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証券化地獄、まだ序の口 幻想だった「邦銀優位」、農林中金の巨額損失で明るみに20081208日経ビジネス
農林中央金庫が証券化商品などで2兆円の含み損を抱えていることが明らかになった。RMBS(住宅ローン担保証券)やCDO(債務担保証券)といった証券化商品に積極的に投資。市場関係者の間では、巨額の損失を抱えているのでは、と見られてきた。来年3月までに前代未聞の1兆円という巨額の増資を実施、財務の立て直しを急ぐ。
農林中金の総資産は9月末で58兆円。このうち貸出金はわずか9兆円弱で、40兆円余りが有価証券などの投資に回っている。金庫自体がいわば巨大な「投資ファンド」なのだ。有価証券のうち外国債券で9728億円の評価損、証券化商品などで9769億円の評価損が出ている。
問題は農林中金にとどまらない。金融庁が11月末に発表した日本の金融機関が持つ証券化商品の総額は9月末で22兆2710億円。売却などによる実現損と評価損の合計は3兆2730億円に達する。
だが、損失の発生はまだまだ序の口だろう。というのも金融庁の試算による商品別の棄損率(保有額に占める損失の割合)は全体で13%。サブプライムローン関連商品こそ56%に達するものの、CLO(ローン担保証券)を含むCDOの棄損率は21%。CDOは信用金庫などが1兆円以上保有する。
RMBSやCMBS(商業用不動産担保証券)に至っては公表されている棄損率は5〜6%に過ぎない。地方銀行や信用金庫などは合計で2兆4000億円近くを持っているが、評価損はわずか110億円だ。世界的な不動産価格の下落で、サブプライムだけでなく一般のローンの焦げ付きが増加。商業ビルも空室率の急上昇で不動産ファンドの倒産も出ている。そんな中で棄損率が低いのは、証券化商品の価格評価が甘いからだろう。今後、こうした商品では損失が拡大しそうな気配だ。
ナンピン買いが傷を拡大か
実は、邦銀の多くが損失の表面化や処理を先延ばしているようなのだ。監督当局の検査担当者は「ナンピン買いに問題が潜んでいる」と分析する。市場価格が帳簿価格の半分になった場合、減損といって強制的に損失計上する会計ルールがある。この基準に抵触しないよう、値段が下がった商品を買い増して帳簿価格を切り下げているのではないか、というのだ。こうした価格が下がった商品を買い増すことをナンピン買いと呼ぶ。
農林中金もサブプライム問題が深刻化した昨年夏以降、証券化商品を追加取得してきた。昨年10月末には米メディアが「農林中金、3兆円のABS(資産担保証券)を買い増しへ」と報じている。欧米のクレジットカード債権や自動車ローン債権を担保としたABSを、価格が魅力的になったとしてナンピン買いしたというのだ。農林中金は今年度に入ってからもこれを続けた、と言われる。
さらに多くの邦銀が、時価会計の一部凍結という「禁じ手」に踏み込み始めた。
農林中金も早速これに手をつけた金融機関の1つだ。決算書の注記によると、変動利付国債の評価で市場価格を使うのをやめ、「経営者の合理的な見積もりに基づく」価格を使ったという。先に認められた時価会計の棚上げを実行に移したことで、5759億円も帳簿価格をかさ上げした。3月末では保有する日本国債に1011億円の評価損が出ていたが、9月末では2926億円の評価益に転じた。
日本銀行の中堅幹部は「変動利付国債は地方金融機関に共通する問題だ」と言う。市場価格の下落が著しい同国債をナンピン買いした地方の金融機関は結果的に傷口を広げ、時価会計凍結で損失を封印している、という。
巨額の損失を計上し、その処理を急いでいる欧米の銀行に比べ、邦銀の損失把握や処理は遅れている。なぜか。
1つには、会計上の損失処理に踏み切れば当然決算は大幅な赤字となり、経営責任が問われることになる。農林中金の上野博史理事長は会見で「反省すべきは反省して今後の経営に生かしたい」と述べた。巨額の損失を抱えているのに、自らが責任を取る姿勢は一向に見せない。
大手金融機関は相次いで大型の増資による資本調達を打ち出している。金融機能強化法が国会審議で立ち往生し成立していない以上、予防的に公的資金を受け入れる道筋はない。自力での資本調達しかないが、ここへきて預金者の金融機関を見る目は、国内でも厳しさを増している。
店頭から金貨が消えた
11月に入って1つの異変が起きた。三菱マテリアルや田中貴金属工業の店舗からメープルリーフ金貨やウィーン金貨などが姿を消したのだ。「1オンスや2分の1オンスなどは在庫が全くない状態が続いている」(三菱マテリアルの店頭)という。欧米での金貨需要が爆発的に増えたうえ、金貨製造を中止する造幣局も出て輸入が激減したためらしい。日本では夏頃まで手持ちの金製品を売る「金売りブーム」が続いたが、情勢は急転した。
「金の延べ棒はいくらでもあり、金貨を作るタイムラグで品薄になっているのが実情」と、ワールドゴールドカウンシルの豊島逸夫・日韓地域代表は過剰反応を戒める。だが、「庶民の金買い意欲が急速に強まった背景には、銀行不信、通貨不信がジワジワと広がっていることがある」と分析する。主婦層の間では自宅に現金を置く人も増えているという。
麻生太郎首相は、サブプライム問題に端を発した今回の金融危機について、「わが国の金融機関への影響は限定的」と繰り返してきた。だが、それも幻想だったことが次第に明らかになってきた。
厳しく損失を見積もって公表し、思い切って早期に損失を処理する。そのうえで、資本不足に陥るところには一気に公的資金を投入する──。今こそ情報開示が後手に回り不良債権を巡る疑心暗鬼が膨らんだ10年前の失敗に学ぶべきだろう。
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