻害してしまい、細胞機能に異常が出て病気を発症してしまいます。




このように、現代分子生物学で、生体分子の異常を考察する場合、分子機能の異常を、dominantなのか、recessiveなのか、ということに注意を払いながら、遺伝子機能やタンパク機能を解析したり、実験を設計したりすることが要求されます。1990年代の、「シグナル伝達」という分野で薫陶を受けた世代以降だと、割と日常的に遭遇する考え方です。





以上をまとめると、物理学と違って、生物学には、「機能」を考えないと理解できない局面が多々あり、その機能の壊れ方には、recessivedominantの両方の局面がある。
 



もしかしたら、専門的になりすぎて、分かりにくい説明になってしまっていますかね?
ちょっと日常生活での、たとえ話をいくつかしてみます。




------------日常生活での喩え話--------------

車の故障:recessiveな異常とは、エンジンが故障して、車が走れなくなってしまった状態。べつに1台の車が壊れたところで、街には五万と車があるので、誰もほとんど困らない。故障者の持ち主も、隣人に車を借りれば無問題。一方、dominantな異常とは、街中を走行中の車のブレーキが壊れ、暴走を始めるような故障のしかた。これは大変な事態につながる。
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(人物イラスト無料素材様から借用改変)

料金所の故障:recessiveな異常とは、料金所のゲートが壊れて上がらなくなる場合。たくさんのブースがあれば、他に回避できるので、交通はなんら困らない(recessive negative)。dominantな異常とは、料金所に強盗が立てこもり、銃を乱射し始めるケース。これは、その料金所に他にいくつブースがあっても、たった一人の凶悪犯のために、交通の麻痺が起こる(dominant negativeな例)。
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(いらすとや様から借用改変)

上記の料金所の右の例(凶悪犯による妨害行為)は、dominantな異常の中でも、dominant negativeと言われる異常の出方の例です。

dominant, recessiveという意味をご理解いただくために、頑張ってイラストを作ってみましたが、料金所のdominant negativeな例は、実はこのブログで延々と述べている、Cs137-Kirの例としては、ちょっと違いますね。少し近い例を考えるために、dominant positiveな例も考えてみましょう。

やはり、車のゲートの例を挙げてみます。

今度は、駐車場の入り口に、沢山ゲートがあるのを考えてみてください。

ただし、駐車場は大規模イベントのため、とても混雑しかかっています。したがって駐車場内のピーク時混雑緩和のために、1分に1台車だけ、というゆっくりなペースで車を通す、という設定に駐車場入場ゲートがなっていたとします。結構大きなイベント会場の駐車場なので、ゲートは100個くらいあるのを考えてみて下さい。ゲートが1個壊れて通れなくなっても、他に99個もゲートがあるので、不通過ゲートを回避できるので、無問題。これから入ろうとする車にとっても、ペースが乱される事もなければ、駐車場の中の秩序も保たれている。

ところが、ゲートの1個が、ずっと開きっぱなしになるような壊れ方をしたら、どうなるかというと、そのゲートから車がじゃんじゃんと無制限に入り始めて、駐車場は大混雑に陥ってしまう。これが、dominant positiveな壊れ方。機能過多になることで、システムに不都合が生じるパターンです。たった1個の構成員の機能過多でも、障害が生じる、というパターンは、身の回りにも結構あったりします。



さて、以上の例を踏まえた上で、このブログでのカリウムチャネルの話に戻ります。

カリウムチャネルが、ただ単に、詰まってしまった場合:これは、細胞には、仲間のカリウムチャネルが五万とあるので、他の仲間が機能をカバーしてくれて、システムの機能には影響が出ません(recessiveな故障)

カリウムチャネルが、開きっぱなしに壊れてしまった場合:これは、困る場合が生じ得ます。本来、そのチャネルが絶対に閉じていないといけないタイミングの時に、ジャンジャンとカリウム電流が流れ始めると、マズイことが生じ得ます(dominant positiveな故障)。これを定量的に計算したのが、以前の記事になります。



--------------以下余談-------------------

さて、すでに何度かご説明したことですが(附記5附記8)、人体がもともと持っている自然放射線源である、放射性炭素(C14)と、トリチウム(3H)のことを、少し復唱させていただきます。

トリチウムにしてもC14にしても、人体の構成要素である、タンパク、脂肪、DNAなどの有機物(生体分子)の中に、共有結合で取り込まれます。

つまり、(Kir-C137の話をしたときに、ガチガチに嵌まり込んだところで崩壊するのがマズイ、と言いましたが、それどころの比ではないくらい)、トリチウムもC14も、ガチガチに嵌まり込んだ場所で、崩壊します。元素そのものが変換するわけですから(C-->N, H-->He)、生体分子そのものの構造も劇的に変わり、おそらくは、分子が壊れてしまうことでしょう。

ところが、Kir-Cs137の時と違って、この場合は、全く恐れるにことはないんです。

なぜかというと、例えば仮に、C14などのせいで、生体分子が故障しても、まずほとんど(全てと言っていいほど)のケースで、recessiveな故障の仕方をするのです。さらに言うと、ランダムな分子が壊れますので、たとえ細胞機能に異常が出たり、万が一、細胞死に至ったとしても、(自然倍部被曝放射線源として体内に存在する程度の量では)、システムとして臓器の機能に異常が出ることはないのです。



<執筆途中です>

ご存知の方も多いと思いますが、体内にもともとある放射線源として、K40の他に、C14 などがあります。

まあ、過剰量をあえて摂取(内部被爆源として)してしまうことは、いろいろな健康障害のリスクをあげてしまうと考えられますので、ちょっと表題の「C14による内部被爆が安全」というのは、誤解を招く表現でした。過剰量摂取は避けるべきだと考えています。(注:研究者以外はC14 を過剰摂取するというシチュエーションは無いのではないかと思いますが)

