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この物語はフィクションであり、ここに登場する人名・地名・団体名、その他あらゆる名称は架空のものであります。
よって、本物語に対する、ご質問・ご要求・ご意見・訴訟に関する諸問題は一切お受けできません
楊楊は真夜中のハイウェイをライトも点けないで突っ走る、ジャッカルの背中でまたあの日の事を思い出していた。
楊楊がニコライと共にベトナム戦争を駆けずり回っていたときの事だった。
夜中の一時の休息時間。交替ずつ眠りに入る。
楊楊はニコライの傍らでいつも眠ることに幸せを感じていた。
大きな右手が、楊楊の頭全体を包んだ。
暖かな、そして柔らかなニコライ・・・。
でも此処は戦場。一時間もしない内に自然と目も醒めてしまう。
だがこの一時間もしない時間に天国と地獄が共存する境であった。
隣で休息している仲間は、絶えず次々とナイフで首を欠かれ、一人ずつ死んで行った。
闇の恐怖・・・周りには誰も居ない、そして音もしない。
そこに漂うのは恐怖と言う闇の音の無い世界。
自分の心の中にある「俺はこれで良いのか?と言う疑問・・・そして此処に居る理由は?」
と言う問い掛けだけが、何回も何回も繰り返して心の闇に問い掛けてくる。
そんな事を戦場の最前線で考えさせ、そして闇の恐怖を植えつけ、一人、ひとり、確実に殺していく。
音も無く。声も出さずに。
ベトコンのゲリラ戦法。
ある味方兵士は、恐怖で敵の地雷の中に突っ込んで死んで行く。
またある将校は、自分でM16アーマライトの自動小銃の銃口を口の中に入れ、引き金をひいた。
スイカのように砕け散った脳。
それを抱いて、笑って気がふれてしまった味方の兵士。
地獄だった。
誰もが誰も信じられず、己の持っている銃だけが最高の友だった。
だから、休息と言っても、本当は誰も寝ていない。
本当に寝た奴だけが、殺されて行った。
朝になったほうが安心する。
日の中では、絶えず進攻する。銃も相手の方に撃つことが出来る。
自分の心の中にでは無く。
そして闇の恐怖は無くなる。
ニコライはロシア系のアメリカ人である。
次第に部隊の仲間からの目が変わって行った。
時には、仲間から「お前の国の人間は良いよな!」
自分で戦争しないで、俺たちアメリカを侵略しようとしている。
こんなアジアの端くれで死んでたまるか!
お前の顔を忘れないぜ。ニコライ。
そして帰国できたら、俺はお前を殺す。
ニコライはそんな時、いつも俯いて笑っていた。
時には喧嘩もした。
でも最後にはニコライが相手の馬乗りになり、ナイフを喉仏に突きつけて終わっていた。
体に流れる血は違っていても、想う心はみんな同じなのに、どうして、
素直に仲間と認めないのだろうか?
自分の座る席ばかりを考えている人達よ、どの席が自分に適するのか?
そして、その前後には何人の同じような考えの人間が居るのか?
一歩外から眺めてみれば、滑稽極まりない景色にしか映らないのに。。。
楊楊も次第に戦場の中で、子供とは言え、銃とナイフの使い方を自然と覚えて行った。
そして、どうすれば人を殺せるのかも。。。
死ぬという事。
楊楊はこの頃からずっと思っている。
「肉体が死ぬことは一瞬の出来事」ちょっと痛いだけで、怖くも痛くも辛くも無いよ。
本当に怖くて、悲しいのは、自分の心が死んでしまう事。
信じている仲間に裏切られること。
自分の掲げた正義が力でねじ伏せられて、そして自由が奪われてしまうこと。・・・なんだ。
だから、正しいことを正しい・・・って言える世界。
皆が争いをしないで、いつも笑顔で居られる世界。
そんな世界で暮らしたい。そして眠りたい。
そのためらならば、どんな苦しいことでもする。
ニコライのためにも。
戦争も泥沼状態に突入し、アメリカの実質上の敗戦が濃厚となった。
アメリカ兵士は全て、このアジアから撤退を始めていた。
ニコライと楊楊も引き上げの船に乗っていた。
みんな帰りの船の中は賑やかな笑い声で満ち溢れていた。
夜の闇も幸せの闇で、みんなゆっくりと安心して眠ることが出来た。
だが、ニコライは寝ていなかった。
まだここは俺にとっては戦場だ。何時殺されるのか、リンチに合うのか分からない。
ニコライは絶えず今まで使っていたナイフを離さなかった。
楊楊にもその恐怖感は当然伝わっていた。
彼女は今まで米兵が殺し合っていたアジアの人間である。血が違うと・・・。
彼ら米兵は帰国すれば、当然のように本国では英雄扱いされ、そしてその後は有名人、勇敢なる人達。
就職もそして生活も、安定して暮らせるものと思っていた。
しかし、実際は正反対の生活を余儀なくされていた。
彼らは殺人者、気違い扱いをされて、就職どころか、日々の暮らしの食べ物さえ事欠くような生活をさせられた。
戦争孤児・・・。本来は戦争によって親が居なくなった子供の場合に使うが、
しかし、戦争によって全ての幸せを崩され、そして死の戦場から帰ってきたのにも係わらず、
誰にも蔑視されてしまう。
人殺しの集団と。
本当の戦争孤児は、戦争帰りの勇敢な兵士だった。
ある者は、強盗、殺人、そしてドラックに身を滅ぼした。
またある者は、また戦場に志願して自分の居場所を求めて死に向かう兵士もいる。
ニコライは十字勲章を2つも受けた。
英雄であり、勇敢を讃えられて、そして暖かな日差しの真ん中で暮らしていける筈だった。
米兵を25人助けた。死の銃弾を掻い潜って。
アメリカ人としての誇りを示すために。
でもそんな十字勲章なんて物は、米国内では骨董品の価値も無く5$にもならなかった。
血と勇気の徴の十字勲章が。。
時代の中で、大きな流れの中に紛れ込んでしまうことは、現在社会の我々の生活にも多々あるだろう。
社内孤児。家庭孤児。・・・同じように、孤独な孤高の人は居ないだろうか?
