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いしぶみ39号(2)

過去の歴史地震・火山災害に学ぶ(二)
       
             九世紀は「大地動乱の時代」

                    東北歴史博物館 上席主任研究員 柳澤和明

 前回は、今年三月十一日に東日本大震災が発生した現在、日本列島がすでに「大地動乱の時代」に再び突入していたことを紹介しました。
 寒川旭産業技術総合研究所招聘研究員は、「地震考古学」という分野を新たに確立し、一九九二年に『地震考古学』(中公新書)を著しました。その続編にあたる『地震の日本史 大地は何を語るのか 増補版』(中公新書一九二二)を東日本大震災直後に著し、補遺「東日本大震災のあとで」の中で、「九世紀の地震活動は、現在の日本列島と共通点が多く、将来に向けての教訓を得る重要な時代と言えるだろう」と指摘しています。同書の帯には、「平安時代に起きた東北巨大地震の十八年後には南海大地震が起きている!」。同書を読むと、日本列島には巨大地震がこれほど多く繰り返し起きていたのだ、と気付かされます。「大地動乱の時代」に再突入した今、一般に広く読まれるべき本の一つです。
 九世紀は「大地動乱の時代」の一つで、地震・火山噴火が続発しました。特に火山噴火は最も多い世紀でした。
 今回は、九世紀に起きた巨大地震、火山噴火を紹介します。手元に置く本の一つに、毎年国立天文台が刊行する『理科年表』(丸善)があります。この中の「日本付近のおもな被害地震年代表」、「日本のおもな火山」が正確で、通覧にも便利です。小山真人教授の運営されている静岡大学防災センターHP公開の古代・中世地震・噴火史料データベースを使用し、八〇〇〜九〇〇年の間の地震と火山噴火を検索しました。また、保立道久東京大学史料編纂所教授のブログ「保立道久の研究雑記」より「地震・火山」連載ブログも参照しました。これらを用いて、以下、主な地震、火山噴火を年代順に記します。●が地震、▲が火山噴火です。なお、一五八二年以前の西暦表記は世界標準のユリウス暦を用いるべきである、との小山真人・早川由紀夫氏の見解にしたがい、西暦月日はユリウス暦に換算しています。前述データベースにない例は、岡田芳郎編一九九六『日本暦日総覧』(本の友社)を用いて換算しました。また、「貞観地震」と呼ぶとき、貞観十一年の陸奥国巨大地震をさすことが一般的ですが、保立道久氏の研究により同年に肥後国や他の国でも地震が発生していたことが明らかとなっています。貞観五年には越中・越後国大地震、貞観十年には播磨国大地震がありました。今後、「貞観十一年陸奥国巨大地震」のように呼び、これらを区別すべきでしょう。