そのことを断っておいた上で、体内に存在する程度のC14は、まったく問題にならない、と定量計算できる、という話を、少々論じておきたいと思います。

上記に延々と議論した、K40とC134/137の違い、これは、生体内分子への結合の強度の差で説明出来る、という議論をしました。つまり、生体内で、唯一カリウムイオンを特異的に認識するカリウムチャネル系の分子ですら、K40に対して、ほぼ抵抗ゼロで「素通し」という、ユルユルの状態であるのに対し、カリウムチャネル(特にKir系チャネル)は、Cs134/137にガチガチにはまり込まれてしまう、という部分で、その挙動にデジタルな差があり、放射性核種崩壊時の、生体分子に与えるインパクトが、大きく異なりうる、というモデルが想定出来る、という議論でした。


この流れでいくと、放射性炭素C14(や、トリチウム等も同分類に入りますが)などは、有機化合物として、モロに、生体内分子に取り込まれます。全ての生体内有機分子に取り込まれる訳ですから、影響を受けそうな生体内分子としては、タンパク、DNA、RNA、脂質(およびタンパクにおける脂質修飾)、糖類(およびタンパクにおける糖鎖)、、、と、生体内重要分子に枚挙に暇がありません。

当然、炭素原子ですから、有機化合物のバックボーンとして、ガチガチに、これらの生体内重要分子に取り込まれている訳です。ですから、当然、崩壊時には、上記のCs134/137の崩壊時議論の時と同じように、(単回、単一原子の崩壊でも)その生体分子の破壊が起こると予想されます。崩壊時には、放射線を出すことに加え、元素そのものが変換するわけですから、当然有機分子のバックボーン自体が変化し、分子の形状は変わるわけですし、分子構造や機能に甚大な影響が出ることが考えられます。

では、危険なのか?生体に害があるのか?と言えば、「C134/137-Kir系チャネル」の時の議論と違って、(体内にもとから存在する程度では)、全く影響はないだろうと考えられます、ということを、詳しく議論して行ってみたいと思います。

詳しい計算と、図等を用いた解説は、のちほどゆっくりとさせて頂きたいと思いますが、ポイントは、

1.その破壊分子の破壊のされ方が、dominantかrecessive か?
2.ランダムなターゲットかどうか。
3.生体内代謝(例:ユビキチンープロテアソーム系や、バルク分解系としてのオートファジーなど)、QC 機構(小胞体におけるタンパクQC機構など)、修復機構(DNA修復など)
4.量的議論

これらの点を議論することで、C14 は、生体内分子のバックボーンにそれこそ「堅く」取り込まれ結合しているにも関わらず、(内在する程度では)生体へのインパクトはゼロ、ということを説明させて頂きたいと思っています。
(詳しくは後ほど)。



K40や、C14やトリチウムなどの、生体内常在の内部被曝源のことを考えるたびに、生体分子というのは、進化の過程で、上手くできているなあ、と感じます。
Kイオンを特異的に認識するカリウムチャネルはすべて、カリウムに対して、素通しでユルユルの状態です。通過時にK40が崩壊しようが何しようが、抵抗はゼロで、全く問題ないでしょう。言ってみれば、敵(K40のことです)から見て、姿が見えない忍者のようなものです。忍術、隠れ身の術ですね。

一方、C14なんかは、ガチガチに、生体分子内に共有結合で取り込まれていますから、崩壊時に、生体有機分子の破壊または故障が起こりうるでしょう。しかし、これも無問題。なぜなら、C14が崩壊時に生体分子を故障させても、ほとんどはrecessiveな故障にしか繋がらないと考えられますし、なにより、ターゲットがランダムであり、生体内の他の分子が、全くもって機能をカバーしてくれるからです。忍術で言えば、分身の術と言ったところでしょうか。
イメージ 1

(忍者画像は「オンラインショッピング忍者衣装」様から拝借改変)





(追加注釈)もちろん、この節で、「C14やトリチウムが、自然内部被曝線源として、普通に存在する程度の量では、健康障害は起こらないだろう」とは書かせていただきましたが、言うまでも無く、量の問題です。

過剰量を細胞内に取り込んでしまえば、様々な悪影響が出現しえることは想定しておかねばなりません。
あくまで逸話的な余談になりますが、昔、岡崎令治さんという有名な分子生物学者がおられました。広島ご出身の彼の、「岡崎フラグメント」の発見は、細胞のDNA複製に関する当時の理論上の矛盾点と最大の謎を解決する、分子生物学上の金字塔で、教科書にも載っている大きな発見です。残念ながら、岡崎令治さんは、44歳という若さで、慢性骨髄性白血病で夭折されてしまいました。
岡崎令治さんの白血病は、広島の原爆で、「黒い雨」を浴びてしまったことが原因、という風に解釈する声が多いようです。ご本人も生前から、入市被曝のことを念頭に、自分はいずれ白血病で、、、と思っておられたような記載を、何かの記事で読んだことがあります。

ところで、岡崎フラグメントの発見もそうなのですが、当時の分子生物学実験で、細胞のDNAをラベルする際、大量のC14やトリチウムでDNAをラベルするのがひとつの重要な実験手技でした。上記のように、これらの放射性同位体は、DNAなどの生体分子に取り込まれますから、大量に細胞に入れてやると、都合よくDNAなどをラベルして可視化してやることができるのです。しかし、同時に、DNAも放射性物質により、変性・変異・断裂してしまいます。超大量にC14やトリチウムを用いる、あわただしく難しい実験、そういうものを激務の中こなしていくわけです。不慮の事故が起こらぬよう、岡崎さんも、学生さんには、これらの危険な実験は回避させていたそうです。

