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瑞穂 「え?寮母さんが休職?」 まりや 「昨日から急に実家のほうに用事が出来ちゃったらしくて。 で、明後日から1ヶ月間、代わりの寮母さんが来ることになったんですって。」 瑞穂 「そうなの・・・あれ?じゃあ、この朝食は誰が・・・」 由佳里 「私と奏ちゃんとで作りました〜」 瑞穂 「そうだったの、大変だったわね。 明日は私が用意をさせてもらおうかしら?」 奏 「そんな、とんでもないのですよ。」 まりや 「たまにはやらないと、椿様お墨付きの腕が鈍っちゃうもんね。」 瑞穂 「あはは・・・椿さん・・・ね。(苦笑) でも、確かにいつも寮母さんや由佳里ちゃんたちに任せっきりだから、 こんな機会に1日くらいは、私たち先輩が食事の準備をしても良いと思うんだけど。 まりや 「ほほ〜ぅ・・・なかなか良いことを言うじゃないの、瑞穂ちゃん。」 瑞穂 「・・・と言う訳で、今日の夕飯はまりやが作るってことで良いかしら?」 まりや 「へ?そ・・・そうねぇ・・・」(汗) (玄関から声)「おはようございます。」 由佳里 「お客様?」 奏 「はいはい、はいなのですよ〜」(玄関にパタパタと向かう) 瑞穂 「こんな朝早く誰なのかしら。」 まりや 「ん〜、代わりの寮母さんは明後日のはずだし・・・」 奏(玄関から声) 「おっ!お・・・おはようございますっ!! おはようございますなのですよ〜っ!」 瑞穂達 「ん?」
(一同も玄関にやってくる。玄関で奏がペコペコとお辞儀をしている)
瑞穂 「どうしたの?奏ちゃ・・・ あああっ!!」 一同 「楓さん!」 楓 「おはようございます、皆様。」 |
第3話 「三姉妹の夜想曲」
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瑞穂君の実家のメイド、楓さん。そんな彼女が何故か学院寮にやってきた。
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(まりやと奏、由佳里は外で待っている) 楓 「寮生の方々は、学年末で何かと忙しい時期ですから、 見慣れない方では余計な気遣いをさせるだろうとの配慮で、 面識のある私に白羽の矢が立った・・・と言う訳です。」 瑞穂 「はあ・・・。 それにしても、昨日の今日で、ずいぶん素早い対応ですね、楓さん」 楓 「瑞穂さん、この学生寮も鏑木が運営しているんですよ。 迅速な対応は当然です。 それと・・・私は芹山様の遠縁の者、と言うことにしてありますので、 奏さま方が尋ねられた際には、その様にお答え下さい。」 瑞穂 「芹山・・・?」 楓 「・・・ここで、寮母をされている・・・」 瑞穂 「あ・・・ああ・・・。 あ・・・、でも楓さん、父さまの仕事の方はよろしいのですか?」 楓 (ニコッと) 「この通り、 (カバンからノートPCを取り出す) 在宅勤務の用意は整えておりますから、ご心配なく。」 瑞穂 「あ・・・はあ・・・」(苦笑) 楓 「?・・・何か不服そうですね。 私が寮母の代理で来たのがそんなにお嫌でしたか?」 瑞穂 「あ・・・いや・・・そういう訳では・・・」(苦笑) 楓 (溜息交じりで) 「お顔を見れば判ります。 ・・・私だって、 折角頂いた休暇が台無しになってしまいましたから、 不服なのは、お互い様 で す わ。」 瑞穂 「台無し・・・って、・・・あれ? そう言えば、一昨日から楓さんは・・・ え?それじゃあ、南の島には行っていないのですか?」 