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大前研一 企業 産業 国家を取り巻くリスクの本質20050701日経BP
今、ほとんどすベての産業は淘汰の波にさらされている。2001年に『大前研一「新・資本論」--見えない経済大陸へ挑む』(東洋経済新報社)という著書を発表した(米国と英国でベストセラーとなった「THE INVISIBLE CONTINENT」の邦訳)。
内容的にはいわば「新・経済原論」で、あらゆる経済原則が変わってきたことを本書で指摘した。この原則の変わり方というのは、産業革命における蒸気機関のような単一の発明によるものではなく、1985年を境にした経済構造の大きな転換によるものだ。
■「淘汰」「突然死」を進行させる目に見えない3つの新しい経済
その1つは、85年のプラザ合意によって、世界の経済は連結経済、つまり「ボーダレス経済」になったことだ。いわば国境そのものが実線から点線になった結果、経営資源である資本や技術、顧客、企業が、国境をまたいで自由に移動するようになった。
2つ目は「サイバー経済」。85年というのはマイクロソフトのOS「Windows 1.0」が発売された年だ。それ以降はWindowsプラットフォーム上で世界中が情報だけではなく、音楽や映画なども交換できるようになり、知的所有権が国境を自由にまたぐようになってしまった。
ジョージ・ソロスの「クォンタム・ファンド」もこの年に出来たが、これが象徴しているものが、3つ目の「マルチプル(乗数)経済」である。要するに、1億円しか資金のない人が20億円も30億円も動かせてしまうという、“倍率”を使った金融経済だ。ライブドアが埼玉県の中堅スーパーぐらいの売り上げしかないのに、6000億円もの時価総額の会社を相手に相撲がとれたのも、この“倍率”を使ったからだ。
ソロスは92年、“倍率”の使えない英国の中央銀行であるイングランド銀行を相手にポンドの売り浴びせを行って勝利した。またアジア通貨危機の時には、タイガー・ファンドのジュリアン・ロバートソンがタイ・バーツの暴落を演出した。これも「ショートセル」という手法で何倍もの“倍率”でバーツの売り浴びせをし、アジア危機のトリガーになった。このように国家といえども、“倍率”をもってすれば一個人に負けてしまう。
従来のケインズ経済に加えて、私はこの3つの経済の誕生は非常に大きな構造変化であると考えている。しかも、これらは目に見えないものだ。それでいて、我々の生活や経済そのものに甚大な影響を与える。そういう時代になったということを一連の著書で指摘してきた。
■企業、産業、国家とも消滅の危機に固定観念を捨てれば事業機会が見える
シリーズ最新号として今年3月に出版した『The Next Global Stage』(Wharton School Publishing)では、「次の世界の舞台はどうなるのか」に言及した。
実は「見えない大陸」の延長線上には、大きな事業機会が横たわっている。その事業機会に気付いた人は成長産業の波に乗れるが、気付かない人は“突然死”を免れない。国家も同じで、気付いた国は栄えるが、気付かない国、気付いても身体が動かない国は衰退するしかない。企業も産業も国家も、今やこうした“突然死のリスク”にさらされているのである。
せっかく目の前に成長市場があっても、国境を前提にした経済の見方をしているようでは、その存在に気付けない。例えば、日本国内では少子高齢化が進行しているが、私の経済理論でいえば、国境は存在しない。
日本が少子高齢化で低成長になれば、隣の中国を含めて“国内マーケット”と思えばいい。極端なことを言えば、中国を「九州・西」地区と捉える、さらにその先のインドまで含めて“国内マーケット”と考えれば、こんな成長経済はないし、少子高齢化に悩む必要はない。
この観点で見ると、国境なんてバーチャルな点線に過ぎない。だからこそ、中国から様々なモノが入ってくるようになっている。千葉県の農産物、中国・山東半島の農産物は、どちらも同じ時間帯に東京に入ってくる。もはや山東半島は「東京の郊外」ともいえる。
かつて私は「土地は輸入できる」という言い方をしたことがある。これは、例えばオーストラリアで農地を買って自分で農業経営すればいいという意味だ。米30万トンをつくる農地は、オーストラリアでは(日本円に換算して)わずか6億円で買える。オーストラリアの土地だけで心配なら、アルゼンチンやベトナムなどにリスク分散すればいい。
この20年、30年の間に、政府は74兆円の農業補助金を出したが、生産性は全然上がっていない。この74兆円という金額は、オーストラリアの全農地が買えるほどのものである。世界最大の穀物商社「カーギル社」など穀物メジャー4社をすべて購入しても、8兆円しかかからない。それなのに、日本はこの10年だけで10兆円もの農業補助金を使っている。同じお金で穀物メジャー4社を買えば済む話だ。
しかも、いざという時は穀物メジャー4社を握っている方が強い。固定観念で国内だけで考えているので、お金で土地が輸入できるという発想が起きないのだろう。
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