決して自分の大切な人達を孤児にしないで欲しい。
その人はとても傷付いている。
誰かに手を差し伸べているのに、みんな彼らを無視してしまう。
何故我々は、彼らを無視するのだろう?胸に手を当てて考えてみよう。
きっと、何かの答えが見付る筈だ。
そんな時ニコライはハーレムノ交差点の角から二軒目ある、
JOHN NICKELの花屋の前であいつに会った。
あいつはニコライにぶつかり、胸のポケットにフランス行きの航空券と$1000の入った封筒をねじ込んだ。
フランス・・・其処にしかニコライの生きる居場所は無いと・・・・。
ニコライは翌日、フランス行きの飛行機の中に楊楊と居た。
フランスの地下組織、レジスタンス。
第二次世界大戦以来、依然としてフランス国内の地下組織は存在する。
現在は世界のテロや犯罪の闇の警察組織として生まれ変わっている。
ニコライは、フランスのバステューユ広場の裏手にあるミッシェルの店の前に楊楊と立った。
バステューユ・・・中世の頃は市民革命の本山。そして城塞都市。そして監獄。
いまは地下組織と、世界の犯罪組織がひしめく裏の街。
昼間は、観光客などで華やかに賑わいを見せているが、
しかし、夜になるとこの街は一変し、犬一匹も歩かない、そんな危険地帯。
警察官も昼間は4人のチームで観光客のために警備をするが、夜は犯罪者しか中に入ってこない。
朝になれば、毎日誰かが道路で血を流して死んでいる。
死臭のする裏通り。
そこにミッシェルはあった。
真夜中の2時。バステューユ広場の裏通り。
闇が広がる。街灯は全て壊されている。
ミッシェルの前に、大きな男が吐しゃ物と汚物に溺れて寝込んでいる。
いや、死んでいるのかも知れない。この1時間ばかりニコライは観察していたが、全く動かない。
ニコライはその男に近づいた。そして5$紙幣一枚と、十字勲章を一つ渡した。
男は目を見開いた。そして酒臭い声を口から発した。
ニコライか?
ニコライは黙ってうなずいた。
男は、ただ一言。「明日の夜中の2時にまた来い。」と。
ただし、これを持って行け。明日、呼び止められた奴に見せろ。
ニコライの右手の中にマッチ箱を突っ込んだ。
・・・箱のデザインは、ハートの真ん中に矢が刺さっているものだった。
そして最後に男は言った。俺を思いっきり蹴飛ばせ。
警察とロシア系組織が俺たちを監視している。
ミッシェルが見える通りのコーナーの車の中に、そして見上げた斜め後のビルの屋上に。
男の瞳の中に映りこんでいた。
ニコライは思いっきり男を蹴飛ばした。
男は少し宙に浮き上がり、そして気絶した。
今夜は最高に冷える。フランスの冬は長く、そして日照時間が短い。
人々は地下街とか暖かな店から出てこない。
外に居る人間は、こじきか警察、または観光客を目当てにするコール・ガールだけである。
真夜中の2時、ニコライは楊楊の右手を握り締めて裏通りを歩いて、
ミッシェルの少し手前の所まて来た時だった。
背後から人の気配に、ニコライは、右のポケットの忍ばせたナイフを握り締めた。
背後からの軽快な足音と可愛い声・・・・。
「ねぇ、おじさん・・・お花買ってくれない?」
こんな時間に花売りの小娘。。。これが合図。?そんな訳は無い筈だ。
ニコライはその花売り娘に振り返った。
ブロンドのショートヘアーをしたエメラルドグリーンの瞳の可愛い少女が其処に立っていた。
「ねぇ、お花買ってよ〜」
ニコライは右手に握ったマッチ箱をその娘に見せた。
ごめんね、おじさんお金無いんだよ。。。ホラ。ネ。
少女の瞳が一瞬光りを帯びた。
ニコライね。少女はポツリと話した。
私はjoyよ。ミッシェルは私の母さんがやっているお店。
付いて来て。
joyはニコライと楊楊に来るように促した。
・・・続く・・・
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