吉崎准教授は神奈川県鎌倉市出身。幼いころ、エサを追って青くキラキラと輝きながら泳ぐマグロの大群を見て「アドレナリンが沸騰する」ほど感動した。これがマグロ研究の道に進んだきっかけだという。
現在取り組む研究については、こう強調する。「トロを安く食べられるようにするためではない」。目的はあくまで絶滅危惧種を守ることにある。となれば数を増やせばいい、となるが、巨大なクロマグロをいけすで飼うのは一筋縄ではいかない。近畿大学が、不可能とされていた完全養殖に成功しているが、養殖には大変な労力と広大な場所が必要になる。
吉崎准教授は「小型の魚にクロマグロを産ませることができたら」と考えた。アジやサバなら陸上の水槽で飼うこともできる。
「そんなことができるか。大学をやめろ」。とっぴと受け止められかねない発案に、同僚らからは強い反対の声も出たという。しかし平成19年、前段階として、ヤマメにニジマスを産ませることに世界で初めて成功した。
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ヤマメからニジマスの研究では、精子のもとになる「精原細胞」をニジマスから抽出し、孵化(ふか)直後に不妊化させたヤマメに移植。すると雄のヤマメはニジマスの精子を、雌は卵を作った。交配で生まれた稚魚はヤマメの遺伝子がまったく入っていないニジマスとなった。安全性に問題がなかったことに加え、雄だけが持つ精原細胞から卵を作ることに成功したことも大きな反響を呼んだ。
この流れを同じ「サバ科」に属する親戚(しんせき)であるサバとクロマグロで実現させようというのが、現在の取り組み。吉崎准教授は数年後の実験レベルでの成功を目指している。
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この技術が一般的に確立すれば、絶滅しそうな魚の精原細胞を凍結保存しておけば、もし絶滅しても、別の魚を「代理母」として用いることで絶滅種を復活させることが可能になる。
完全養殖の場合は、親の数が限られているため近親交配の懸念もあるが、吉崎准教授は「食べるだけだったら養殖でいいが、自然の姿に戻すのが目的」と、あくまで「生物の多様性」の維持に着眼している。吉崎准教授は「(成功には)神が必要」と謙遜(けんそん)するが、まさに神がかり的な技術が、クロマグロの危機的現状を打破するカギになるかもしれない。