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〜 十条寺は罠に落ちるも、西の狼が現る 〜
「まあ、アッチの方は、結構マジメやん?」 そう切り替えしたのは雁田憲和だった。
その驚愕の発言に、さすがの操猛美も一瞬口ごもってしまった。『悪い=カッコいい、マジメ=ダサイ』という、なんとも幼稚な世界観が、まさか社会人の宴席で語られるなどとは、切れ者陰謀家、操猛美にとっても想定外であったのだ。
「俺らは、ワルかったからなあ!なあ、玄田ちゃん!」 やめて、、、お願い、、、ヤンキー武勇列伝、、、そんなダサすぎる過去をエグらんといて、、、玄田徳子はほとんどグロッキー状態。宴会前半までの舞い上がりぶりはどこふく風か。
隣にいた男子何某が、大丈夫?飲みすぎ?とかける声にも上の空。
「なあ、二年時の体育祭あったやん?あん時、俺ら、ブッチしようぜって言ってたやん、でも、西ネヤ(*)のヤンキーが俺らのクラスのコ、あのほら、浅香唯に似てた、、、」まくしたてる雁田憲和の言葉が耳の奥でこだましてる、、、
*註 西寝屋川高校
酔いと極度の不快感で心身阻喪状態になった玄田徳子はグラスを握ったまま、固まったしまっている。そしてその口もとは、よく見ると僅かに微笑んでいる。
「真っ白だ」そんな言葉が聞こえてきそうな玄田徳子。 座したまま昏睡状態になった玄田徳子の脳裏には、高校時代の記憶が蘇っていた。
地元の公立高校に通う玄田徳子が時折見かけたミッション系の私立に通う高校生達。私服で通学する洗練された彼らに淡いトキメキと、同級生らへの裏切りのような気分を感じていた。ああ、こんな地元から抜け出したい、もっとオシャレな人のいるところで生きていきたい、、、
「姉上!姉上!」 関長子に肩を揺すられ、我に返った玄田徳子の目に飛び込んで来たのは、したたか酔った十条寺室長の姿だった。十条寺室長は雁田憲和の手をなでるようにして握りながら、だらしなく相貌を崩している。
その横で二人を囃しながら、どんどん酌を勧める操猛美がいる。 男色の十条寺室長に次々と若い男子を差し向けたが、なかなかその牙城を崩すに至らなかった。たしかに、十条寺室長はホモセクシャル。が、それもただのホモではなく、いわゆるヤンキーフェチだったのだ。
雁田憲和のおかげで十条寺室長の固いガードがついにおろされた。この世界にも様々なジャンルがあるものだと思いながら、たまたま現地調達した男子に救われる自分の幸運に操猛美はいよいよ自信を深めていた。
アタシはツイてる。やっぱり、お天道様が味方してるんやワ!
「正図さん、バンバン撮っておいてくださいよ」
小声ながらも強い調子で、配下の者に指示を出す猿渡課長。ようやく獲物を捕らえた昂揚感を抑えるためか、瓶ビールを両手でひざの上で握り、どうもイヤラシイ姿勢になっている。
「課長、分かってますって!『写ルンです』三つもこうてきましたから!」
すっかり泥酔し、胸をはだけ、男子らと絡まるような十条寺室長の痴態を記録しつづける猿渡配下の正図公則。
操猛美はさらに周囲の男子を煽り、十条寺の痴態を引き出そうと画策する。躊躇する男子には「ノリ悪いやん!」と罵声を浴びせては、競争心を煽り、中には、自らベルトに手をかける者まで現れ始めた。
宴席は無礼講と化し、操猛美の悪魔的な笑い声がこだまする。完全に歯止めの無くなった、目にするのも憚られるような状態の十条寺室長の乱れよう。そのあられもない姿は、猿渡課長の腹心がことごとく写真に収めている。
「姉上!退却です!この宴、やはり裏がありました。操と猿渡課長が十条寺室長を貶めるために仕組んだものに相違ない!」
「こんなものに関わってはいけない!今すぐに撤収しましょう!」
関長子に促され、玄田徳子が席を立とうとした時、勢いよく襖が開いたかと思うと、でっぷりと太ったOLと長身のロンゲの男が立っていた。そしてそれぞれ肩に若いサラリーマンを抱えている。
「ちょっとぉ!あんたら何をしとっとね!」
太ったOLの怒声に宴席はにわかに静まった。
「坊ちゃ〜ん、ウチの社の者どもが、乱交パーチーィーをしてますよぉぉぉ!なんと情けない、恥知らずな!」
太ったOLは肩から、サラリーマンを抱き降ろし畳の上に座らせて、そう訴えた。
「げぇ!西の狼、卓重子!!」
蒼白の顔をした操猛美が歯噛みをしている。
(次回につづく)
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