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皆さんはどういう様子を思い浮かべられるのだろうか。
もちろんたらいをまわしているわけではないだろう。
きっと、今のご時世、急病で倒れた患者さんを載せた救急車が
病院に何の連絡もせずに、救急指定医を掲げた病院の窓口などに乗り付けて
患者さんをおろした後に、
「いやいやうちではダメですよ」
と白衣を着た医者もしくは看護婦が
別の病院へ言ってください、
と救急隊員にお願いする。
そして、また救急車は別の方向へ走り出す。
こんな場面を想像されるのだろう。
本来なら、そういう患者さんを常に受け入れてもいいように
しておくのが、救急指定医というものなんだろう。
ところが、実際はそうではない。
たいていの場合はこうである。
急病人がでるとまず、一般家庭等から119番へ通報が入る。
ここから5−10分程で救急車が要請された場所に到着する。
救急隊は患者の病状を把握しながら
患者を救急車に乗せつつ、別の救急隊員が電話で受け入れ先を探す。
そう、電話で受け入れ先を探し、受け入れが確定した時点で初めて
車が動きだすのだ。(もしくは山奥で一本道だったら
ある程度広い道路へ動いてはいるかもしれないけど)
つまり、行き先が決まるまでは救急車はほとんどの場合、停車しているのだ。
(その間には、救急車内にセットされた酸素の投与や、心電図モニターなんかは
救急隊が施行出来る。)
A病院に電話したけど断られ、B病院もだめでC病院オーケーです。
となったらC病院へ即座に出発する。
「救急車たらいまわし」と「救急患者受け入れ拒否」
が少なくとも同じではないことは分かっていただきたい。
まあこれは言葉の問題にすぎないことであるけれど。
世間をにぎわしている今回の事件はおおよそ後者に当てはまるものだろう。
かかりつけ医を受診した時点で脳内出血を疑い、
かかりつけ医が、7つか8つの病院に
順番に電話をして、受け入れが決まったのが、
最初に電話をしてから約1時間後だった。
そこからかかりつけ医が紹介状を書き
119番に電話をして救急隊が到着し、
一路目指す病院へ、こんな感じだろうと思う。
かかりつけ医からなんとか病院までの距離はしらないが
時間的に長く見積もって2時間くらいだろうか。
(患者の発症した時刻を合わせると、もっとだろうが。)
決して救急隊と救急車が町中をさまよった訳ではないんだろう。
今回の患者はちゃんと検診をうけていたそうだから、この時間だったかもしれない。
(もし、検診を受けていない患者だったなら直接119番要請しただろうから
救急隊の病状把握がよほど正確なものでない限り
また、以前の例のようなことになっていたかもしれない)
実際の診療現場にいると、妊婦以外の患者でも
受け入れ拒否をされてしまうことが少なくない。
多分、今回の7、8件は多すぎるのには間違いないだろう。
私の住む田舎県には
病院が少ないので、受け入れを断られることは
都会に比べれば少ない方だろうと推察される。
病院がないから断れないのだ。
その実、私の勤める大学病院も、産婦人科だけは他県に
誇っていいとおもっている。
これから出産を考える方々にはぜひ、おすすめといいたい
ところだが、
そうなると希望が殺到して機能しなくなりかねないので
それは止めておこう。
さて、妊婦のリスクを考えたとき
母体というものは、非妊娠時にくらべ、
胎児が成長するに従って、それを維持しようと
循環血液量は通常より多くなる。もちろん体重も増える。
非妊娠時プラス10kgなんて話もよくある。
だから、健常人に比べて体内の血液量もあがれば血圧もあがるし
当然脳出血の危険性も高くなるだろう。
くも膜下出血を起こしたとき
その3分の1の患者は死亡し
その3分の1は後遺症をのこし
のこりの患者は回復する。
薄れかけた記憶だが、脳外科の講義でそう教えられた。
今は医療も進歩しているのでそうではないかもしれないが。
妊婦がくも膜下出血を起こしたらどうなるか
その予後は私もしらないが、
妊婦がくも膜下出血のリスクを持ちやすいのは
容易に理解出来る。
今度の症例がくも膜下出血(SAH) かどうか、はっきりとは言われていないから
なんともいえないが
外傷の既往や、脳腫瘍なんかがない限りはおそらくそうだろう。
SAHとして仮定で話をすすめたとして
その3分の1は助からなかったとすると
不幸なことに、この患者さんは、受け入れを
断られずすぐさま搬送されたとしても
命を落としていた可能性は否定はできないだろうと思う。
ましてや胎児を抱えた体ということは
母体に対して負荷がかかっているということであれば
その死亡率は一般人より上がるのではないだろうか。
(このへんは産婦人科に聞いてください、私も専門ではないので。)
医者を擁護するわけでは決してない。
ただ、そういう事実を知っての報道なのか。
そういう事実を知っての報道を見聞きする人々なのか。
それならいいが。
受け入れが困難な状況にある産婦人科の病院が、都会にひしめいている
これは憂慮すべきなのは間違いないだろうと思う。
憂慮すべき点を間違ってしまうと
医者はこの日本にいなくなるだろう。
救急当直の体制はどうだったのだろうか。
普通、総合病院だとか、大学病院クラスになってくると
各科に当直がいて、急患が来て手術等が必要になると
当直に加えてオンコールドクターというのがいつでも呼び出される体制になっているはずだ。
(また、このオンコールというのがくせもので、
自分の専門外の患者をその専門オンコールに依頼するとき
はい了解致しました、すぐ受け入れてください、といってくれる医者もいるし
いやあ、それは受け入れられないねえ、な態度を示すヤツ(あえてヤツと書く)もいる)
もしくは呼び出すことはなくても、電話で診療の相談だけでも出来るようになっている。
今度の病院の当直は研修医と聞いているが、
研修医はこのオンコールに電話相談したのだろうか。
相談しても受け入れられないねえ、とヤツに返事されたのだろうか。
はたまたオンコール体制すらなかったのか。
とりあえず、出産するなら私は私の地元でしよう、と思っている。
もっとも、その予定なんか全くないが。
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