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書庫ショート小説「あいつ」

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本物語はフィクションであり、登場する人物名・団体名・土地・その他の名称に関してのご質問・ご意見・ご要求・訴訟に関しては一切ご容赦願います。

第三話・・・vol.2


柔らかな日差しが智子の全体を包んでいた。
何時からだろう、こんな優しさに包まれているのは。
ずっとこのまま居たい。智子は繰り返し、夢の中で思っていた。
そうあの日の事。この浜辺で永遠を誓った日。
子供の頃の家族との楽しい思い出。
学生時代はちゃめちゃだった頃。
はじけ飛んでいた盤記者の新人の頃。
そして・・・暗闇。孤独。恐怖。痛い。痛い。
突然、声を張り上げた。叫び。心の底からの叫び。
何も聞こえない。全身がねっとりとした汗にまみれていた。
ここは、警視庁特別処置室。
通常、司法解剖をするために、地下にその設備及び霊安室が備えなれている。
しかしここは、警視庁特別捜査官用の施設。言わば秘密の処置室。
何人も同じような怪我をしている人間が運び込まれていた。
ただし、お互いに顔を合わせることは無い。
みんな一人づつ、誰にも会わないようになっている。
彼らはチームで行動することは無いのである。
よって、特別捜査官どうしが持っている情報が不要になったとき、
その者の指名は終わることもあり、また囮としてお互いを捜査しあったり、
殺しあったりすることは日常茶飯事である。
それは彼らが、警視総監の個人的な警察官だからである。

使い捨て。
現在の世の中には、この使い捨ての製品や超激安の機能する製品が山のように氾濫している。
しかし、製品はそれなりに機能し役に立つものばかりである。
ただし、その機能が不要になった場合、人はそれを訳も無く捨ててしまう。
それは安いからと言うだけの意味ではない。
不要になったからである。
そして、また必要なときに、その機能の物を買う。
安いからと言う安直な理由で。
人間の世の中には、決して不要な物など存在しないのである。
全てが必要不可欠なもの。
その時その時の、間に合わせ感覚で物事を決めて、その先を垣間見ようともしない現在社会。
今が良ければ全て良い。
本当にこれで良いのだろうか?
人間に対しても同様に、社会自体が扱っている。
だから、人が使い捨てになっている。
競争社会としての倫理としては、お粗末ではないか?
人は死ぬために生きている。
いや、殺しあうために生き抜いているのかも知れない。
誰が、誰を使い、そして見捨てるのか?
そんな権限は誰にも無い筈で、ある特定の組織、例えば会社とか団体とか、
その小領域でのピラミッドに居ることが、人間が安心する枠組みなのか?
これでは、明日が見えない、いや、明日を見ないことになる。
明日があるから、今が在るのに。
一歩、一歩、みんな前を向いて歩いているのに、
それ自体を忘れかけている。
誰のために、生きているのか?何のために・・・・。

「貴女は死んでいるかと思ったわ」・・・・。
突然天井から女の声が響いた。
とても優しかった。
暖かい声だった。
家族のような、自分を労わってくれる・・・その声。
女は勝手に話を進めた。
貴女は自分のあの最後を思い出したのね。
記憶は戻った、と考えて良いわね。
あっ、ごめん。
声は出ないよ。声帯無いから。
あと、頭の中にGPS機能のマイクロチップ、埋め込ませてもらったからね。
何処に居ても分かるようにね。
どこで死でも直ぐに分かるから、今度は自分の死体を処理してくれるのか、
または、自分をまた抹殺する時の居場所を突き止めるためか。

智子は分かっていた。あの時、自分の喉に強引にタオルを突っ込まれたことを。
覚せい剤を注射されたときの微かな記憶。
直ぐに別の世界に連れて行かれた。
痛くなかった。
何をされても。
突然涙が溢れてきた。
そして全身がまた震えだした。

その女は上から見下ろしていた。
コートネーム「りとる」。
この特別捜査官用の処置室の医者である。
彼女自体、皇室を狙った極左集団による大きなテロとも言える事故に遭遇し、
左足をなくしてしまった。そして、過去の記憶も。
彼女が此処に来たのは、医大生の時のあの事故の入院からだった。
そのときから、りとるはこのビルから外に出たことが無い。
このビルが彼女の世界なのである。
全ての特別捜査官と接触しているのは、警視総監と「りとる」だけである。
彼女が街をうろつけば、彼等特別捜査官からりとるは狙われてしまう。
自分の身を守るために。彼らはりとるを殺す。
松葉杖の音が行ったり、来たりしていた。
智子はまた眠りに落ちた。