楓 「・・・一応、塩水には浸かりましたが、 昨日の今ごろは、帰りの飛行機の中です。 旦那さまも急な用件が舞い込んだようで、 ずっと機内でぼやいていましたわ。」 瑞穂 「そうでしたか・・・ ああ・・・でも、良かったじゃないですか。」 楓 「・・・良かった?」 瑞穂 「(笑顔で)海に入れたのですから、 父さまのご要望にお応えできましたでしょ?」 楓 「旦那さまのご要望?・・・!」(ハッと顔を赤らめる) 「そっ!・・・そんなことよりもっ!! 皆様方がお待ちですよっ!!」 瑞穂 (飛び出す)「アハッ・・・行ってきま〜す。」 (瑞穂たちを見送る楓、軽くため息) 楓 「・・・。 ごめんなさい、瑞穂さん。 由佳里 「楓さん、何かとても怒っていたご様子でしたが、 どうかなさったのですか?」 瑞穂 (笑顔)「いえいえ、ちょっとしたコミュニケーションよ。」 奏 「コミュニケーション・・・なのですか?」 まりや 「瑞穂ちゃんが実家に居る時は、あんな光景はしょっちゅうよ。」 瑞穂 「しょっちゅうって・・・まりや・・・。」(苦笑) 由佳里 「ええっ?そうだったのですか。 楓さん、優雅で落ち着いた感じの人だと思っていたのに なんだか意外だなぁ・・・」 瑞穂 「ウフフ・・・これから色々な楓さんが見られるかもよ。」 まりや 「瑞穂ちゃ〜ん・・・いいのかなあ・・・ 楓さんをからかうと、後が怖いんじゃないのぉ?」 瑞穂 「ア・・・ハハ・・・まあ・・・ネ・・・」 奏 「意外と言えば、先ほどの寮から飛び出して来られた瑞穂お姉さま、 まるで元気で悪戯好きな男の子みたいに見えたのですよ。」 瑞穂 「え・・・ええっ!?」 まりや 「フフ〜ン・・・瑞穂ちゃん、 楓さんをからかっていて、うっかり地が出ちゃったわねぇ・・・。」 瑞穂 「え?・・・あ・・・オホホホ・・・私としたことが・・・」 奏 「なるほど、瑞穂お姉さまは、実は以前はお転婆さんだったのですね。」 瑞穂 「もう・・・奏ちゃんったら・・・。」 ( 一同、笑う ) 由佳里 「それにしても、 どうして瑞穂お姉さまのお家のメイドの方がいらしたのでしょうか?」 瑞穂 「え?ええっと・・・楓さん、実は寮母さんの遠縁だったんですって。」 まりや 「そうか・・・寮母さんの遠縁ね・・・ 以前、楓さんらしい人を寮の前で見かけたと思っていたんだけど・・・ なるほどね。」 瑞穂 「ええっ?そうなの?」 まりや 「・・・!」(肘で瑞穂の脇腹を突付いて合図する) 瑞穂 「あ・・・ああ・・・そう言えば、 そんなようなことを聞いたことがあったような・・・。」 奏 「でも奏、楓さんが来てくれて、とても嬉しいのですよ。」 由佳里 「ア・・・ハハハ・・・(苦笑) ? (前方の気配に気付く) あ、紫苑様、おはようございま〜す。」 ( 紫苑が一同にお辞儀をしている ) 紫苑 「まあ・・・楓さんが」 まりや 「それで由佳里は楓さんの顔を見た途端、 お屠蘇の味を思い出してしまったんですって。」 由佳里 「あれは!・・・あれは、まりやお姉さまがコップにいっぱいのお屠蘇を 無理やり私に飲ませたのがいけないんですッ!」 まりや 「あれぇ?そうだったかしらぁ。酔ってたんで覚えていないわねぇ」 由佳里 「も〜う!まりやお姉さま〜!」 紫苑 「ウフフ・・・確かにあれは・・・飲む人を選びますわねぇ」 由佳里 「あんなの人の飲むものでは有りません!!」 瑞穂 「それは同感」 奏 「なのですよ〜」 (二人がっくりうなだれる) 紫苑 「・・・その様子では、寮のほうはしばらく賑やかになりそうですね。 一度お伺いしてもよろしいかしら。」 瑞穂 「ええ、是非いらしてください。 楓さんも、きっと紫苑さんに会いたがっていると思いますよ。」 『・・・?あれ?なにか大事なことを忘れていたような・・・。』 美智子 「おはようございます、瑞穂さん」 瑞穂 「あ、おはようございます。美智子さん」 圭 「おはようございます。・・・・・・・瑞穂さん」 瑞穂 「おはようございます。・・・?」 圭 「・・・・・・・・・・フッ」(ニヤリ) 瑞穂 「??????」
