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OL三国志演義

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〜 十条寺は罠に落ちるも、西の狼が現る 〜

「まあ、アッチの方は、結構マジメやん?」  そう切り替えしたのは雁田憲和だった。

 その驚愕の発言に、さすがの操猛美も一瞬口ごもってしまった。『悪い=カッコいい、マジメ=ダサイ』という、なんとも幼稚な世界観が、まさか社会人の宴席で語られるなどとは、切れ者陰謀家、操猛美にとっても想定外であったのだ。

 「俺らは、ワルかったからなあ!なあ、玄田ちゃん!」  やめて、、、お願い、、、ヤンキー武勇列伝、、、そんなダサすぎる過去をエグらんといて、、、玄田徳子はほとんどグロッキー状態。宴会前半までの舞い上がりぶりはどこふく風か。

 隣にいた男子何某が、大丈夫?飲みすぎ?とかける声にも上の空。

 「なあ、二年時の体育祭あったやん?あん時、俺ら、ブッチしようぜって言ってたやん、でも、西ネヤ(*)のヤンキーが俺らのクラスのコ、あのほら、浅香唯に似てた、、、」まくしたてる雁田憲和の言葉が耳の奥でこだましてる、、、 

*註 西寝屋川高校  

 酔いと極度の不快感で心身阻喪状態になった玄田徳子はグラスを握ったまま、固まったしまっている。そしてその口もとは、よく見ると僅かに微笑んでいる。

 「真っ白だ」そんな言葉が聞こえてきそうな玄田徳子。 座したまま昏睡状態になった玄田徳子の脳裏には、高校時代の記憶が蘇っていた。
 

地元の公立高校に通う玄田徳子が時折見かけたミッション系の私立に通う高校生達。私服で通学する洗練された彼らに淡いトキメキと、同級生らへの裏切りのような気分を感じていた。ああ、こんな地元から抜け出したい、もっとオシャレな人のいるところで生きていきたい、、、 

 「姉上!姉上!」 関長子に肩を揺すられ、我に返った玄田徳子の目に飛び込んで来たのは、したたか酔った十条寺室長の姿だった。十条寺室長は雁田憲和の手をなでるようにして握りながら、だらしなく相貌を崩している。

 その横で二人を囃しながら、どんどん酌を勧める操猛美がいる。 男色の十条寺室長に次々と若い男子を差し向けたが、なかなかその牙城を崩すに至らなかった。たしかに、十条寺室長はホモセクシャル。が、それもただのホモではなく、いわゆるヤンキーフェチだったのだ。

 雁田憲和のおかげで十条寺室長の固いガードがついにおろされた。この世界にも様々なジャンルがあるものだと思いながら、たまたま現地調達した男子に救われる自分の幸運に操猛美はいよいよ自信を深めていた。

 アタシはツイてる。やっぱり、お天道様が味方してるんやワ!

 「正図さん、バンバン撮っておいてくださいよ」

 小声ながらも強い調子で、配下の者に指示を出す猿渡課長。ようやく獲物を捕らえた昂揚感を抑えるためか、瓶ビールを両手でひざの上で握り、どうもイヤラシイ姿勢になっている。 

 「課長、分かってますって!『写ルンです』三つもこうてきましたから!」 

 すっかり泥酔し、胸をはだけ、男子らと絡まるような十条寺室長の痴態を記録しつづける猿渡配下の正図公則。

 操猛美はさらに周囲の男子を煽り、十条寺の痴態を引き出そうと画策する。躊躇する男子には「ノリ悪いやん!」と罵声を浴びせては、競争心を煽り、中には、自らベルトに手をかける者まで現れ始めた。

 宴席は無礼講と化し、操猛美の悪魔的な笑い声がこだまする。完全に歯止めの無くなった、目にするのも憚られるような状態の十条寺室長の乱れよう。そのあられもない姿は、猿渡課長の腹心がことごとく写真に収めている。 

 「姉上!退却です!この宴、やはり裏がありました。操と猿渡課長が十条寺室長を貶めるために仕組んだものに相違ない!」 

 「こんなものに関わってはいけない!今すぐに撤収しましょう!」 

 関長子に促され、玄田徳子が席を立とうとした時、勢いよく襖が開いたかと思うと、でっぷりと太ったOLと長身のロンゲの男が立っていた。そしてそれぞれ肩に若いサラリーマンを抱えている。

