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[食ショック]結び合う現場(上)生産者の「思い」も直送

食品偽装や中国製冷凍ギョーザ中毒事件では、生産現場が見えないことが、消費者の不安につながった。食の安全・安心を回復するため、生産者と消費者が新たな関係を結ぼうと、各地で模索が始まっている。
 東京・丸の内のビル地下に、「とかちの…」という少々変わった店名のレストランがある。
 「サラダの野菜を作ったのは、音更町(おとふけちょう)の生産者の縄手さん。大きなハウスで栽培しています」。高橋司店長(30)は、北海道・十勝地方の食文化の“語り部”だ。直送の素材を生かすため、塩とバターを添えた「4種のジャガイモの食べ比べ」など料理はあえてシンプルに。生産者や風土の魅力を伝えたいという思いが、言葉ににじむ。
 運営するのは「場所文化フォーラム・十勝有限責任事業組合」。地域活性化に取り組む北海道内外の約20人が出資し、昨年6月に店を開いた。店の総監督で帯広商工会議所青年部理事の後藤健市さん(48)は「都市と地方をつなぎ、感動を共有する居場所を作りたい」という。
 地場産品を宣伝するだけのアンテナショップでは、作り手の思いが届かない。生産者を店に招いてソバ打ちを披露したり、十勝へのツアーを企画したり。店名の「…」には、都市と地方とが距離を縮め、互いを補完し合う基地にという願いが込めてある。
 2006年から地域団体商標制度も始まり、地場産品への関心は高まるが、ともすれば、地方の美味を都会の消費者が“つまみ食い”するだけ。しかし、食料自給率の低下や農業従事者の減少など厳しい現実を前に、積極的に都会に足を運び、交流の拠点を築く生産者も出てきた。
 東京・大田区でミニスーパー「OTENTO田園調布店」を運営するのは、千葉県の農家90軒で作る農事組合法人「和郷園」の関連会社「ケンズ」だ。木内博一社長(40)自身も根菜類を栽培している。「千葉産の野菜の魅力を伝えたい」と、06年3月に開店。夕方に店頭に並ぶ「朝どれ野菜」は人気だ。
 安価な食品があふれる中、化学肥料を極力使わず、運送費などのコストを含めると、適正価格はいくらになるか――複雑な生産、流通事情も正直に話し、消費者と一緒に考えていければと、木内社長は夢を描く。
 都会の真ん中に出現した「地方」は、日本の食の姿を変えていくのだろうか。(大森亜紀)


2008年 4月23日 読売新聞



[食ショック]結び合う現場(中)「6次産業」で地元産PR

熱々のご飯に新鮮な卵を割ってかけ、サッとかき込むと口の内に懐かしい味が広がる。「これ全部、地元でとれたものなんですよ」
 広島県世羅町の産直施設「夢高原市場」。店長の井上幸枝さん(61)が「有機米も卵も、しょうゆの原料の大豆も地元産」と説明する。「卵かけご飯コーナー」は、休日には300食も出る人気コーナーだ。
 年間約200万人の観光客が、人口2万人弱の山あいのこの町を訪れる。集客の原動力は、ブドウ、チューリップなどの農園や産直市場、農協、女性グループなどで作る「世羅高原6次産業ネットワーク」だ。
 「6次」には、1次(生産)、2次(加工)、3次(販売)の各産業が連携し、“掛け算”で相乗効果を高めようという意味が込められている。販路の開拓が課題だった農家や農産品加工所は、販売先を町内全域に広げ、商品不足に悩んでいた産直市場は安定した仕入れができるようになった。
 産直市場には、とれたて野菜が並び、地元産牛乳で作ったソフトクリームもある。中でも、卵かけご飯は、世羅の総合力を生かした「6次産業」の象徴だ。
 年間売り上げは総額15億8000万円(2006年)と1999年の発足時の1・8倍に膨らみ、加盟団体も当初の32から57に増えた。ネット事務局の後(うしろ)由美子さん(62)は「町中を農業公園にするのが夢」と目を細める。
 生産地が力を出し合い、消費者にアピールする動きはほかにもある。
 京都府や農協などで作る「京のふるさと産品価格流通安定協会」は、京野菜の普及に力を入れる。これまでに、レシピコンテストや料理教室を開き、07年に創設した、生産、調理などの達人を選ぶマイスター制では15人を選んだ。
 グランドプリンスホテル京都(京都市)のシェフ高垣吉正さん(50)も、その1人。フランス料理の食材を探し求めるうち、京野菜にたどり着いた。
 毎朝、マイスターの契約農家らの畑で自ら収穫、それぞれの味や香りが生かせる斬新な料理を作る。風味豊かな賀茂なすのアイスクリームや、ほんのり辛い万願寺とうがらしの冷製スープ。意外な味に驚く客には、テーブルまで行って調理法などを解説する。
 「野菜は育てる土地で味が違う。京で作り、京で食べてこそ京野菜」と協会の太田善久常務理事は言う。
 こだわりと誇りを持った生産者らの発する情報が、消費者との確かな懸け橋になっている。(小野寺昭雄)


