|
過去の歴史地震・火山災害に学ぶ(一)
「大地動乱の時代」の再来
東北歴史博物館 上席主任研究員 柳澤和明
「三・一一」(三月十一日)は、アメリカ国民にとっての「九・一一」と同様、日本国民にとって忘れてはならないメモリアル・デイとなりました。二〇一一年三月十一日午後二時四十六分、「平成二十三年(二〇一一年)東北地方太平洋沖地震」(気象庁命名の正式名称)が発生しました。これまでに日本列島で起きた地震のうち最大の超巨大地震で、震源は三陸沖、深さ約二十四km、モーメントマグニチュードは九・0。この超巨大地震の発生後まもなく福島第一原発では全電源喪失、炉心溶融して放射能が広範囲に飛散。半径二十kmが避難地域に指定され、同地域居住の方が避難。FUKUSHIMAと世界で通用する大惨事に発展し、震災は今もなお継続中です。政府の緊急災害対策本部の六月二十日発表では、この巨大地震による死者は一万五四六七名、行方不明七四八二名、計二万二九四九名(大半が津波の犠牲者)。建物の全壊十万三九八一戸、半壊九万六六二一戸、一部損壊三十七万一二五八戸、計五十七万一八六〇戸。三ヶ月を経ても避難者十二万四九五四名。東日本は超巨大地震・巨大津波・原発震災というトリプルパンチに見舞われ、東日本大震災と呼ばれるようになりました。
現在、われわれが置かれている状況を理解するためには、地震・津波・火山など災害部門の研究者が発信している強い警告を謙虚に受け止めなければなりません。
「現在、日本列島はほぼ全域で大地震の活動期に入りつつあるということは、ほとんどの地震学者が考えております。ということは、非常に複雑高度に文明化された国土と社会が、言ってみれば人類史上初めて大地震に、それも決して一つではない、何回か大地震に襲われる、そういうことであります。したがいまして、これは大げさではなくて、人類がまだ見たこともないような、体験したこともないような、震災が発生する可能性が非常にあると思っております」。これは石橋克彦神戸大学名誉教授(地震学)の発言ですが、今回の東日本大震災後ではなく、それ以前の二〇〇五年二月二十三日開催の第百六十二回国会衆議院予算委員会公聴会で述べた警告です。
「大地動乱の時代」という呼び名をみなさんはご存じでしょうか。石橋教授が一九九四年に岩波新書三五〇として刊行された『大地動乱の時代―地震学者は警告する―』の題名に使われております。石橋教授は、日本列島には比較的静穏な時期と巨大地震が続発する大地動乱期とが交互に訪れ、一九二三年関東大震災以後は静穏期へと移行していたが、現在再び動乱期に入りつつあると警告し、東京一極集中の危険性と大地震に耐え抜く分散型国土の建設を広く呼びかけました。
この「大地動乱の時代」という言葉は、現在のわれわれがおかれている困難な状況を理解する上で重要なキーワードとなっています。また、過去の歴史地震・火山災害を読み解く上のキーワードでもあります。
石橋教授は、「原発震災」という概念の提唱者でもあり(「原発震災―破滅を避けるために―」岩波書店『科学』一九九七年十月号)、大地震によって原発が炉心溶融し、地震災害と放射能汚染が複合する災害の発生する危険性を鋭く指摘し、浜岡原発の停止と脱原発を広く呼びかけていました。石橋教授が危惧されていたように、福島第一原発の炉心溶融により、東日本全域に甚大な被害がもたらされました。福島第1原発震災はまだまだ進行中です。われわれは優れた地震研究者の鋭い警告をじっくり聴く必要があります。
静岡大学防災総合センターの小山真人教授も、そうした鋭い警告を一般に向け継続的に行ってきた地震・火山学者の一人です。教授のホームページで「東日本沖で起きた巨大地震について」と題し、多角的な分析視点で東日本大震災を一般に向け、わかりやすく解説されています。そして、「日本の地殻がいわばパンドラの箱が開いてしまった状態」にあり、「これまでの地学的に平和で安定した時代は終わりを告げたと認識し、どうか頭を切り換え、限られた資源とマンパワーを有効に配分し」「住民全員が十分な防災対策をしつつ、この長い未曾有の国難を乗り越えるために、それぞれの持ち場で自分の培った力を十分に発揮してください。私も自分ができることを遂行していきたい」と呼びかけています。講演資料「東日本大震災を起こした地震とその影響」は、「一.何が起きたのか。二.これは予想されていたことなのか?本当に「想定外」現象なのか?三.いま何が起きつつあるのか?(一)誘発される地震、(二)誘発される火山噴火」の三部構成で、PDFで六三頁にも及びます。今回の東日本大震災を理解し、予想される今後の推移に備える上で重要な情報が満載されています。ぜひ一読をお薦めします。
東北大学防災科学研究拠点も今回の東日本大震災直後から積極的な活動を展開し、一般市民に向け多角的な情報を発信しています。四月十三日には、東北大学による東日本大震災一ヶ月後報告会」、六月十日には「東北大学による東日本大震災三ヶ月後報告会 復興に向けて見えてきた課題」を実施し、その報告資料を東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センターのホームページで公開しています。六ヶ月後、一年後にも報告会を開催するとしています。この情報も見逃せないでしょう。
「現在は過去の鏡である。過去は未来の鍵である」。これは、六月十三日に開催された第二回「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」で、岡村眞高知大学大学院教授(地震地質学)が提出された資料に見える言葉です。
過去の地震・火山災害を現在の地震・火山災害を手がかりに読み解き、さらにその教訓をこれからの地震・火山災害対策に活かす必要があります。それには、地震・火山・地形・津波・歴史・考古学など、理系・文系の枠を越えた学際的な研究がますます重要になってきます。
私は多賀城など城柵遺跡を中心に考古学的な観点から東北古代史を研究しています。多賀城の時代のうち、九世紀は「大地動乱の時代」でもありました。
次回は「九世紀は大地動乱の時代」と題し、九世紀における地震・火山噴火の概要をご紹介します。
|