  「ちょっとぉ!あんたら何をしとっとね!」 

 太ったOLの怒声に宴席はにわかに静まった。 

 「坊ちゃ〜ん、ウチの社の者どもが、乱交パーチーィーをしてますよぉぉぉ!なんと情けない、恥知らずな!」

 太ったOLは肩から、サラリーマンを抱き降ろし畳の上に座らせて、そう訴えた。 

 「げぇ!西の狼、卓重子!!」

 蒼白の顔をした操猛美が歯噛みをしている。

(次回につづく)

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〜雁田憲和は旧交を温めるも、玄田徳子は意気消沈す〜

 座敷の障子が開くと夏木姉妹が入ってきた。その後ろについて、数人の見慣れない男たちが宴席に入ってくる。夏木姉妹は、早や男子達の調達に成功した模様だ。
 
が、その男子達の雰囲気は、ライトなヤクザ風のルックスで、この席には、若干の違和感がある。男子達は、夏木姉妹に促され、十条寺室長の方に向かった。この宴会の代表格に挨拶をする意図だろう。

 その中に一人。「ちわーす」と大きな声を上げ、愛想をしていた男がいぶかしげに玄田徳子を見つめた。「私の顔に何かついてまして?」と玄田徳子がお上品キャラをパロってやろうとした時、その男は驚きの声を上げた。

 「あれ!玄田?、、玄田ちゃんやん!」

 玄田徳子は男の姿をまじまじと見た。縦じまのダブルのスーツに、ど派手なネクタイ。なんだか吉本新喜劇の衣装のようだ。小脇に抱えたルイ・ビィトンのセカンドバッグは、まるで小道具のよう。持ち主の雰囲気と相まってパチもん(*)の匂いがする。

 *パチモン 偽物を大阪ではこう呼ぶ。イエモンは九十年代に人気を博したロックバンド、イエローモンキーの略称。

 が、その顔には見覚えがある。人間というものは、どういう訳か、人の顔を忘れない。たとえ、時間と共にその形状が変化していようとも。

 「、、、え!カ・リ・タ、、、雁田クン!?ガンダーラぁ!?」

 さっきまで、大のご満悦であった玄田徳子の顔から、サッと血の気がひいた。

 「ガンダーラ」、雁田憲和がなぜこんなところにいるの?ヘタレの元ヤンキーと幼馴染だったなんて、この場ではまずすぎるワ!さっきまでの『ハイセンスな玄田先輩』のイメージが一気に崩れるやん!

 馴れ馴れしい微笑みをたたえて、近づいてくる過去の恥部。玄田徳子は、これをいかに無視しようかと酔った頭をフル回転させた。

 「ガンダーラ」こと雁田憲和。姓は「かりた」と発するが、彼は幼いころから「がんだ」とあだ名されたされていた。雁田憲和に転機が訪れたのは小学校四年生の時だ。

 人気TVドラマ『西遊記』のエンディングテーマとなった「ガンダーラ」はエキゾチックなそのメロディが大衆に愛され国民的なヒット曲となった。「ガンダーラ」を唄ったゴダイゴという、ロックバンドは、当時のカテゴライズに従えば、ニューミュージックというジャンル。ゴダイゴは、歌謡曲しか知らない小学生に、新鮮かつ大人っぽい光を放っていた。

 当時「ガンダ」とあだ名されていた雁田憲和は、「ガンダーラ」のヒットと共に「ガンダーラ」と呼ばれるようになり、にわかに注目される存在となった。隣のクラスにもその名が知れるようになった雁田憲和は、この好機を逸してなるものかと、ゴダイゴをはじめとしたニューミュージックに詳しいヤツという自己像を作ることに専念した。

 その後、FMラジオや雑誌「ミュージックライフ」などの助けを得ながら、ニューミュージックに詳しいという自己演出に成功した雁田憲和。が、その後、雁田は、横浜銀蝿、シャネルズに魅せられる中、音楽そのものより彼らの醸す不良的要素に大いに感化され、所謂ヤンキーの道を選んだ。当時のませた少年の多くがそうであったように。

 そのガンダーラがこの宴席にいる。玄田徳子は狼狽し、関長子、張本翼も事態を飲み込めないでいる。相伴している男子達は、突然、座に割り込んできたミナミの帝王を着崩したような男に、不審と見下げたような視線を送っている。彼らを一瞥した雁田憲和も男子達を鼻で笑った。大阪に長く続く抗争、モッサいキタとヤンキーのミナミという対立の構図が垣間見られた瞬間だ。