何日経ったのだろう。
機能と同じ日なのだろうか?
今日は何月なのだろうか?
りとるは智子の目に巻いたガーゼを取り外した。
智子はこの時から「さき」と呼ばれた。
さき・・・さぁ、目を開けてみて。。
りとるは優しく言った。
怖かった。また現実の世界に戻される。
自分の醜い姿を自分で確認しなくてはならない。
人は誰でも、自分に汚い部分は隠したい。
人には良い自分を見せたい。
でもそれは本当の自分では無い。
人は自分の本能を心の壁で押さえつけている。
体に倫理とか常識と言う服を着せることで、自分の本当の欲望を抑えている。
それが生きて行くためのルールなのか?
そんな服は脱ぎ捨てられないのか?
この社会と言う倫理に生きていくためには。

自分の理想に掲げた目標。
女性としてトップの社会部報道記者になる。
泉名建設大臣。
絶対に、K國際空港の汚職に関する事件を暴いてやる!。
ペンの力を見せてやる。
こんな場所にいるのが本当の自分じゃ無い。
でも、どうしようも無い現実が、「さき」を見詰めていた。
このまま生きるしかないのか?
何処に行けば良いのか?
此処に居る私は誰れ?誰なの?
さきはりとるを不安な瞳で見詰めていた。
スリムな体の可愛い顔がそこには在った。
笑っている。私を見て。
さきは声を張り上げようと思った。
が止めた。
自分で声が出ないことを悟った。
現実の世界に一歩、足を踏み入れた。

・・・続く・・・

第三話・・・あいつ

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この物語はフィクションであり、登場する人物名・団体名・土地・その他名称に関する事項は全て架空のものであります。
よって、本物語に対する、ご要求・訴訟・ご質問等の全てに関してはご容赦願います。

第三話

佐々木智子はずっと隠れていた。息をするのも、絶え絶えに、すこしづづ。
呼吸による振動が空気に伝わらないように。
何時間経ったのだろう。既にしゃがんでいる足のつま先に感覚が無くなってしまった。
雨がまともに智子の細い体に叩きつける。
いま、あいつがこの場所に出てきたら、多分逮捕出来ないだろう。
右手に握り締めた、ワルサーPPKサイレンサー付き、6mmスーパー・スナイパー。
ターゲットスコープさえ、寒さで震えて狙いを定める事が出来ない。

警察庁特別捜査官。
名前といい、響きといい、エリートのように感じるかもしれない。
しかし、その実態は誰にも分かっていない。いや、分かっては困る。
身分、所属、給料、氏名、住所・・・ありとあらゆるものに関して、秘密裏に処分される。
彼女は、川角物産の海外事業部北米課担当のバイヤーと言う肩書きを持っていた。
従って、名刺、給料の振込み、定期券までも架空の会社に所属して、
健全な社会生活を送っていることが、彼女の表の顔の全てである。
トップは警視総監。言わば、警視総監の個人的な警察組織と言った方が良いかもしれない。
従って、彼等特別捜査官は、合法的に処理できない諸問題に関しての、掃除屋と言える。
その方法は、脅迫・麻薬の使用・薬漬け・暴力行為・拳銃での殺人・色仕掛け・リンチ・・・
・・・と言う具合に落とすためならば、
何でも有りの、闇の法に守られた警察組織。
それが、智子の所属する警視庁特別捜査官である。
所属している人種はさまざま。下はコギャルから上は80歳の年寄りまで。
また身体障害者・精神病保持者・・・・ありとあらゆる人種で構成されているが、
チームで行動することは無く、一匹狼で闇の法の元に裁きを与える役目を担っている。

智子があいつに会ったのは、今日と同じ雨の夜だった。
智子はそれまで、Y新聞の政治部番記者をしていた。
ある政治家を追っかけていた。
K国際空港に関しての談合入札に関する件で、
当時の泉名建設大臣がどうも一枚加わっていたらしいとの情報を得ていた。
泉名建設大臣は、総理総裁選を前にして全与党をまとめている最中であり、
その私設秘書が政界を大手を振って歩いている時代であった。
それだけ恨まれることもするし、ライバルを蹴落とすためには、
何でもやって来た。ただそれは秘密裏に処理されていた。