研究になじみの無い方にちょっと目安を書いておきますが、ほんのちょっと、ピペットの先に吸った微量の試薬で、簡単にギガベクレル、とかそういう単位です。自然界や日常の放射線源としてのC14やトリチウムでは起こり得なくても、実験の上では、簡単に、「超大量」の放射性物質による、不慮の事故、というのは起こりうるわけです。(私も若い頃、ほかの実験で経験があるのですが、ピペットで、実験の試薬を取り分ける際にも、ピペットの端を、口で吸引しながら、液体を取り分けることも、昔は珍しくは無い風景でした。今では考えられないほどの緩い安全管理ですが。

原爆に絡んだ被曝のことから、放射性物質の危険性を人一倍よく認識されておられた岡崎さん。若い人たちのために、放射性物質取り扱いの際の安全性に腐心されておられた、その心遣いを想像するに、岡崎さんの人柄が偲ばれます。

体内にもとから存在する程度の量なら全く問題ないが、間違って、大量に摂取してしまっては危険、ということです。


(4/10/2016):誤解を招きかねない表現となっていたかもしれませんので、「追加注釈」を補足させていただきました。


<<最初に戻る>>

2015年11月改定
(2013年初頭に書きかけて放置していた記事を、大幅に改定しました)



このブログの理論を、なかなか理解できない、受け入れられないとする批判に、次のようなものがあるかと思います。

(先入観による批判意見1):「ほんのわずかの内部被曝で、細胞が死んだりはしないし、ましてや、臓器の機能に影響なんて出るわけがない」

このブログは、そもそも、細胞死の存否を論じているわけではありません。細胞の機能調節の「タイミングが遅れる」ことに関して、論じています。

細胞が死ぬわけではない、「遅れる」だけなのだ、という主張に対しては、今度は、次のような批判もあるかもしれません。

(先入観による否定的意見2):「細胞の何かのタイミングが、すこしずれたり遅れたりするくらいのことが、大層なことに繋がるわけがない。そんなのはデタラメ理論だ!」(最後のデタラメ云々というのは、勝手に想像で付け加えてみました)

この附記で、補足説明しておきたいのは、「遅れるとうことは、場合によっては、とんでもなくまずいことだ」、という趣旨の議論です。


フィードバック制御が遅れる=安定性の余裕が無くなる、ということの意味を、日常生活の例を使いながら、解説して行ってみたいと思います。


<<フィードバックとハウリング現象>>
  
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みなさまは、カラオケ屋さんに、よく行かれますか?大きな声を出すと、ストレス解消にもってこいですよね。私、もう云十年も、カラオケに行っていませんが、学生時代には悪友たちと街中に繰り出したものでした。

昔のカラオケ屋さんに行くと、マイクがキーンという耳障りな高音を発して、「ハウリング」という現象をよく起こしていました。なぜああいう現象が起こるかというと、マイクがスピーカーからの音を拾って、また増幅にかけてしまう、という、正のフィードバックが働き、「発振」という状態が起こっているからなのですが、(日本のメーカーが得意な分野ですが)いろんなモノ作りの際には、この、正のフィードバックが掛かりにくくなるように、上手く設計されていて、この設計要求事項を、制御の「安定性余裕」と呼んでいます。



<<制御発振のメカニズム>>
すこし、古典制御理論というものを解説してみましょう。大切な理論なので、多くの理系の方はすでにご存知の事ばかりだと思うので、飛ばしてください。

ご存知ない方に、解説したいこと。ポイントはほんの数個だけです。「フィードバック制御」「安定性余裕」と「発振(発散)」です。

その結果、「遅れることは悪いことだ」というのを理解していただくのが目標です。

さて、いきなり、カラオケ屋さんの話を出しました。これは、悪い制御の例です。ポジティブ・フィードバックがかかる状態というのは、このように、システムが発振して、破綻してしまいます。ですから、普通は、いかにそのようなことが起こらないか、ということを、エンジニアも皆、腐心します。

システムが安定=良いこと
システムが発振(不安定)=悪い事
(注:本当は、わざと発振させるようなシステムは、世の中のあちこちで活躍もしています)



<<アンプとフィードバックのこと>>
さて、少し、フィードバックの事をお話ししましょう。皆様が日常で使っているオーディオのアンプ。実は現代アンプの基礎原理が考案されたのは、たかだか1920年代後半にかけてのこと、人類の歴史的にはごく最近の話なのです。ハロルド・ブラック(Harold Black)という、電話会社の若い技師が原理を考案しました。

それまでも、もちろん、「増幅器」というのはあったのです。しかし、ハロルドブラック以前の増幅器は、「歪み」が大きく、安定性に欠け、品質ごとのバラツキの非常に大きなものでした。つまり、使い手が「このくらいの音量に調節したい」と思って、つまみを上げても、目的の音量にピタリと合わせることが難しいのはおろか、使っているうちに、音量は変わるわ、音は歪むわ、と、現代の感覚からすると、ひどい代物でした。

そんな状況を一変させたのが、若き日のハロルド・ブラック。彼の発明した、「負帰還アンプの原理」は、20世紀最大の発明、とも言われています。

これが、原理です。


イメージ 3
(注:これをブロック線図と言います。線上の左の、プラスとかマイナスのついた白丸を、「加え合わせ点」と言い、信号が足しわされることを示しています。一方、右側の小さな黒丸の分岐点は、信号を「分割」しているわけではなく、Aから出てきた信号を、フィードバックループにも、出力にも、同じ信号を入力してあげますよ、という意味です。右の白丸と左の黒丸の意味が異なることに注意)


ブラック以前の増幅器というのは、図の"A"の部分しかありませんでした。ブラックが気がついたのは、これに、出力信号を取り出して、負帰還(ネガティブ・フィードバック)をかけてやることにより、歪みを解消し、目的の増幅率にピタリと合わせることができる、ということでした。現代の「アンプ」と言われるものは、すべてこのブラックの負帰還原理に依っています。

すごいですね。


なんのことか分かりませんか?