 「久しぶりやなあ!メッチャ偶然やん!」

 「え、え、うん」

 ピンチの時の玄田徳子の焦りかたは、斉藤由貴風だ。 

 「姉上、お知り合いなんですか?」

 関長子が雁田憲和に鋭い視線を送りながら、玄田徳子に問う。 

 「うん、、その、、ちょっと」

 「ジモティーやん!ジモティ!」

 「ジモティ?」

 「地元の連れやん!連れ!」

 そう言うと、雁田憲和は、玄田徳子の横で胡坐を組み、手酌でビールを注ぎ始めた。気まずそうに体を半分そむけ、チューハイライムを口にする玄田徳子。

 「姐さんの連れですかぁ?」

 と、張本翼が雁田憲和に声をかけると、人懐っこい表情と声が帰ってきた。

 「高校まで一緒やったで。結構ヤンチャしてたわ、あの頃は。なあ、玄田ちゃん!」

 嗚呼!最悪だ、、、「ヤンチャしてた」元ヤンキーの常套句。旧悪を糊塗する言い様。というか、些細な悪事を誇大に語るつまらない虚勢。カツアゲとか、そんなしょうもないこと自慢せんとってや、、、仲間と思われたくない!アタシはセンスのいい仕事のできる先輩女子なんやから! 

 「まあまあ一杯どうぞ。注がせてください」

 関長子の言葉に促されると、雁田憲和はニタッと笑って、ビールを飲み干すと「どうも」空のグラスを突き出した。

 「それにしても久しぶりやなあ、玄田ちゃん。十年ぶりくらいかなあ。あ、でも香里園で立ち読みしてるん見たことあったけどな!」

 え!ウソ!全然気つかんかった!うわぁ何んの本読んでたんやろ、、、頼む、ガンダーラ、黙っててぇ、、、

 「なあ、なんで、ここにおるの?」

 煙たく思っている、そう雁田憲和に伝えたい。が、喧嘩の弱い玄田徳子は、愛想笑いをしながら、そう訊くしかなかった。

 「いやあ、1階のテーブルで飲んでたら、双子の子に一緒に飲みませんかって誘われたんや」

成程。夏木姉妹に声を掛けられたということか。あのコらなんでそんなことしたんやろ?

 「お兄さんが男前やからちゃいます?」

 禁酒ゆえにか、先ほど来、黙りがちだった張本翼が楽しそうに囃した。ミナミの女番長は、寝屋川の元ヤンキーを歓迎しているようだ。
 

明らかに拒絶するような表情を作る男子達を意に介せず思い出話を続ける雁田憲和。一方で雁田の仲間達は、十条寺室長を囲んで談笑している。

 操猛美が命によって夏木姉妹が集めてきたミナミ風の男達。彼ら赤の他人が懇親会に雪崩れ込んできたという珍事の裏に、如何なる陰謀が隠れているのか。元ヤンとの交友関係が暴露され、すっかり意気消沈している玄田徳子には知る由もなかった。

(次回につづく)

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〜玄田徳子は有頂天となり、夏木姉妹は捜索に奔走す〜

 操猛美が空のグラスを握ると、正面にいた営業課長、猿渡紹一が酌をしようとビール瓶を掴んだ。操猛美はそれを片手で制して、手酌でビールをサッと注ぐと、一気にグラスを空けてしまった。

 そして、フーッと息をして、鋭い視線を猿渡課長に向けて吐き捨てた。

 「動き悪いなあ、あんたのとこの若手。どうすんの?首謀者サン」

 十条寺譲室長を囲む男子達の輪は、最盛期に比べれば、落ち着いたものになっていた。それでも4〜5人の若手が十条寺室長を囲み、酌をしてはそのご高説に耳を傾けている。

 そして十条寺の巧みな勧めに乗って杯を重ね、したたか酔ってしまっている。アテンド側が自制心を欠きつつあるという頼りない状況に、猿渡課長は歯噛みした。自分の連れてきた連中がだらしない。

 見ろ、操猛美に嫌味を言われたではないか!一番言われたくない奴になのに。いつか仕返ししたる、、、

 今夜は任意の私的な宴席とはいえ、『新プロジェクト』のメンバーを中心とした慰労会の側面もある。『新プロジェクト』の重鎮、十条寺室長には楽しんでもらわなければならない。前後を失うほどに盛り上がってもらわなければ困る。困るのだ。