・・・・・・・!! アアッ!」(何かを思い出す) |
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( テキパキと華麗に掃除、洗濯をこなす楓 ) ( 合間にPCで在宅勤務をしている ) 瑞穂 『一子ちゃんに楓さんの事を言っておくのを忘れて来ちゃったけど・・・大丈夫かなぁ・・・ 楓さんのことだから、きっと僕の部屋が散らかってると思って掃除に入るだろうし・・・ もし一子ちゃんが見つかったら・・・』 「はあ・・・」 貴子 『お姉さま・・・』 『今まで気付きませんでしたけれど、笑顔のお姉さまも素敵ですが・・・ 憂いた顔も・・・(見惚れる) ! 私としたことがなんて不謹慎な! 悩んでいるお姉さまに見惚れるなんて! あんなに・・・お辛そうなのに・・・』 『!ウフッ そうですわ・・・』 貴子 (瑞穂を後ろから呼び止める) 「お姉さま!」 瑞穂(振り向く) 「?貴子さん」 貴子 「どうなさったのですか?いつになく辛そうで、
お声をかけるのもどうかと思ったのですが、
何かお悩み事があるのではないですか?」瑞穂 「ご心配をお掛けして申し訳ありません。大したことではありませんから。」 貴子 「私で宜しければお力になって差上げますわ」 瑞穂 「いえ、大丈夫ですから。ありがとうございます。」 貴子 「そんな、お独りで悩みを抱え込むのは良くありませんわ。」 瑞穂 「本当に、大したことではありませんから。
そのお気持ちだけで十分です・・・では・・・。」
(立ち去る) 『貴子さんに言えるわけがないじゃないか〜』貴子 (瑞穂に聞こえるように独り言)
「ああ・・・お姉さまは、命まで救って頂いた恩人なのに、
私は何一つご恩返しができないなんて・・・」 (立ち止まりそろりと振り向く瑞穂) 貴子 「少しでもお姉さまのお役に立てられたらと思っているのに・・・」 瑞穂 (気まずい表情) 「う・・・」 貴子 「私の力では、お姉さまの何の役にも立てないなんて・・・ああ・・・」 瑞穂 「貴子さん・・・分かりました。お話しすればよろしいのですね。」 貴子 「そうですわ!」 (ケロリと笑顔に) 瑞穂 「ですが、決して怒らないで下さいね。」 貴子 「恩人の相談にどうして怒りましょうか」 瑞穂 「・・・」 瑞穂 「どうか、落ち着いて聞いて下さい」 貴子(笑みを浮かべて) 「はい」 瑞穂 「実は・・・」 貴子 「・・・・・・」 瑞穂 「実は、幽霊の事で・・・」 貴子 「!」 瑞穂 「・・・」 貴子 「ン〜〜ムギググ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 (顔真っ赤) 瑞穂 「あの・・・た・・・貴子・・・さん?」 貴子 「ををををををを ・・・ を姉さま!!」 瑞穂 「は・・・はい!」 貴子(声を震わせて) 「今回のことで・・・ようやく分かりましたわ」 瑞穂 「はい?」 貴子 「しばしば授業が身に入らないほどお姉さまが考え事をなさっていたのは、 辛い悩みがあったからではなく・・・ (絶叫)私をどうやってからかったら面白いだろうかと、考えていらっしゃったのですね!!」 瑞穂 「えーっ!!