智子は赤坂の与党政治家の隠れ蓑の料亭である
吉井から出てくる泉名大臣をひょんなことで目撃した。
彼女はその時付き合っていた、TTVテレビの人気キャスター星川と
ちょうどホテルから出てきた時だった。
智子の真ん前にたった一人で佇む泉名建設大臣が、何か大きな手提げの紙袋を持っている。
でも顔つきがおかしいことを、智子は見逃さなかった。
彼は泣いていた。何故。。何故、あの沢山の政治家を死に追いやった、泉名大臣が泣いているのか?
暗くてよくは分からないが、紙袋の下からポタポタと何か滴のようなものが垂れている。
それも大量に。。。血・・・だ。
中は・・・・頭部??。確かに頭部。。形で分かった。
誰の・・泉名大臣は、その袋を抱き締めた。
そして、突然、彼の妻の名を叫んだ。
たった一瞬だった。たったの一瞬、智子は泉名大臣と目が合ってしまった。
その時彼は、人間の顔ではなかった。
憎悪に満ち溢れた、獣が心の奥底から叫ぶ憎しみ。
泉名大臣は、その場を駆け抜けていってしまった。
その背後から、彼の私設秘書が5名、泉名大臣を追い駆けていった。

翌日、「星川キャスター謎の変死」が、各新聞のトップを飾った。
智子は、次は自分だ。
と悟った。彼女は、泉名大臣のやり方を熟知はしているものの、まさか自分にその闇が襲ってくるとは
思いも寄らなかった。
次の日、何時もと同じように自分のデスクのに座ってコーヒーを飲み、新聞を読んでいる筈だった。
でも気が付いたときは、泉名大臣の前に椅子に縛られて座っていた。
体の芯から襲い来る恐怖。
死のピアノ線が一本、一本、切られていくような、恐怖感の中で喘いでいた。
そして気が付いた。
雨の中の闇だった。路地裏のゴミバケツの中に体があった。
ぬるぬるしたものが体全体を覆っていた。
暗くて何も見えない。でも生きているようだった。
突然の恐怖。。。大声を出した。。つもりだった。
聞こえない。
何回も声を張り上げた。つもりだった。
聞こえない。そう彼女は声帯を潰されていた。
両手を掻き毟るように、動かした。つもりだった。
右手はからだの各部分を探し当てた。
左手・・・感覚が無い。凍えているせいか?
いや違う。指の感覚が無いのである。
全て潰されていた。ぶらぶらと手の甲に張り付いていた。
また気絶した。

・・・つづく・・・

完結編・・あいつvol.5

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この物語はあくまでもフィクションであり、登場する人物、団体、土地、その他の名称全てに関しての
苦情・訴訟・ご要求に対してはご容赦願います。

突然、地鳴りのような、大地震とも思われる爆発が起こった。
史江は政雄にしがみ付いた。暫くぶりの熱い温もり。
そしてもう一回の爆発。
原子炉のメルトダウンが始まりつつある。
政雄はそんな気がしていた。
原子炉自体に大きな振動が連続的に発生してきた。
時間が無い。
原子炉に冷却水が無くなり、燃料棒の核反応が異常促進されて、
核反応が更に促進されているためである。
日本が潰れる。

中央制御室で千田課長は原子炉核反応温度モニターをずっと見ていた。
先ほどから温度の上昇率が減少して来ている。
その理由を探していた。
何故。原子炉の冷却水は殆ど無いはず。
至って、この期に及んで冷静さを保っていること自体、自分はトランス状態に入っているのか?
そう思わざるを得ない。しかしながら、原子炉の核反応は着実に眠りに付こうとしていた。
何故。
あらゆる諸条件を組み合わせての仮定を積み上げても、この結論には至らない。
何処からか冷却水が逆流・・・。いやそれは無いはず。全ての冷却水はホットラボの天井を突き抜けて、
タービン建屋に流れ込み、全ての施設が放射能汚染されているはず。
では何故。。。

