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森ビル、制震装置を低層部に集約 利用者のスペース拡大 進化する建設技術200812218日経産業新聞
安全性と快適性——。オフィスビルに不可欠な2大要素だが両立しにくいのが実情だ。通常、制震性を高めるにはダンパーを各フロアに設置するが、ダンパーを設置する分、スペースを各階で取られてしまう難点があった。この課題をクリアしようと、森ビルが東京・港区赤坂で手掛けるオフィスビルは日本で初めて超高層ビルのダンパーを低層部に集約、たった3フロアで全体を制震する仕組みを導入する。
東京・港区赤坂。アメリカ大使館宿舎に隣接する2000平方メートルの土地で、工事準備が進む。森ビルが手掛ける「赤坂2丁目(福吉町)プロジェクト」(仮称)。森ビルの第1設計部が設計を大成建設が施工をそれぞれ担当、来年1月から本格的に工事が動き出す。
建設するのは地上22階建ての超高層ビル。13—21階はオフィスビル、その他は商業施設などが入居する。6—12階は住居となることもあり、とりわけ高い安全性が必要となる。
通常なら各階に50トン(地震の横揺れの力の吸収能力を重さに換算した場合)ダンパーを各フロアに設置する。森ビルが開発した「制震装置三層集約型工法」は3—5階部分だけに大型の150トンダンパーを設置、この部分で22階すべてにかかる地震エネルギーを吸収する仕掛けになっている。
「地震のエネルギーが上層階に登っていきながら成長する前に低層部分で吸収してしまう」(土橋徹・第1設計部副部長)のがポイント。直径30センチと各フロア用のダンパーの1.5倍の太さの大型ダンパーで効率よく地震エネルギーを吸収する。
「コロンブスの卵的発想から生まれた工法」(同)だった。森ビルの同プロジェクトは首都高速道路と複合ビルの開発地が近接しており、この地の利の“幸運”が手伝った。
高速道路はちょうど複合ビルの3—5階部分の高さで脇を横切るため、居住やオフィスとしては不向き。思い切って3フロアを駐車場とすることになったが、「それならば大型の制震装置を組み込む」(同) ことになった。
これがオフィスや住居にとって「革命的な進化」(同)につながる。最大の利点は利用者のスペースが拡大すること。各フロアにダンパーを設置する際、壁にダンパーを埋め込む必要がある。その際、壁の厚みは15センチメートル膨らむ。
新工法はその膨らみがないため、貸付有効面積で1%(40坪)のスペースを生む。月に坪5万円で貸すなら年間2400万円が新たな収益として貸し手である森ビルに入る計算だ。
オフィスの居住環境も改善する。各フロアにダンパーを設置する場合、これを埋め込むための壁が最低でも7メートルの幅で必要になる。その分、壁面全体の2割弱が壁に覆われ、窓部分が減るが、今回、ダンパーを下層部に集約したことでこの壁部分をなくすことが可能になった。オフィス室内の明るさも増す。
景気低迷の影響を受け、オフィスも少しずつだが空室率が増え始めた。テナントの招致競争も激しさを増しつつある。「利益を生む」新工法が十分に生かせるかは、魅力あるテナントをどう誘致できるかがカギを握る。
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