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脳梗塞などに罹患し、物をうまく飲み込めなくなって肺炎を繰り返すなど、
自分で口から栄養をうまく摂取できなくなった患者さんに
栄養を与える方法の一つに
胃瘻(いろう)というものがある。
これは、体表から胃に向けて直接あなをあけてそこに管を留置して
管から流動の栄養を流し込む手段である。
うまく管理されれば、栄養状態もよくなり、床ずれなどの発生を抑制することも
可能になるよい医療手段の一つである。
一方で、胃にあなをあける手技であるから、出血したり、あけてはならない場所に
あなをあけてしまうことも当然可能性としてはある。
だから、むやみやたらに胃瘻をつくってはならず、適切な症例であるか
じゅうぶん考慮して行わなければならない。
先日、腎臓の炎症がもとで入院した後、めっきり食欲がなくなり
寝たきりに近い状態になったおばあちゃんの
胃瘻作成を頼まれた。
入院するまでは元気に車いすで通院できていた患者さんで、
入院後は内科主治医のオーダーで高カロリーを点滴され、
ほとんどベッドに寝たきりにされていた状態だった。
かねがねこの状態を横目で見ていた私は見かねて
こういった。
先生、この患者さんに胃瘻はまだ早すぎるのではないですか。
入院前までは自分の口から十分に栄養をとっていた患者さんですよ。
入院後点滴ばかりで離床がすすんでいないから
おなかも減らないし、食事もすすまないんではないのですか。
もし、出来るなら、まず、点滴の量を減らして、なおかつ離床を
させて、食欲を増してあげたらどうですか?
それに、この患者さんは、私が見ている範囲では
食べ物ののみこみが悪い訳ではないし、
誤嚥をされるような患者さんではないようにお見受けします。
まずは口から食べさせてあげてはいかがですか?
入院してから長くかかっているようですが、胃瘻を作って
はやく転院させる計画でもあるんですか?
そりゃあ、胃瘻をつくってしまえば、いくらかは手技料もとれましょうけど
とにかくこの患者さんには胃瘻はまだ早いと思いますがいかがでしょうか。
(現行の医療制度では、分かりやすく言うと、入院期間が長くなった患者さんからの医療報酬は
少なくなるようにつくってあるのだ。ようするに、病院側は入院が長くなると儲からないわけだ)
わたしは正直どきどきだった。
自分より何年も先輩の、しかも頭のいい内科医に
こんな風に意見したのははじめてだった。
しかし、自分の意見には間違いはないと思っていたから
はっきり言う事ができた。
今までは私のような下っ端の意見が通る事はなかったが
今回は、内科医も
ん、あ、そうですか、それなら
といって、点滴を減らし、リハビリをオーダーしてくれた。
いま、この患者さんは退院し、車いすで通院されている。
大好きなお肉を口から食べている。
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