2008年 4月24日 読売新聞



[食ショック]結び合う現場(下)受注生産、消費者に安心

精米したての香りが作業場に広がる。籾(もみ)のまま保管していたためか、糠(ぬか)の香りが強い。すべて、顧客の注文を受けて生産した米だ。
 宮城県登米市の「板倉農産」では、ほぼ毎日、発送作業が行われる。客の要望に合わせ、指定日に、使いやすい10キロ以下に小分けして届ける。「以前は、農協の薦める銘柄が消費者の求める米だと思っていたが、受注生産を始めて、多様なニーズがあることが分かった」と、阿部善文社長(41)は言う。
 受注生産を始めたのは1995年。アイガモ農法など手間ひまかけて生産した有機栽培米を、直接、消費者に届けられるからだが、同時に、消費者に選ばれる米作りが課題になった。
 銘柄を5品目に増やし、食べ比べしやすいように1キロ単位でも販売。病院や保育園から注文を受けて、妊婦の苦手な炊きあがりの香りを抑えたり、やや硬めにして、かむ習慣をつけたりするブレンド米も作った。
 顧客は、当初より700世帯増えて2000世帯になった。計24ヘクタールで耕作し、一部は近隣農家に生産を委託している。安売り店より10キロ当たり2000円ほど高いが、注文が途切れることはない。
 客層が変化してきたのは、食品偽装がニュースになり始めた数年前。経済的に余裕のある高齢者が中心だったが、インターネットで注文してくる30歳代が増えてきたという。
 「新規客のほとんどが、家族の健康への関心が高い子育て世代。ホームページで、農作業の様子を紹介したコーナーも、よく読んでいて、米の成分など専門的な質問をするお客さんもいます」と阿部さんも驚く。
 ネギの受注生産をしている福岡県朝倉市の「朝倉物産」は、昨年、念願だった安全・高品質を売り物にする「いかりスーパーマーケット」(兵庫県西宮市)に納品できるようになった。
 安全でおいしいネギを作ろうと8年前、化学肥料を使うのをやめた。収量は1割以上落ちた。店頭価格は相場より約3割高い。だが風味がよく、日持ちもする。顧客の飲食店や百貨店の注文が増えてきたのは、やはり、食への関心が高まってきた数年前からという。
 「高級スーパーで扱ってもらえるようになったのは、『高くても高品質なら』という消費者のニーズがあるからなんですね」と、花田信一社長(53)は話す。
 安全・安心を求める生産者と消費者の出会いは、新たな食の未来をひらくきっかけになるかもしれない。(木田滋夫)

2008年 4月25日 読売新聞

[食ショック]海外の声・番外編 輸出国と輸入国に温度差

「食」を巡り海外の政府関係者にインタビューした「食ショック 海外の声」(11〜13日)では、食料輸出国と輸入国で、日本の現状に対する見方が異なることが浮き彫りになりました。読者からは、インタビューに対する意見や感想も寄せられました。(幸内康)
 初日に登場したトーマス・シーファー駐日米大使は、日本の農業が高齢化していることなどを指摘して、「日本が農産物市場をより開放することが消費者のためになる」と主張しました。アメリカが不作になっても、輸出規制はしないとも明言しました。アメリカは農産物輸出の1割強が日本向けです。
 一方、食料の9割以上を輸入しているシンガポールのニャン・トン・タウ農業・食品・獣医庁前長官は、東南アジアでコメ不足が深刻化していることを紹介した上で、「コメが自給できる日本にはその心配がない。自給ができるなら、そうすべきだ」と助言しています。輸入先の多様化も重要と述べています。
 シーファー大使に対しては、読者から「自国の農産物輸出の利益を確保するための発言では」との疑問の声が寄せられました。
 ただ大使も指摘しているように、農地が狭い日本では、食料を100%自給できないのも確かです。この点、英環境・食料・農村地域省のソニア・ピィファード食料・農業局長の発言は示唆に富んでいました。
 局長は、イギリスが70〜80年代に実施した手厚い農家保護が、過剰生産を生み出したと反省していました。過保護に陥らずに増産をするためには、国際競争力のある農産品を生産できるように促す政策が重要だとアドバイスしています。
 世界では、農産物の輸出規制をする国が増え、日本の現状を懸念する声も高まっています。読者からは、「地球の人口が増え続ければ、地球規模で飢餓が襲うのではと心配です」との意見も寄せられました。
 
