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後藤ひろひと OFFICAL SITE ひろぐ

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「グッチ」が自宅前まで車で迎えに来てくれるというので
編集したCD
『Healing Music くわがたが沢山採れるCD』
はもちろん
様々な甲虫捕獲道具などを備えて
家の前に立ってみた!

そこで大雨が降り始めた!

通りの向かいの看板の字がかすむほど
大量の雨が降り注いだ!
そんなところに「グッチ」が現れたものだから
我々は二人ともただ苦笑していた!

「これはだめかねぇ?
 また飲み屋で”昆虫談義”かねぇ?」

実は「王立甲虫捕獲団」の出動予定は
前の週だったのだが
その日はまさかの豪雨で出動中止!
「グッチ」の高校の同級生にして
”くわがた名人”と呼ばれる「チョロ君」と三人で
手近な居酒屋に向かい
雨音を聞きながらただひたすら昆虫の話に興じた!
それはそれで楽しかったのだが
二週続けてやるほどのイベントではなかった!

「まずはチョロ君の家まで行こう!
 こことは天候が違うかもしれない!」

大阪市で集合した我々だが
まず向かう先は「チョロ君」が住む
「寝屋川市(ねやがわし)」だ!
大阪市内から車で1時間ほど走るので
天候が違っている可能性は高い!

「CD聴きましょうよ!」

「グッチ」はそう言うのだが
私にはためらいがあった!

「やめといた方がいいかもよ!
 採集に行けないかもしれないのに
 やる気ばかりが起こっちゃうよ!」

「いやいや聴きましょうって!」

「グッチ」号の車内には
大音量の『レイダース・マーチ』が充満した!
”巨石玉に追われてもくわがたを採集しなければ!”
という勇気とやる気ばかりが心にあふれた!
しかし車窓から見えるのは
ひたすらの豪雨だった!

住宅街の路地を散々迷って
「チョロ君」の家に到着した!
雨は小降りになっていた!

「どうする?
 行ける?」

「チョロ君」は
「とりあえず向かいましょう!」
と言ってくれた!
我々は「チョロ」号に乗り換えた!

てっきりそのまま採集地に向かうものと思っていたら
1時間ほどして入り込んだのは
なんだかとても苦手な景色の住宅地だった!
そこは「間谷住宅(まだにじゅうたく)」と呼ばれる
閑静なベッドタウンだった!
しかし私はここにあまりいい思い出がない!
「箕面市(みのおし)」最北端にして
”これより北には人間が住んでいない最後の大阪府”
と言われる場所!
そう!
そこは私が7年間も籍を置いた挙げ句に中退した母校
「大阪外国語大学」がそびえる場所だったのだ!

私がそこに7年間通っていた事!
(正確にはそんなに行かなかったからこそ
 7年間の学籍があったのだが!)
そして現在では吸収され
「大阪大学 外国語学部」になってしまっている事を
私が口にすると
これまでずっと賢い男だと思って付き合っていた「グッチ」が
とんでもない事を尋ねて来た!

「大阪大学って何ですか?
 そんな大学は無いですよね?」

「お前それ本気で言うてんのか?」
と軽く怒り始めた「チョロ君」と共に
”東京大学”や”京都大学”などを例に出して
「大阪大学」の存在を説明したのだが
「グッチ」は一貫して
”そんな大学は聞いた事もない!”
と言い張る!
これは一体何事だ!
やがて我々が口にする略称「阪大(はんだい)」に
「グッチ」が反応した!

「え?
 阪大?
 阪大病院とかの阪大?
 あれ?
 阪大って大阪大学の事なんですか?
 うっそー!
 そんなの知ってる人は世間に少ないですよ!」

こいつものすごく腹の立つ奴だ!
「大阪大学」を知らない大阪出身者は
かなりの珍種だ!
なのにそんな珍種の自分を基準にして
”世間”を語り始めたのだ!

「君がアホだと思う知り合い5人に明日
 ”大阪大学という学校を知っているか?”
 ”その学校名を何と略すか知っているか?”
 という質問をしたまえ!
 もし1人でも”知らない”と答える人がいたら
 君を”世間”の一人として迎えよう!
 ただし5人全員が正解を答えたら
 君は自分という人間に問題がある事を
 しっかりと自覚したまえ!」

「いいっすよぉ!
 やりますよ!」

なんだかふてくされたようなその言い方が
更に我々を怒らせた!
私と「チョロ君」の願いは
”晴れろ!”ではなく
”さっさと明日になれ!”
に変わっていた!

「チョロ君」が
「間谷住宅」の一軒家の前に車を停めると
そのエンジン音を聞きつけてか
中から眼鏡をかけたひ弱そうな青年が出て来た!
「チョロ君」は彼をこう紹介した!

「僕は”くわがた名人”でもなんでもないです!
 彼こそが僕の師匠にして
 本物の”くわがた名人”なんです!」

不思議な雰囲気のその青年は
深夜の山中に単独で懐中電灯一本を携え
「甲虫採集」に出かける本物の”くわがた名人”だった!
冬になるとほぼ毎日山に入り
夏に甲虫が集まりそうな採集ポイントを
探し続けるのだと言う!
これは完全にただ者ではない!

「飼育室覗きますか?」

彼は自宅の離れとなる一室に
年間通して温度管理された
「飼育室」を設けていた!
それこそ私の将来的な夢の一つである!
素晴らしい!
うらやましい!
二つをあわせると
「すばやましい」になるのだろうか?
言いにくいからこんな言葉は作らないでおこう!