車の運転を考えてみてください。皆様は、高速道路を時速100キロで走ろうとします。もしも、車のメーターを気にしないで、おしゃべりに夢中になっていたら、どうなるでしょうか?時速100キロで走ってるつもりでも、知らず知らずのうちに、スピードが出すぎてしまい、あっという間に150キロ、おしゃべりに夢中になりすぎて、違反切符を切られるかもしれません。

だけど、普通は、メーターを見ながら、アクセルやブレーキの微調整をしながら、あ、スピード出過ぎたな、と思えばブレーキを少し踏み、スピード遅めだなと思えば、少しアクセルを吹かしてやって、ピッタリ100キロに合わせることができます。この時の、皆さんの、メーターからの情報をもとにアクセル・ブレーキ操作をしているのが、負帰還(ネガティブ・フィードバック)です。

イメージ 2
(図の車・靴・メーターの絵はイラストわんバグ様、フリー素材集様より)

さて、フィードバック制御。ここまで、いいですよね。身の回りのこと、世の中のことは、全部フィードバック制御です。(もちろん、ちょっと言い過ぎです)

これ、一見あたりまえのことなんですが、すごいことなんです。
フィードバック(負帰還)を掛けて、制御をすることで、とても良いことが沢山出てきます。

1.目標への追従性(この例でははっきり言いませんでしたが、目標速度をある時、ゼロから100キロに設定しても、途中で50キロに変えても、目標に近付こうとします。)
2.外乱の影響を抑制できる(強い向かい風が吹いてきても、山あり谷ありの凸凹道でも、時速100キロをキープできる)
3.出力が制御対象(車のエンジンなど)の性能に影響されない(個々の車はエンジンのパワーに差があるけど、車によってアクセルの踏み込み方を調整することができる)
4.増幅器として使える

などなどです。

さて、1−3は簡単ですね。時速100キロを目指して普通に運転してれば、車の車種が何であろうと、どんな強風の向かい風が吹いてこようと、上り坂だろうと下り坂だろと、ピタリと100キロに合わせることができますよね(メーターからよそ見をしさえしなければ)。ただ、4番はちょっと分かりにくいかと思いますので、4番目の「増幅器として使える」という部分について解説してみましょう。

もしも、車のメーターに細工をして、実際のスピードの半分しか表示されないような小細工をしておいたら、どうなるでしょうか?車の運転手は、当然、「あれ?意外にスピードが出ないな。もっとアクセルを踏み込もう!」と考え、スピードは当然、倍の時速200キロに成るはずです(車の性能が持てば)

ということで、自由自在にメーターに小細工をすることができれば、自由自在に出力をコントロールすることができます(ただし、車の性能が無限大であれば

これが、負帰還による制御システムが、「増幅器」である理由です。



少し最初のアンプの式に戻って、説明してみましょう。Aというのが、フォワード・ゲイン(車のエンジンの性能)。βはフィードバック・ゲインと呼びます(メーターへの小細工)。

目的の増幅率にピタリと合わせたいために、Aからの情報を、フィードバックにかけて(β倍して)、Aの入り口にマイナス分として、戻してやるわけです。このときの、増幅率(クローズド・ループ・ゲイン)は、A/(1+A・β) となります。(これ、ブロック線図を分解して書き直しても簡単な式で導出できますし、馬鹿正直に無限等比級数を作って、等比級数の公式からも出せますので、初めての人はやってみてください)

もしも、車の性能Aが無限大であれば、増幅率は1/βとなります。
つまり、時速200キロを出したければ、メーターの小細工を実速度の半分表示に、時速1000キロを出したければ、10分の1表示にすれば良いのです。

若き日のブラックさんは、これ(プラスあと負帰還の素敵な幾つかの利点)に気がついたわけです。
(まあもちろん、これに似た考えをしたことのある人は多いのですが、ブラックさんは、この概念を回路で実現可能なのだ、という部分までをも発明しました)


現代のアンプは、ほぼ全て、このブラックさんの負帰還原理に基づいて設計されています。アンプの制御部の増幅性能Aがある程度品質的にバラバラでも、Aがβに比べて、ある程度大きければ、増幅率は結局、1/βになるんですから!

