高齢者や障害者に代わり、親族や弁護士らが財産を管理する成年後見制度。高齢化社会の“見守り役”と期待されながら、後見人が被後見人の財産を勝手に使い込む事件が後を絶たない。東京地検は今月1日、母親の資産を横領した後見人の息子を起訴したが、後見人選任から1カ月後には早くも犯行に手を染めていたとされる。相次ぐ不正からは、被後見人が「食い物」になっている現状が浮かび上がる。
東京地検刑事部が、業務上横領罪で起訴した不動産業、石田和幸被告(64)は、平成18年9月に母親(86)の後見人に選ばれた。捜査関係者によると、石田被告は後見人選任から、わずか1カ月後に母親の不動産を売却。売却代金の大部分だった約4600万円を横領し、株の購入などに流用していた。
社会的に信頼が高いはずの弁護士が摘発されたケースもある。9月26日、成年後見人として管理していた男性の預貯金約1510万円を着服したとして、名古屋市内の弁護士の男が有罪判決を受けた。男は外国為替証拠金取引や競馬での損失を埋めるため、財産の着服を決意したとされる。
最高裁によると、昨年6月〜今年3月の10カ月間に確認された後見人や保佐人、補助人による着服は182件。被害総額は約18億3千万円に達した。後見人らの解任も18年が196人、20年が257人、22年が286人と増加傾向にある。
「指示書」で必要額払い戻し
成年後見人による不正が続く背景には、家庭裁判所による後見人に対する調査が事後的で、十分に監督できない状況がある。こうした現状を重く見た最高裁は来年2月をめどに、後見人が家裁の審査を経た上で必要な金額を信託銀行から引き出す「後見制度支援信託」を導入する。
家裁は民法などに基づき、後見人に対し財産の管理状況について報告書の提出を求めたり、金融機関に預金口座の照会をしたりして、適正な財産管理が行われているかを確認する。だが、こうしたチェックは事後的なものになってしまう上、報告書の提出を後見人に強制することはできない。
東京地検が業務上横領罪で起訴した不動産業の石田和幸被告も東京家裁からの報告の求めに応じていなかったとされる。最高裁関係者は「着服をする後見人は故意犯。家裁の調査、監督による不正防止には限界がある」と漏らす。
後見制度支援信託を利用する場合、後見人は生活費など日常的に使う財産を口座で管理し、それ以外のまとまった財産を信託銀行に預ける。生活費などの口座の収支が赤字になると想定されるケースでは、信託契約に基づき、信託銀行から定期的に一定額が補充分として振り込まれる。
入院や家のリフォームなど急な支出が必要になったときには後見人が家裁に申請。家裁から許可に当たる「指示書」を得た上で、信託銀行から必要額の払い戻しを受ける。事前に家裁が支出目的と必要性をチェックすることで、被後見人の財産被害を防ぐ。
後見制度支援信託は成年後見に加え、親を亡くすなどした未成年者の後見も対象になる。家裁が被後見人の財産状況などから、同信託を利用するか決める。
最高裁によると、複数の信託銀行が同信託の提供を始める見込みで、最高裁家庭局では「高齢化が進む中で後見制度への需要は高まっている。ただ、後見人の犯行があるようでは制度の根幹が揺らぐ。信託を活用して不正を防止したい」としている。(高久清史)
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【用語解説】成年後見制度
高齢や病気によって判断力が不十分な人の権利を守るため、裁判所が本人や家族などの申し立てを受けて援助者を選任する制度。判断力の程度に応じて援助者は「後見人」「保佐人」「補助人」となり、家族や弁護士、司法書士らが選ばれる。