2008年 4月15日 読売新聞

[食ショック]海外の声(上)駐日米大使 トーマス・シーファー氏

輸出規制せず」米の信念 
 日本の食料自給率は先進国最低の39%に落ち込んでいる。一方で輸入食品の安全性に懸念が強まり、食料価格高騰の波も押し寄せている。日本の「食」を巡る事情は海外の目にどう映っているのか。関係者に聞いた。
          ◎
 日本の農家は高齢化が進んでいる。農業従事者が増えなければ(食を巡る)状況はより悪化するだろう。
 解決法は、日本がより農業市場を開放することだと思う。世界経済の中で最も保護されているのが農業分野だ。日本の消費者は必要以上に高い価格で食料を買っている。市場が開放されればされるほど価格は下がるだろう。
 第2次世界大戦で飢餓状態を経験した日本人も多く、食料安全保障を重視するのは理解できる。しかし、経済がグローバル化し、60〜70年前よりバラエティーに富んだものを食べている現代で、すべての食べ物を自給することは不可能だ。
 輸出規制をしないのが米国の信念だ。(不作時の1970年代に実施した)大豆の禁輸措置から、輸出制限は政治的ニーズも市場のニーズも満たさないという教訓を学んだ。世界で最も民主主義が進み、自由貿易を行っている米国やカナダ、オーストラリアが(禁輸などの措置で)食料を使って日本を恐喝することはあり得ない。
 食の安全性に関する規制は、科学から導かれなくてはならない。日本は生後20か月以下の牛の肉しか輸入しないという条件を科学ではなく政治的観点から決めた。国際獣疫事務局(OIE)の基準に基づいて、月齢条件を外した方が長期的によりよい解決法になる。
 世界は、新しい技術で十分な食料を生産することができる。その一つの例が遺伝子組み換え技術だ。私が子供だった1950〜60年代にも、世界の人口がものすごい勢いで増え、食料がなくなると言われていた。しかし、実際は技術革新により、こうした事態は起きていない。(聞き手 幸内康)
 
 ◇テキサス州下院議員、駐オーストラリア大使を経て、2005年4月から駐日大使。米大リーグのテキサス・レンジャーズの球団社長を8年務めたこともある。60歳。



[食ショック]海外の声(中)ニャン・トン・タウ前長官

◇シンガポール農業・食品・獣医庁(AVA)
 ◆輸入確保に政府が道筋
 シンガポールは、重量ベースで食料の90%以上を輸入に頼っているが、政府の考えは明快だ。
 狭い国土を農業に利用するよりも、工業、産業に活用する方がより大きな価値を生む。一方で、中心となる農場は維持し、野菜の10%、鶏卵の30%の自給は続ける。魚の養殖にも取り組んでおり、20〜30%の自給を目指している。
 国際的に食料価格が高騰しているが、政府が価格を管理するすべはない。政府ができるのはより緩やかな方法だ。例えば今、冷凍牛肉を食べようというキャンペーンをやっているが、これは生肉より30〜40%安いからだ。この種のキャンペーンは20年も前からやっており、いつも何が効果的かを考えている。
 輸入確保のためには、供給元の多様化も大切だ。毎年多くの国にミッションを派遣し、輸入業者を連れて行っている。最近ではアフリカのナミビアに魚の買い付けに行った。ビジネスの判断は業者がすることだが、政府はその道筋を付ける。また、これは日本がモデルだが、シンガポールの企業が海外の農場に投資する支援も始めた。
 シンガポールでも、食の安全は最大の関心事だ。政府は輸入・販売を許可する前に、農場や工場に行き、安全性を調べる。もしシンガポールで、日本のように中国製ギョーザによる食中毒事件が起きたら、すべての輸入ギョーザをチェックすることになるだろう。日本のような巨大市場では難しいだろうが、コストをかけ、食の安全を確保することは大切だ。
 東南アジアでは今、コメ不足の懸念が浮上しているが、コメを自給できる日本は、その心配がない。食料の自給ができれば、生産を管理でき、より安全な食品の供給が可能になる。シンガポールもそうしたいが、できない。十分な土地と人的資源を確保できるのであればそうすべきだ。(聞き手 実森出)
 