関越高速道をひた走る広瀬所長は、吹雪に見舞われていた。
ちょうど春スキーに行く車の中に紛れ込んでいた。
そして、大渋滞。
前方で車20台の玉突き事故。これ以上は進めない。
しかし、出口も無い。
広瀬はこのとき、一本の電話を受けていた。
それはT電力TOPからの直接の電話だった。

広瀬君・・・もう直ぐ夜明けだ。
報道関係にもこれ以上沈黙は出来ない。
いいね。彼・・・あ〜、千田君って言ったね。
彼にするよ。この代表(いけにえ)は。
君は、もう現地に行かなくても良い。
何処かのインターで降りて、本社に帰りたまえ。
本日の朝、8時に記者会見をするよ。
千田には連絡するな。
もう良い。K-5の現場はつぶす。
たかが一つの原発。
汚染の範囲の確定と、除染、並びに通産省への連絡は藤原が既にやっている。
住民対策として、大岸広報部長をヘリで行かせたから。
彼なら、住民の運動をつぶせるだろう。それなりの金をつかませている。
ちなみに地元の林組にも出てもらっている。
金は幾ら掛かっても良いんだ。
問題は、今回のメルトダウンを安全な事故だと日本国中に知らすことだ。
そうじゃないと、我社は潰れるよ。
飛山原子力審議官にも承諾を貰った。

全ての原因は一体なんだったのか?
機器的な問題、これはコストダウンしたために強度とそれに対しての仕様のアンバランスにより
発生した今回の事故。
メーカーに責任は無いのか?
無いと言えば嘘になる。しかし、それをそそのかせたのは、我々T電力本体だ。
定期検査の費用を圧縮しないで、通常通りに定期検査を実施していれば。
広瀬は定期検査の圧縮して浮いた費用が、次期通産大臣の椅子を狙っている
中野代議士に渡っていることを知っていた。
T電力社長は次期経団連会頭を代償に約束してもらっている。
あの黒い金が、俺の発電所を死なせた。
そして俺の後輩でもあり、娘の婿である千田を罪人にして、社会的に抹殺しようとしている。
これが日本の会社組織だ。
これが出世する人間が、火の粉を払って自分だけが生き延びる術だ。
俺もそうだ。そのために、娘を。。。

飛山通産省原子力審議官は、現在長岡まであと10分と言う位置に居る。
しかし、予期せぬ春の大嵐。乱気流になり、ヘリは安定性を失いつつある。
前が全く見えない。計器飛行も気流の影響で不可能。
これ以上の飛行は困難と思われた。
仕方なく、長岡自衛隊駐屯地に緊急着陸の要請をパイロットが打診中であった。
このとき、ヘリの無線が入った。
通産大臣からである。
飛山君、もう良い。
T電力の社長と話したよ。
後で話すから、君は戻りなさい。
あとは、T電力の問題としよう。
政府は全く関与せず、知らなかったという事にしようではないか。
この偏西風の影響では、東京には汚染が広がらないであろうと、
T大学の原子力研究所石崎教授がコメントをだす。
とりあえずのカバーはしたよ。

飛山は体が崩れ落ちる感じがした。
我々は一体、何のために、誰のために、こんなリスクを負って
安全と言う、獣に対して挑戦しているのだろうか。
そして、これでは現場の発電所に居る奴等は、犬死では無いのか?
それが日本の安全なのか?
いけにえを出して、そして、その場所を永遠に葬ることで、
全てを偽り、これからも生きていくのか?
俺もその片棒を担いでいる。
しかし、権力のあるものには逆らえない。
逆らえば、自分の社会的な死が待っている。
俺は代議士になる。
その夢は果たさなくてはならない。
親子三代続いた代議士の家系。
親父が脳溢血で倒れてから、飛山家は政治家を絶っている。
俺が再興しなくては。
この件が片付いたら、大臣が与党の公認候補として、
次回の衆議院選挙に比例区として10位に入れてくれる。
そのためには、現場の彼等は俺には関係が無い。
そう思うしかないのだ。飛山は携帯を握り締めた。

