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(前回からの続き) 先にこの小説を、「ありていに言ってしまうと、『青春小説』」と述べましたが、普通の青春小説とは異なります。現代の作品の青春小説でもいいですから思い返してみてください。そこには、恋愛があったり、何かに努力し続ける姿があったりと、何かしらのイベントがあります。そのイベントが、ストーリーの中心として構成されています。しかし「三四郎」では、そのようなイベントが見当たりません。 広田先生と関わり今までに接したことの無い考え方に触れるが、それで何かが起きるわけではないです。美禰子という魅力的な女性と出会い三四郎は恋心を寄せますが、その恋によって何か起きるわけでもありません。このように何も起きない理由は、三四郎自身が主体的に行動することが、この小説の中ではいたって少ないからです。三四郎の性格を良く表した出来事が、冒頭にあります。 三四郎は東京へ向かう電車の中で知り合った女性と宿を同じくしますが、そこでその女性に対して何かアクションを起こしません。女性からのある意味あからさまなアプローチに対しても拒否しています。それゆえに三四郎は女性に、「あなたは余っ程度胸のない方ですね」と言われ、笑われてしまいました。 女性に対して奥手ということだけではなく、全体的に受動的な態度であることが作品の中では目に付きます。彼の話す言葉は短いものが多く、人に自分の気持ちを伝えると言うことを苦手にしている感じがしました。そのため三四郎の気持ちを知っている(と思われる)にもかかわらず、美禰子はいいようにもてあそびます。美禰子との恋愛では、この作品で名づけられた東京帝国大学にある三四郎池で二人は出会いました。その出会い方は劇的という程のものではないですが、二人の脳裏にずっと残っています。その後は、美禰子が思わせぶりな態度で三四郎と接することが多く、三四郎の心はかき乱されることもしばしばでした。美禰子のことを夏目漱石は、「無意識の偽善者(アンコンシアス・ヒポクリット)」と呼んでいることを、柄谷行人は指摘しています。「無意識の偽善者(アンコンシアス・ヒポクリット)」とは、「その巧言令色が、努めてするのではなく、殆ど無意識に天性の発露のままで男を虜にする所、勿論善とか悪とかの道徳的観念も、無いでやっているかと思われるようなものですが・・・」と、夏目漱石は説明しています。三四郎の恋は、最終的にはうまくいきません。それも少し劇的な形で終わってしまいまいました。 特に取り立てて何かが起きるストーリーではないのに面白く読めたのは、この小説が人物描写に優れていたからだと思います。各登場人物について個性を際立たせ、その個性を十分に表現できているから、人物が生き生きとしているのでしょう。この小説が名作として残る理由は、ここにあるのだと思います。 夏目漱石は、年を経るにしたがってだんだんと内省的な作品の色を濃くしていきます。個人的体験を赤裸々に描くことを主とした自然主義文学が隆盛だった明治時代後期において、「三四郎」は文学それ自体に重きを置き、時代の変化をうまく捉え、物語として成立させることに成功したといえるでしょう。 追記
友人に「三四郎」について話を聞いたところ、この作品は夏目漱石はこの作品を書いていている頃に作家として悩みを抱えていたそうです。その悩みをこの作品で書き込んでいることに、この小説の価値があるそうです。 |
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読んだ事ないんです・・・文学作品は学生の頃に読んだだけで・・・それも外国のものが多かったです。『三四郎』・・・ぜひ、読んでみます。次は、『こころ』とかも、読まれるのですか?
2005/8/31(水) 午前 5:02
>あき。さん、コメント、ありがとうございます。「こころ」は、ラジオの朗読で内容を知って、今後読みたいと思っています。そのほかの作品も読みたいとは思っているのですが、まだまだ先になりそうです。
2005/8/31(水) 午後 2:07 [ gog*_ni**y_g ]
確かに『三四郎』の中ではなにかとりたてて大きなイベントというものは起こりませんよね。それは三四郎が受動的な人物であるということと関係していると思います。しかし、三四郎が行動的ではなく大きな出来事が起こらないからこそ、その分人物描写が深いものとなったのかもしれません。
2005/8/31(水) 午後 3:51
>マーキュリーさん、コメント、ありがとうございます。出来事がないからこそ、人物描写が深いものになる、確かにそうなのかもしれませんね。小さな物事に対して、登場人物がそれぞれの視点を提供することで、上手に表現されていますし。
2005/8/31(水) 午後 9:43 [ gog*_ni**y_g ]
「三四郎」読書感想文で読んだことあると思うんですけど。。内容は全く覚えていません。「こころ」は好きで朗読のCDまで買ってしまいました。
2005/9/2(金) 午後 0:39
>atsushi52222さん、コメント、ありがとうございます。「こころ」は、まだ読んでいませんが、いずれ読みたいと思っています。
2005/9/2(金) 午後 9:40 [ gog*_ni**y_g ]