 ◇食品の安全、安定供給や動植物の検疫などを担当するAVAの長官を2000年4月から5年間務めた。現在は、政府の遺伝子組み換え諮問委員会の議長。64歳。



[食ショック]海外の声(下)ソニア・ピィファード食料・農業局長


◇英環境・食料・農村地域省
 ◆自給率より競争力重視
 イギリスでは第2次大戦が終わった1945年以降、食料自給率は上昇した。数量ベースでの自給率は80年代にはピークに達し、熱量ベースでも2000年よりも少し前にピークをつけている。
 20世紀初め、欧州全域で荒れた土地を農業生産用地に戻す動きが始まった。その後、英国は欧州の共通農業政策(CAP)に参加し、70年代から80年代初めにかけて価格維持や買い上げなどの手厚い農家保護を行った。この政策は、数量べースで5〜15%程度の自給率押し上げ効果があった。
 ただ、このことが消費者のニーズに合っていたわけではない。補助政策の結果起きたのは、過剰生産だ。自給率は高まったが、「ワインの湖」や「バターや牛肉の山」ができた。このため、90年代に入って(補助金削減などの)CAP改革が行われ、生産のバランスが取れ始めた。
 現在、我々は、自給率の目標値を持っていない。むしろ国内だけでなく、海外にも輸出できるように農家の競争力向上に目標を置いている。
 輸入も重視している。我々は英国民への食料供給を確実にしようと思っているが、といってコーヒーやオレンジを英国で作れるわけではないからだ。食料安全保障の観点からは食料貿易は非常に重要な手段だ。
 日本に助言できるとすれば、まずCAPのような補助政策を採用しないことだ。次に競争力のある高品質の農産物を生産することだろう。我々の経験から補助金や人為的な政府の介入はそれを達成する方法ではない。
 日本で中国産食品など食の安全が社会問題になっているが、欧州連合(EU)内ではきわめて厳しい食品安全基準を定めている。中国産食品に関しては日本で騒ぎになっているような問題は起きていない。(ロンドン 中村宏之)
 