誰にも欲望は有る。
しかし、その欲望は一体何のためなのだろうか?
誰に対してその欲望の首をもたげるのだろうか?
自分のため・・・いや、そうでは無い筈。
そこには、自分が絶対に、死を掛けても、プライドを捨てても、
守りたい人達が居る。
その人達の事は、何も考えず、全て自己完結して、それが愛と間違えてしまう。
人間は歴史に対しては、懐疑的であるが、それから学ぼうとはしない。
だから、いろんな事に対して間違いをまたする。
二度とそんな事はしない。
よく聴く言葉だ。
でも本当にしないか?いや、またするのである。
何故か?失敗から人間は何も学ぼうとしないからである。
だから、人間の誕生から現在まで、思惑は別ではあるが、
人間としてのモラルを忘れて、自分の都合の良い、大儀名文を見出して他人を傷つける。

原子炉核反応温度は着実に低下している。
政雄は、もしかしたらと思った。
HCU(緊急水圧式原子炉制御装置)の手動操作である。
しかし、それは原子炉の真下に位置している、HCUを一つづつ、スイッチを入れての操作であり、
また原子炉の反応状態により、核反応が高い箇所からHCUを操作しないと、
核反応が逆にアンバランスになり、原子炉自体の温度分布が異常になり、
より核反応を促進させてしまう。
一旦HCUを作動させた場合、それは原子炉の死を意味する。

あいつだ。
あいつを、政雄は確かにサービス建屋に入る時に見た。
でも何故、こんなところに。
あいつはIAEAの機関に属し、確かイラクに居るはず。
先日もテレビに出ていた。
でも此処に居た。何故。。。。何故。
あいつは何のために、此処に居るのか?
誰のために、そしてどうして。。。。
分からない。

更に爆発は続いた。
もしあいつだとしたら、あいつはHCUの手動スイッチを一つづつ入れているはず。
あいつならば、確実に荒れ狂った原子炉を沈めることが出来るはず。
でもそうしたら、あいつの体は、完全に放射能汚染で廃人になってしまう。
耐え難いことだ。みんなのエゴのために。
皆で取り込めば、直ぐにこの状態も最小限の災害で防げたはず。
でも、社会と言うものは、そうはなかなか行かないものである。
バカな奴ほど前に出たい。目立ちたい。他人の足を引っ張って、時の人に上手く擦り寄る。
そんな事でしか、自分を売り込めない。
自分の能力が無いことを良く知っているから。こんな方法で。
でも最後に残るものが、一体何であるかは知らないのだ。

また爆発した。この爆発は、HCUを強烈な核反応をしている原子炉燃料棒に挿入しているために、
発生する、バックドラフト現象であると政雄は推定した。
あと何ユニットのスイッチを入れなくてはならないのだろう。
あいつ一人では到底出来ない。
でも自分が、神の火に近づける術が無い。

最後の1ユニット、あいつはHCUの手動スイッチを入れた。
その時突然原子炉の外郭にひびが入った。
メルトダウンである。
あいつは、汚染している冷却水の中に身を沈めた。
巨体な爆発。
神の火は唸り声を上げて、この地球に放たれてしまった。
新たな生命が誕生した。
放射能汚染と言う生命が。
 
千田課長は、最後の手段を考えていた。
もはや、彼の頭には、妻の笑顔しか浮かんでいなかった。
そう、彼女の両目が開いていた、あの美しい、優しい日々。
千田は技術課長として、そして、最後のこの柏崎原子力発電所5号機運転課長として、
中央操作室コントロールパネルの中に、赤いスイッチで鍵付きの、
透明なアクリルカバーで覆われた突起物に近づいていた。
吉野運転員は千田の奇妙な行動を察知した。
千田課長はやる気だ。

吉野は迷った。この方法しか日本を救う方法は無い。
しかし、俺もこの場に居たことにより、この最悪の手段を容認して仕舞うことになる。
この世界では、俺も働けなくなる。
仮にもK-5(柏崎-5号原発)の運転員。エリートだ。
どこの発電所に行っても、すぐに主任になれる。
実は、広瀬所長からの話で、K電力の美浜原発での運転主任に抜擢されていた。
エリートだ。
阻止して、別の方法を模索しなくて良いのか?
吉野はすぐに打ち切った。
彼の新妻の言葉・・・自分に正直に生きて下さい。
それが私の夢だから。そして私の生きがいだから。
みゆき。・・・吉野は本当の我に帰った。
今は、俺はK-5の運転員だ。
この発電所を守ることが、人類を守ることが俺の指名だ。
吉野は千田の背後に回った。
誰かが、千田の行動を阻止することを暗黙の内にカバーしたのである。

