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彼女に連れって行かれた先は彼女の住むアパートの共同物置の前だった。 |

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彼女に連れって行かれた先は彼女の住むアパートの共同物置の前だった。 |
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プロローグ 静かだ・・・ 深い静寂の中に静かに沈んでいく自分を感じながら僕は考えた。 このまま死んでいくにちがいない。 先程まで感じていた光の波も、人々のざわめきも、そして風の囁きの全てが無へと変化していった。 皮肉な事に、体から流れ出る血の温かみが僕の体温を奪い去っていく感覚だけが残っている。 五年前 それは、一本の電話から始まった。 「もしもし良太? 今度の正月は帰ってくるのか?」 僕、山崎良太の生まれ故郷金山市で、家業の酒屋を継いで頑張っている同級生の坂口隆からの電話だっ た。 「何とも言えないな・・結構交通費も馬鹿にならんからな。」 「そう言うなよ。今年は俺が同窓会の幹事なんよ。おまえ一回も同窓会出てないだろう。」 「一回もって、まだ3回目だろう?」 考えたら、2年以上も故郷に帰っていなかった。 「そうだけどさ、俺の顔を立てると思って帰ってこいや。なんとしても去年より人数を増やしたいん よ。」 昔から見栄っ張りの隆らしい考え方に思わず笑いがでた。 「アホか!お前のカッコつけだけの為に、何で高い交通費を使う必要があるんや。それとも、お前が出し てくれるんか?」 「気にせん、気にせん。お前だけ会費千円負けとくから、それでチャラにしてくれ。」 こうなると、隆のペースである。こっちが何を言おうと、煙に巻いたような訳のわからん会話を返して 相手を翻弄しながら、最後は「うん」と言わせてしまう。 「また始まった。お前の訳のわからん理屈には相手出来ん。わかったわかった、帰るように調整してみる よ。」 隆のガッツポーズを想像しながら笑いの体制に入りかけた僕の耳に、思わず受話器を投げ出したくな る大声が飛び込んで来た。 「思い出した!思い出した!」 「何!急に大声出してから。」 良太、お前、由美子ちゃんおぼえてる?」 「えっ!」 「小さい頃よく遊んだ松山由美子ちゃん。三松荘のアパートに住んでた。」 隆から突然「由美子」の名前が飛び出した瞬間、僕の思考能力は完全に停止していた。 まるで、安全装置が働いて、彼女に関する全記憶をシャットアウトするかのごとく。 「聞いてる?おい、良太!」 「あっ、ああ聞いてるよ。そういえば、そんな子いたよな。」 「相変わらず、のんびり屋やなあ・・」 隆の話によると、 つい先日の事、同級生の前山健一の兄貴で、小さい頃よく一緒にあそんだ前山俊夫、すなわち俊夫兄ち ゃんが勤め先のJRの同僚ととなりの市に飲みに行った時に、あるスナックでホステスとして働いている 松山由美子に出会ったらしい。 「俊夫兄ちゃんはさあ、全然判らなかったらしいよ。由美子ちゃんの方から俊夫兄ちゃんでしょう?て話 しかけられて、ビックリしたって騒いでたよ。」 「良太!お前絶対帰って来いよな!健一も誘って四人で由美子ちゃん所に遊びいこうぜ!」 僕は消え行きそうな意識の中で辛うじて曖昧な返事を残し、理由を見つけて電話を切った。 僕がまだ小学校に上がる前、彼女は引っ越して来た。 一本の長い建物を均等に5箇所に分け、その一つ一つにドアを付けただけのアパート「三松荘」の2号 室が彼女の新居であり、僕にとっての禁断の場所の始まりだった。 一つ年上の俊夫兄ちゃんのクラスに転校してきた彼女が、僕と隆と健一それと俊夫兄ちゃんの仲良し 4人組と遊ぶようになるのに、時間は必要としなかった。 袋小路に並んだ家々の周りを2本の川が流れており、この町に住む子供たちは、一本の道を通学路と して、奥の方から順次に学校へと歩いていった。 袋小路の出口が大通りにつながり、其処からは他の町の子供たちと交わり登校していく。 まるで、支流から流れ着いた木の葉が本流の流れの速さに飲み込まれていくかのごとく、子供たちの歩 幅がバラバラになり、他町の子供たちの中に埋没して行く。 彼女が引っ越してきて1年後の僕は、由美子ちゃんに手を繋がれてこの流れの中を迷う事なく学校へ の道を歩いていた。 僕ら5人は、学校から帰ると町の中程にある空き地へと出かけて遊んだ。この空き地は町の子供たち の遊び場であり集会場であった。別に待ち合わせする訳でもなく、ここに来れば誰かがいたし、待てば 誰かがやって来た。年の差に隔たりなどなく、町の子がその都度自由にグループを作り、鬼ごっこやか くれんぼなどをして遊んでいた。 ただ、僕ら5人と同じ小学校1年生の山本恵子の6人は、低学年の為学校からの帰りが早かったので、 上級生が来る前に遊びに入り込んでいることが多かった。 それでも時々、上級生の遊びが始まるとその仲間に入り込む場面も多々あった。 決まってそんな時由美子ちゃんは、僕の手を引いて彼女の家へと連れて行った。最初から遊ぶ時は平 気なのだが、途中から入り込む事は彼女にとって難しい事柄みたいだった。 それは、きっと彼女の両親のせいだったと思う。 父親はヤクザ、母親はバーのホステス。 当時の僕ら低学年組には何の関係もなかったが、高学年の子供たちにはそこの部分が遊びの中にも見え 隠れしていたに違いない。蔑んでいてそのくせ怯える目線。彼女はその目線をひしひしと感じながら過 ごしていたのだろう。 そして、その目線から逃げるように僕だけを連れて彼女の家へと閉じこもって行った。 同じ女の子の恵子ちゃんでも無く、同じ学年の俊夫兄ちゃんでもなく「僕」だった。 なぜ「僕」なのか?それは、今もって判らない。 そんなある日、いつものように由美子ちゃんに手を引かれ彼女の家に向かった時、 僕は恐々と聞いた。 「由美子ちゃん家行くの?」 「そうよ。」 「僕行きたくない。」 そう言うと僕は由美子ちゃんの手を振りほどいて、その場に立ち止まった。 僕が急にそう言い出したのには理由があった。 由美子ちゃんの父親は普段、昼過ぎごろ家を出て行くため、僕らが遊ぶ時間帯に家に居る事が無かっ た。しかし、先日珍しく家に居たのである。遠目で見た事は何度かあったが、はっきりと手の届く近さ で接触したのは其の時が始めてであった。子供とはいえ、その迫力はひしひしと感じる物があった。 隣の部屋で声を押し殺して(別に由美子ちゃんに指示された訳でなく、自然とそうなった)遊んでいた が、それはけして楽しいものではなかった。空気が痛い、今の僕ならそう答えるだろう。そして事件は 起きた。 「ワカットンノカー!!!!」 「無茶苦茶言わないでよ!!」 「オレガイッタラソレガスベテジャ!!」 この後は凄まじい騒音と母親の悲鳴が繰り返されていった。 「行くよ」 由美子ちゃんは僕の手を引き上げて窓から外へと逃げ出した。 この時の恐怖が、行きたくないと足を止めさせた。 由美子ちゃんはこうなる事は予測済みとばかり 「良ちゃん、今日はいい所に連れて行ってあげる」 笑顔でぼくに囁いた 「何処?」 「秘密の場所!」 一度だけ振り返り、僕の顔を確かめると、後は前だけを見つめて歩速を早めていった。 続く・・・・
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