と・・・とんでもない!誤解ですよ!貴子さん!」 貴子 「な〜にが誤解なものですか!今までお姉さまがお話になった悩みの中で、 まともな悩みだったものがありますか!!」 瑞穂 「え・・・ッと・・・あ・・・えっと・・・」 貴子 「どうですか?答えられないではありませんか!!」 瑞穂 「いえ・・・そんなことは・・・」 『うわぁ・・・思い出せないよ〜』 貴子 「今まで・・・こんな単純な悪戯に気が付かなかったなんて・・・私がバカでした! その度にお姉さまは影であざ笑っていたんですね!!」 瑞穂 「そんな!とんでもないです!信じてください!」 貴子 「も〜ういいです!では!!」(ズカズカと立ち去る) 瑞穂 「あ〜貴子さ〜ん!」 まりや(貴子と階段ですれ違う) 「うん?貴子?」 瑞穂 「も〜・・・貴子さん・・・」 まりや 「あっはははははー!そいつは傑作だわ〜」 瑞穂 「わ・・・笑い事じゃないですよ、まりやさん。」 由佳里 「そうですよ、酷いです、まりやお姉さま。」 瑞穂 「はあ〜・・・これで完全に貴子さんには嫌われてしまったわ・・・。」 まりや 「瑞穂ちゃんが悪いことをした訳じゃないんだし。 あの子が勝手に誤解して勝手に怒るのはいつものことじゃない。 (しょげる瑞穂を見て) ・・・だ〜い丈夫よ。あの顔は瑞穂ちゃんを怒ってるんじゃないんだから」 瑞穂 「え?それじゃあ・・・」 まりや 「そうねぇ・・・作戦の失敗を悔しがっている、悪の女幹部って顔ね、あれは。 大方、瑞穂ちゃんの気を引こうとして掛けた言葉が裏目に出たってところかしら。」 瑞穂 「あ・・・あはは・・・まりやさん・・・」 『そこまで言う・・・』 奏 「でも、このままでは、なんだか会長さんが気の毒なのですよ。」 まりや 「いーんじゃないの?しばらく放っておけば。」 瑞穂 「そんな」 まりや 「『焼け石に水』って言うじゃない。『やぶ蛇』って言った方が良いかしらね。 今の貴子には、何を言っても無駄よ。 ま、貴子が本当に瑞穂ちゃんを嫌いになっちゃったかどうかは、 バレンタインデーが来ればハッキリするんじゃないの?」 由佳里・奏・瑞穂 「バレンタインデー?」 まりや 「・・・って、そうか、みんな知らなかったわね」 瑞穂 「でも、まりやさん、女学院でバレンタインデーって・・・」 まりや 「フフ〜ン・・・いずれ分かるわよ」(ニヤリ) 瑞穂 「あ・・・はは・・・」 『・・・なんか、また面倒な問題が起こるのね・・・』 一子(屋根の上)「せかせかと動き回る新型寮母さんの行動パターンが全く読めません。 しか〜し、さすがの寮母さんもここまでやってくることはありませんよね〜。 (周囲の景色を眺める) う〜ん、まだ1月なのに暖かくてとても気持ちが良いです〜。 (背伸びをする) 勉学に励もうとする生徒たちにとって、今はまさに試練の時。 『春眠暁を覚えず』とはよく言ったものですね〜・・・」 (転寝をしてしまう) (楓、持参の弁当で昼食を済ませる。カレンダーと時計に目をやる) 楓 「すっかり昼になってしまったわね・・・」 (部屋を見渡す楓。軽くため息をつく) 「・・・お姉さまですものね。お仕事が減ってしまいましたわ。」 (ベッドに腰を下ろす。机やクローゼット、部屋全体を見渡す。) そよ風の音 楓 「・・・ お久しぶりです・・・。 ・・・お姉さま。」 |
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そよ風や小鳥の囀る音 (楓、瑞穂の部屋でベッドに腰掛けたまま転寝をしている) (楓の顔アップ) 一子「うっわ〜っ!英検1級合格!?