イメージ 1

昆虫の事をあまり知らない「グッチ」に
我々は3人がかりであれこれ講義した!
とても基本的な事を聞いて来る「グッチ」に
我々はわかりやすく丁寧に解説した!
なんだろう?
「大阪大学」に関しては
こんな優しさは絶対生まれなかったのに
飼育室の中では
みんな「グッチ」に優しくなれた!

イメージ 2

「もうほとんど雨は降ってないですねぇ!
 ・・・行きましょうか?」

くわがた名人達の勇ましい一言を聞き
我々は歓声をあげて車に乗り込んだ!
いよいよ念願の「甲虫捕獲団」出動である!

イメージ 3

どこの何と言う場所に行ったかは
ここには決して書かない!
くわがた名人達は
それぞれに自分の捕獲ポイントを持っており
その場所を明かすのは
完全に信用できる相手だけのようだ!
我々をガイドする二人の名人達は
どうやらそういう関係のようである!

ここで大事な話を記しておこう!
「くわがたむし」はたいてい木の”うろ”(穴)や
めくれた樹皮の間に隠れている!
それを上手に捕獲するため
我々はピンセットを含む特殊な道具を持参する!
もしもそんな道具無しに
無理に捕獲しようとし
樹皮をめくり取ってしまえば!
・・・そこにはもう二度と「くわがたむし」は現れない!
何年経っても現れる事はない!
それは自然だけが作る事のできる甲虫の生活環境なのだ!
それを知らない家族連れや子供達や
ほんのノリだけでの捕獲者達が
ばりばりと無神経に樹皮をめくるため
「くわがたむし」の生息地が失われているのである!
”くわがた名人”達が
”あの場所に行けば必ず捕獲できる”
というような事を他人に話したがらない理由は
私利私欲ではなく
「くわがたむし」の生活環境を守るためなのだ!
もしも今年の夏に親子で昆虫採集に出かける方は
充分に注意して欲しい!
必要な物は虫取り網ではなく
ピンセットや
針金を曲げて作った「かき出し棒」なのだ!
(「チョロ君」から教わった
 簡単な「かき出し棒」の作り方を
 いずれ『ひろぐ』でお教えします!)

はてさて!
まず名人達に案内された場所は
神社の裏山のような所だった!
それでも特に道があるわけではなく
昼間でも入る事のないであろう林の中に
我々はわしわしと突入した!

「ここにいるはずですよ!」

”いるはず”という自信に満ちた言葉に従い
さっそく「かき出し棒」を駆使すると!
次から次へと「ヒラタクワガタ」が採れた!
大はしゃぎする私と「グッチ」に
だんだんと二人の名人達も熱くなり始めたようだった!

イメージ 4

続いて案内された場所は
道路脇にある駐車場だった!
確かに駐車場の横は林なのだが
すぐそばに民家の明かりがいくつも見える!
まさかこんな場所で?
不審に思った私は
ここからずいぶん歩きますかと尋ねてみた!
しかし名人達は”いいやここですよ”と言う!

「このポイントは”かぶとむし”がすごいです!
 ほら!
 もう樹液の香りが人間でもわかるでしょう?」

ややっ!
確かに!
日常は嗅がない独特な香りが林の中に漂っている!
一体どこから香っているのだろう?

「ほらほら!」

名人達が照らす樹上を見上げてみると!

イメージ 5

すごかった!
大きく立派な「かぶとむし」が
大量に木にとまって樹液を吸っている!
喧嘩の最中なものもいれば
交尾中のものもいる!
高さは背伸びをすれば手が届く位置なので
完全につかみ取り状態だ!
私と「グッチ」は一心不乱に
「かぶとむし」をつかみ採った!
出がけに百円均一のお店で購入した虫かごは
わずか10分ほどでいっぱいになった!
産卵飼育用にオスとメスをつがいで欲しかったので
オスだけがいたら
そのまま見過ごした!
この写真に写っている「かぶとむし」なども
このままにして場を去ったほどだ!
ひろいだ!
ひろぎにひろいだ!

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第3のポイントは
かなり過酷な山中だった!
しかも雨上がりなため
足下はずるずるに滑る上
道だったであろう地面は
川になっていたりする!
それでもまったく臆する事なく歩む名人達!
我々は必死で彼らの後に続いた!
名人が転んだりしているのに
私はそうならずに済んだ!
久々に履いた登山靴「ジョージ&アンディ」
その性能を遺憾なく発揮してくれたのである!
そこでは「ミヤマクワガタ」が何匹も採れた!

それはそれは最高のひろぎだった!

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かくして翌朝!
捕獲した甲虫達を
しっかりと飼育ケースに納め
私なりに彼らの生活環境を整えた!
名人宅の飼育室とまではいかないにしても
私の昆虫飼育歴だって短くはない!
「かぶとむし」が1ペアいれば
最低でも20匹は産卵させる自信がある!
だとすればこれはひろぎに任せて捕獲し過ぎたぞ!
そんな反省をしつつ
現在知り合いにメールをしたためて
里親を探している!

やがて「グッチ」からメールが来た!
まずは彼の奥さんに一蹴され
彼が所属する大所帯バンド
「赤犬」のメンバーにも尋ねたところ
13人全員から一斉に馬鹿にされたそうだ!
0勝14敗!
「大阪大学」を知らない大阪人は
ほぼ確実に「グッチ」だけだ!
きっと今後は公園で子供に尋ねたりして
勝率を上げようとするのだろう!
やがてそうするうち
出身者でもないくせに
「大阪大学のおっちゃん」
と呼ばれていくのだろう!
なんだかそれも腹立たしい!



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