2010年3月14日
重い病気や虐待によるけがなどで病院に運ばれ、必要な治療が終わっても家庭に戻れない乳幼児には、背景に深刻な経済的貧困があるケースが急増している。県立小児医療センター(さいたま市岩槻区)のソーシャルワーカー平野朋美さん(50)らの調査で、センターの新生児集中治療室(NICU)から自宅でなく乳児院に移った子のほぼ六割が、家庭が貧困状態であることが判明。病院での貧困問題は以前からあったとされるが、ここ数年は特に顕在化しているという。
平野さんは、二〇〇三年四月から五年八カ月の期間にセンターを経由して乳児院に入ったほぼ全員に当たるゼロ歳から三歳までの二十六人を対象に、その子の家庭の社会的背景を分析した。乳児院への入所理由は十二人が虐待で、十四人が親の養育困難だった。
背景に挙げたのは(1)婚姻届を出していない(2)ひとり親(3)経済的問題(4)母親の心の問題(5)ドメスティックバイオレンス−の五項目。最も多かったのが経済的問題の十五人で、全体の58%。そのうち八人がひとり親の世帯だった。
母親の心の問題は、「泣き叫ぶ赤ちゃんを前に、どうしたらいいか分からない」など、子どもと関係をうまく結べないケース。こうした問題を抱える母親が、全体のほぼ三分の一に当たる八人いた。母親が家庭や地域で孤立している実態が、背景にあるとみられる。
◆退院しても行き場なく
重篤な乳幼児が家庭での養育を受けられない場合、病院を退院しても行き場がない事例が目立つ。子どもが健康なら通常は乳児院に入るが、乳児院には医師や看護師が常駐しておらず、医療措置が必要な子は敬遠されるためだ。
細菌性髄膜炎のため生後二カ月で県立小児医療センターに入院した女児の両親は、まだ十代だった。多額の借金があったが父親は生活費を家に入れなくなり、母親は夜間時給千円のアルバイト生活。母親は自分一人で育てる決心をしたが、女児は後遺症で何度もけいれん発作を起こしており、自宅復帰は困難だった。母親は児童相談所と協議し乳児院を探した。
だが、「今の職員配置では発作や呼吸困難時にすぐに対応できない」などと、三カ所で受け入れを断られた。児童相談所は乳児院側と何度も協議を重ね、緊急時にはセンターが対応するという条件で、熱意ある非常勤の嘱託医がいる乳児院が入所を承諾した。
平野さんによると、このように家庭に戻れず治療が終わってもセンターから退院できない子が、二月初め現在で少なくとも八人いるという。「小児病院に内在するこうした問題自体が、日本の貧困ではないか」と訴える。
先月二日にさいたま市で開かれた乳児院や医療関係者などによるシンポジウムで、センターの医師は「全県的に小児医療施設などをネットワーク化し、家に帰れない病弱児に柔軟に対応できるシステム構築を」と提案。医療(病院)と福祉(乳児院)のはざまをどう埋めるかが、緊急の課題となっている。
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