1年生なのにすごいです すごいです すごいです〜!!」
楓 「私は孤児院で育ちましたから、
それを理由に他の人に負けまいと頑張っているだけです。」
一子 「う〜ん、そうなんでしょうか〜。
私は 育ったところと 頑張ることとは あまり関係が無いと思うんですよね〜。
頑張らない人はやっぱり頑張りませんね〜。」育ったところが良くても 頑張らない人は頑張りませんし 頑張る人は頑張ります。 育ったところが悪くても 頑張る人は頑張りますし (一子、楓に顔を近づける) 楓 「!?」 一子 「で〜は、 そこで問題。 頑張る人と頑張らない人の差は 一体全体どこに有るのでしょうかぁ?」 楓 「・・・差・・・ですか?」(唖然としている) 一子 「ふふ〜ん・・・そ・れ・はぁ! (天を指差す) ズバリ!未来の目標が有るか無いか! だから楓ちゃんみたいに頑張っている人は とっても とっても とーっても素敵に輝いて見えるんですよ〜。 それは とにかく なにより すなわち 結局のところ 実は すっごい目標を持っているってことなんでーす。」 楓 「未来の目標・・・」 一子 「そーですっ!例えばこの私、高島一子の目指す未来の目標はズバリ世界の空! スチュワーデスになって世界中の国の人々にアテンションプリ〜ズ! ボンジュ〜ル!ニ〜イハ〜オ!コングラチュレイショ〜ン!! その為には〜っ!・・・ (楓の手を握って必死に懇願) 楓ちゃ〜ん・・・今度の4級試験・・・先生になって〜。」 楓 「一子・・・お姉さま・・・。 はい、(微笑む)喜んで御引き受けさせていただきますわ。 私も・・・お姉さまの目標にご一緒にさせて下さい。」 一子 「?一緒・・・?」 楓 「実は、私もスチュワーデスになるために英検を受けたんです。」 一子 「・・・本当?」 楓 「はい」 一子 「ホントに本当?」 楓 「ホントに本当です。」(以下、二人の台詞が無限ループしながらフェードアウトする) 『私のような生い立ちを知っても、物怖じするそぶりを見せない・・・。 そればかりか・・・ 不思議な方・・・。』 一子 「は・・・はいぃ〜」(申し訳なさそうに) 楓 「中間考査があのような成績で、期末考査までもがこのような成績で、 一体どのような勉強をされていたのですかっ!」 一子 「てへ・・・」(舌を出して笑顔) 楓 「・・・これでよく、5級が受かりましたね・・・」 一子 「まぁ〜・・・なんて言いましょうか まぐれ当たりと言いましょうか びぎなーずらっくと言いましょうか〜。」 楓 「だから4級はダメでした・・・と。 ・・・それで、ご両親方は何と?」 一子 「そーっ!そこなのよ そこが問題なのよ 今度ダメだったら、もう試験は受けさせませんよ〜てなもんなのですからさあ大変。 一子のスチュワーデスへの野望は早くも頓挫してしまうのでした状態を脱するためにも 1年生にして英検1級合格の猛者、楓ちゃんの協力は欠かせないのですぅ」 楓 「いえ・・・英検を受けられる以前に、この考査の成績について何か言われてはいませんか?」 一子 「う〜ん・・・それがですねぇ・・・ 折角エレベーターで進学できる聖應に入ったのだからぁ、 あくせく勉強しないでのんび〜り 楽し〜く過ごせばいいんだっ・・・て。 他所様の親御さん方は我が子に逆さ磔だの百叩きだの 往復ビンタだのお尻にお灸だのと 地獄の責め苦を味あわせて勉強させていると言うのに 今時珍しい親だと感心しますよホントにぃ ・・・うんうん」(腕組み) 楓 「・・・なるほど・・・。 お姉さまが常に前向きで明るくのびのびとされているのは、 そのお陰なのですね。」