読書は、ジャネット・ウィンターソン著「灯台守の話」(白水社)を読み始め、面白そうな滑り出しだったのだが、なんとなく買ったまま気になっていた今期の芥川賞受賞作、川上未映子著「乳と卵」が気になって、「灯台守の話」を一時中断し、こちらを読んでみた。
こうして急きたてられるのも、なんというのか、よきにつけ悪しきにつけ、最近の芥川賞というのは“旬”があって、なんとなく早いうちに読まなければ鮮度が落ちるような気がするからだ。それだけ、時代性はあるが、普遍的な生命力が希薄という言い方もできるかもしれない。
しかし今期の受賞作「乳と卵」、なかなか面白くはあった。何より文体がユニークで、新鮮さを感じる。初めのうちは読み進むのがだるい感じもあったが、そのテンポに慣れていくと、それが心地よく感じるようになっていた。
こういう文体、どこかにあった気がするなあと考えていたら、昔受験のころよく読んだ古文の現代語訳に似ているような……。となると、さして新しくもないということになるのかどうか。
しかしこの文体とテンポが、物語のクライマックスになって圧倒的な効果を発揮する。ぐいぐいと吸引されるかの力で迫ってくるのだ。ここへきて思わず“してやられた”という気になった。
物語の結末も、結局のところ、生命など人間の根源にかかわる、揺るがせにできないファクターがうまく収斂し、見事といっていいだろう。読み終わったときには、最近の芥川賞では上位の部類ではないかと思った。
とはいえ、翌日思い返すと、意外や全体的な印象の薄いことに少々がっかりした。まあ、思い返すに「ああ、よかったぁー」となる小説なぞ、滅多にあるものではないのだが……。
この読後の印象は、併載の短編がぱっとしないことにもよる。三人称で書いているが、なんとも収まりが悪い。いっそ一人称で書いたほうがよほどよかったのではないか。本としては薄くなるが、受賞作1編だけにしたほうが正解だったと、私は思うが……。
あとは今期の直木賞受賞作、桜庭一樹著「私の男 」も近々読む予定。ひと足先に読んだ、かつての文学少女、いまの文学老人たる母親によれば、これはじつによかったとのことである。
それにしても、決まってみれば、両作とも版元は文藝春秋。いくら同社主宰の両賞とはいえ、またも出来レースを見せられたような気がしないでもない。
音楽は、新しいものと古いもの、気分で両方聴くのだが、今週は温故知新で、ジェネシスの「Selling England by the Pound」(73)と「The Lamb Lies Down on Broadway」(74)をアマゾンで購入し、これに酔いしれていた。
このあたりの作品はすべてレコードで持っているのだが、さすがにいまさらレコードはしんどい。で、結局はCDを買うことになる。この浪費をもう何十回も繰り返しているのだが、それはともかく、やはりいいものはいい。「Firth of Fifth」や「The Lamia」あたりは、もう奇跡の楽曲といっていい。
拙著「月子。」に登場させた、70年代ロックかぶれのヒロではないが、あまりに美しく儚い旋律に、聴くたび、鳥肌がたち、涙腺が緩む。
とくに「The Lamb Lies Down on Broadway」は、2枚組のコンセプトアルバムとしては、ピンク・フロイドの「The Wall」とともに、ロック史上に燦然と輝く金字塔といっても過言ではない。
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