 とはいえ、現状を打破する妙策を持たない猿渡紹一には、子どものようにふてくされるだけだった。

 ところで、十条寺のような特殊な性癖の持ち主が、なぜ秘書室長にまで出世したのかということを語らねばならない。大小を問わず集団統制の要点は、

ご存知のとおり人間関係である。ことに男女間というものほど厄介なものはない。この面で極めて謹直で信頼に足る人物であった十条寺譲は、人事管理を担う総務畑で愛された。

 総じて派手と言われる商社において、女子と軽口さえ交さない若き日の十条寺。「ややこしくない男」として幹部から厚い信頼を得て出世を重ね、ついには秘書室長にまで登りつめたのだ。

 男子に対して核兵器並みの危険人物であることが広く知られるようになったのは、後年のことなのである。

 「ありがとう、でももう結構」とやんわりと若手の酌を拒みながら、逆に酒を勧め「モテるんじゃないの?」なぞと持ち上げながら、若手達をいい気にさせている十条寺室長。

 さりげなく若手の手に触れたり、二の腕をさすったりと、やりたい放題の悪行。よく見れば、瞳は蛇のように冷たく、青い光を放っている。

 「もう猿の軍団に任せてられへん!」
 「惇ちゃん、妙ちゃん、男子を何人か集めてきて!」

 猿渡課長の手の者の不甲斐なさに業を煮やした操猛美。配下の夏木姉妹に命じて、なんと男子の現地調達という荒業に出た。

 「アイ・アイ・サー!」

 指示を受けた夏木姉妹は一礼して座敷から飛び出して出ていった。その姿を見送りながら、操猛美はひとりごちた。

 「あのオッサン、若いだけではダメみたいやなあ、、、かなりの男前やないとアカンのかも」 

 さらに濃度を増す十条寺室長の粘っこいセクハラ&パワハラ。いよいよこれに阻喪した若手達は逃げ出すようにして散り、潤いを女子達に求めた。結果、玄田徳子の周りにも若い男子達の包囲網が出来上がり、近年まれに見る活況を呈している。

 年下は実は好みではないが、三十路にリーチがかかっている以上、対象の幅を広げねばならないと思っている玄田徳子。そんな思いもあって、特段好みの男子がいなくとも、若手に囲まれるのは、満更でもなかった。

 たとえこの場での会話が、翌日には思い出せないくらい無内容なものであってもいい。今は男どもが寄り付いてくるという勝ち癖をつけなければならない。

 「玄田さんて、オシャレですよねえ!」「テイストがシブい。っていうか僕のツボッす」「仕事もデキるんですよねえ!」「噂は聞いてますよぉ」云々云々。

 オシャレで仕事も出来る先輩女子という、たった今できあがったアバウトなレッテルに、すっかりいい気分になっている玄田徳子。

 「そんなことないってぇ〜」と言いながらも、もっとホメなさいよぉ☆と相手の言葉を待ち、その間に付きだしの残りをモグモグと頬張る姿は、どことなくセコい。

 姉上はある種の貧乏症だ。こんな時くらい泰然と構えていればいいのに、、、と関長子。

 「うん。まあ、日経ウーマンは一応読んでるけどぉ」

 何を自慢してるんだか、、、

 得意満面の玄田徳子。チューハイライムを片手に怪気炎を上げている。うつむいて首を振る憂鬱そうな関長子をよそに、宴席には、ムハハと鼻息の混じった玄田徳子の哄笑が響いていた。

(次回につづく)

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〜十条寺譲は微笑し、若者は戦慄す〜

 宴席の中央部にある主賓席に、男子社員が群れている。営業部の猿渡課長が連れてきたと思われる未だ童顔が抜けぬ若手連。彼らは酌をするために一人の紳士を囲んでいる。

 その男、痩身のスキンヘッドこそ秘書室長の十条寺譲。今夜の主賓であり、役職上も最上位に位置する十条寺室長。十条寺は、次々と現れては酌をする若手たちに少々驚いてみせながらも、自分の権勢を確認してほくそえんでいる。が、笑みが漏れるワケは、それだけではない。

 早やトレードマークとされる黒革のジャンパーを脱ぎり、引き締まった上半身を強調するタイトなシャツには、乳首が薄く透けている。ほとんど犯罪だ。いや、こんなに分かり易く自分の趣味を明示してくれるのは、あるいは親切なのかも知れない。この姿を見て、十条寺室長の嗜好を見誤る者はいないだろう。

 災難なのは猿渡課長が配下の若手達である。蛇の前に自ら身を投げ出す蛙のようなもの。よく見てみると、彼らの酌をする手は小さく震えているではないか。関長子は、今宵彼らの臀部が息災であることを密かに祈った。