(笑顔) 一子 「楓ちゃ〜ん。 それ、褒めていませんねぇ〜?」(笑顔) 楓 「心外ですわ。私、お姉さまに頑張っていただく為に、精一杯激励しているのですよ。」(笑顔) 一子 「・・・楓ちゃんのいけずぅ」 楓 「あら、仰いましたね、お姉さま。 これから英検1級合格に向けて地獄の特訓が待っているというのに。」 一子 「じ…地獄なんですかぁ? 閻魔様〜お手柔らかにお願いいたしますぅ〜」 楓 「地獄の沙汰も努力次第です。」(笑顔) 一子 「ぐすッ…ムリだよ・・・教科書を読んでるときでも 躓かないようにするのが精一杯なのに・・・。」 楓 「ここで匙を投げられても困りますわ。 ご卒業までに3級合格。高等部1年のうちに1級合格。 2年3年は、第2外国語の専門学部のある大学に向けた受験対策。 大学で半年ほどホームスティを経験されて 外国の環境を通じて色々な勉強をして頂いて、航空会社に就職。 ・・・というプログラムになっているのですから。」 一子 「・・・楓ちゃん・・・すごおい・・・ すごいです すごいです すごいですぅ 楓ちゃんは1年生なのに、高等部や大学で何をするのかまで考えているのですねぇ 一子はソコんところがすっかりぽっかり抜け落ちてしまっていましたよ〜」 楓 「いえ…これは、お姉さまが消化するプログラムなのですが・・・。」 一子 「え?そうなんですか?」(キョトン) 楓 「お姉さまっ!!!」(怒) 一子 「あはっあははははっ…じょ、じょーだんですよぉ〜・・・ あははっ… はぁぁ〜〜」(大きくため息) 楓 「・・・。お姉さまは、あれだけ早口がお得意なのですから、 2次試験がムリなんてことはありません。 発音のコツが掴めないのは、単語ごとに読もうとするからです。 単語は綴りになったときには無声音にする場合が・・・?」
(一子の頭上にハテナマークが点灯中)
楓 「・・・そうですね。何よりも慣れる事が第一ですわね。洋画の科白を覚えて真似をされるのが良いでしょう。」
(楓、英文がぎっしり書かれた冊子を一子に手渡す)
一子 「ナニ?これ・・・参考書じゃないです・・・よね・・・」楓 「映画の撮影に使われた台本です。」 一子 「こんなの・・・どうやって手に入れたの?」 楓 「科白を聞き取って、ノートに書き止めていたのですが、どうしても聞き取れなくて…。 それで、映画会社を調べて、何て言っているのか教えて下さいって手紙を出してみたら、 この台本を送って下さったんです。 書き止めた科白がずいぶん間違っていたのが分かって、とても勉強になりました。」 一子 「手紙って、英語なんですよねぇ・・・へぇ〜〜・・・すごいんだあ」 楓 「手紙くらいで感心されても仕方が有りません。 お姉さまには、この科白を早口でマスターして頂くのですよ。」 一子 「えぇ〜〜!!英語で早口なんてムリですよぉ〜!!」 楓 「芸能人のかくし芸の特訓に比べれば、楽なものです。 それに、どんなことでも、 出来ないと決め付けて努力しなければ、一生出来ませんわ。」 楓 「一子・・・お姉さま・・・」 一子 「何も泣くことありませんよ〜楓ちゃん。 ほ〜ら、御覧なさい。高等部の校舎はすぐそこなんですからぁ〜」 楓 「私、必ず高等部に進学しますから。」 一子 「もちろんじゃないの。私のような成績でも進学できるんだからぁ。 楓ちゃんなら寝ていても進学できるってば。
それに、一緒に世界の空を目指すって約束なんだから。
待ってるわよ。」楓(笑顔を取り戻す) 「・・・お姉さまも、今度の2級試験がんばってくださいね。」 一子 「あう〜・・・楓先生・・・よろしくお願いしま〜す。」 楓 「ウフフッ・・・はいっ。お任せください。」
