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前回の7.2CHで紹介したダリオ・アルジェントの『サスペリア』(1977)
日本では1977年の夏に『決してひとりでは見ないでください・・・』の キャッチコピーが当たって興収12億円を超える大ヒットしたホラー映画。 そのヒットで全く物語と関係ないアルジェントのジャッロ映画
「赤い深淵」を東宝東和は『サスペリア PART2』と邦題を付けて 翌年に公開した。本来は『サスペリア』の前に製作されていた作品だが これはイタリアでも評価が高く、ジャッロ映画としても良く出来た作品だった。 『サスペリア』で採用された音響装置「サーカム・サウンド」
これは1975年に東宝東和が公開したホラー映画の『デアボリカ』(1974)で 初めて使った音響装置で日本ビクターと協力して開発に1億円を費やしたという。 『デアボリカ』というイタリア映画ははっきり言ってそんなに面白くない。 W・フリードキンの『エクソシスト』の亜流で『ローズマリーの赤ちゃん』も 盛り込んでいる。録音は元からステレオで行われているので、 劇場では磁気4トラックで配給されたと思われる。 東宝東和はこれに「サーカム・サウンド」なる立体音響技術を使用し上映した。 日本ビクターには1970年に開発した4チャンネル・ステレオ技術 「CD−4」があり、またあまり知られていないが、ビクターは 映画館や試写室などに映画用音響システムを供給して 日本で初めて70mmの映写機を開発したのも日本ビクターだった。 サーカム・サウンドとは・・・・ "CIRCUM"とは『取り巻く」とか「回って」とかの意味。 音場が観客の周囲を取り巻くように聞こえるので このネーミングが付けられたと思われる。 "SURROUND"はユニヴァーサルの「センサラウンド方式」があったため 避けたんじゃないかと。 「サーカム・サウンド」方式とは従来までのあらゆる
音の常識をやぶったまったく新しい音響の世界を出現させるもので、 日本ビクターグループが特にその技術を認められ、 米伊合作「デアボリカ」の公開にあたり、
東和(株)の依頼を受けて新開発した驚異の音響立体移動装置の名称であります。 胎児にとりついた悪霊の不気味な唸り声や特殊な悪魔音が暗い劇場内を 前後左右あるいは回転音となって観客を直撃し、 想像を絶するオカルト世界の不気味なムードを
盛りあげるもので、日本ビクターグループが 約1億円の開発費を投じた世界初の新装置です。
この“サーカム・サウンド”システムはすでに公開された 「大地震」の“センサラウンド”方式の
超低周波のみの単調音の連続とは異り、超低周波から超高周波まで 周波数帯域が広範囲の「ディスクリート・4チャンネルレコードシステム・CD4」
を開発したもので、劇場用映写機のトップメーカーでもある
日本ビクターグループの新技術がいかんなく発揮された新システムであります。
1975年公開『デアボリカ』パンフレットより 映画は輸入するときにフィルムと共にポスターやスチルなどの宣材
台本などと共に予告編やMEテープも送られてくる。 MEテープは(MUSIC EFFECT)で台詞だけ抜いた本編の音声を オープンリールやシネテープ(35mm)に録音されたもの。 吹替えが主な海外では配給会社がそれを元に自国語の吹替えを作って 劇場公開するのに使われた。マスターがマルチチャンネルの場合は MEテープもマルチチャンネル仕様になっている場合がある。
当時の映画用の音響は
・磁気4トラックステレオ
映写用フィルム(プリント)に茶色の磁気コーティングを塗布して そこに前方の左・右・センターおよびウォールスピーカー (今で言うサラウンド)の音声を独立させて記録録音されてある。
その磁気トラックを映写機の4個のヘッドで読み取る。 ・磁気6トラックステレオ
70ミリ映画用およびシネラマ用に使用された。 前方の左・右・センターと前方の左右の重低音およびウォールスピーカー。 その磁気トラックを映写機の6個のヘッドで読み取る。 ・そして一般用で光学モノラル
プリントに記録された光学サウンドトラックにモノラルの音声が 記録されて映写機のソーラセルで読み取る。スピーカーは スクリーン中央のセンターからのみ再生。 日本ビクターは山水電気が開発したQS方式4チャンネルステレオ ソニーのSQ方式4チャンネルステレオ と違いディスクリート(完全分離)の4チャンネルステレオCD-4を使っていた。 山水電気が開発したQS方式4チャンネルステレオはマトリクス方式で 後にアメリカのドルビー・ラボラトリーが改良して 光学録音式ドルビー・ステレオを開発した。 日本ビクターの開発したCD-4を下敷きにしたサーカムサウンドとは・・・
