|
本物語はフィクションであり、登場する人物名・団体名・土地・その他の名称に関してのご質問・ご意見・ご要求・訴訟に関しては一切ご容赦願います。
第三話・・・vol.2
柔らかな日差しが智子の全体を包んでいた。
何時からだろう、こんな優しさに包まれているのは。
ずっとこのまま居たい。智子は繰り返し、夢の中で思っていた。
そうあの日の事。この浜辺で永遠を誓った日。
子供の頃の家族との楽しい思い出。
学生時代はちゃめちゃだった頃。
はじけ飛んでいた盤記者の新人の頃。
そして・・・暗闇。孤独。恐怖。痛い。痛い。
突然、声を張り上げた。叫び。心の底からの叫び。
何も聞こえない。全身がねっとりとした汗にまみれていた。
ここは、警視庁特別処置室。
通常、司法解剖をするために、地下にその設備及び霊安室が備えなれている。
しかしここは、警視庁特別捜査官用の施設。言わば秘密の処置室。
何人も同じような怪我をしている人間が運び込まれていた。
ただし、お互いに顔を合わせることは無い。
みんな一人づつ、誰にも会わないようになっている。
彼らはチームで行動することは無いのである。
よって、特別捜査官どうしが持っている情報が不要になったとき、
その者の指名は終わることもあり、また囮としてお互いを捜査しあったり、
殺しあったりすることは日常茶飯事である。
それは彼らが、警視総監の個人的な警察官だからである。
使い捨て。
現在の世の中には、この使い捨ての製品や超激安の機能する製品が山のように氾濫している。
しかし、製品はそれなりに機能し役に立つものばかりである。
ただし、その機能が不要になった場合、人はそれを訳も無く捨ててしまう。
それは安いからと言うだけの意味ではない。
不要になったからである。
そして、また必要なときに、その機能の物を買う。
安いからと言う安直な理由で。
人間の世の中には、決して不要な物など存在しないのである。
全てが必要不可欠なもの。
その時その時の、間に合わせ感覚で物事を決めて、その先を垣間見ようともしない現在社会。
今が良ければ全て良い。
本当にこれで良いのだろうか?
人間に対しても同様に、社会自体が扱っている。
だから、人が使い捨てになっている。
競争社会としての倫理としては、お粗末ではないか?
人は死ぬために生きている。
いや、殺しあうために生き抜いているのかも知れない。
誰が、誰を使い、そして見捨てるのか?
そんな権限は誰にも無い筈で、ある特定の組織、例えば会社とか団体とか、
その小領域でのピラミッドに居ることが、人間が安心する枠組みなのか?
これでは、明日が見えない、いや、明日を見ないことになる。
明日があるから、今が在るのに。
一歩、一歩、みんな前を向いて歩いているのに、
それ自体を忘れかけている。
誰のために、生きているのか?何のために・・・・。
「貴女は死んでいるかと思ったわ」・・・・。
突然天井から女の声が響いた。
とても優しかった。
暖かい声だった。
家族のような、自分を労わってくれる・・・その声。
女は勝手に話を進めた。
貴女は自分のあの最後を思い出したのね。
記憶は戻った、と考えて良いわね。
あっ、ごめん。
声は出ないよ。声帯無いから。
あと、頭の中にGPS機能のマイクロチップ、埋め込ませてもらったからね。
何処に居ても分かるようにね。
どこで死でも直ぐに分かるから、今度は自分の死体を処理してくれるのか、
または、自分をまた抹殺する時の居場所を突き止めるためか。
智子は分かっていた。あの時、自分の喉に強引にタオルを突っ込まれたことを。
覚せい剤を注射されたときの微かな記憶。
直ぐに別の世界に連れて行かれた。
痛くなかった。
何をされても。
突然涙が溢れてきた。
そして全身がまた震えだした。
その女は上から見下ろしていた。
コートネーム「りとる」。
この特別捜査官用の処置室の医者である。
彼女自体、皇室を狙った極左集団による大きなテロとも言える事故に遭遇し、
左足をなくしてしまった。そして、過去の記憶も。
彼女が此処に来たのは、医大生の時のあの事故の入院からだった。
そのときから、りとるはこのビルから外に出たことが無い。
このビルが彼女の世界なのである。
全ての特別捜査官と接触しているのは、警視総監と「りとる」だけである。
彼女が街をうろつけば、彼等特別捜査官からりとるは狙われてしまう。
自分の身を守るために。彼らはりとるを殺す。
松葉杖の音が行ったり、来たりしていた。
智子はまた眠りに落ちた。
何日経ったのだろう。
機能と同じ日なのだろうか?
今日は何月なのだろうか?
りとるは智子の目に巻いたガーゼを取り外した。
智子はこの時から「さき」と呼ばれた。
さき・・・さぁ、目を開けてみて。。
りとるは優しく言った。
怖かった。また現実の世界に戻される。
自分の醜い姿を自分で確認しなくてはならない。
人は誰でも、自分に汚い部分は隠したい。
人には良い自分を見せたい。
でもそれは本当の自分では無い。
人は自分の本能を心の壁で押さえつけている。
体に倫理とか常識と言う服を着せることで、自分の本当の欲望を抑えている。
それが生きて行くためのルールなのか?
そんな服は脱ぎ捨てられないのか?
この社会と言う倫理に生きていくためには。
自分の理想に掲げた目標。
女性としてトップの社会部報道記者になる。
泉名建設大臣。
絶対に、K國際空港の汚職に関する事件を暴いてやる!。
ペンの力を見せてやる。
こんな場所にいるのが本当の自分じゃ無い。
でも、どうしようも無い現実が、「さき」を見詰めていた。
このまま生きるしかないのか?
何処に行けば良いのか?
此処に居る私は誰れ?誰なの?
さきはりとるを不安な瞳で見詰めていた。
スリムな体の可愛い顔がそこには在った。
笑っている。私を見て。
さきは声を張り上げようと思った。
が止めた。
自分で声が出ないことを悟った。
現実の世界に一歩、足を踏み入れた。
・・・続く・・・
|