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改正独禁法は 苦いアメ 三菱重工など芋づる摘発の裏に自首迫る新制度20060411日経ビジネス時流超流

 3月上旬、公正取引委員会のある幹部は、1月に施行されたばかりの改正独占禁止法の隠れた意義を淡々とした口調で話していた。

 「法改正によって、企業は(違反に問われた部門以外の)横の部門についても、きちんと調べなければいけなくなったのですよ」

 その3週間後の3月最終週、公取委は2つの談合を摘発する立ち入り検査に入る。1つは鋼鉄製水門工事、そしてもう1つはトンネル用設備工事の談合だ。立て続けの検査で対象となったのは、公取委幹部が予見していたように、同一企業の「横の部門」だった。

 2つの検査では三菱重工業、石川島播磨重工業、川崎重工業、荏原の4社が、両方に引っかかっていたのだ。2004年10月に検査が入った橋梁談合事件との重複は、14社に上った。

 改正独占禁止法は、公取委の権限を従来に比べ大幅に強化する内容になっている。中でも、違反企業が支払う課徴金の引き上げとともに目玉となったのが、課徴金減免制度の導入だ。欧米で効果を上げているこの制度は、企業が談合行為などを自ら申告した場合に課徴金を割り引く、“自首”制度だ。

 1月の改正独禁法の施行前、課徴金減免制度は日本ではあまり活用されないとの意見が、専門家の間でも根強かった。業界内での仲間意識が強い日本企業は、課徴金の割引という「アメ」をぶら下げられても、ほかの企業を裏切る行為はしないという見方だ。

 しかし、ここにきて、そうした楽観論は急速に冷めつつある。3月最終週の2つの検査はいずれも、自首してきた企業からの情報が端緒になったと見られるからだ。玉木昭久弁護士は「課徴金減免制度の第1号が思ったより早く出たために、ほかの企業が申請するのではないかという企業の疑心暗鬼は今後増幅するだろう」と話す。

「告白」しなければ訴訟リスク

 なぜ課徴金減免制度の導入により、同一企業内の複数の部門へ摘発の網が広がっていくのか。公取委幹部はその理由をこう説明する。「ある談合が発覚後に社内調査をすれば、大抵芋づる式にほかの談合も見つかっていくものだ。その場合には自首してくださいというのが法律の言外のメッセージだ」。

 これまでは、仮に社内調査で談合が発覚しても、企業経営者にとって自ら積極的に申告する理由や動機が見当たらなかった。隠していれば摘発されない可能性もある中で、正直者がバカを見ることになりかねなかったからだ。

 ただ、課徴金減免制度の導入によって状況は一変する。まず、制度を利用するかどうかで、課徴金の水準に大きな差が生じるようになった。

 課徴金減免制度では最初に報告した企業には100%、2番目の企業は50%、3番目の企業も30%課徴金がそれぞれ減額される。一方、過去10年以内に課徴金納付命令を受けていれば、1.5倍の金額を支払わなければならない。経営者が罪を自白するかどうかが企業財務や決算を左右する時代になった。

 さらに、企業役員にとって座視できないのが、株主代表訴訟リスクの高まりだ。公取委が法改正に込めた「言外のメッセージ」の意味を、志田至朗弁護士は明快に解説する。


 「経営陣が違反行為を見つけられず他社が減免を申請した場合は、株主から内部統制システムの不備を問われる。また、違反行為が判明したのに、減免制度の適用を申請しなかった場合には、株主から減免を受けられたのになぜ申請しなかったのかと問われる」

 企業経営者は全部門の違反行為を適切に発見しなければならず、見つかった場合には直ちに自首しなければいけないという論理。企業にこうした自発的な行為を迫る課徴金減免制度の本質が、ようやくあらわになりつつある。

 経営者に自首を促す仕組みはそれだけにとどまらない。公取委は最初の申告者に限って、刑事告発しない方針を示す。また、国土交通省なども2月、課徴金の減免対象企業の指名停止期間を、通常の2分の1に軽減する措置を公表した。逆に言えば、企業があえて減免制度を利用しない場合は、相当の覚悟とリスクが伴うことになる。

 「刑事告発される可能性が高いと見た企業が、免れるために自首したのではないか」(公取委に詳しい弁護士)。3月の水門工事を巡る談合でもこうした見方がささやかれている。

 どの企業が申請したかについて、公取委は「守秘義務」として明らかにしていない。しかし、石川島播磨の石川克己・法務グループ部長も昨年11月時点で、談合が露見した場合は「躊躇なく課徴金減免制度を使う」と明言している。「苦いアメ」でものまなければ事態はより悪化する、と経営者が考え、公取委に駆け込んだとしても不思議ではない。

 1月の改正独禁法施行時点で、課徴金減免の申請を真剣に検討していた企業は、それほど多くなかった。しかし、様子見だった国内企業が積極的に申請する方針に転じていけば、自首に基づく摘発が芋づる式に増加する可能性がある。そして、それこそ公取委が目論む狙いにほかならない。

5月施行の会社法も圧力に

 「違反事実を取締役会に報告したら情報が漏れ、他社に先駆けて自首される恐れはないか」「違反が見つかっても、代表取締役社長に責任が及ばない体制作りは可能か」

 企業法務の現場では最近、実例を想定した際どい議論が交わされている。施行から3カ月が経ち、企業の緊張感は確実に高まっている。

 ただ、企業経営に課されるこうした変化を独禁法改正の枠内だけで捉えていては、変化の本質を見落とすことになる。今年5月施行の会社法では、大会社に内部統制システムの整備を義務づけている。

 「独禁法改正時に意識したわけではなかったが、会社法と問題意識は連動している」(公取委幹部)

 水門、トンネル工事と立ち入り検査が続いた3月最終週、三菱重工の担当役員は、公共工事部門の担当者に改めて厳命していた。「談合は絶対にやめてくれ。そうしないと会社が潰れてしまう」。

 橋梁談合事件での起訴を受け、三菱重工は昨年6月以降、入札の際に必ず代表取締役である各部門の本部長の承認を得るようにしたり、ゴルフや宴会など親睦目的の会合への出席を禁止したり再発防止策を取ってきた。

 「株主総会で株主にも談合はしないと約束した。考えられる防止策はすべてやっており、再発防止策を徹底してからは談合はなくなったと言える」。三菱重工のある幹部は断言する。

 長く談合体質から決別できなかった日本企業。しかし、公取委は課徴金減免制度という強力な武器を手に、談合からの決別を企業の経営者に迫る。「苦いアメ」をのむかどうか。天と地ほども結果が分かれる選択を前に、経営者にかかるプレッシャーはかつてなく強まっている。


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