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一子 「はう〜ん・・・」 楓 「?」 一子 「さ ち ほ おねえさまぁ〜・・・」(惚けている) 楓 「・・・?お姉さま、いかがなさったのですか?」 一子 「ん?あ・・・、あはは、なんでもないですぅ」 楓 「お姉さまっ。今は勉強中ですよ。」 一子 「てへ、ごめんなさーい。」 楓 「・・・。」(怪訝な表情) 一子 「幸穂お姉さまのお部屋の窓から、礼拝堂の十字架が見えるの。 でね。私があそこで、お姉さまと結婚式が挙げられたらなぁ・・・って言ったら お姉さまったら『私が男の人だったらあなたをお嫁さんにしてあげられるのにね・・・』 ですって〜!! も〜一子感激ぃ!!あ〜・・・幸穂お姉さまぁ・・・どうか男の人になって下さい〜」 楓 『・・・』(さびしげな表情) 楓 「一子お姉さま、今度の日曜日に院長先生達とピクニックに行くのですが、
お姉さまもご一緒にいかがですか?」
一子 「あ〜ん・・・ゴメンね楓ちゃん。日曜日は幸穂お姉さまの学院寮におじゃまするの。・・・そうだ!その次の日曜日でいいですからぁ、一緒に行きましょうよ。 楓ちゃんを幸穂お姉さまに紹介したいから。ね?」 楓 「あ・・・私は・・・いいです・・・。それでは・・・」 (楓、受話器を置く) 楓 『・・・お姉さま・・・。』 一子 「でねっ、でねっ、そのエルダー選挙で幸穂お姉さまがね・・・」 楓 「は・・・はあ・・・」 楓 「おめでとうございますっ!!お姉さま!」 一子 「えへへ…1年生までにって約束は守れませんでしたけどね・・・」 楓 「いいえ、1級合格という成果こそが大切なのです。 お姉さまにとって大きな自信になったのですから。」 一子 「ホントにありがとうね。楓ちゃん。 そ・れ・でぇ!今日、お姉さまが合格祝賀パーティーを開いてくださるの。 4時には楓ちゃんも学院寮に来て下さいねぇ〜。」 楓 「あ…私は…結構です…。」 一子 「え〜?、だめですよぉ。合格の功労者は、なんと言っても楓ちゃんなんですからぁ」 一子 「大丈夫ですよ〜。ただの風邪だってお医者様も仰ってたんだしぃ」 楓 「ですが、夏休みに入って、もう2週間も入院されているではありませんか。 ・・・私、今日から付きっ切りでお姉さまの看病をします。」 一子 (真面目な表情で)「楓ちゃん・・・明日からでしょ?海の学校に行くの」 楓 「お姉さまが入院なさっているのに、それどころではありません!」 一子 (叱責口調で)「ダメよ!楓ちゃんは、みんなのお姉さんなんだから、 院長先生のお手伝いとかしなくちゃいけないじゃない。」 楓 「お姉さま・・・」 一子 「それにね。昨日、幸穂お姉さまからお手紙が届いて、 明日から私の看病に来てくださるんですって〜!(満面の笑みを浮かべる) だ か らぁ 安心して行って来なさいって!」 楓 「・・・お姉さま・・・。 (苦笑) お姉さまが病に臥していらっしゃるというのに・・・ 私は・・・(苦痛な表情)! 何の役にも立てないのですねっ!!」 一子 「!楓ちゃん・・・」 楓 「失礼します!」(病室を飛び出す) 一子 「あっ!楓ちゃん!」 院長 「この3日間、心ここに在らずですね。楓さん」 楓 「院長先生・・・すみません。私・・・ (ため息を吐いて苦笑) こういうのを・・・嫉妬って言うんですよね。」 院長 「嫉妬も人間の感情として当たり前のことなのですから、 恥じる必要はないのですよ。 でも・・・お天気の神様まで怖がられるほどの嫉妬は どうかしらと思いますがね。」 