 お座敷に瓶ビール。若手が酌をするのに完璧なコンディションやわ。玄田徳子はさすがは操猛美だと思った。今宵の幹事、操猛美は華やかな女子。洗練されたオシャレは、彼女のトレードマーク。が、操猛美のもう一つの顔は、徹底した合理主義者。

その判断力が、職場の飲み会にふさわしい雰囲気、費用そして社屋からの移動距離などの諸要素を勘案した完璧なセッテイングを実現した。その上、お酌のし易さまで配慮しているなんて。過不足のないチェーン系居酒屋の座敷。「これくらいでちょうどええねん」、操の声が聞こえてきそう。アタシが幹事やったら適当に探すのに。京阪の駅に近いとこで。(*)操ってなんでも完璧を目指すタイプなんやなあ。

 *玄田徳子は京阪電車を通勤に利用している。このくだりは、幹事の特権で自分の帰宅に便利な場所を宴席に選ぶという意。

 玄田徳子が改めて操猛美に目を向けると、その左右には側近の惇子(あつこ)と妙子(たえこ)の夏木姉妹が侍り、操猛美のボディガード、『巨漢の乙女ちゃん』こと悪来典子の顔も見える。あれ?悪来ちゃん?あの子ウチの会社ちゃうやん。操、、、大胆やわあ。

 『十条寺詣で』を終えた数名の若手の男子達が宴席に散った。お勤めを終えた彼らはようやく自分自身のための時間を過ごす。自席に戻って肴に手をつけるものもいるが、彼らのうちのほとんどは女子らの側に侍り始めたのであった。

 玄田徳子ら三姉妹のところにも、二人の男子がやってきてビールをすすめた。「飲めるんですか」「強いんですか」「所属はどこですか」「家はどこですか」「ナンで来てるんですか(利用している交通手段は何ですか)。」

会話の入口、ある種の名刺交換というかIDカードでの入室チェックのような、お決まりの話題がひとしきり行われた。

 そしてさらに職場での話題、それぞれの近況報告、TV番組の話へと宴会のトークは推移するだろう。ほとんど相撲の土俵入り、儀式的ともいえるやり取り。玄田徳子は目を瞑ってもこの会話をこなせる自信がある。

 が、この『しきり』を侮るなかれ。起承転結で言えば、いわば『承』にあたるこのパートでの会話は重要である。ここでの情報交換、関心事の共有が、この後の会話が盛り上がるか否かの分かれ目となるのだ。

 できるだけ明るく、ノリのいい人物像を相手に印象づけたい、その惰性で言葉と表情をオートマチックに繰れる玄田徳子には、実は目の前の男子なぞは眼中にない。何か抽象化した異性という存在、あるいはモテる自分という像。玄田徳子が相対しているは、そのようなものかも知れない。

 これはおかしい。姉上の様子が妙だ。関長子は玄田徳子の表情の艶やかさを不審に思った。もう三十路に手が届こうかというのに、姉上の内面には『面食い』という未熟なものが残っている。

 目前の若手達は、言っては悪いがソーリィーな二人だ。一人は凡庸という字を形にしたような風采。もう一人は若いのに既に生え際が怪しいではないか。着こなしも無難なところを選ぶ迎合型。意図したものかと思えるほどの魅力の無さ、個性の乏しさ。絵に描いたような賃労働者!だのに姉上は、美男を前に反射的に見せる隠せない歓迎の表情。ナニユエニ?

 昨今のアタシは上げ潮。今夜は一回り大胆に振舞うのが吉。宴の手足れ、玄田徳子は此今宵の基本戦略をそう定めた。

 今年はやる、どんな些細なきっかけ逃さないのだ。コンパは無論、職場の宴会さえも無駄にするものか。目の前の若手は見るからにトンマな連中。でもどんなご縁に発展するかわからない。否、オイシイ『芋ヅル』足りえなくとも練習にはなるやん!