 ◇1960年英国生まれ。81年オックスフォード大卒。英内閣府、教育科学省などを経て2006年から現職。


2008年 4月13日 読売新聞

[食ショック]揺らぐ安全(5)危機管理、縦割りの弊害

◇第2部  
 子供と高齢者は食べないで。そんな警告マークが「こんにゃく入りゼリー」の包装紙に付けられたのは昨年10月のことだ。「もっと早く厳しい措置を取ってほしかった」。こんにゃく入りゼリーによる窒息死事故で昨年3月に長男・龍之介君(当時7歳)を亡くした三重県伊勢市の村田由佳さん(46)は憤る。
 国民生活センターが把握した最初の死亡事故は、1995年。新潟県で1歳男児がのどに詰まらせた。事故が続いたため、センターは注意を呼びかけ、メーカーも袋に「のどに詰まる可能性がある」という注意書きを加えるなどしたが、昨年も2人が死亡。死者は13年間で計14人に上った。
 迅速に対応できなかった背景には、縦割り行政の弊害がある。
 センターは昨夏、販売規制を含めた事故防止策の検討を関係省庁に要望した。しかし、厚生労働省のスタンスは「衛生面や有害物質含有などの問題がなければ規制できない」。農林水産省は約50商品の弾力性などを調べたものの「規制には科学的根拠が必要」、内閣府食品安全委員会も「リスク評価は困難」。その後、農水省の一部局の働きかけもあり、業界団体が警告マークを作製した。
 主婦連合会の佐野真理子事務局長は「あれだけ犠牲者が出たのに、どの省庁もリーダーシップを発揮しなかった」と指摘する。
     ◎
 英国では、食品の監視・検査、適正表示などの機能を食品基準庁(FSA)に集中させている。
 「偽のザムザム水があることは分かっている」。昨年9月、ロンドン・ウェストミンスター区役所の食品衛生検査官2人が区内の雑貨店に乗り込み、レジの下からボトル15個を見つけた。
 ザムザム水は、サウジアラビア・メッカの泉からわき出る「聖水」。商業目的の輸出は原則禁止だが、2005年、消費者からの情報で基準の3倍のヒ素を含む「偽ボトル」が見つかった。発がんの恐れもあり、FSAは情報を得るたびに自治体と連携して摘発を続け、被害を防いできた。
 同区のサラ・ロビンソン検査官は「消費者情報が集まるFSAとの連携が市民を守る要」と強調する。英国の食品行政もかつては保健省と農漁食料省などに分かれていたが、BSE(牛海綿状脳症)問題で消費者から批判を浴び、信頼を取り戻すため、00年に誕生したのがFSAだった。
 米国の食品医薬品局(FDA)も、食品安全の業務を幅広く担う。製造から食卓までを監視するため、食品の製造、輸入、販売の各業者名をすべて把握。24時間体制で消費者からの苦情や相談を受けている。
 こんにゃく入りゼリーの事故は海外でも発生したが、FDAは01年以降、窒息する可能性を警告したり回収を指示したりした。欧州連合(EU)でも03年、ゼリー菓子へのこんにゃく使用を禁止している。
     ◎
 食品偽装、ガス湯沸かし器事故、シュレッダーによる指切断事故。消費者被害が相次ぐ中、福田首相が掲げる消費者行政の一元化構想はギョーザ中毒事件を機に加速、5月にも具体案が示される見通しだ。他省庁から独立し、強い権限を持つ「消費者庁」新設が有力になっているが、規制強化をめぐり慎重論もある。
 世界保健機関(WHO)のヨーアン・シュロント食品安全部長は「農場から食卓まで食の流れを一元管理し、情報共有されない弊害をなくすことが重要」と語る。食の安全が縦割りのすき間に埋没することがあってはならない。〈関連記事7・38面〉
 
 ◆冷蔵庫で食品腐らす 消費者も学ぶ努力必要(1面から続く) 
 「お宅は腐った魚を売っているのか」。東京都内のスーパーに昨年末、男性から電話があった。買った刺し身の味がおかしいという。いつ買ったかを尋ねると、「3日前」。刺し身の消費期限は原則、販売したその日のうちだ。社員が「少し時間がたってしまったのでは」とやんわり指摘すると、「新鮮なものを置いていれば、1日や2日過ぎても大丈夫だろう」とどなられた。「よくあるクレーム。新鮮なら長持ち、ということではないのですが」
 冷凍食品メーカーには、こんな苦情も寄せられる。「冷凍魚フライから骨が出てきた」「エビ入りシューマイにエビの殻やヒゲが混じっている」。関係者は「魚に骨があり、エビには殻やヒゲがある。生き物を食べているという意識が欠けている」と指摘する。冷凍食品を冷凍室ではなく冷蔵室に入れて「カビが生えた」と憤る人もいるという。
 財団法人日本消費者協会は2004年、「消費者力検定」を始めた。切ったカボチャは種を除いて保存すれば長持ちする。イモは風通しがいい所では乾燥してしまう。キュウリに水気は禁物……。三浦佳子広報部長は「若い人ほど野菜の保存法を知らない。生活の知恵を世代間で継承する機会が減っている」と指摘し、「食の安全には、消費者が知識や情報を得ようとすることが大切」と語る。
     ◎
 食の安全に影響力を行使してきた消費者団体は今、岐路に立っている。
 「高齢化が進み、多くの団体が今後に不安を抱いている」と、ある団体の幹部がぼやく。有害な添加物などが問題になった1970年代には1万人の会員がいた日本消費者連盟も現在は3000人。運動の中心を担ってきたのは女性たちだが、昼に活動するやり方が働く女性のライフスタイルに合わなくなり、インターネットで情報が簡単に得られるようになったことも運動離れを加速させた。
 同連盟は昨年から会社勤めの若者に関心を持ってもらおうと、夜のセミナーも開いているが、効果はまだ出ていない。富山洋子・代表運営委員(74)は「活動方法を変える必要があるかもしれないが、行政や業界に対して声をあげる時、軸となる組織は必要だ」と力を込める。今後は大学生にもPRするつもりだ。
     ◎
 「冷蔵庫が日々巨大化している。買い込んで傷みかけた食材をひっぱり出して食べているのではないか」
 現代人の食生活のゆがみを指摘するのは、「冷蔵庫で食品を腐らす日本人」の著書がある食文化研究家、魚柄(うおつか)仁之助さん(51)だ。
 この20年間に知人宅などで300台ほどの冷蔵庫を見てきた。80代の1人暮らしの女性は4ドアタイプの冷蔵庫を使っていた。扉を開けると、空間がほとんどない。卵や鶏肉には腐臭が漂い、冷凍コロッケは劣化して触るとポロポロと崩れた。
 「ものを捨ててはいけないという思いが強いのか、年齢が高くなるほど買いだめする傾向がある」。買ったことを忘れて「重ね買い」する人も多いという。
 魚柄さん宅の冷蔵庫の中はすっきりしていた。必要な分しか買わず、残ったダイコンやナス、リンゴなどは厚さ約1センチの輪切りにして天日干しする。こうすれば常温でも長く保存でき、水に浸して戻せばみそ汁や煮物などに使えるという。
 「より安全にと思うなら、食材を自分で加工・調理すべきだ。『面倒くさい』ではダメなんですよ」(おわり)
        ◇
 この連載は、社会部・滝下晃二、中村亜貴、槙野健、野口博文、ジュネーブ・大内佐紀、パリ・林路郎、ロンドン・本間圭一、北京・寺村暁人、生活情報部・鳥越恭、大森亜紀が担当しました。
 