楓 「え?」 院長 「台風が近付いているようですから、予定を打ち切って明日帰ることにします。 子供たちには話しておきましたから、楓さんは先にお帰りなさい。」 楓 「先生・・・。」 院長 「ほんの一言、会って言葉を交わすだけで、 気持ちが楽になってお互いが救われる・・・。 親友とはそういうものなのですよ。」 楓 「はいっ、ありがとうございます。」 (病院から飛び出して走る楓) 楓 『お姉さまが・・・病室から居なくなった!?』 (表にパトカーが止まっている。) 楓 「小父様!!」 一子の父 「ああ、楓ちゃん。 一子が3日前から病院を抜け出して、行方が分からないんだ。」 楓 「3日前って・・・そんな! 幸穂さんが看病していらしたのでは?」 一子の父 「?いや・・・看病に来て下さるなんて・・・そんな話は・・・。」 (妻と顔を合わせる。首を傾げる妻。) 楓 「手紙で来て下さるって、お姉さまが。」 一子の母 「手紙?(夫の方を向く)あなた・・・」 一子の父 (懐から封書を取り出して楓に手渡す) 「病室のベッドの間から、昨日見つかったんだ。」 楓 「・・・!?さ・・・幸穂さんが・・・ご結婚・・・?」 一子の親 「その手紙を読んで、きっと幸穂お嬢様に会いに行ったと思って、 連絡してみたんだが、一子らしい子は来ていない様なんだ。 お嬢様は休み中、別荘で過ごされているらしいが、 詳しい予定については警備上の理由で教えられないと・・・。 他にあの子が立ち寄りそうな場所は全て当たったんだが・・・」 一子の母 「楓ちゃん、どこか心当たりは無いかしら?」 楓 「学院寮・・・」 一子の両親 「え?」 楓 「聖應の学院寮です!!」 一子の親 「夏休みだから寮母さんも実家に戻っているらしいよ。 そんな誰も居ないところに一子は本当にいるのかい?」 楓 『お姉さまは、あの時既に・・・。 私が看病していたら・・・ だから・・・』 (パトカーを降りて真っ先に駆け出す楓) 一子(回想)『幸穂お姉さまのお部屋の窓から、礼拝堂の十字架が見えるの・・・』 楓 「あの部屋!」 (階段を駆け上がる) 楓 「お姉さま!」 楓 「お姉さま!」(ドアを開く) 音声無し 楓 「!?」 (楓、変わり果てた一子の姿に呆然と立ち尽くす。) (棺にすがり泣き叫ぶ女性・幸穂) 楓 「!あの人が・・・!」 (院長、駆け出そうとした楓の腕を掴む。振り向いた楓に首を横に振る) 楓 「あの人の・・・あの人の所為で! あの人の所為お姉さまは!!」 院長 「あなたが今、幸穂さんに怒りをぶつけても、何も解決しません。」 (院長、泣く楓を抱きしめる) 院長 「高等部への進学をやめる?」 楓 「高等部へ行っても・・・
!
あ、いえ・・・ただ・・・ 早く社会に出て働きたいんです・・・。」 院長 (ため息をつきながら) 「進学組から就職だなんて・・・。 あなたの成績なら奨学金も出るというのに・・・。 今からでは、もうほとんどの方の内定が決まっているのではないですか? それに・・・あなた自身、何か希望のお仕事はお考えなのですか?」 楓 「・・・いえ、特に・・・。 誰かの役に立てるような仕事が向いているかな・・・ あ・・・、体力には自身がありますから、 とび職さんや土方さんのようなハードな仕事でも、何でも良いです。」(微笑む) 院長 (呆れ顔で)「では、私の一存で決めてしまっても良いのですね?」 楓 「はい、宜しくお願いいたします。」 院長 「・・・」
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