 不自然なまでに前向きな玄田徳子の瞳には、信仰者に似たある種の恍惚感が漂っていた。

  玄田徳子の右に控える関長子は、いぶかしげに鋭い視線で、二人の若手を見据える。また、左には禁酒中の張本翼が「ククク」と低く哂っている。やり場のない怒りを誰かにぶつけてやろうと舌なめずりをしている。そして会話の入口から過剰な好意を滲ませるルンルン!の玄田徳子。

 美人OL三人の不気味さ圧倒されて気後れしてたのか、若手達は口をつぐみ、玄田徳子らの座には奇妙な空気が流れ、しばしの間沈黙が続いた。

(次回につづく)

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〜関長子は宴に波乱を思い、操猛美は猿渡紹一を冷笑する〜

 グラスが重なり高い音を響かせる。其処此処からざわめきがおこる。あ、じゃあ。お、乾杯。饗宴のプロローグ、熱狂に向かう静かなる儀式。拍手が鳴る。

 今宵の拍手はやや強めにしっかりと。内輪の飲み会じゃない、会社がらみなんだから。ちょっとだけちゃんとしとこ。酒飲みではない玄田徳子だが、宴会歴は決して短くない。学生時代から数えればもう十年に及ぶ。 

アタシはもしかしたら、この宴会の始まりが一番好きなのかもしれへんなあ。玄田徳子は、付きだしの竹輪と切干だいこんの炒め煮に箸をつけながら、そんなことを思った。

 「お酒は飲めないけど、宴会の雰囲気は好きなんですぅ」と言う女子は少なくない。笑止。

 関長子はそう断ずる。酒席においてアルコールをやらぬとは何ごとか。

 無論、仲間が集い語らう場が楽しいのは分かる。が、飲めない宴席好きの女子らは、自分が少なからず大事にされる、モテるということを同時に折り込んでいるのだろう。まあ、いいか。誰もあえて粗略にされる場を好みはしない。居心地のよい空間にいたいという気分を、誰が責めれようか。

 早や日本酒をオーダーするためにお品書きを手にした関長子。宴席を一望し、「エーッ」などと嬌声を上げてはしゃぎつつある同僚の女子らを目にして、そんな想いにしばし耽った。

 そして今宵は自分以上の酒豪はいまいと優越感を感じた。唯一と思われる最強のライバルは何でも禁酒中だとかで、乾杯もウーロン茶で済ませ、怒ったように肴にパクついている。やれやれ、いつまで続くことやら。関長子には義妹の張本翼の単細胞な行動がなんとも愛おしい。

 ところで、今夜は職場の宴会。営業部の猿渡課長と人事部の操猛美が発起人となって開催された例の『プロジェクト』がらみのコンパ。ふむ、男女合わせてざっと20名前後か。よく見れば、『プロジェクト』に関わる中堅や部長クラスのお歴々の顔も見える。成程。

 『プロジェクト』のコアメンバーの親睦会に、若手の男女がお呼ばれしたという、公私の別があやしい中間的な位置づけの宴会か。このテの宴会には波乱がある。酒席の古強者、三十路を迎えた関長子は、今宵の宴にきな臭いものを感じていた。

 それにしても、と関長子は思う。さすがは操猛美である。手堅い。お座敷に瓶ビール、注いで回ることのできる会場選びは、大宴会の原則。イエロースカーフの一件では、破天荒な裏技を見せてくれたが、操猛美の本質はこの手堅さにあるのかもしれない。

 そして注いで回れるということは、操猛美がこの空間を流動化させる意図を持っているということだろう。操は何かをたくらんでいる、、、関長子は、フッと短い吐息を吐くと物憂い表情で軽く手を上げた。日本酒をオーダーするためだ。そのスマートかつ淡い色気の滲む仕草は、周囲の男子達を早やほろ酔いにさせた。

 筆者曰く。昨今はテーブル席や流行の掘りごたつ式の会場を選んで、注いで回ることが物理的に困難なことを理由に、自席にへばりついて、一向に上司の前に顔を出さない若い賃労働者を見かけるが、これは言語道断である。
 
 上司に酌をすることは、それを理由に楽しくない自席を蹴って、別の席に移動することができる免罪符なのである。またそのようなそれぞれの思惑が交差し、会場がカオス状に変容するのが大宴会の魅力なのである。よく覚えておいてもらいたい。

 「ちょっと、アカンやん。男子ぜんぜん少ないやん」

 「いや、ちょっとドタキャンとか入ってなあ・・・」

 「ふん、こっちは女子そこそこ集めたけど。」

 「すまん、けっこうな人数に声はかけたんやけどなあ」

 「ちゃんと念押しした?詰めが甘いのは仕事だけにしてや!」

 アハハ、と操猛美は乾いた笑い声を出したかと思うと、また厳しい表情に戻り、ドンと猿渡課長の背中を叩いた。

「早よせなアカンわ。若手にゴー出して」

(次回にづづく)

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