製品の品質のバラツキが、関係なくなった



このブラックの負帰還回路が、当時の最先端のエンジニアの頭を悩ませていた、歪みやバラツキの問題を、一気に解決しました。

この負帰還回路、あまりにすごいことなので、実はアンプやらの設計だけではなく、生命体もなにもかも、自然界のいろんな現象が、実は負帰還の原理で出来ていることが分かっています。人間の考えることは、神様もとうの昔にお見通しだったわけですね。


さて、そんな、素晴らしい負帰還回路。しかし、負帰還をかけると、(上記のリストに挙げたように)いい面も沢山ありますが、気をつけなければならないことも、少々発生してきます。それが、「発振」という問題です。最初に述べた、カラオケ屋さんでの「ハウリング」のような問題を、発振状態と言って、負帰還制御では避けなければならないことなのです。


これを、ちょっと説明してみましょう。

アンプの増幅率(クローズド・ループ・ゲイン)のことは説明しました。一方、Aからβを通って戻るまでのループの増幅率(A・β)を、オープン・ループゲイン(または単にループゲイン)と言います。

ちょっと乱暴な言い方をしますと、この、ループゲインの特性を議論するのが、古典制御理論なのです。

ループゲインが、"-1"(マイナス1)のとき、これは、正のフィードバックがかかっていることになり、最初に出したカラオケの例で言えば、ハウリングという、「発振現象」が起こっている状態になります。

制御理論では、「発振」が起こるような条件を、「不安定」と言って、これは良くないことなので、如何に発振をするような条件をさけるか、如何に安定な制御を設計するか、ということを論じていきます。

古典的制御理論では、ループゲインAβが、-1に近くなるかどうかを、ひたすら議論していくだけなのです。制御理論とか、負帰還とか、安定とか不安定って、簡単な気がしませんか?(もちろん、気がするだけで、本当は奥の深い学問なんですが、、、)


ーーー余談になるので、ざっくり理解したい方は飛ばしてくださいーーー
実は、車の運転の例と、オーディオアンプの例。違うことが一つだけあります。
車の例では、入力は、「目標時速100キロ」という、一定の目標値でした。オーディオアンプでは、刻一刻と変わる、音の波(サインとかコサインとかの三角関数が重ねあわせられた波形)を入力します。ちょっと違いますよね。まあ、車の例を無理やり例えると、例えばサーキットでレースをしている時には、目標速度が100-->30-->150-->80-->10-->120と、時間とともにめまぐるしく変わるので、そういう時は、音の波を入力しているのと同じことですね。

実は、一定の目標値ではなく、時間的に連続した変化量を入力し、その出力を知りたい時には、上のような単純な計算ではダメで、「畳み込み積分」という、複雑な計算をやらなければなりません。ああ、これで負帰還はばっちり理解した!と一瞬思ったのに、ガックリですね。でも安心してください。時間空間(実社会の時間の流れに沿った時間の関数を扱う空間)から、周波数空間(関数の周波数特性を扱うための空間)に、関数を変換するための、フーリエ変換だとか、それによく似たラプラス変換という便利な方法があるんです。こういう変換をやってやると、畳み込み積分が、掛け算に変わってくれるのです。図の A・β と書いていたあの式、あのままで良いんです。

この、ラプラス変換の便利なところは、ほかにも沢山あるのですが、もうひとつだけ書いておくと、「線形変換」であるということ。どういうことかというと、実空間の関数の足したり引いたりは、変換後も足したり引いたり、のままでいいんです。つまり、ブロック線図上の、足したり引いたりの分岐も、そのまま描いておけばいいんです。便利ですね。ちなみに、ブロック線図上のそれぞれの四角とか三角のブロック。これ、ラプラス変換した後の世界(s空間と言います)では、「伝達関数」と言います。

以下の説明では全部、このs空間(ラプラス変換した世界)で物事を考えていくことにします。でも安心してください。要は、ブロック線図はあのままで良いし、例え話の模式図の中で出した掛け算や、分岐部の足し算引き算も、そのままで良いと言っているだけなのです。
ーーーーーー余談おわりーーーーーーー



<<制御の安定性余裕のこと>>
さて。こんどはみなさん、ハウリングのキーンという不快な音は嫌なので、マイクを十分にスピーカーから離して使用することにします。

ですから、安心してください。ちょっとやそっとのことでは、ハウリングは起こりません。というか、普通のカラオケの楽しみ方をしていれば、もう絶対に起こりません。安心して、素敵なカラオケ・タイムを楽しんでください。

いまの世の中、物造りの得意な日本のメーカーの優秀なエンジニアの皆様のお陰で、ちょっとやそっとのことでは(マイクをスピーカーに近付けてわざとポジティブ・フィードバックを掛けるようないたずらをしない限り)、発振しないような、素晴らしく安定で、すばらしく音響特性の良いアンプの数々が製作されています。それもこれも、最初に述べた、ブラックさんのお陰です。ブラックさんのお陰で、現代の音響アンプもみな、設計できるようになったのですから。)

でも、それではこのブログでお話しすることは、なにもなくなってしまうので、せっかくなので、筆者が知恵を絞って、皆様のために、アンプを作って差し上げました。ブラックさんの負帰還原理に則って、素人ながらも、丹精を込めて一生懸命に作りました。

どんなアンプを作ったのか、と言いますと、こんなアンプです。「大山1号」と名付けました。

イメージ 4

(注:なんだか、どこかで見た図のような気もしますが、気にしないでください。)


私が心を込めて作成したこのアンプ、どんなアンプかを説明しますね。βというのは、この場合、ボリュームのつまみです。ブラックさんの負帰還原理では、βをいじって、出力を増幅するんでしたよね。音を10倍に大きくしたければ、βを10分の1に。隣の部屋のオジさん達から、「うるさい」といわれたら、βを大きくして、出力を控えめに。シンプルだけど、そんな素敵なアンプです。(増幅比Y/(1+β・Y)は、Yが無限大に大きければ、1/βになるんでしたよね)。