 写真=抜き打ち検査でパブを訪れ、オーナー(左)に衛生状況に関する質問をする食品衛生検査官(18日、ロンドン市内で)=中村光一撮影
 
 〈DB注〉38面の記事を1面に一体化

2008年 3月23日 読売新聞

食ショック]揺らぐ安全(4)卵に印字、安心のしるし

◇第2部
 白い箱形の装置から次々と出てくる卵。その殻に赤インクで数字とアルファベットが印字されていた。
 仏・パリから北に約100キロのフラミクール村にある鶏卵梱包(こんぽう)会社「シカダップ」工場では、近くの農家から毎日届く約100万個の卵一つひとつに10ケタほどの数字や記号を印字している。これを見れば、生産農家だけでなく、「放し飼い」か「ケージ育ち」かなど鶏の飼育方法も分かる。
 装置導入で作業工程も変更し、約2億円のコストは価格に上乗せした。卵4個につき約1円。クロード・デュムーラン社長は「この程度なら消費者も『高い』と反発しないでしょう」。
 食中毒など問題があった時に即座に回収や原因究明を行うため、食品の移動を把握する「トレーサビリティー」(追跡可能性)は欧州で発達した。1990年代、BSE(牛海綿状脳症)や卵のサルモネラ菌汚染などで消費者の不信と怒りが高まり、業界団体は自主的に食品の移動履歴や品質管理を強化せざるを得ない事態に追い込まれた。
 欧州連合(EU)では2000年以降、牛肉や卵のトレーサビリティーが法律で義務付けられ、05年にはスーパーで扱う全食品に広げられた。ドイツやフランスでは、業界の自主ルール「国際食品基準」(IFS)も整備され、大手スーパーに納入する流通業者や生産農家は、年1回の監査を受け、認証されなければ取引が難しくなるという。
        ◎
 日本でトレーサビリティーが義務化されている食品は牛肉だけ。業界の取り組みも途上段階にある。
 農林水産省が昨年6月に公表した調査では、トレーサビリティーの仕組みを自主導入している小売業者は38・8%。その内訳は「すべての食品」が14・6%、「一部食品」が24・2%。
 欧州ほどには浸透しないのはなぜか。京都大の新山陽子教授(フードシステム論)は「特別な仕組みや多大なコストが必要で、常に消費者に詳細な情報公開をしなければならないと誤解されている」と指摘する。
 日本の牛に国主導で個体識別番号をつけたり、欧州で卵の殻に印字したりするのは特別なケースだ。通常のトレーサビリティーは「業者が日ごろ利用する伝票や配送記録を少し改善すれば導入できる」(新山教授)。しかし、日本では「QRコード」などで生産者の顔や農薬の使用回数を消費者に見せて安心を引き出すことと解釈されがちだ。大手食品会社幹部は「1社で頑張っても、他の企業の協力なしには実現できない」というジレンマも打ち明ける。
        ◎
 食の安全には、生産現場の取り組みも重要だ。
 千葉県北東部の野菜農家などでつくる農事組合法人「和郷(わごう)園」は04年から、安全管理の国際基準「農業生産工程管理(GAP)」を推進。安全のためのチェックは129項目にも及ぶ。これに基づき、組合員の林恒男さん(44)の倉庫では、農薬の保管場所と野菜を袋詰めする場所とをカーテンで間仕切りし、割れた時に破片が落ちないよう蛍光灯にカバーをしている。
 GAPも90年代後半に欧州で始まった。GAPの認証数は87か国・地域で約7万1000件だが、日本ではまだ約100件。「日本GAP協会」の武田泰明事務局長は「トレーサビリティーとGAPを組み合わせることで、本当の安全・安心が得られる」と話し、東京大の中嶋康博准教授(農業経済学)は「あまりコストをかけない工夫が必要だ」と指摘している。(38面に続く)
 
