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家族思いの実業家にして、残忍な連続殺人鬼。
完全悪役に初挑戦するケビン・コスナーがこれまで演じた役の中でも複雑で多面的な層を持つキャラクターに挑むサスペンス作品です。
ラストの連続どんでん返しで『ミスト』に続きイヤな終わり方をまた見せつけられるのかと思いきや、1回捻りがあり、結末は本当に意外なものになりました。これなら続編も楽しみです。話題の『ミスト』よりも面白いと思いました。
いまハリウッドはサイコ・スリラーが人気ジャンルになっていて、風貌の不気味さや性格の残忍さばかりを強調したステレオタイプな連続殺人鬼を生み出しています。けれどもこの作品のアール・ブルックスは、心優しきファミリーマンにして切れ者の実業家。どこからどう見ても理想的なナイスガイが、倒錯的な欲望に駆られて凶行を繰り返す殺人中毒のシリアルキラーだという設定なんです。
殺す方法も、ガンで即し。サイコ・スリラーにしては殺しの場面で、過剰な恐怖感を煽らないのです。ブルックスをコスナー演じることで、むしろクールでかっこいいという感じすらしました。
『ソウ』シリーズや『ゾディアック』といった近年話題のスリラーを例に出すまでもなく、殺人鬼は闇の中に隠れ潜むというのが常識だが、ブルックスは堂々とハンサムな顔をさらし、セレブリティとして悠々自適の社会生活を送っている点が、これまでの作品と大きく異なるところです。やはりこの男を興味深い人物にしているのは、通常ならば殺人鬼の心の中には見えない“良心”を持っているからだと思います。
それとこの作品のキイポイントは、ブルックスの分身“マーシャル”の存在です。統合失調症にかかったみたいにブルックスの幻影としてつきまとう“マーシャル”は、彼のなかの邪悪な欲望の代弁者として、彼に殺人をそそのかすのです。
そんな彼のなかの二面性を、完全に独立した別人格として、描いているところも特異な点です。マーシャルの存在により、殺人異存症から抜け出せないブルックスの性癖が、観客にも分かりやすく伝えることに成功しています。
さらにストーリーも巧みな筆致で、ブルックスの内面に見事に食い込んで行きました。 ただ残酷に人が殺されていくのでなく、合間に依存症患者の集まりに出席し、懺悔することで殺人依存症からの脱却を試みているシーン。そして、どんなに人を殺したあとでも、神に許しを請い続ける善人であり続けよう語らせるシーンを入れることで、彼の内面の苦悩を見せるのと同時に観客にホットさせて、次のシーンに集中させる効果を生んでいます。
加えて、伏線の張り方も凝っており、ストーリーはブルックスの殺人だけでなく、彼を追う熱血刑事アトウッドにも、彼女がかつて逮捕した殺人鬼が付け狙っていたり、彼女の離婚訴訟中の夫がブルックスのターゲットになったり、複雑に絡み合っていきます。
またブルックスの娘ジェインにも、殺人の容疑がかかったりします。後半ジェインが自分の血を引いて、殺人鬼となりはしないか、ブルックスは恐れるのですが、それがラストの重要な伏線となりますので、乞うご期待!
究極の二面性を秘めたブルックスの人物像に思いもよらないカリスマ性と説得力が吹き込ませた、コスナーの演技がとにかく良かったです。
そして、コスナーが共演を熱望した名優ウィリアム・ハートは、“マーシャル”という幻影が語る、人の持つエゴと嫌みな感情を、これでもかとブルックスにぶつけていて印象的でした。
映画『ミスト』を見て、良かったと思う人にお勧めします。
●Introduction
オレゴン州ポートランドで、頭部に銃弾を浴びた若いカップルの全裸死体が発見された。捜査を担当する女性刑事アトウッドは、被害者の血で捺された指紋が現場に残されていることを確認し、険しい表情で身を引き締める。この2年間沈黙を守っていた神出鬼没のシリアルキラー“指紋の殺人鬼”が
再び動き出した。世間を震撼させたこの事件の犯人は、警察の捜査線上にあがるはずもない意外な人物だった。地元のセレブリティとして名高い大物実業家アール・ブルックス。豪奢な邸宅で美人の妻エマと穏やかに暮らす彼は、公私共に誰もがうらやむ順風満帆の人生を送っている。しかし、彼には誰にも知られていない連続殺人犯という顔があったのだ…。
人は誰もが秘密を持っている。本作の主人公ブルックスは、心優しきファミリーマンにして切れ者の実業家。理想的な紳士である彼は、実は倒錯的な欲望に駆られて凶行を繰り返す殺人中毒のシリアルキラーだ。主演はハリウッドを代表する大スター、ケビン・コスナー。これまでアメリカン・ヒーローを体現してきたコスナーが、かつてない新境地に踏み出したことによって、究極の二面性を秘めたブルックスの人物像にカリスマ性と説得力が吹き込まれることになった。監督は『スタンド・バイ・ミー』のブルース・A・エヴァンス。(作品資料より)
[ 2008年5月24日公開 ]
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