東京では、朝6時のNHK緊急ニュース速報が全国で流れていた。
何時もと変わらぬ時間の中、誰もが何時もと変わらない、朝ごはんを食べ、
家族でおはようの挨拶をして、何時もと変わらない電車で通勤をして行く。
誰のために、何のために。
愛するものため、そしてそれは自分のため。
テレビの前で、通産大臣が訳の分からない説明をして、その後T電力社長、
そして広瀬柏崎原子力発電所長が技術説明と経緯報告をしいてた。
K-5は安全に停止作業に入っています・・・・・・。
放射能の汚染は安全レベルです。。。。。
テレビがモノトーンになって行った。

千田は全てを理解した。何が一番大切なのか。
自分が本当に守るべきものは誰なのか。
それは自分であることに、いま始めて気が付いたのだ。
まず自分があって、そして人がある。
人のためは、結局は自分のため。そしてそれが愛する人のため。
自分がクリアーでないと、本当に人を愛せない。死を賭けても。
自分が自分に誇りを持てないで、愛する人を本当には愛せない。
また愛する人も、自分を本当に愛してはくれない。
死は肉体のものであり、精神としての死ではない。
本当の勇気、それは自分ために使うのが最後の一分である。

千田は鍵付きのスイッチを廻した。
原子炉建屋にコンクリートが一気に流れ込まれた。
原子炉全体をコンクリートで覆い、原子核反応の低下と放射能の減速を促進する。
数分で核反応が停止するだろう。
その後の処理は、後で考える。
これから生きていく、俺では無い人達が。
千田はそのスイッチを離さなかった。
自分の意思で。
これで良い。これで日本を救える。
陽子。俺はやったよ。

あいつvol.4

イメージ 1

ここに登場する人物・名称・土地に関しての問題・その他につきましては、フィンクョンであり、想像の域内で記載しました。
よって、下記内容に付きましての苦情・訴訟・またいかなるご要求に対してはご容赦願います。

ちょと、横道にそれてみよう。
アメリカは何故、中東諸国に対して戦争をしているのだろうか?
イスラエルの諸問題。パキスタン、そしてイラク。
北朝鮮の問題は、ちょっと上記と異なる問題であるが。
アメリカは石油産出国である。現在、自国の産業の石油は自国で賄えている。
しかし、2100年程度にその自国から産出される石油は枯渇に向かうとの見方が大きい。
その場合アメリカは、かつての第二次世界大戦の日本のように、
石油を他国に依存して巨大に膨れ上がった、軍事産業をどうにかしていかねばならない。
中東・・・特にイラクの石油埋蔵量は未知数である。
この国を制御下に置きたいと思うのは、アメリカにとっては未来の死活問題である。
戦争は石油の奪い合いである。強いものが石油を制覇して行く。
このような見方をしていくと、やはり、石油と言うものが
地球レベルの資産として、最も価値のあるものとも考えられる。

日本における政府の保護産業は各種存在するが、しかし、石油産業ほど、政府に保護され、
そして、末端のガソリンスタンドの経営者までが、いわばお役人的な立場で、
ガソリンスタンドの機器メーカー、ドリンク、タバコ産業の各種サービス会社に対して、
いわゆる、アンダーターブルの話(ここでは、賄賂、バックマージンに付いての話し合い)を
最初にする業界はめずらしく、日本の典型的な保護産業の一つと言える。

政雄と史江は原子炉建屋に急いだ。原子炉の炉心冷却水が大量に洩れている。
神の火の原子核反応は、人間の制御下から解き放たれて、神の手の移ってしまったのだ。
メルトダウン(原子炉の溶解)が始まる。地球が溶ける。
想像を超えた、大爆発が起った場合、放射能の被爆は、偏西風に乗って、
東北、関東、そして北海道を、約5分後、また中部、関西、四国は10分後に、
中国地方・九州は20分後に起こり、放射能の雨を降らせる。
日本は沖縄を除く全土が放射能汚染された国になってしまう。

唯一阻止する方法は、HCU(水圧式緊急炉心制御装置)の作動しかない。
政雄は思っていた。
千田課長はHCUのスイッチは押さないだろう。
誰を守るのか。そして、誰のために、ここに、いま生きているのか?
自分の大切な事人のため。
確かにそうだ。しかし、選ぶ道が違っていないか。
自分に大切な人が、選んだ方法で幸せになって、再び、笑顔を見せてくれるのだろうか。
政雄は考えていた。