▲八〇〇年四月十一日〜五月十五日 延暦十九年三月十四日〜四月十八日(『日本後紀』)。富士山噴火。足柄路が降灰砂に埋もれ、箱根路を開削。
▲八〇六年 大同元年。陸奥国磐梯山水蒸気爆発。(『慧日寺縁起』)
▲八一〇〜八二四年 弘仁年間(『日本三代実録』)。出羽国鳥海山噴火。
●八一八年八月 弘仁九年七月(『類聚国史』)。関東諸国(相模・武蔵・下総・常陸・上野・下野)大地震。M七・五以上。数里にわたって山崩壊、谷埋没、百姓多数圧死。特に上野国で被害甚大、洪水、死傷者多数。翌月、嵯峨天皇は詔で朝使を派遣、救恤や免税を実施。
●八二七年八月七日 天長四年七月十二日(『類聚国史』)。平安京大地震。M六・五〜七。屋舎多数倒壊。翌年六月まで余震多数。翌天長五年七月二十九日に淳和天皇が地震発生の責任は朕にあるとの詔を発し、善政のための具体的指示を行った。
●八二八年十二月二日 天長五年十月二十二日(『類聚国史』)。平安京で大地震。
●八二九年四月七日 天長六年三月一日(『類聚国史』)。平安京で大地震。
●八三〇年一月三十日 天長七年正月三日(『類聚国史』)。出羽国(秋田)大地震。M七〜七・五。秋田城とその周辺に大被害。秋田城の城郭・官舎、附属の四天王寺の丈六仏像・堂舎が悉く転倒。城内の屋倒壊による百姓十五人死亡、負傷者百余人。雄物川が涸れ、支流が氾濫し、住民が高台に避難。
▲八三七年五月二十三日 承和四年四月十六日(『続日本後紀』)。鳴子火山噴火。温泉流出、谷の閉塞、沼誕生。
▲八三八年七月二十九日、八月十一・十五日 承和五年七月五・十八・二十二日(『続日本後紀』)伊豆国神津島噴火。十六箇国に火山灰降灰。
▲八四〇年十月二十一日 承和七年九月二十三日(『続日本後紀』)。伊豆国神津島噴火。
●八四一年二月十三日以前 承和八年(『続日本後紀』)。信濃国地震。M六・五以上。墻屋の倒壊。
●八四一年 承和八年(『続日本後紀』)。伊豆国大地震。M七。震源断層は丹那断層。七月五日に仁明天皇は詔を発し、特使の派遣、租調免除、賑給、家屋の修理援助、死者埋葬を命じる。
●八五〇年 嘉祥三年十月十六日報告(『日本文徳天皇実録』)。出羽国(庄内)大地震。M七。出羽国府に大被害。地割れ、山崩れ、圧死者多数、最上川の岸崩壊。
●八五六年 斉衡三年三月(『日本文徳天皇実録』)。平安京大地震。M六〜六・五。屋舎倒壊、仏塔傾く。
▲八五六年九月十日 斉衡三年八月八日(『日本文徳天皇実録』)。伊豆七島のどこかの島で噴火。安房国に黒色火山灰が降る。
●八六三年七月十日 貞観五年六月十七日(『日本三代実録』)。越中・越後国大地震。山崩壊、谷埋没、水湧き、民家破壊、圧死者多数。毎日余震頻発。
▲八六四年七月二日・八月二十二日 貞観六年五月二十五日・七月十七日(『日本三代実録』)。富士山大噴火。青木ヶ原溶岩の流出。富士五湖のうち本栖湖・精進湖・西湖3湖がほぼ現在の形となる。
▲八六七年二月二十八日 貞観九年一月二十日(『日本三代実録』)。豊後国鶴見山マグマ水蒸気爆発。
▲八六七年六月十六日 貞観九年五月十一日(『日本三代実録』)。肥後国阿蘇山噴火。夜間奇光、震動、崩落。
▲八六八年五月十一日 貞観十年四月十五日(『日本三代実録』)。出羽国鳥海山小噴火。
●八六八年七月三十日 貞観十年七月八日(『日本三代実録』)。播磨国大地震。M七以上。諸郡の官舎、諸定額寺の堂塔ことごとく転倒。京都でも垣屋が崩れる。
●八六八年 貞観十年 平安京での地震記録二十回『日本三代実録』)。
●八六九年七月九日夜 貞観十一年五月二十六日(『日本三代実録』)。陸奥国大地震。M八・三ないし八・四以上。地震発光現象。家屋倒壊、圧死者多数。地割れ。多賀城の城郭、倉庫、門、櫓、築地塀多数倒壊。大津波が多賀城城下に押し寄せて、広大な範囲が浸水、約千人が溺死。資産や田畠の作物も全滅。
●八六九年八月二十五日 貞観十一年七月十四日(『日本三代実録』)。肥後国大地震。官舎・民居多数転倒。圧死した人・家畜多数。津波で六郡が浸水。田園数百里にわたり水没。
▲八七一年五月一日 貞観十三年四月八日(『日本三代実録』)。鳥海山マグマ大噴火。溶岩流。
▲八七四年三月二十五日 貞観十六年三月四日(『日本三代実録』)。肥前国開聞岳噴火。黒色灰・砂降灰。
