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談合撤退で再編前夜に 公取委に怯える建設業界 自縄自縛の安値受注を連発20060530日経ビジネス時流超流

 防衛施設庁発注工事を巡る官製談合事件で、公正取引委員会が鹿島や大成建設などのゼネコンに立ち入り検査を実施した5月16日。ある大手ゼネコンの幹部はつぶやいた。

 「そこまでやるか、って感じだな」

 大手ゼネコンは公共工事の受注担当者を異動させるなど、談合との決別宣言を打ち出している。それに、これは東京地検特捜部が既に摘発している案件だ。にもかかわらず、あえて立ち入り検査に踏み切ったことに、この幹部は公取委の本気を見て取った。

 鋼鉄製水門工事やトンネル用換気設備工事、汚泥再生処理施設工事、そして防衛施設庁発注工事――。

 3月以降、ゼネコンや橋梁メーカーなど公共工事に関わる建設関連企業に、公取委は相次いで立ち入り検査や強制調査に踏み切っている。改正独占禁止法の施行で権限が増した公取委。談合撲滅に向けて追及の手を伸ばす。

 そんな公取委の執念は「安値受注」という形で表面化し始めた。

 4月半ばに開かれた日本建設業団体連合会(日建連)と国土交通省の幹部による懇談会。日建連の副会長を務める大成の葉山莞児社長は、その場で国交省の幹部に対して頭を下げた。

 関係者によると、談合を詫びたのではなく、公共工事を常識を超えた安値で入札したことへの釈明だった。

 3月上旬に行われた北海道の夕張シューパロダムの第1期工事では、国の定めた予定価格の47%、横浜市の原宿交差点の立体工事では、58%という低価格で大成が落札している。

 夕張の場合、入札は全体の工事の3割ほどで、残りの工事は随意契約。その時に予定価格に近い価格で契約できれば問題はない。原宿交差点も国交省の積算とは異なる新工法を採用しているため、60%を割り込む落札率でも原価割れはしないという判断だった。

半値以下で落札する企業も
 採算度外視の赤字受注ではなく、そろばんを弾いた結果。とはいうものの、今年1月以降、公共工事での過激な安値受注が業界関係者の関心を集めていた。その最中に行われた幹部企業の安値受注。当局の神経を逆なでしたことは想像に難くない。

 確かに、1月以降の落札価格は尋常ではない。国が発注した予定価格3億円以上の工事を調べると、信じられないような数字が並んでいる。

 北九州市を走る国道3号線の橋梁工事。国が積算した約14億円の予定価格に対して佐藤鉄工が落札した価格は6億2000万円。落札率は41.6%である。広島県安芸高田市にある土師ダムの放流設備工事でも、豊国工業の落札率は予定価格の45.9%だった。

 1月以降に行われた3億円以上の公共工事約400件のうち、約100件で落札価格が予定価格の80%以下になった。予定価格の90%を割り込むことはまずなかった公共工事。その常識は今や崩れ、道路やダム、橋梁など様々な工事で安値受注が横行している。

「皆目、見当つかない」

 50%台で落札した橋梁メーカーの関係者は相手の入札価格が見えない恐怖をこう語る。今や、公共工事の入札は暗闇の中の殴り合いといった様相を呈す。落札するには、思い切って入札価格を下げざるを得ないからだ。

 「(安値入札を)1回やって、ヤケドすればその痛さが分かる」(別の橋梁メーカーの関係者)と、今回の安値受注は一過性と見る向きは少なくない。

 地方自治体発注の工事だが、4月17日に行われた大阪府の街路築造工事では、予定価格の約56%で戸田建設が落札。5月9日の横浜市の水道管工事におけるハザマの落札率も約52%と、安値受注は止まる気配がない。

 安値受注に伴う品質の低下や下請けへのしわ寄せを危惧する国交省は既に対策を発表している。

 これまでも予定価格の一定割合を下回った案件では、低入札価格調査を実施してきた。今後は該当した工事について、下請けへの支払いや実際の工事コストなどを追跡調査するという。過去2年間で基準の工事成績を下回った業者について、現場に置く専門技術者を増員させることなども盛り込んだ。

 今後、国は談合の温床となる指名競争入札をやめ、一般競争入札に切り替えていく方針。価格だけでなく技術力も評価点とする総合評価方式も拡大していく。こういった動きは、工事実績や技術力があり、管理技術者を数多く抱える大手ゼネコンほど有利に働く。

戦略問われる“普通の産業”に
 過当競争にある建設業界。消耗戦の行き着く先は淘汰と再編しかない。

 2006年3月期決算では、鹿島や大成など大手4社が実質増益となったが、2007年3月期は一転して慎重な見通しを立てる。建設工事が冷え込んだ1990年代後半。民間建設部門では熾烈なダンピング(不当廉売)競争が起き、収益性は著しく低下した。同じことが公共工事でも起こりつつある。安値受注と慎重な業績予想は無関係ではあり得ない。

 「このまま土木事業の利益率が縮小していけば、建設と土木を同じ会社で抱える意味はなくなる。買収や合併で規模を志向する企業も出るだろう」。ある大手ゼネコンの企画担当者は業界の未来図をこう予言する。

 談合に守られていた建設業界では、統合しても入札機会が増えるわけではなく、積極的に再編に打って出ようとする企業はあまりなかった。

 だが今後は、合併や統合で規模の拡大を目指す企業や、M&A(企業の合併・買収)で他業種を巻き込む企業など様々な方向に分かれると見る。経営戦略を競う普通の産業になるわけだ。

 「これまで談合が市場を歪めてきた。市場が正常化する過程であり、(安値入札は)歓迎すべき話でしょう。落札率云々は我々の知ったことではない」

 安値入札の話をぶつけた時、公取委の幹部は淡々と語った。談合という名の聖域に守られてきた建設業界。旧弊の撲滅に執念を燃やす公取委の手で、いよいよ本格的な市場原理にさらされようとしている。


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