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ひとりの陶芸家が焼き上げた青い壺が人々の間をめぐり、十年後に陶工の目前に再び姿を現すまでを描いた話。ロードノベルのようです。
壺は偶然ともいえるいくつかの好条件のもと陶工自身も驚く快心の作となったものですが、一流の鑑定士をして12世紀の唐物と誤認せしめるほどの名品です。
その価値が分かるひと、そうでないひとの、壺にかかわったひとたちの日常のひとこまを切り取りながら順に進む13話が語られています。
まず青い壺の作者がいい。芸術家然としていず、妻や子どもには普通の家庭人であり人に合わせて世間話もしますが、作品に対しては陶工としての矜持から自身との葛藤があることも伺わせます。
この第1話の偏りのない人物の登場はその後の展開が緊張するものではないことを予感させ、気分よく読み進められました。
退職後の日々を持てあましておかしくなってしまう男。
50年ぶりの同窓会に望んだ老婦人たちのてんやわんや。
入院患者が捨てたバラで作ったポプリを枕にしのばせて眠りに就き、ああ極楽とつぶやく病院の清掃員。
食料難の戦時中、盛装して架空のディナーを楽しみ往時の再現を試みる外交官夫婦。
壺は自分の作だと告白する陶工に、唐物だとの自説を曲げず怒り出してしまう鑑定家。
さて、このひとたちのところへどういった経緯で壺はやって来、そして去って行くのか。
13話にはさまざまなひとが出てきますが、恵まれた環境にいなくとも、またこの先が危ぶまれる状況にいても、登場人物はどこか滑稽で温かみが感じられます。
そしてそんな人々の傍らでただ淡々と美しく在り続ける壺。
社会派の作家だと思っていた有吉佐和子にはこういう小説もあるのだと知った読書でもありました。
とても良かった。お薦めの1冊です。
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