●八七八年十月二十八日 元慶二年九月二十九日(『日本三代実録』)。関東大地震。M七・四。相模・武蔵が特にひどく、五〜六日余震継続。公私の建物で無事なものは一つもなく、地割れ、圧死者多数。
●八八〇年十一月十九日 元慶四年十月十四日(『日本三代実録』)。出雲国大地震。M七以上。社寺・民家の破損が多く、十月二十二日まで余震継続。
●八八一年一月九日 元慶四年十二月六日(『日本三代実録』)。平安京大地震。M六・四。太極殿基壇北西隅八間破裂、宮城の築地塀、京師の建物、民家多数毀損。
▲八八五年八月二十五日 仁和元年七月十二日(『日本三代実録』)。肥前国開聞岳噴火。薩摩国に砂・石が雨のように降り、一尺程堆積。肥前国に粉土と屑砂が降った。このときのスコリア堆積物が確認されている。
▲八八五年十二月三十日 仁和元年十一月二十一日(『日本三代実録』)。出羽国鳥海山小噴火。
▲八八六年六月二十九日 仁和二年五月二十四日(『日本三代実録』)。通説では伊豆国新島向山噴火。小山真人・早川由紀夫説では伊豆国大島か新島阿土山の噴火。
●八八七年八月二十二日午後四時頃 仁和三年七月三十日申時(『日本三代実録』)。駿河・南海トラフ巨大地震。平安京で諸司の倉屋、東西京の民家多数転倒。圧死者、失神・頓死者多数。五畿七道諸国で官舎が多く損壊。津波が押し寄せ、多数溺死。摂津国で甚大被害。
▲八八八年 仁和四年。八ヶ岳(赤岳)噴火。山崩れ、洪水、松原湖形成、死者多数。
 以上、九世紀代における主な地震と火山噴火を列記しました。地震・火山噴火が実に多く続発していることに改めて驚かされます。●の地震が十八で、関東諸国、平安京、平安京、出羽国(秋田)、信濃国、伊豆国、出羽国(庄内)、平安京、越中・越後国、播磨国、平安京、陸奥国、肥後国、関東諸国、出雲国、平安京、駿河・南海・平安京でこの順番に地震が起きています。▲の火山噴火が十七で、富士山、磐梯山、鳥海山、鳴子火山、神津島、鳥海山、神津島、伊豆七島、富士山、鶴見山、阿蘇山、鳥海山、鳥海山、開聞岳、鳥海山、開聞岳、伊豆新島、八ヶ岳(赤岳)がこの順番に噴火しました。
 九世紀には日本列島各地で地震・火山噴火が頻発し、数年と休まる年がほとんどなかったことがわかります。大きな地震・火山噴火災害が記録されているのは、八〇〇年富士山噴火、八一八年関東諸国大地震、八二七年平安京大地震、八三七年出羽国秋田大地震、八四一年信濃・伊豆国地震、八五〇年出羽国庄内大地震、八五六年平安京地震、八六九年陸奥・肥後国巨大地震、八七八年関東諸国大地震、八八〇年出雲国大地震、八八一年平安京大地震、八八七年南海巨大地震です。このうち、貞観十一年陸奥・肥後国巨大地震とその十八年後に起きた八八七年南海巨大地震では特に大きな被害がありました。
 今回の「平成二十三年(二〇一一年)東北地方太平洋沖地震」も、余震活動が継続しており、マグニチュード八前後の余震の発生が警告されています。南海トラフ巨大地震は、今もっとも警戒されている地震です。富士山でも東日本大震災の直後、三月十五日にM六・四の直下型地震が発生しています。富士山直下型地震として最大のもので、噴火活動の予兆の可能性もあることから、小山真人静岡大学防災総合センター教授や多くの火山学者が推移を注視しています。鳥海山もハザードマップが作成されている活火山です。今のところ噴火活動につながるような直下型地震は観測されていませんが、活動の推移が注視されています。
 九世紀の「大地動乱の時代」と同様に、現在、地震・火山噴火が続発する「大地動乱の時代」に再び突入したと石橋克彦・小山真人氏ら多くの地震・火山学者が警告しています。列記した九世紀の地震・火山噴火活動をみると、この警告のもつ重い意味をきちんと受け止める必要があります。われわれは、家族や自分の身の安全を守るため、地震・津波・火山学者の警告する確かな情報を入手するよう務め、今後起こるであろう巨大地震や火山噴火に十分に備える必要があります。これは東日本に限りません。国内のどこでもそうです。
 次回は「大地動乱の時代―九世紀の陸奥国」と題し、陸奥国で九世紀に起きた地震・火山噴火の概要をご紹介します。


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