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郵政改革「理解不能、選挙で洗礼を」 全銀協の奥・新会長インタビュー20100420日経
三井住友銀行の奥正之頭取が20日、全国銀行協会の新しい会長に就任した。郵政改革、世界的な銀行規制強化、不透明な景気情勢……。難題に立ち向かう銀行界の顔に抱負を聞いた。(聞き手は経済金融部 玉木淳)
――郵政事業見直しが進んでいる。
「まさに逆の方向に進んでいる。小泉純一郎元首相は郵政民営化を争点に2005年の衆院選を戦い、国民はイエスという票を投じた。09年の衆院選はこれを争点とせず、民主党が勝利した。どちらかというと、この問題は埋もれていたと言っていい。にもかかわらず民営化自体を否定し、政府保有株の売却ストップ、新規業務の拡大、預入限度額の引き上げを矢継ぎ早に打ち出した。選挙の洗礼を受けてない一連の動きはきわめて理解が難しい」
「全国銀行協会はゆうちょ銀行の肥大化について、政府・国民に訴えていくしかない。もともとはゆうちょ銀行の170兆円にのぼる巨額マネーを民間市場に戻していこう、巨額のお金を持っているリスクを認識してもらおうということだった。全銀協も小泉政権時代に、民営化の前に業務を縮小してほしいという意見を述べていた。今回は政府が民営化自体をやめて、業務を拡大すると主張している。問題の質が違う」
――郵政側は業務を拡大しないと経営の健全性を保てないと主張する。
「金融の安全網(セーフティネット)を巡る議論が不在だ。民間にお金が移れば、ゆうちょ銀行のリスクを最小化できる。ゆうちょ銀行がおかしくなったとき、誰が責任を取るのか。政府が株主責任を問われるのは自明だ。例えば東京都が大株主の新銀行東京。経営危機に陥った際、最終的に東京都が増資に応じざるを得なくなった。米国の政府支援機関(GSE)であるファニーメイ、フレディマックも同様だ。上場していても政府の関与があれば、政府が公的資金を入れざるを得なくなる。暗黙の政府保証があるという意味でも改革に逆行する」
――それでも政府は強行する。
「新規業務を届け出制にするのは政府内では既定路線なんだろうが、全銀協としては認可制を維持したうえで、第三者的な委員会でモニターする必要があると思っている。M&A(合併・買収)も今は考えているかどうかわからないが、防ぐ仕組みがないといけない。巨大な金融機関になるのを誰が止めるのか。TOB(株式公開買い付け)に踏み込んだ時に政府は反対できるのか。仮に官営銀行が民間銀行を買収したら、社会主義国家と変わらない。歯止めをかける意味でも、法律か第三者委員会が必要だ。選挙を通じて洗礼を受けないといけない」
――バーゼル銀行監督委員会が新しい自己資本比率規制を導入する議論をしている。
「今はアカデミックな議論の段階だ。景気への配慮や金融全体への影響をもっと議論しなくては危ない。世界の血流を閉めることになりかねない。原因を探ると、金融監督当局の失敗に対する反省が行き過ぎている点もある。日本では今回、『失われた10年』の教訓を生かして、当局も銀行も無理しないで来た。例えば不動産融資へのモニターは効いている。一方、米国は保険会社がCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を大量に保有して、当局が本来果たすべきモニター機能を果たさなかった。その失敗のツケに世界が巻き込まれただけでなく、日本がえらいとばっちりを受けている」
――猶予期間などを設け、激変緩和すべきとの意見が出ている。
「今導入済みのバーゼル2は実現までに10年要した。次も同じタームで考えないといけない。今すぐみんながやろうと言ったら、世界の株式市場は干上がってしまう。それで調達できなかったら国内銀行にならなければならないのか。規制をいくら強化してもバブルは起こる。予言者でも哲学者でもないが、バブルは必ず起こる。当局が銀行を悪人扱いして、政治家がバッシングすればするほど、市場の適切な成長力をそぐことになる。非常に強い規制強化の動きには、我々もしっかり意見を発信していく。世界経済が変な風に動かないようにしていかないといけない」
――三井住友銀行は1兆円増資で備えは万全だ。
「これだってまだ分からない。足りなくなるかもしれない。順調に内部留保が積み上がってきているが、景気の二番底が来て赤字になればゼロに戻る。そういう意味で我々も先が見えない。そういう中で規制が強化されればきつい」
――2010年度はどのような年にしたいか。
「ポスト金融危機。銀行として本来のミッションに戻り、この命題に取り組む年にしたい。永易克典前会長が『金融のあり方が問われた』という言葉を残したが、それが今年度も問われ続けるだろう。預金者からお金を預かり、安全・安心を提供する。そして国内隅々まで円滑な資金供給を果たしていく。日本経済成長に向かう下支えをしていくことがミッションだ」
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