それでは、ちょっと詳しい話を始めましょう。このアンプ、こんな特性を持っています(ループゲインβ・Yの特性です)。
イメージ 5

ちょっと説明しますね。まずは、上半分のグラフを見てみましょう。ゲイン特性曲線と言います。
このアンプ、低音域(グラフの左の方)は、ゲイン特性が良いです。低音をしっかりと増幅させることができます。でも、だんだん、高音になるにつれ、アンプの増幅能が追いつかなくなり、あまり高音は、増幅できません(右肩下がりになっている)。ちょうど、周波数がG(ヘルツ)くらいのところで、増幅率が1倍(0デシベル)になっています(ここの周波数を、ゲインクロスオーバー周波数と言います)。

次に、下の図を見てみましょう。位相特性曲線と言います。これは、このアンプのリスポンスの早さを表しています。低音域では、このアンプはリスポンスが良く、入力からリスポンスまで、ほとんど時間差が無いです。高音域になると、さすがに、アンプのスピードが追いつかず、入力からリスポンスまでが遅れ始めます(絶対値の遅れが大きくなるわけではなく、その周波数の波長に対しての相対的なリスポンスが遅れるということ。高音域になればなるほど、波長が短くなるので、当然ですね)。位相がちょうど180度遅れる(逆相になるともいいます)ポイントを位相クロスオーバー周波数(図のP)と言います。

さあ、このアンプ、心を込めて作ったので、音質はまあそこそこ、かなり安定で、発振もない良いアンプです。なぜ、「発振しない」なんて、私が自信満々に言ってのけられるのか?それは、上の特性図をみれば、明らかだからです。

説明しませんでしたが、この図、ボード線図と言います。1930年代に、ボード(Hendrik Bode)さんという天才技術者が発明した、とても便利な図なのです。この図をみれば、制御が安定か、不安定か、一発でわかってしまうのです。

この図で見るポイントは2つ。青で示したゲイン余裕と、赤で示した位相余裕です。この2つの余裕が、こんなにあるから、発振しにくいのです。

なんのことか、分かりませんか?
では、次なる説明をさせていただきます。



素人ながらに作ったこのアンプ、良いアンプなのですが、ちょっと問題が生じました。ボリュームのつまみを、最大限にしても、ちょっと音量が足りないのです。これでは、カラオケの楽しみも半減です。同行した友人たちも不満顔。

そこで、素人ながらに、私もちょっと考えました。「ボリュームつまみをいくらひねっても音量がこれ以上、上がらないなら、設計を変えてしまおう!よし、"Y"の隣に、すこしパワーを継ぎ足そう!」 
パワーが足りないなら、継ぎ足してやればいい。( f 倍にする、ということで、「f」というユニットを接続することにします)。そんな乱暴な発想で、大山2号を作ってみました。

イメージ 6


しかし、そこはやはり、素人考えでした。"Y"の横にパワーをf倍する「f」をつけたところで、出力は変わらないはずです。なぜかというと、このシステムの増幅率はf・Y/(1+β・f・Y)であって、Yが十分に大きい時は、結局1/βになってしまうのですから(大山アンプ1号から改善していません、ガックリです)。。。しかし、そこは素人の私。まだ、そんなことには気が付きません。おかしい。良かれと思ってやった改造なのに、ワークしていないみたいだ。おかしい。
(あ、そうそう、このブロック線図とに直列に接続した新たなユニット。まあこの場合は単純にf倍だから話は楽なのですが、一般的には、実空間(実際の時間軸)では、新しいユニットを付け加えると、出力は「畳み込み積分」という難しい計算をやらなくてはならないので、大変面倒くさいのです。が、制御理論では、ラプラス空間や周波数空間で物を考えるので、この付け足しが、掛け算に早変わりしてしまうのです。便利ですね!

どこがおかしいか、さっぱり気がつかない私。それはさておき、ちょっと、特性曲線を見ておきましょう。特性曲線は、やはり、ループゲインをみるので、β・f・Yの特性です。実は、このボード線図が素敵なのは、「かけ算がグラフ上では足し算に変身する」ということなのです(ゲインのグラフが対数目盛になっているからです。位相はもともと足し算)。つまり、もとからのループゲインβ・Yの特性に、新しい f の特性を足してやるだけ。

イメージ 8

この新しいアンプのボード線図での特性曲線。いくつか、変化が起きてしまいました。良かれと思って、f倍ゲインをYの横にくっつけたがために、なんだか、「ゲイン余裕」と言われる部分が、かなり小さくなってしまいました。(ボード線図は足し算で考えるので、β・Yが、fに持ち上げられて、ゲイン余裕が小さくなってしまったのです)それに、ゲイン曲線が持ち上げられた分、ゲイン・クロスオーバー周波数(0dBとの交点)が、G'へと右に移動してしまいました。その結果、「位相余裕」までも小さくなってしまいました。

でも私は、素人なので、そんなことには気がつかず、「f倍のゲインをくっつけても、まだボリュームが上がらないみたいだから、もっと大きなゲインをつけて、パワーを足してやろう」と考え、fの代わりに、もっとパワフルなf’というユニットをYの横につけました。大山アンプ3号です。もう、友人たちへの汚名挽回に必死です。

イメージ 9

ボリュームは、当然、上がりません。新しいシステムの増幅率はf'・Y/(1+β・f'・Y)で、結局1/βのままです。

あれ?それどころか、ゲイン余裕がゼロになってしまいました。(ボード線図では足し算で考えるので、β・Yがf'でさらに持ち上げられて、ゲイン余裕がなくなってしまいました)その上、ゲイン曲線が持ち上げられた分、ゲイン・クロスオーバー周波数(0dBとの交点)が、さらにG''へと右に移動してしまいまい、P(位相クロスオーバー周波数)と一致してしまいました。その結果、「位相余裕」までもゼロになってしまいました。

そして、ハウリングが始まってしまったのでした。マイクをスピーカーに近づけていないにもかかわらず、、、、友人たちへの面目も丸つぶれです。

なぜ、発振してしまったのでしょうか?