「仮説」だが磁気4トラックステレオに周波数を振り分けて
前方と異なる音声信号を入れウォールスピーカー側を分離させて
観客席を駆け巡るような効果を出した・・・A説
もしくはCD-4オープンリールデッキを使って磁気4トラックステレオとは別に 音源を用意して劇場内のスピーカーに異なる音響を流した・・・B説 どちらもビクターの音響技術が使われていたのは間違いない。
『デアボリカ』も『サスペリア』も大阪のミナミ、東宝敷島という
今のTOHOシネマズなんばの別館がある場所にあった映画館で鑑賞。
(今は劇場があった階にはマルハンが入り劇場は上の階に移動)
そこは70ミリ上映設備があった。キタではこの作品は 北野劇場で封切されていた。『デアボリカ』の時は気にしなかったが、
『サスペリア』を観に行った時は観客席の左右や後方にスピーカーが 増設されていたのをはっきり覚えている。 劇場内で設置された「基本のサーカム・サウンド」とは・・・ 左右・後ろに5個のスピーカーを劇場に設置してスクリーン裏の3個に加え 計8個のスピーカーを使用したサラウンド方式。 磁気4トラックステレオではモノラルだったウォールスピーカーからは 明らかに違う音声が左右や後方に分かれて出ていた。 現在のDLP上映のマルチサウンドなら普通だが当時はそれがサプライズだった。 冒頭の空港内から雷鳴が轟く空港外でタクシーを拾う場面や40分過ぎにある 主人公らがバレエの稽古場で眠る場面で聞こえる校長(実は魔女)のいびきなど 臨場感たっぷりの音響絵巻が繰り広げられた。 方々のウエブでこの「サーカムサウンド」に関する文章を調べたが
「普通の4チャンネル音響だった」「大音響だが移動感はない」 との文章があったが、どこどこの劇場で観たとかは書かれていない。 大都市では洋画は封切は基本的には1本立てだが、地方では2本立てになる。 東京や大阪、神戸、名古屋などは70mmの映画はその設備のある劇場で 観れるが、その周辺、千葉や埼玉、奈良や和歌山では2本立てであるが 35mmの設備しかないのが圧倒的で、おそらく「サーカムサウンド」も 地方封切では採用されず一般の4トラックステレオのみ供給された可能性が高い。 シネコンが普及した現在と違い当時は「地方格差」が大きかった。 まして4トラックステレオ設備の無い劇場は光学音声のモノラル上映になる。 上映プリントは封切が終わったら2番舘、3番舘へ映画は配給されていくが そういった音響設備までは貸し出さないのが一般的。 翌年公開の『サスペリア PART2』は「サーカムサウンド」ではなくて 通常の4トラックステレオで国内上映されていた。 キャサリン・ロス主演の『レガシー』(1978)を最後に サーカムサウンドは計3本の作品で姿を消した。
『レガシー』はイギリス映画でオリジナルはドルビー・ステレオ。 当時はまだドルビーシステムをすべての劇場が完備しているわけではなかった。
結論からを言うと「サーカム・サウンド」は 日本独自の音響立体移動装置だったはずだ。少なくとも3作品に限っては・・・。
だが『サスペリア』のヒットで磁気4チャンネル音響に独自の名称を付けて 宣伝する阿漕な商売も横行した。東和も例外じゃない。 『テンタクルズ』(トレンブルサウンド) 日本ヘラルド 『ファンタズム』(ビジュラマ方式) 東宝東和
『猛獣大脱走』(ロアリング360) 東宝東和
『バーニング』(バンボロサウンド)東宝東和
『ハロウィン』(スペースサイザー360 ※音楽のみ) ジョイパック・フィルム
『フェノミナ』(クランキーサウンド)
※本編はドルビーステレオ ジョイパック・フィルム
『ザ・ショック』(SCARY−4チャンネル・ステレオ)日本ヘラルド
『サランドラ』(ダブル・テンション・システム)東宝東和
やがてこれらの「ギミック音響」もデジタル・サウンド時代に入り
ドルビー・デジタル、デジタル・シアター・システムズ(dts) ソニー・ダイナミック・デジタル・サウンド(SDDS) が登場すると姿を消していく。 エンドクレジットに各システムのロゴが入るからで観客を欺くことは 出来なくなった。 追記
調べたら『サスペリアPART2』と『サンゲリア』が
サーカム・サウンドとして新聞広告のみ宣伝されていた。
ただポスターやチラシなどにはサーカム・サウンドの表示がなかった。
『サスペリアPART2』には「4CH超ステレオ音響』
『サンゲリア』には音声の事は何も書かれていない。
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