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燃料電池実用化に挑む 20050519読売(2002/08/24掲載)
偶然見つけた新技術
石油資源に代わり、21世紀のエネルギーと期待される燃料電池の実用化に向けた技術を開発した北大触媒化学研究センター・市川勝教授(60)は、いま最も脚光を浴びている研究者の1人だ。
燃料電池社会の未来を支える画期的な「有機ハイドライド」技術を開発した市川教授(北大触媒化学研究センターで)
燃料電池の原料の水素は、気体で爆発しやすいため、貯蔵や搬送、安全性に大きな難題を抱える。これまでは、高圧でボンベに注入するとか、マイナス256度の超低温で液状にするなどの方法しかなかった。
市川教授が開発したのは、水素をガソリンに似たデカリンなど液体「有機ハイドライド」(水素化物)にする技術。開発は、「偶然の産物」という。当初取り組んでいた研究は、触媒を用いて、天然ガスに含まれるメタンからベンゼンといった石油化学原料を抽出する技術開発だった。この研究の最中、触媒の孔とベンゼンの分子のサイズが一致した時だけ、水素が結合し、有機ハイドライドになることを発見した。
有機ハイドライドにすると、常温、常圧でも保存でき、沸点も約200度と高いことなどから安全、安定的に貯蔵、搬送が可能になった。燃料電池に供給する際も、白金系金属をまぶしたゼオライト触媒を介し、200―300度で加熱するだけで簡便に水素を抽出できるのも特徴だ。
ガソリンスタンドなどで有機ハイドライドを給油するだけの燃料電池自動車の登場も手が届くまでになった。
しかも、この技術は、逆も可能で、発電所からの電力や太陽光、風力からの発電などの電力を有機ハイドライドにすることもでき、「電気は貯蔵できない」といったこれまでの常識を覆す。それはエネルギーの危機管理にも対応し、「環境の世紀」と言われる21世紀の暮らしを大きく変えることにもつながる。
国内外の大手自動車メーカーが排ガスを出さない「夢の自動車」として、相次いで燃料電池自動車の発売計画を発表。実用化に向けては各国の研究者、企業がしのぎを削るなか、市川教授の研究技術は、すでに20数件の特許を取得。自動車メーカーはもとより、原油を搬送するタンカーなどの造船業界、産油国などからも注目を集め、共同研究も進められている。
国土交通省、環境省などは、市川教授の研究を核に燃料電池社会の形成を目指すモデル事業「北海道プロジェクト」に乗りだし、道も「エネルギー特区構想」で次世代エネルギー開発のフロンティアを目指す。
市川教授は、化学工業会社など2社と共同で、開発したシステムを家庭で使う実験を札幌市内などで取り組んでもいる。「北海道発の技術を全国に発信し、これからの時代に貢献できれば幸いだ」。燃料電池社会の未来に向かい、さらなる研究に挑戦し続ける。
北海道の研究者たちの活躍がめざましい。バイオテクノロジー(生物工学)、ナノテクノロジー(超微細技術)などの先端技術で注目を集める研究成果を発表。さらに、その成果を武器に、既成の枠を超えて企業や他大学と連携したり、ベンチャー企業を旗揚げしたりする研究者も相次いでいる。北海道の「みらい」に挑戦する研究者たちを紹介する。
【燃料電池】
アポロに搭載有効性を実証 水素と酸素を反応させて電気を取り出す装置。1839年、英国の科学者グローブ卿が原理を発見し、発電実験に成功したのが研究開発の始まり。1960年代には米国の宇宙ロケット開発で、ジェミニ5号(65年)、アポロ7号(67年)に搭載され、実用電源としての有効性が実証された。
日本では70年代に入り、都市ガス会社を中心に研究開発が始まった。
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