ゲイン余裕がゼロ、ということは、アンプの周波数が追いつかなくなる帯域、位相クロスオーバー周波数P(ヘルツ)においては、180度、信号が遅れて(逆相になって)、負帰還にかかってしまう(つまり正帰還)のですが、そのフィードバックゲインが1倍(つまり、ハウリングの時のような、自己強化的なポジティブフィードバックがどんどんかかり始める限界)に達してしまった、ということなのです。


これが、制御が発振する、ということで、「不安定」ということです。

制御の安定性を論じたい時には、ボード線図上の、ゲイン余裕と、位相余裕の2つを見ればいいわけです。

制御理論って、便利ですね。これなら、アンプ作りで失敗して友人の前で恥を書くこともなさそうです。

ちょっとまとめてみましょう。

伝達関数のすごいところ:畳み込み積分が、掛け算に変身。(周波数領域やs空間で考える)
ボード線図のすごいところ:伝達関数の掛け算が、グラフ上では足し算に変身。
ラプラス変換は線形性を保っている。(ブロック線図の分岐部での足したり引いたりがそのまま)
ボード線図を見れば、安定か不安定か一目瞭然


(数学の理論の中では、変数変換ということをよくやるのですが、このように、いろんな変換で、いろんなメリットを享受することができます。ラプラス変換には、まだまだ沢山メリットはあるのですが、抽象的な世界の中だけで、キャッチボールを出来るのって、学問として素敵ですね。)



さて、制御理論の基本事項をざっと確認させていただきました。これらの議論の前提を使って、「遅れることは悪いことだ」というのを、説明していきたいと思います。




<<遅れることは悪いことだ>>
さて、上の自作アンプの失敗談。実は、まだその後の、さらなる失敗の展開が待ち受けていました。友人たちの前で、アンプの理論の基礎を理解しないで恥ずかしい思いをしてしまった私。
でも、こんどは大丈夫です。アンプの増幅率は、1/βなので、負帰還が勝負なのだ、と理解しました。Aのところをいじっても増幅率的には効果がないのだ。よし、それならば、負帰還に操作をしよう。

そこで、またちょっと素人考え的な発想なのですが、βの横に、新しいユニットを付け加えることにしました。
イメージ 7

さあ、こんどこそは、(Aが十分大きい時は)増幅率は、1/β・m だから、前のアンプに比べて、増幅率をいじることが出来たのだ!

と、喜んでいたのもつかの間。実は、うっかりミスをやっていた事に気がつきました。新しく付け加えたこの m というユニット。実は、あわてて改良しようと思ったものだから、部品の選別を間違えて、「無駄時間」というユニットを付け加えてしまいました。

つまり、m が信号をうけとると、ほんのゼロ・コンマ・ゼロゼロゼロゼロ....ゼロゼロ何秒かの、タイムラグを作ったのちに信号を吐き出す、というユニットだったのです。(実は、実際の電気回路の世界でも、そういう無駄時間ユニット的なものは結構ありまして、バッファーといわれるものにしても、ロジック回路にしても、入出力の間に、ほんのわずかなリスポンスの遅れがあるのが普通です。)

うっかりミスで作ってしまったこの4号アンプ。どんな特性になってしまったのでしょうか。実は便利なもので、この、無駄時間ユニットのボード線図上の特性も、バッチリと分かっています。「無駄時間要素」は、すべての周波数帯域で、単に時間を遅らせるだけなので、無駄時間要素のゲイン特性は、ゼロdBのところの横一直線です。新しい大山4号のアンプもゲイン特性曲線は変わりません(もとの特性に0dBを足すだけ)。一方、無駄時間要素の位相曲線は、位相特性が、右肩下がりに急峻にどんどん落ちていく、そんな特性をしています。

イメージ 10

さあ、伝達関数(ブロック線図上の各ブロックのこと)の掛け算は、ボード線図上では、足し算になるんでしたよね。新しいアンプの位相曲線がどうなるかを考えてみましょう。間違って付け加えてしまった、mという新たな「無駄時間」ユニット位相曲線上で、もとの特性に付け加えると、、、なんと、位相余裕が小さくなってしまいました。そればかりか、高音帯域で、どんどん位相曲線が下がったせいで、位相クロスオーバー周波数(180度のところでクロスする周波数)Pが、左に寄ってきてしまいました。ゲイン余裕は、この移動した新しい周波数P’でのゲイン余裕を見なければなりませんから、おや、ゲイン余裕も小さくなってしいました!

ボード線図上で、ゲイン余裕とか、位相余裕とかが小さくなると、安定性余裕が小さくなり、システムが発振するリスクが大きくなるんでしたよね。


この、4号アンプで起こってしまったことをまとめてみます。

フィードバックが遅れる=安定性余裕が少なくなり、発振しやすくなる。

つまり、「遅れることは悪いことだ」




これが、心電図上の、「QT延長」が、不整脈に至りやすいのだ、ということの、制御理論的な説明です。(あくまでも、数ある理解の仕方の一つにすぎませんが

心臓の心電図は、心室心筋の膜電位の総和を見ているものです。QT時間というのは、心室心筋の膜電位が、興奮状態から、鎮静状態にいたるまでの時間が長くなっている、ということです。

心室心筋の細胞膜電位は、一旦興奮状態(電位が高くなるということ)に至ったら、これを、鎮静状態に引き戻そう(電位を再び引き下げてあげよう)と、ネガティブ・フィードバックで動作しています。QT延長というのは、この、鎮静状態に至るための、フィードバックが遅れている状態です。




少し、話をまとめてみましょう。

このブログの理論は、ごく微量の放射性セシウムによって、細胞も死なない、臓器も激烈なダメージを受けるわけではない。ただ単に、細胞のある機能(フィードバックに関わる要素)が、遅れるだけなのだ、という理論を説明しています。心室心筋の、カリウム電流の遅れにより、再分極が、遅れるだけです。なのに、なぜ、まずいことが起こってしまうのか?

