希望の英語教育へ(江利川研究室ブログ)

歴史をふまえ、英語教育の現在と未来を考える、和歌山大学江利川研究室のブログです。

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日露戦争後の南日恒太郎『和文英訳法』(2)

『分類詳解 和文英訳法』(1904)は、日露戦争後に増補改訂された。

○ 南日恒太郎著・神田乃武閲『増訂 和文英訳法』1907(明治40)年2月3日発行。
本編166頁+別冊「英文之部」(解答)81頁。

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版によって装丁が違う。
上左は1907(明治40)年6月5日発行の訂正再版。茶色のクロス装。
上右は1907(明治40)年10月20日発行の第4版。濃緑色のクロス装。
下は1917(大正6)年10月14日発行の第50版。濃緑色の紙装。

増訂版では旧版に1編が追加され、4編構成になった。

第一編 Tenseの用法
第二編 和英文の相違
第三編 句及び文の訳法
第四編 雑纂
英文之部(別冊)

第二編の「和英文の相違」はもともと第一編の最後に付けられていたものだが、独立の編として詳細な記述になった。
いわゆる「日英比較」であり、英作文の修業では特に注意すべき事項である。

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その他の改良点は以下の通り。

・巻頭に22頁におよぶ詳細な索引(INDEX)が付けられ、使いやすくなった。
・解説が親切かつ分かりやすくなった。
・例題が旧版の300から400に増えた。
・脚註で語句の解説・発音等が付けられた。
・入試に出た問題には*(アステリスク)が付けられ、いっそう受験本位の参考書になった。

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日露戦争に勝利したあとの版だけに、南日の忠君愛国思想が一段と濃厚に出ている。
最初の例文は、「天皇は陸海軍の大元帥にして全軍の最高司令権を有し給ふ。」
その後に、日本海軍の陣容が続く。

例題の最後は「日本海々戦」(398)、「凱旋大観兵式及び凱旋大行進」(399)と続き、「日本の富源」(400)で終わる。

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解答(英文之部)も見ておこう。
別解(b)も用意されており、親切だ。

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こうして、この参考書は以下を含む英訳課題をもって終わる。
南日恒太郎自身の若者へのメッセージでもあろう。

「起てよ、旭日国の青年。浅薄なる思想柔弱なる習慣に溺れるなかれ。絵葉書に熱中若くは如何はしき方面に歩を向くるなかれ。文部大臣の訓令を煩はすに些少だも與りたらんを恥とせよ。弔ふものなき満洲の野に幾万の白骨の曝れつつあるを想へ。憐むべき幾万の孤児寡婦を想へ。忠勇なる祖先の子孫らしくせよ。斯くて渾身の力を研究学科の上に注ぎ他日大に我富源を開発し、我帝国をして啻(ただ)に武装上のみならず併せて財力の上に於て最大国たらしむの光栄と満足を得べきにあらずや。」

こうした青年への思想教育は、時代の動揺に対応するためであった。
日清戦争(1894〜95)から日露戦争(1904〜05)へと突き進んだこの時代に、日本は産業革命を経験し、重工業が加速的な成長をとげていた。
それは労働者階級の成長を生みだし、労働運動と社会主義思想の広がりをもたらした。

そうした時代相を映し出した例題を見てみよう。

例題57 「職工等は正当の要求を度々斥けられ非常の決心を以て同盟をなしたる次第故、斯かる些々たる条件にて復業することを恥ぢたり。」

例題177 「誰れがあのストライキの扇動者か知らん、会社は始終職工を穏当に扱つて来たし、職工もまた常に従順に働いて来たのである。」

また、日露戦争によって「満洲」や朝鮮半島からロシアの影響力を遠ざけることに成功した日本は、1910(明治43)年の「日韓併合」に向けて食指を動かしていく。

例題64 「君そんなに朝鮮のことを心配するに及ばないよ。伊藤統監は来年迄には必ず朝鮮の宮中に根本的改革を成し遂げて同国に対する日本の統治権(保護権)を未来永劫動かぬやうにするだらう。」

その日韓併合から、今年は100年目である。
古い英作文参考書を読みながら、日本近代史の歩みを謙虚に省みる必要がありそうだ。

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(1) 和文の「和」をどう表象するか,(2) それをいかに教材化したかについて深く考えさせられます。英作文学習書の歴史は(2)を見ることによって必然的に(1)をみることになるわけですね。我が国がその独自性を主張するには我が国以外のものに言及せざるを得ず。

ところで『南日』で学んでいたのは,当時の就学人口のどれくらいの割合になるのでしょうか。「和」を内化させ,その後の指導的位置に立つことになった人びとはいわゆるエリートということになるのかと思います。

というのも「易から難へ」という学習原理が発想され登場する以前の学習観であったように思われるからです。 削除

2010/2/14(日) 午後 4:08 [ 昔の受験生 ] 返信する

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戦前の英語参考書(英語教育全般でもありますが)を考える上で、とても重要なご質問ですので、「英語教育」のコーナーで回答させていただきました。

いつも鋭いご意見・ご質問をありがとうございます。
とても励みになり、勉強になります。
<m(_ _)m>

2010/2/15(月) 午前 11:19 [ 江利川 春雄 ] 返信する

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