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毎日新聞 9月2日(金)9時42分配信
 SOSはまた、見過ごされた。大阪市西淀川区の市立大和田小2年、藤永翼君(7)が死亡した虐待事件。数カ月前から近所に怒声や泣き声が響いていたが、誰も通報しなかった。児童相談所は情報をつかみながら積極的には動かなかった。児童虐待の対策は強化されているはずなのに、なぜ、悲劇は繰り返されるのか。事件発生1週間を機に検証した。

 「お便所に行かせていただいてよろしいでしょうか」。隣家の60代女性は最近、翼君のか細い声を耳にした。直後に継父の怒鳴り声が響いた。「逃げるんとちゃうんか」
 翼君の家は木造の棟続きの借家。翼君が引っ越した今年春ごろから、女性は壁越しに、虐待の様子を耳にするようになった。
 「普通のしつけじゃない」。女性は虐待を疑ったが、通報したことはなかった。「人様のことに口出したら、あかんと思っていた」

 近所の男性(80)も、パン、パンと平手でたたくような音が耳から離れない。翼君はその度に「ごめんなさい」と泣き叫んだ。「通報したのがばれて、逆恨みされ、トラブルに巻き込まれるのが怖かった。今は後悔している」と肩を落とした。
    ◇

 翼君は先月25日夜に病院に搬送され、26日未明に亡くなった。「プロレスごっこで放り投げた」。大阪府警西淀川署は26日、継父の無職、森田勝智(まさとも)(44)と実母の良子(りょうこ)(29)の両容疑者を傷害致死の疑いで逮捕した。

 捜査関係者らによると、翼君は生後間もなく、児童養護施設に預けられた。「(良子容疑者の)養育が困難」という理由だった。しかし、良子容疑者は今年2月、勝智容疑者と再婚すると、翼君の引き取りを望み、児相が許可して3月末に同居が実現した。
 ただ、勝智容疑者は昨年秋から職に就かず、生活保護を受けていた。捜査関係者は「翼君にとって初めての家庭は、決して安定したものではなかった」。翼君への虐待は同居後すぐに始まった。
    ◇

 翼君を救う機会は何度もあった。市こども相談センター(児相)には5月と6月、小学校から計4度、翼君の虐待に関する通報があった。7月には良子容疑者が「子育てにいっぱい、いっぱい」と電話してきた。
 しかし、児相は森田容疑者らと形式的な面接をしただけで、積極的な対応に乗り出していなかった。大阪市の担当者は会見で「危険な兆候を職員全員が見落としていた。子供のSOSを把握できる人材の育成をしないといけない」と述べた。【近藤大介、向畑泰司、稲生陽】
 

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