千田課長。T大学トップ卒業のエリート。
彼の妻は盲目になってしまった。そうあの日から。
それは、雨の日だった。この柏崎市で。
昔は仲間だった。何でも話し合える、原子力産業に対して、千田と政雄は同じ夢を描いていた。
俺たちが日本の原子力産業を変えて行く。

でもあの日から変わってしまった。
それはありふれた休みの時、街に買い物に出た時だった。
階段を降りようとしていた時、後ろから子供達が走って、
彼女にぶつかり、そのまま階下に転落した。
それっきり彼女の目は光を見ることが出来なくなった。
はやく本社に戻って、何とかしたい。
まだ淡い夢を千田は見続けている。
そう、妻が再び笑顔になってくれるために。
彼女の笑顔を見たいために、千田はあらゆるものを切り捨てた。
政雄との夢も。

政雄はタービン建屋から原子炉建屋に向かう。
そして、唯一原子炉建屋とタービン建屋をつなぐ、ホットラボの緊急用の扉を握り締めた。
引いた。思いっきり。
扉の向こうに行けば、体は人間として組織を失う。それは死を意味していた。
体の中全てが放射能汚染を受ける。
扉は、漏洩した原子炉冷却水の水圧で全く開かない。
唯一、神の火に近づける手段が絶たれた。

・・・続く・・・

あいつvol.3

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下記の物語はフィクションであり、多分にデエウォルメと想像を交えて記述しています事を前提として、お読み下さい。
従いまして、本物語に付きましての苦情・訴訟・ご意見に関しましてはご容赦願います。


原子力発電所の構造は、原子炉(通常:原子炉建屋と言う)を中心に、その外側に、
厚さ1mのコンクリートの壁を隔てて、炉心の核反応を炉水に伝達し、これを沸騰させた高圧水の配管を
更に間接的に二次冷却水に熱伝達させ、この熱の蒸気によってタービンを駆動して発電する、
タービン建屋と更に中央操作室を中心として諸施設からなるサービス建屋から構成している。
通常、もしくは非常時では、この1mのコンクリートが放射能の汚染を防御してくれる計算値で設計されていおり
これは通産省の原子力安全基準に基づいて設計されている。
しかしながら、もしもの大惨事が発生し、原子炉の冷却水が無くなり、異常な核反応が起こった場合、
原子炉の神の火の制御は人間の手から、神の手に委ねられてしまい、途方も無い反応温度にまで到達してしまう。
と、同時に核反応により発生する放射能(放射能には二種類あり、その一つは原子レベルのものである。そしてもう一つは中性子の放射能であり、この放射性中性子は半減期(半分の強さまでに放射能が元帥酢のまでの期間を言い、通常自然化の放射能は、半減期は1sec以内である。)は無限大であり、一度汚染したら未来永遠に汚染が残留し、またその到達距離は1mのコンクリートなど、
もののすう秒で貫通し、防護の外に居る人間を襲ってくる。
(旧ソビエト、チェルノブイリ原発を思い出して欲しい)
この放射性中性子被爆は抑えようがなく、その危険度はまだ未知数である。
(かつての映画で、チャイナシンドロームを知っているだろうか?
これは原子炉のメルトダウンについての危機を物語った映画である。)

史枝は動けない。。。。炉水の放射能は無限大の計測値。既に炉水をサンプリングして来たスージー星川の動悸は激しく、そして天井から流れ落ちる炉水のシャワーを全身に浴びていた。
(かつて、東海村で放射能漏れが有ったことは記憶に新しい。
このとき直接汚染した作業員は、数日間の内に死亡している。
この件に付いては、単なる事故として封印されている。)
私も死ぬかも知れない。史江は全身に震えが走った。と、同時に逃げなくてはと思った。
が、何処へ?GE(ゼネラルエレクトリック社・・・原子力技術指導員で来日している)のスージーは動かない。

中央操作室のモニター画面を食い入るように、千田課長は見ていた。
広瀬所長に現状を連絡する電話を鳴らして、既に10分。
広瀬は東京本社での会合を追え、東京の自宅で就寝に付いた。
深夜の2時、千田から連絡を受け、社有車にて深夜の関越道を息もしないで走っている。
また通産省の原子力管理室にも連絡。
原子力監督官がヘリコプターにて派遣されたとの連絡も入った。

