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地域再生へ高齢者移住促進 雇用創出や若者流出に歯止め期待20150901Sankeibiz
政府は、東京圏など大都市で高齢者が急増し、医療や介護サービスが立ちゆかなくなるとして、高齢者の地方移住を促す政策を打ち出した。医療や介護関連の雇用が生み出され、都市への若者の流出に歯止めをかける効果も期待され、一部の自治体では受け入れ拠点の整備に向けた検討が進む。ただ、高齢者の急増による財政負担の増加への懸念や、新たなコミュニティーをどうつくっていくかなど、実現への課題は多い。
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東北新幹線新白河駅から車で15分ほどの山あいに、70戸のコテージ風の建物が立ち並ぶ。2012年に全棟がオープンした栃木県那須町の「ゆいま〜る那須」のサービス付き高齢者向け住宅だ。
1戸の広さは約33〜66平方メートル。入居者は61〜91歳で関東や関西から移り住んだ人が大半を占める。約1200万〜2500万円の家賃を一括して前払いすれば、生涯居住できる仕組み。
◆医療機関と連携
月額約3万〜5万円のサポート費や食費、光熱費などはかかるが、常駐スタッフが日常生活の相談に応じるほか、地元医療機関と連携して病気やけがにも対応する。
全国各地で高齢者向け住宅を企画、提案しているコミュニティネットワーク協会の副会長を務め、ゆいま〜る那須の開設にも関わった近山恵子さんは「単なる高齢者住宅ではなく、福祉のまちづくりを通じて地域の再生につなげたい」と話す。
同協会は07年、ゆいま〜る那須の開設に向けた実行委員会を立ち上げ、入居希望者から要望を聞いて、施設の設計やサービス内容などに反映させた。住環境だけでなく仕事や生きがいを持てる暮らしの実現を重視した。
横浜市から移住した高木まき子さん(80)は、美容師の資格を生かして入居者のヘアカットを担当。施設内の食堂で使える「ハウス通貨」を代金として受け取っている。「カットを通じて声を掛け合えるのが幸せです。姿勢良く、足腰も丈夫でいられる」とほほ笑む。
食堂は一般向けにも開放され、入居者と地域住民が一緒に食事をつくって提供している。近隣の牧場で牛の世話を手伝う入居者もいる。
昨年7月に東京都府中市から夫婦で移住した大西明成さん(70)は「今年から地域の人に交じってテニスを始めた。この先、移住する考えはない」と満足そうに話した。
ゆいま〜る那須は、政府が推進する高齢者の受け入れ拠点「日本版CCRC」構想の先行事例として注目を集める。近山さんは「高齢者は知恵も経験もある。力を発揮してもらう受け皿になる」と力を込める。
◆自治体同士で協力
一方、東京圏では近い将来、医療や介護サービスが不足する事態に備え、自治体同士で協力を模索する動きも出始めた。
人口約28万人の東京都豊島区には9カ所の特別養護老人ホーム(特養)があるが、入所待機者は15年3月末時点で300人を超える。区は特養の増設も進めているが、地価が高く用地確保は困難で、高齢化のスピードに追い付いていない。
このため区は昨年から、姉妹都市である埼玉県秩父市への高齢者移住の実現に向けた検討を進めている。西武池袋線の特急で約80分という交通の便を生かし「お試し移住」や「2地域居住」も促す考え。区の担当者は「あらゆるケースを想定して協議を進め、高齢者の第二の人生を後押ししたい」と話した。
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【用語解説】高齢者の地方移住
民間団体「日本創成会議」は6月、独自の試算で医療・介護の施設や人材に余裕があるとした26道府県41地域への移住を呼び掛ける提言を発表した。政府も6月末に閣議決定した地方創生の基本方針で、東京圏など大都市の高齢者の地方移住を推進する姿勢を明確にした。具体策として、高齢者が健康なうちに移り住み、医療・介護サービスを受けるだけでなく、仕事や生涯学習にも取り組める共同体「日本版CCRC構想」の実現を目指している。
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