 ◆不正も見破る履歴管理 牛肉以外には浸透せず(1面から続く)
 白衣姿の職員が封筒から取り出したのは、茶褐色で小豆大の塊。牛の肉片だ。
 前橋市にある「家畜改良技術研究所」には、全国の食肉処理施設から1日5、6000個、多い時は1万個の肉片が届く。国内で解体される牛は年間約120万頭。そのすべての肉片が保管室で乾燥保存される。
 全国各地の農政事務所からも肉片が送られてくる。年間約1万8000個。こちらは、職員がスーパーなど店頭で購入したものだ。
 BSE(牛海綿状脳症)対策のため、2003年12月に始まった牛トレーサビリティー制度。国内の牛すべてに10ケタの識別番号をつけ、問題があった時に即座に対応できる態勢を取っている。食肉処理施設と店頭で、同じ番号の肉片が一致するかどうかDNA鑑定するのが研究所の役割だ。
 牛の出生や農場間移動、解体処理などの情報は福島県内の「家畜改良センター」でデータベース化されている。福島県のセンターがトレーサビリティー制度の中枢で、前橋市の研究所が正常に制度が機能しているかどうかを担保している。
 研究所の保存肉片は計約400万個になった。保管室の入り口は、登録された職員の指紋でカギが開く厳重管理。検査室では職員が肉片を容器に入れ、専用装置がDNAを読み取る。届いた2日後には判定結果が出て、農林水産省にメール送信される。
        ◎
 年5億円をかけ、すべての牛の肉片採取、保管と、鑑定までも行う「世界で唯一の体制」(遺伝検査部の森田光夫部長)が、「偽装」を見破ることもある。
 昨年6月。農水省から「和牛という表示が疑わしい」として、小売店で販売されていた肉片が届いた。鑑定結果は「不一致」。小売店はホルスタインと和牛の交雑牛を販売する際、過去に販売した和牛の識別番号を使い、和牛として陳列していた。「鑑定結果が不正発見にも有効に機能した」と同省担当者。
 香川県丸亀市で昨年、豪州産牛肉が国産と偽られ、学校給食に納入されていたことが発覚。これを機に市教育委員会は、食材に偽装がないか調べるため、中国四国農政局を通じて同研究所に肉片を送るようになった。
 他の自治体からも給食での検査希望が相次ぎ、新年度からは10か所以上の鑑定を行うことになる。
        ◎
 牛肉の履歴管理は厳重になったが、それ以外の食品ではトレーサビリティーは必ずしも浸透していない。
 「履歴添付を求められるのは、卸先の小売約30社のうち大手スーパーなど2社だけ」。そう話すのは、宮崎県串間市で05年4月から養殖ブリの履歴管理を行っている「黒瀬水産」の前橋知之社長(50)。
 志布志湾の養殖場で餌を与えた社員が毎日、餌の袋のロット番号、薬の使用量、いけす間のブリの移動などを記録簿につける。この記録を集め、事務員がパソコンに打ち込む作業は「多い時でも1時間ほどで終わる」。費用は専用ソフト代で数十万円かかった程度だ。同社では、加工場での温度や微生物検査記録などの履歴も整備している。
 「管理状況を毎日記録していれば、結果として履歴管理ができる。難しいことではなく、食を扱う業者にもっと広がってほしい」と前橋社長は話した。
 
 写真=生産者と生産方法などの情報が赤インクで記されている卵(林路郎撮影)
 
 〈DB注〉38面の記事を1面に一体化

2008年 3月22日 読売新聞

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