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日銀は追加緩和なし SMBCフレンド証券・岩下真理氏20151026朝日
■金融政策 私の視点
――日本銀行は従来の景気や物価の見方を維持しており、10月30日の金融政策決定会合で追加の金融緩和はない、と岩下さんは予想しています。
金融政策 私の視点
「10月6、7日にあった前回の会合では、8月の生産指標が弱かったにもかかわらず、輸出と生産の景気判断を『横ばい圏内の動き』として変えなかった。これは景気判断を大きく変えたくないという日銀の意思表示だ。30日までの間に、この判断を覆すような材料も出てこない」
「黒田東彦(はるひこ)総裁は『所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続けている』と言い、『物価の基調は着実に高まってきている』という判断も変えていない。こうしたことを考えると、たとえ30日にまとめられる経済・物価情勢の展望(展望リポート)で15年度の成長率と、15、16年度の物価上昇率の見通しを引き下げたとしても追加緩和する必要がない、と言っているに等しい」
――確かに日銀が重視する生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価指数の前年比は1・1%まで上がっています。ただ、背景は昨年の追加緩和による円安で、物価の基調がしっかりしている、とまで言えますか。
「原油価格が下がった影響を差し引けば、物価上昇率は前年比プラスを維持できているのは事実だ。一方、物価が上がっている要因が円安と言われればそれも事実。だが、それだけが要因なら、これほど物価は上がらなかったはずだ」
――円安以外の背景もあると。
「以前ならば円安で輸入する原材料価格が上がっても、そう簡単には販売価格に転嫁できなかった。低価格戦略で勝ち組だったユニクロや吉野家、マクドナルドは、自らの身を削ってでも、販売価格を上げなかった」
「だが、日銀の大規模な金融緩和を背景に企業収益が増加した。雇用・所得環境の改善により、従来のデフレ型ビジネスモデルは変化し、価格転嫁する動きに転じている。昨年来、ユニクロは値上げを続けており、ついにマクドナルドは昼の割引セットメニューを終了することになった。物価が上がっている要因は円安の影響だけではなく、そういった価格設定行動の変化が起きているのだ」
――日銀が目指す物価上昇には賃上げが重要です。黒田総裁は企業収益が過去最高になっているのに、賃金の引き上げ幅が少ないことに懸念を示しています。賃上げを後押しするため、追加緩和をするのではないか、との見方もあります。
「企業が高収益を上げているのは、原油安のメリットが出ているのだと思う。それでも内部留保をためこむのは、原油安がいつまで続くのかわからないから。だから、保守的な日本の企業の経営者は、内部留保を一気にはき出して設備投資をしたり、賃金に回したりすることを、簡単にはしようとしないのだろう」
「そもそも追加緩和をしてもすぐに企業が賃金を上げるわけではないだろう。来春の春闘交渉前に発表する物価指標に影響は及ばない。いくら日銀が市場にお金を大量に供給しても、企業サイドに資金需要がなければ、お金を使おうとしない。むしろ、政府が経済界との間でやっている官民対話の方が、賃金を引き上げる力はあると思う」
――では、追加緩和は当面ないと考えていますか。
「やる可能性があるとしたら、10〜12月期の生産の持ち直しが弱い場合や、12月の日本銀行全国企業短期経済観測調査(短観)の事業計画が大幅に下方修正された場合だ。9月の短観はほどほどによかった。なぜなら、調査への回答は、多くの企業で9月中間決算の数字が固まる前になされており、回答内容はそれ以前の見方の範囲を出ないからだ。中国など新興国経済の減速懸念が反映されてない可能性があり、その点は12月短観の数字で顕在化するかも知れない」
「ただ、中国が景気対策をしっかりして失速の懸念を払拭(ふっしょく)し、米国も利上げが可能な状態になれば、日銀は追加緩和をしなくてもいい状況になるだろう」
――10月で黒田総裁が就任してから2年半となり、5年任期の折り返しを迎えました。前年比2%の物価上昇目標を掲げ、大規模な金融緩和を繰り出している現状をどう評価しますか。
「円高を修正し、株高を推進した点は評価できる。円安は大企業を中心に企業収益を増やすことを通じて、雇用と所得環境を改善させた。賃金が2年連続で上昇するなんて以前は想像さえできなかったはずだ。また、円安はビザ発給要件の緩和と相まって、訪日外国人客による旺盛な消費を生み出した。さらに株高は富裕層の消費を刺激した」
「こうした要素が景気を改善させ、企業が販売価格を引き上げやすくしたことも評価できる。安くなければ売れないと思っていたデフレの世界を終わらせ、付加価値や需要がある商品なら、値上げしても売れるという世界に変わった」
――とはいえ、円安には副作用も指摘されます。
「ここに来て政府が気にしているのは、物価上昇と消費の関係だ。最近、日用品、特に食料品の値上げが多いので、消費が伸びなくなっているという点を気にする人が非常に増えてきた。去年は消費増税前の駆け込み需要の反動で消費が落ち込んでから、戻るまでの時間が長くかかった。物価上昇は年金生活者にとって痛手が大きく、消費を抑制する面もある」
――大規模な金融緩和を続ければ続けるほど、日銀が持つ国債の残高は増えます。2%の物価目標が達成できなければ、発行済みの国債を日銀がほぼ買い尽くすことも考えられます。こうした政策はいつまで続けられるのでしょうか。
「木内登英審議委員が毎回の金融政策決定会合で提案している議案が参考になる。木内委員は2%の前年比の物価上昇率の目標を、中長期的なものとするべきだ、と主張している。今の日銀のように、何が何でも2%を達成すると強調しなければ、早く達成させるための追加緩和は必要なくなる」
「日銀はこうした方針転換について、政府とこれから話をしていくべきだ。安倍政権は来年の参院選の前に、どこかで『デフレ脱却』を宣言したいと考えているのではないか。そうしたことがあればお上のお墨付きを得て、日銀は柔軟な物価目標に修正できる機会となる。その後、金融政策の出口を模索していけば良い」
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いわした・まり 1965年生まれ。慶大商卒。太陽神戸銀行(現三井住友銀行)、SMBC日興証券などを経て、2014年からSMBCフレンド証券チーフマーケットエコノミスト。(聞き手・福田直之)
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