時間が無い。
千田は焦った。
もし炉心の一次冷却水の配管漏れがあれば、原子炉の核反応を抑えなれなくなる。
抑えねばならない。
その手段はまだ残っている。最後の切り札。
そう、HCU(水圧式緊急炉心冷却装置)の使用である。
しかし、この装置を使用した場合、原子炉は長い眠りに付かねばならない。
千田の本社復活は、その時点で無くなる。
自らが原子炉を停止することは、自らの首を絞めること。
つまり、永遠に現場回り、もしくは他の子会社に転属。
あと一週間で本社復帰の夢。消えうせてしまう。
他に無いのか?必死に悩む。が、しかし、無い。

政雄は史枝を救うべく中央操作室から走った。
通常サービス建屋から、タービン建屋を抜け原子炉建屋に行くのであるが、
それには全身をパンツから全て着替えなければならない。
そして3種の神器として、IDカード、フィルムバッジ、ガイガー・カウンターを持参して行かねばならない。
原子炉建屋での作業時間は通常3時間。それ以上は一日内で作業はしてはいけない。
定期点検では、そのために沢山の作業者が必要になってくる。
知識のレベルの差も大きく、このために、原子炉の中にスパナを置き忘れる等の不慮の事故が多発してしまう。

政雄は走った。
通常の作業着にヘルメットのみ被り、史枝のラボ(化学分析室)まで走る。
漏洩した炉水はすでに膝上まで来ていた。
史枝はスージーを抱きかかえつつ、作業台上にスージーを乗せ、中央操作室にインターホン連絡を取った。
が、インターホンは断線していた。
絶え間ない孤独と恐怖。
彼女の両肩に襲ってきた。
除染しなければ・・・史江は二次汚染領域の作業着の上から全身に、除染シャワーを浴びた。
彼女の肢体があらわになり、蛍光灯でそのシルエットが揺れていた。
水は更に増え続けている。
わたし・・・・終わりかな。。。
その時、政雄が飛び込んできた。二人は1時間と言う永遠の時間から再開した。

政雄は走りながら、原子炉の火を止めないとメルトダウンになることを分かっていた。
しかし、HCUは中央操作室からの制御と、原子炉の原子力棒の真下にあるHCUの手動スイッチしか作動しない。
炉心に行こう。政雄は思った。
史江は政雄の手を握った。私も行く。
頷いた。
ここから原子炉まで約10分。原子炉爆発までに間に合うか。
政雄のガイガーカウンターは異常値を検知して、悲鳴をあげ続けていた。
あと、何時間、俺達の命、持つのか?史江の両肩を抱き締めた。

千田は炉心の反応温度モニターと炉心のテレビモニターに食い入っていた。
広瀬所長は今越後湯沢のインターを過ぎたところ。携帯電話で本社の上層部危機管理室と連絡を取り合っている。
広瀬はある命令を受けた。・・・誰を代表(いけにえ)にするかね?広瀬君。
全身に汗が吹き出した。誰って・・・私ですか?広瀬は戸惑った。
君じゃぁ、責任は取れんだろぅ。ん〜、もっと若いの、出世に脂ぎっている奴、居ないの?現場に。
広瀬はもう一台の携帯電話を千田につないだ。

千田課長、HCUの作動許可をお願いします。
吉野運転員は叫んだ。
確かにそれしか無い。
でもそれをすれば、俺の破滅だ。
千田は明日の自分の椅子が気になっていた。
課長。。。吉野の声が遠くに聞こえた。

通産省原子力安全監督官の飛山はヘリコプター内から通産大臣に連絡中だった。
大臣、原子炉を停止して発電を止めます。良いですね。
大臣は、衆議院総解散で地元の選挙支持者との決起集会を終えて、連日の会議、料亭通いで
疲れきっていた。そしてこの惨事。
君の思うようにやれば良い。いまは選挙で忙しいんだ。それどころじゃないんだよ、君。
飛山君。・・・・代表をちゃんと、テレビでも分かるようにして置けよ。良いな。
飛山は、T電力本社原子力危機管理室の藤原室長に連絡した。

・・・続く・・・
完結まではちょっと時間が掛かります。ご容赦を。

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gery  funabashi
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