これを理解していただくために、この補足記事では、「遅れるということは、安定性余裕が少なくなり、発振しやすくなっている状態だ」ということを、解説させていただきました。

ひとつ付け加えておきたいのが、QT延長がまずい、とは言っても、普段は、心電図上、QT時間が延長しているだけなのです。それだけでなにかまずい症状が出たり、細胞が沢山死んだりしているわけではなく、たとえば不整脈(発振状態)が常に出続けているわけではないのです。典型的なQT延長症候群というのは、心電図上の異常以外は、まったくもって無症状です。(安定性余裕が少なくなっているだけです)。しかし、何かの拍子、たとえばストレスがかかったり、急激な運動をしたり、急にびっくりして心拍数が上がったりした時に、心臓が「痙攣」してしまうリスクが高くなっていることが問題なのです。


このブログでは、心室心筋の発振のことをメインに論じていますが、直列接続の電位調節により精巧な機能制御をやっている臓器は、心臓以外にも、沢山あります。神経系、骨格筋、血管、消化管、眼の水晶体、膀胱や、可能性としては造血・免疫機能までも。このような、各種臓器の機能調節の制御の安定性余裕が小さくなり、発振(言って見れば「痙攣」のような状態)に陥ったら、どんなまずいことが起こりうるのでしょうか?現段階では、あくまで可能性だけの議論でしかありませんが、後段の別途補足記事にて、各論を議論いたしました。

ほんのわずかのセシウムなんて、と侮ることなく、できる範囲で結構なので、留意をしていただきたいと思います。


<<QT延長の、制御理論的見方以外の解説。医学的理解>>

QT延長症候群が、なぜ不整脈に至りやすいのかに関しては、この補足記事では、ざっと感覚的な理解をしていただくために、少し大雑把な数学的説明を試みましたが、本当は現代医学的な、幾つかの、もうすこし具体的で詳細な説明方法もあります。メカニズムの詳細は現在進行形でアクティブに研究が進みつつあり、たくさんの医学解説書がありますので、ご興味のある方は、医学関係の専門書や論文レビューをご参考ください。


補足的議論

イメージ 1


誤解されやすいポイント
----------------------------------------------------------------
外向きK電流が重要となる心筋再分極相(phase 2)では、外向きK電流用のチャネル(KvLQT1)が、微細なタイミング・コントロールを行っている。その他のKチャネル(特に内向き整流型KチャネルKir)は、これを邪魔しないように、絶対に閉じてなければならない。
-----------------------------------------------------------------



K-channelには、いろんな種類のものがあります。 大きな電流を通すもの、小さな電流しか通さないもの、整流機能のあるもの、ないもの。いろんなon/offの仕方をするもの。




それから、細胞内外のK濃度勾配について。
もしかしたらご存知の方も多いと思いますが、細胞内=高カリウム濃度、細胞外=低カリウム濃度、となっています。
でも、電位のことを見ると、細胞内には逆に陰イオンが過剰となっています(図のAというのが、陰イオンを指します)。

Kチャネルが仕事をするとき、我々が理解しておかねばならないのは、ちょっと語弊もあり感覚的な説明になって申し訳ないのですが、濃度勾配と、電位勾配の2つのdriving forceがあるということ。

細胞内には、Kが多く、細胞外には少ない

だから、心臓の再分極時の外向きK電流、これは、KvLQT1チャネルがopenになれば、自然に、濃度勾配によって流れ出ていくだろう、というのは感覚的に分かってもらえると思います(図中のチャネルは、これに相当します)。

でも、別の見方をして、電位のことを考えてみます。実は、細胞内って、陰イオンが過剰で、電位的には、陽イオンを流れ込ませようとする方向も、また自然なんです。だから、内向きKチャネルなんてのもあって、(ある条件下で)自然に内向きにKを流すこともできるんです。(ここの説明は、本当は、正確にはKirなどに整流機能があるからでもありますが)。


上の方に述べた、KvLQT1対Kirの議論で、Kirがオープンで壊れたらどうなるか、という議論は、分かりやすく言うと、外にKを出そうと、みんなが頑張っているときに、ひとりそれと反対の行動をとって、全力でみんなの足を引っ張るチャネルがいたら作業が遅れるよね、という話をしています。


(余談)それから、これは近年わかってきたことですが、不思議なことに、Kirチャネルというのは、常にNav1.5というNaチャネルと挙動を共にしているのです。チャネルが生まれてから折りたたまれ、細胞膜に輸送され、役目を終えて分解されるまで、いつも一緒!大変不思議な挙動なのですが、心筋のイオンチャネルの開閉のタイミングを考えると、実に理にかなった挙動でもあることが分かります。そして、実は当理論を厳密に計算していく上で、この不思議な挙動が、イオンの流れを考えていく上で、とても大事な働きをしていると考えられます。詳しくは、後ほど議論してまいりたいと思います。






2015年11月補足):趣旨は変わりませんが、ほんのすこし、厳密性を加味して、細かい表現を変更しました。Kirの整流機能と細かい挙動に関しては、別途の補足記事を参考にしてください。

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